亡霊の唄-1-
18の時、俺は後に紅の勇者となるサラル、カイル、そして第2王子であるワルトという3人の後輩達と出会った。
いつも3人でいた後輩の中のサラルのお陰で何故かは知らないが婚約者であるマリーとも仲良くなり、6年経った今では婚約者から夫婦へと関係も変わり感慨深い。
さて、新婚旅行だが何処へ行こうかと話し合った結果、隣国のヨーゥイ帝国に行くことに決まった。なんでも特産品である織物やここらでは珍しい花畑を見たいらしい。花などどれも変わりないだろうと言えばマリーに叱られてしまった。
式は挙げていない。自分で働いて貯めた給料で自分達夫婦の式を挙げたいからだ。今はまだ駆け出しの文官だがいつかは父上のような官僚になることが目標だ。
ということで今は国境の検問所にいる。ここは他国へ行く際にどのような目的でいくのか、持病などがないかなどを調べられる重要な機関である。
旅人達の身分を調べるのは白天騎士団の者達であり、主に一定以上の信頼の置かれている騎士が担当している。
俺とマリーも指示された検査室に入ると一人の白い騎士服を着た懐かしい後輩が座っていた。
「これは誰かと思えばカイルじゃないか。久しぶりだな。俺が卒業して以来だから5年ぶりか。」
「お久しぶりですチュライ殿、マリー様。お元気な様で何よりです。ではそちらの椅子にお掛けください。」
挨拶もそこそこに俺達に質問を始めるのはカイル・ゼッツァ。かなりの切れ者で文官としてのオファーもあったと聞くが迷わずに騎士団に入った男だ。
学園は6年制のため、2年前にその情報を聞いた時は首を傾げたがどうやらカイルは飛び級をしたらしい。なので入園した時に同学年だった連中が4年生の時にはすでに騎士団に入団したのだ。
勇者との旅にも加わっていたのにも関わらず、だ。1年余りの遅れを取り戻した上での飛び級なのだから感嘆せざるを得ない。
一通りカイルからの質問が終わり、3人で話す。話しているうちにカイルの職業についての話題となった。
「カイル君はたくさん職業が選べたじゃない?それなのに何故騎士を選んだの?やはり男の子の憧れだからかしら。」
数年前までは男嫌いだった片鱗も見せずにマリーがそう言うとカイルは横に首を振る。
「いえ、我が友人達を探しているのです。サラルは隣国で剣奴として生きているのは聞いているのですがワルトとコブノー殿は風の噂さえ聞かないのです。」
俺はカイルがかつて共に旅をしていた仲間を探すために騎士団に入ったことを知っている。
そのうちエルフの女は一度カイルと会ったらしい。カイルによれば酷い怪我をしていたんだそうだ。
もう一人の冒険者の男とワルトの消息は依然としてわからないまま。カイルはずっと二人を探している。
「ところでそちらのお二人もチュライ殿達の同行者ですか?」
「ああ、そうだ。一人は楽士でもう一人は楽士の護衛だ。」
「では一度顔を見せて下さい。もしも手配されている人間なら捕まえねばなりませんので。」
「布を外しなさい。」
俺とマリーの後ろに控えていた二人に指示を出すと二人は大人しく頭から被っていた布を外した。
「これはっ……コブノー殿ではないですか!」
「久しぶりだなカイル。俺今は護衛やってんだわ。こういうのものんびりしてて楽しいぜ?」
「チュライ殿、何故コブノー殿の存在をお教え下さらなかったのですか?」
「すまない。お前が探している男だとは知らなかった。」
色々とコブノーと話した後コブノーから目を放し楽士に目を向けるとカイルはすまない、と言って楽士の布を下げさせた。
