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亡霊の唄―3―

 3人が隣街につき住人達に壁を壊したという少年について聞くと確かに少年は存在した。なにかとつけては青年につっかかっているのを多数の住人が目撃していた。いつもなら受け止めていた少年の拳を青年が受け流したために壁が壊れたらしい。


「腹ァ立って怒鳴ろうとしたんだがあの餓鬼に付け回されてた兄ちゃんがすみませんすみませんって謝ってよぉ。俺が避けたせいで壁が壊れたとか言ってさ。その上餓鬼が壊した壁を直していってくれたんだ。これがまた綺麗でよぉ。元のボロっちい壁なんざ比べもんにならんよ。

 だから俺はあの兄ちゃんに免じて許してやったのさ。

 あの兄ちゃんは東隣りの街に行ったみたいだぞ。兄ちゃんを付け回してた餓鬼が置いて行かれたとか言って叫びながら走っていったからな。

 あの餓鬼のことだから兄ちゃんを追っかけていろいろやらかしてんじゃねぇか?」


 その街で一行は馬を買った。今までは山道などの多い道のりだったために馬を足として使っていなかったのだ。


 パカパカパカパカ。馬に揺られて数日、自宅の壁を壊された商人が言った東隣りの街につく。


 またもや住人に話を聞くと青年を追いかけて走っていた少年と橋の上でぶつかった拍子に川に落ちた少女を青年が助けたんだそうだ。少女を助けると礼を言おうと住人達が青年を引きとめる手を振り払って街を出たのだとか。水に濡れてずぶ濡れのまま。