楽士の顔から上半分の右側は酷い火傷で目が見えないということを察したからだろう。普段は眼帯をしているが外に出る時は周囲の者を怯えさせるため、布を被る。ちなみにコブノーが布を被っているのは特に意味はないらしい。
「この二人とはどのような関係で?」
「楽士が道で倒れていたところを助けたのがきっかけね。目が見えなくて不自由だからと言って夫が護衛を雇いコブノーさんがうちに来たのよ。コブノーさんとは3年ぐらいの付き合いかしら。楽士の子の名前はウォルっていうの。とってもいい声をしているのよ?」
「また後日聞かせてもらえれば嬉しいです。」
コブノー、ウォル共にカイルの検査を受けてパスする。二人共健康体なのだから当然だ。
「チュライ殿、こんなことを言っては何ですが1つ頼みごとを預かってはくれませんか?」
「どうした。言ってみろ。」
話すよう促すと赤い目が真っ直ぐと俺を捉えた。
「サラルの現状を知りたいのです。あいつは居場所が唯一元からわかっていましたがなかなか都合を見つけられずに行動出来ていないのです。せっかくの新婚旅行だというのにこのようなことをお願いするのはどうかと思うのですが……」
それはそうだろう。幸せほわほわの夫婦を血生臭い闘技場へ行けと言っているのだから。だが。
「ええ。いいわ。そもそも私達はサラル君の様子を見に行くことを元から考えていたの。気にすることではないわ。」
女性が見るようなものではないが何故かマリーが行くと言ってきかなかったのだ。
「お土産、買ってくるわね。」
「いい旅を。」
少々拍子抜けをした顔をしながらもカイルは見送ってくれた。
「マリーさん、ちょっと強引じゃない?」
「いいのよあれぐらいで。ね、あなた。」
ずっと黙っていたウォルがおどけたようにマリーに話しかけたがマリーはふわりと笑って俺に微笑みかける。鼻血が出るかと思った。
後ろで
「バカップル」
と呟いたウォルはこづいておく。バカップルではない。夫婦仲が良いと言え。
**----
カイルと別れてから二日と少々。俺達はヨーゥイ帝国首都、イタンに来ている。キオワ国を含む四大大国のうちの1つなだけはあって首都は独特の盛り上がりを見せている。
皇帝が掲げる自由な国風は実現をしているかのように見えるが一方で奴隷制が横行しているのが気になる。
他国ではここまであからさまではない。
国力の発展と同時に1部の人々を人間とはみなさなくなるのは果たして真の発展と言えるのだろうか。
ここ帝都へと訪れたのは他でもないサラルの状態がどのようなものなのかを知るためだ。知ったところで何もできないが真実を知っておくことは重要だ。
「旦那、イタンは特にスリが多いから気をつけな。懐に軽く入れておくとすぐにサイフがなくなっちまうぜ。」
コブノーは冒険者として何度も訪れたことがあるらしくそう注意をしてくる。他の旅行者が金の入った巾着をすられている現場を目の前で見てコブノーの言葉を聞いておいてよかったと思う。
「サイフがいるのはモ・サドーレって所だっけ?」
「そうだ。そこで剣奴として雇われているらしい。ウォルはモ・サドーレに行ったことはあるのか?」
「あるわけがないじゃないか。ここ数年は寝たきりだったしね。」
頭の後ろで手を組ながら口笛を吹くウォルを見てマリーは微笑む。
「ウォルは本当に元気になりましたね。数年前までは起き上がることさえ困難だったというのに。私は嬉しいです。」
「マリーさんのお陰だね。ずーっと看病とかしてくれて勉強まで教えてくれたもんね。」
おや?俺はマリーが看病していたことは知っていたが勉強まで見ていたとは知らなかったぞ?
「おいおい旦那、そう睨むなって。そういうあんただってウォルに勉強教えてただろ。黙って立って見てた俺からすればあんた達二人共ウォルのこと可愛がりすぎだったぜ。」
しまった、そうだった。この男はウォルの付き添いで1日中ウォルの側にいたのだった。恥ずかしいところを見られたな。
「何のことかな?」
「とぼけやがって。ま、俺は関係ないがな。」
ガイドなどはつけていない。コブノーがいるだけで事足りるのだ。
「ほら、見えてきた。あれがモ・サドーレだ。」
コブノーが指した先には客で賑わっている大規模な建築物があった。俺達のような観光客の姿もあるが圧倒的に地元客の数の方が多いだろう。
「本当に行くのか?俺は一回観戦したことがあるが見てて気持ちいいもんじゃないぜ?」
心配そうに問いかけるコブノーにマリーが力強く頷く。
すると仕方ねぇな、と言ってコブノーは四人分の券を取ってきた。観戦するために必要なものなのだそうだ。
「こっちだ。足下に気をつけろ。酔っ払い共が吐いてたりするからな。」
通路に広がる汚物などを避けながらコブノーが取ってくれた席に座る。席には手摺が取りつけられており、下をのぞくと土の平野が広がっていてモ・サドーレの制服を着た男達が土を慣らしている。
「ソルバーン開始まであと、7分です。観客の皆様は速やかに席にお戻り下さい。繰り返します……」
声を拡大する魔法でも使っているのだろうか、たどたどしい女の声が建物の中に響き渡る。
女の声が鳴りやむ頃には近くの空いていた席にも人が戻り、土の平野には上半身が裸の者達が首につけられた鎖を引かれて登場する。その者達の背には痛々しい刻印の跡があり、その跡は水色や黄緑など発光している。
その者達の鎖が全て平野にある気の棒にくくりつけ終わると先ほどの女の声とは違う語尾を少し上げた滑稽な話し方をする男の声が建物に響く。どうやらその声の持ち主は平野の真ん中にいる男のようで、頭の上の帽子を下げたり持ち上げたりと落ち着きがない。
「ようこそ!モ・サドーレへお越しいただきまことにありがとうございまっす!本日開催するのは年に一度のソルバーンでございまァァァっす!皆様、楽しんでいきましょう!」
男のかけ声と共に手摺横に設置されてあった細長い包みが破裂し、中からは色とりどりの紙くずが舞い落ちる。横で大きな音がしたため心臓が止まるかと思ったぞ。
「では左側から選手の紹介をしていきましょう!黄色の熊の刻印は3年前に幼き子供達32名を虐殺した、トータスうぅぅ!!」
滑稽な男の紹介と共に黄色い刻印を押された男は顔を笑みの形にして腕を頭上で揺らす。それにこたえるように観客からは建物を揺るがすような歓声が送られる。
「その横の青い猪の刻印、冷酷無慈悲な……」
同じように数名の者が紹介されていく中、コブノーはやれやれと溜め息をついた。
「どうしたんだコブノー。溜め息なぞついて。」
「いや、サラルは今日いないんじゃねーかって思ってさ。」
それはどういうことなのだろうか?ウォルも同じように感じたらしく、コブノーに問いかけている。
「どういうこと?」
「だって黒髪がいないだろ?それにさっきソルバーンっていえば強い奴隷達が主人に用なしと判断された弱い奴隷をいかに速く殺すかっていう勝負なんだ。サラルのことだから強いし最後に出される弱い奴隷じゃねーだろうしな。」
たしかに。サラルの剣の腕は13歳で騎士の者達を組伏せるものだった。その上平野には黒髪はいない。
「強い奴隷が弱い奴隷を殺せばどうなるのだ?」
サラルが出場しなくともルールがわからなければ意味がない。それにどうやら今回は年に一度の珍しい催しのようだ。
「その分の報酬がもらえんだよ。弱い奴隷が勝てばその奴隷の望みを1つ聞いてもらえんだと。」
「弱い奴隷が勝つ条件は何だというの?コブノーさん。」
「それはな、奥さん。すげぇ確率は低いが弱い奴隷が強い奴隷全員を殺すのが条件なんだ。弱いから絶対にあり得ないと言われてるけどな。」
弱い奴隷がなぶり殺しにされるのを見るのは辛いんだそうだ。ボソッとコブノーはそう呟く。俺達はとんでもないものを見ようとしているのか。
五月蝿い滑稽な男の声が止む。どうやら平野にいる男達の紹介を終えたようだ。
「でええええぇぇっは皆さんお待ちかねの今回のメインを紹介しましょう!