「たぶんロテカさんのいた店で起きたようなことになると思ったんだろうね。」


 街を出る際に3人は青年と知り合いなら礼を言っておいてくれと言付けられた。またこの街に来た時には礼をきちんとするから、と。


 前の街と同じく青年の赴く先を聞き後を辿る。


 一行がさらに辿って行くうちに青年を追いかけ回す少年が非常によい目印になった。


 行く先々の街で少年が問題を起こし青年が解決をしている。つまり少年がいた街には青年がいたのだ。青年を追う一行にはわかりやすくありがたいことだった。


「けっこう街を通過したな。華の国に入っちまった。だいぶ東に来たもんだなあ。」

「それはそうだよ。だってもうロテカさんのいた街を出て半年だよ?いい加減サラルに追いつけないのかな?」


 街は夜。家々の窓からは光が漏れ、食べ物の匂いが漂う時間帯だ。


「ねぇコブノー、僕達もそろそろ宿をとろうか。適当にご飯食べてからさ。」

「そうだな。こんなに美味そうな匂いを嗅いだら腹が減って仕方ねぇ。」


 楽師の青年と槍の冒険者が話し終えると少女はクイクイと冒険者の服の裾を引っ張る。


「あそこに行こ?」


 コテンと首を横にする少女に槍の冒険者はデレデレだ。


「おうおう!いいぞ!なになに?新鮮魚のタタキだと……?」


 少女が希望した出店のようになっている店に入るとメニューがデカデカと書かれた木の板が店主達が調理をしている上に吊るされている。

 店はなかなか繁盛しており、人が多い。


「これとこれとこれ。ああ、これは生で頼む。」

「あいよっ!」


 手際よく冒険者が店員に注文する。


 しばらくして料理が運ばれ、3人が魚料理を食べ始めて少しした時、通りから大声が聞こえてきた。


「この小童がっ!人への謝り方というものを知らないのか!」

「うっせ〜な!あんたからぶつかってきたんだろ!!俺は急いでんの!」

「待て!きちんと謝りなさい!」


 露店のような店なので3人が振りかえると簡単に状況を見ることができる。


 しゃんと背を伸ばした初老の男性と反抗的な態度が一目でわかる男の子が道の真ん中にいる。どうやら男の子が男性にぶつかったところ一言も言わずに走り去ろうとしたようだ。


「おいシーク、そんな子供は放っておけ。明日も早い。」


 男性よりも少し若い男が男性に話しかける。年齢は槍の冒険者と同じぐらいか。


「だがこの精根の曲がった小童を放ってはおけん!ぬうっ!?」

「どけよジジイ!」


 騒ぎを見ていた群衆から悲鳴があがる。男の子の手首を掴んでいた初老の男性の腹を男の子が殴ったのだ。


 スルリと男性の手を抜けた男の子を男性は追いかけ捕まえようとするがくるりと振り向いた男の子が逃げきれないと思ったのか手を出してくる。


「謝るではなく人を殴るとはどういった神経をしておる!」

「落ち着けシーク。」


 人に殴られて落ち着けも何もないと思うが。なだめる男の声は聞こえていないのか男の子が殴ってくるのに応戦している。案外頭に血が上ると厄介な人種のようだ。


「喧嘩だー!喧嘩が始まったぞ!」


 喧嘩ではないと思うが。槍の冒険者はボソリともらす。


 結果は火を見るよりも明らかで、男性が勝つことは当然とも言えた。

 男性は体格はもちろん個人の技能も成熟していると言っていいのに対し男の子はどちらもまだまだ未発達という状態だ。


 二人の様子を見ながら少女を真ん中に挟んで食事をしていた冒険者と楽師の青年の会話はすすむ。


「あの年頃だと僕の場合サラルとカイルに会った頃だね。」


 懐かしそうに男の子を見ながら片肘を机につく青年の頼んだ料理は華の国の名産品である酒で煮付けた魚料理だ。この国独特の甘い酒の薫りが青年のは鼻腔をくすぐる。


「そうなのか。まあでもあれじゃああのガキはお前らみたいな天才じゃなかったんだな。」


 殴りかかって逆に男性に背負い投げをされている男の子は石畳に背を打ちつけて息が詰まっている。

 

 お前らは異常だったんだよな、と槍の冒険者が呟く。


「褒めてくれてるの?僕嬉しいな〜。」

「サラルは馬鹿だったけどあいつは体術が半端無かったからな。なんであんなにジャンプできんだってな。お前とカイルは大人しくてよかった。カイルは知らんが今じゃお前は毒を吐きすぎだ。」


 二人の真ん中に挟まれ子供用の少し高い椅子に座った少女は魚の身を薄く切り分けた刺身というものを食べている。少女は頬を緩ませながら食べている。普通、華の国以外の人間は生魚を食べないので珍しい。


「毒って酷いな。僕はありのままを言っているだけだろう?」

「お前に口で勝てる気はねぇ。めんどうだからこの話題はやめだやめ。」


 呑気な会話がなされる間も注目を浴びている二人組のうち男性は怒鳴っている。


「謝れば済むというのに何故謝らん!」

「俺は悪くない!」


 いやいやいや、ぶつかったのお前だろ。おもっきし走ってたじゃん。状況を見ていた人達はそう思った。


「いい加減にせんか!!」


 両者の拳がまたしても相手に届きそうになった時、間に入った者が二人。


 一人はさきほどの男性の知人でもう一人は若い男。前髪が鬱陶しすぎて目元が見えない。


「なにもこんな子供に暴力をふるわなくてもいいだろう。さっきの俺の言葉聞いてたか?明日もダンジョンに潜るんだから無駄なことは極力するな。お前はすぐにかっかするのが難点だな。」

「す、すまん。」


 男が男性をたしなめる一方で若い男は男の子の言い訳を聞いていた。


「俺は悪くないもん!そいつがぶつかってきたんだ!」

「そうか。でも前に女の子にぶつかった時も同じことを言ってたよな。」

「うっ!」

「お前の場合自分のせいだと思わないところがダメだ。なんでも人のせいにする。そこを直せ。だいたい俺はお前の保護者じゃないんだぞ。お前の母ちゃんのところに戻りな。」


 互いに話に折り合いがついたと思われると若い男が男性に声をかけた。


「この子供の知り合いの者ですがこの度はこの子供の非常識な態度、まことにすみませんでした。」


 そう言うと子供の頭を押さえつけて自身も頭を下げる。男性はううむと唸る。


「今回は儂が早々に手を上げてしまったことも事実。小童が謝ったとは言えんが今日はこれぐらいにしておこう。」


 知り合いの男と共にその場から立ち去る二人。残った二人も宿に戻るぞ、と言って帰っていった。


「なんだか騒がしかったけど美味しかったね~!」

「まだ俺の料理は来てないんだぞ?店を出ようとするな。」


 槍の冒険者が注文したのは焼き魚に香ばしいスパイスを散らしそこにこの店特製の出汁をかけたものだ。

 看板メニューのようでそこかしこでその料理を頼む声が聞こえてくる。


「お兄ちゃんの匂いって変わらないねお父ちゃん。」

「ん?ウォルのことか?」


 刺身を再び注文した少女は赤身を頬張っている。


「ワルトお兄ちゃんもそうだけど赤髪のお兄ちゃんも黒髪のお兄ちゃんもおんなじ匂いだなって思うの。」

「黒髪お兄ちゃんの匂いって……お前あの(むご)ったらしい場所でサラルの匂いがわかったっていうのか?すげえぞトゥラン。」

「ううん。さっきそこにいたから。」

「「え?」」


 それまでは話を聞いていた楽師の青年も驚きの声を発する。


「そこにいたのか?」

「うん。長い間そこにいたよ?」


 はぁ。と頭を抱える冒険者とは対称的に青年は顔を輝かせる。


「やったっ!やっとサラルに追いついたよ!」


 少女の頭を勢い良く撫でまわす。髪がグシャグシャになって少女は嫌そうな顔だ。


「よ〜し!明日から気合入れて探すぞ!」

「今まで以上に気合だすってのか。」


 げっそりとしている冒険者はよそに嬉々とする楽師だった。

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