彼の主人は奴隷を扱う手腕は我が帝国一の男の息子、イッカ・サウーナ伯爵!素晴らしい剣の腕を持つその様は……」
平野に新しく一人の若者が連れてこられる。体は暴行のせいか傷痕だらけであり、背中の刻印は紅く光っている。なにより背中の傷痕は酷く背中一面が火傷の跡で覆われ皮膚が縮れている。
あまり健康とは言えない体つきをした奴隷は客達からブーイングの嵐を受けている。やれ、今日こそ死ね、だのさっさとくたばれ、など汚い言葉ばかりである。
「ねぇ、あれって……!」
「ああ、そうっぽいな。最悪な局面じゃねーか。」
若者の顔つきは暗く、目は落ち窪んでいる。ちゃんとした食事も取っていないのか痩せこけ、他の奴隷とは二回りも体型が違った。
「二人共、あの奴隷について何か知っているの?」
マリーが問いかけても言いにくいことなのか二人は口を開かない。
「ウォル、答えなさい。」
もう一度マリーが聞くとウォルは嫌々という風に口を開いた。
「知ってるも何も、あれは……」
言い淀むウォルが言葉を紡ぐ前に滑稽な男が声を張り上げる。
「今日の主人公はかつて隣国で"紅の勇者"と呼ばれ、今では"腰抜け勇者"の通り名を持つ、サァァァラァァァルゥゥゥ!」
あの貧相な、しかしギラギラとした眼差しの奴隷はサラルだったのだ。
「では腰抜け君、君の望みは何かな?」
男に杖を口元に寄せられたサラルは一言呟いた。
「奴隷身分からの解放。」
途端に回りの観客は笑い出す。隣の男などは腹を抱えて笑い転げていた。
「クック……失礼、腰抜け君。でも君はそのために人を殺さないといけないんだよ?今までこの5年間他の奴隷を気絶しかさせてこなかった君が人を殺せるのかな?ん?」
男の人を小馬鹿にした口調は不快なものだ。その後の男の質問には一切何も言わなかったサラルは観客達から失笑を受けていた。
「では、各々の意気込みも聞き終わりましたので!試合開始といたしましょう!モ・サウーナアアアァァァ!!」
男のかけ声と共に奴隷達の鎖は取り外され、非道な行いが開始された。
**----
開始早々サラルに群がる奴隷達はそれぞれが所持している武器でサラルを殺そうとする。だがサラルを含めた7人の男達が一ヶ所に集まるため、互いの攻撃がサラルでない者に当たり無駄な動きをしている。
サラルはというと、武器である剣は抜かずただ攻撃を避けているだけである。それだけでも他の奴隷にはダメージを与えられているのだから器用なものだ。
「ってぇな!てめぇドコ狙ってんだよ!さっきもあの男殴ってただろ!」
「当たり前だろうが!俺が金を取るんだよ!邪魔なヤツは消していくのが定石だろ!」
「ほう?面白い考え方だな!いいじゃねぇかそれ!」
なんとサラルを取り合った結果、他の奴隷達での殺し合いが始まった。なんでも誰が確実にサラルを殺すのだ、とか。
「み、皆さん!標的は腰抜け君ですよ!」
「「「「「うっせぇぞ!!」」」」」
サラルは一人外れて平野の隅で立っている。これではこの行いの意味がないのではないか?もちろんサラルには死んでほしくはないが。
場を取り仕切る男の声は虚しく、サラルを除く奴隷達で横暴が進む。客達も興奮しているのか轟音のように声がする。
客達の声を聞いて思うのだが、これの何に楽しみを感じるのだろう?人と人が切りあうなど本来日常ではあってはならないものだ。その非・日常さを求めてここに来ているのであればどこか可笑しいのだろう。
一人、また一人と死んでゆき、とうとう最後の一人が決まった。黄色の刻印を押された男だ。この男の戦う姿を見ていたが、人を殺すことに何を感じるのか満面の笑みを浮かべていた。その笑いは背筋をスッと寒くさせるものだった。
マリーも恐らく感じたのか俺の腕を掴んでくる。
「サラルはあのような男に勝てるのでしょうか?」
誰もその問いには答えられないまま男はサラルへと近づいていく。微動だにしないサラルは足がすくんでしまっているのだろうか。
男は自身の大斧を振り上げるとサラルに向かって降りおろした。もちろんサラルはそのような攻撃は避けたが男の追撃は止まらない。
「おぉ~っとトータスが腰抜けの足を掴んだ!これでは腰抜けは得意の逃げ回ることができない!ど~うするのか!!ここで死亡か?ここで死亡なのか!?」
今も変わらず身軽であるらしいサラルは先ほどから何度も男の斧をかわしていたがパターンが読まれたのかとうとう足を掴まれてしまう。
「サラル!腰の剣を使え!!命が危ねぇって時に折角磨いてきた剣の腕を使わなくてどうすんだ!」
「魔法を使いなよ!どうして魔法使わないの!?君の魔法ならそんな男一発じゃないか!」
必死になってサラルへと叫ぶコブノーとウォルだったがウォルの言葉を聞いてコブノーは叫ぶことを一旦中止する。
「魔法は使えねぇようになってんだ。あの背中に押された光ってる焼き印があんだろ?あれを押されると体ん中の魔力を溜めるところが壊れちまうんだってさ。」
「そうなんだ……」
稀に大怪我や大病を患った時に魔力の器が壊れるということは聞いたことがあるが、それを人為的に行うとは。主人が奴隷に自身を殺されることを防ぐためだろうか。
「サラル!!生き残るんだ!!また一緒に旅をして美味しいものをいっぱい食べようよ!」
「「「「サラル!!!」」」」
俺達の叫びが耳に届いたのかサラルと目があった、気がした。
「これで金は俺のモンだ!」
歓声とも聞こえる狂声を発し男は斧を横ぶりに振りサラルの首をはねようとする。
目を逸らすことができず、凝視しているとサラルはなんと足を掴まれた状態で頭を男の股の間辺りの位置から一気に男の顔の前まで持ち上げその勢いのまま男の額に自身の額を勢いよくぶつける。
サラルが何も抵抗しないと踏んでいたのか何の構えもしていなかった男はサラルの足を掴んだまま土に倒れこむ。
すかさずサラルは男の手を外そうとしているが男の足首を握る力が強かったのか男の手を外すことができないまま男が立ち上がった。何が起きるのかとハラハラしていると男はサラルを地面に叩きつけた。
「お前ミテェな雑魚に俺が負けるわけねぇんだよおっ!ちょっと上手くいったからってイイ気になんなあ!これから本気で相手してやる。ほら、お前の十八番の素早い逃げ足を見せて見ろよ!あぁ!?」
ゆっくりと起き上がったサラルに罵声を浴びせている男だったがサラルが逃げずに留まっていることにさらに苛立ちを感じたのか斧をサラルに当てようとするが避けられてしまう。
「とっととくたばれええぇぇえ!」
サラルに少し距離をとられ男はサラルに突進した。が。サラルの姿は眼前にはどこにもなく。背後から剣で胸を一突きされ男は息絶えた。
まったくサラルの動きがわからなかった。どういうことなのか。
「いつの間にあんなところにいたんだ?」
「移動した姿を見なかったんだけど。」
ざわざわと疑問を口に出す観客達と同じく状況を解説していた男も混乱しているようだ。
「これは……?腰抜け君の勝利ということなのでしょうか?こんなことは前代未聞……」
首を傾げつつサラルの片手を握った男はサラルの手を上に振り上げ宣言した。
「本日の第1回目モ・サウーナの勝者は、サラルです?」
観客達も騒然としたままサラルの願いが叶えられる。
「では、ここにおきまして彼を奴隷身分から解放します!」
サラルの背の刻印に何かを塗りつけると赤く発光していた刻印はただの焼き印となった。そして服や報奨金を受けとるとサラルは建物から出ていく。
「では第2回目の戦いを開始します!……」
これではサラルを見失ってしまう。
急いで建物から出、追いかけようとするが同じようにサラルを見るために集まった人々で前に進めない。
「ああっ、サラル!!これじゃあ剣を渡せない!」
ウォルの声はサラルに届くことはなく赤い耳飾りがキラリと光ったのを最後にサラルの後ろ姿は人混みに紛れてしまった。
章を変更致しました。1話~が少年期、亡霊の~が遊鬼編となっております。内容は変えておりません。




