断絶
右も左も敵。どうしたものか。もし騎士に捕まったとすれば俺はどうなるんだ?死ぬことだけは避けたい。今回こそは長生きしてやるって決めたんだからな。
俺はあっちでは死んでいるのか?ま、まず魔王を倒さなきゃ元の体には戻れないんだけどな。不審者が本当に元の体に戻してくれるかどうかもはっきりしねぇのが不安だな。
今はそんなことを考えてる場合じゃなかった。そんなことって言っても大事なことなんだけどさ。
騎士達がジリジリと崖の端から俺達のいる崖の真ん中に迫ってくる。どうする。逃げられる場所がねぇぞ。魔法を使うか?崖の下になら逃げ場はあるかもしれない。
矢が俺に向かって射られる。あまり避けるほどのスペースもないので頬をかすった。
「そこですね。」
ミンユさんはそう言うといつの間にかつがえていた矢を叢に放つ。矢は命中したのかドサッと何かが地面に落ちる音がした。その瞬発力おそろしや。
「大人しくすれば手荒なことはしない。お前の仲間には決して手を出さないと誓おう。」
「何を言っているんだ!サラルは何もしていないのになんで君達に捕縛されなくちゃだめなんだい!
それにサラルが捕まればどうなるかわかったものじゃないよ!」
ヌテバに一番近い位置にいるワルトがヌテバに噛みつきそうな勢いで話す。
「紅の勇者への判定は王妃殿下が決定される。私にもその者の末路は分かりかねます、第2王子殿下。」
「そんな……!お母様が判定をすれば酷いことにしかなり得ないじゃないか!」
ワルトの顔が真っ青だ。やっぱ正室はヤバいのか。
「サラル!僕がここでこの人達を食い止めるから崖下に逃げて!」
そう叫んだワルトは俺の背中を崖に向けて突き飛ばした。え!?ちょっ、流石にこの体勢は俺でもヤバいって!!
「ぎやあああああああああ!!」
「勇者を追いかけろっ!!今度こそ捕まえないとどうなることかわからん!」
「ワルト君、援護します!魔法の撃ち合いになるのでコブノーさんは別の場所に待避して下さい!」
「別の場所って崖の下しかないだろう。おい!ワルト押すな!俺は魔法を使えないんだぞ!」
上からごちゃごちゃと聞こえてくる内容からするとコブノーのおっさんも崖下に落とされたみたいだ。ミンユさんとワルトが崖の上で魔法をぶっぱなしまくっているようでガラガラと沢山の落石が落ちてくる。背中に当たりませんように。
さて地面が近いてきた。着地の準備をするために地面に手を伸ばした時、何か金属製のモノが腕に巻きついてきた。なんだこりゃ!?鎖、か?
「勇者君捕ま~えた!それっ!」
栗毛の騎士が腕に巻きつく鎖を引っ張るためバランスがとれねぇ!おいどうすんだこれ。頭から地面にぶつかるじゃねえか!!
頭が潰れて死ぬとか最悪だし死にたくもないので腕の鎖を逆にこちらから引っ張ってやる。すると鎖を体のどこかにくくりつけていたわけではなかったようで騎士は体のバランスを崩すと呆気なく鎖を放してくれた。
おっしゃああ!なんとかなったぜ!騎士の攻撃のお陰で地面がさっきよりも近づいてるけどノープロブレム!魔法を使えばいいのさ☆
「浮遊!」
自分の体が浮くのをイメージして言葉に出す。さあ、これで一安心だな。
……ってあれ?浮いてない!落ちたままじゃん!やべえ、どうすんだよこれ!つかなんで魔法使えねえの!?
「サラル!崖の側面を使え!」
「はあ?意味わかんねえんだけど!」
「俺みたいにしてみろ!」
上を見るとコブノーのおっさんは足や手、さらには槍の柄を崖の側面にぶつけてなんとかして速度を落としていた。
あれって槍の柄が折れたりしないのかな。俺が気にすることでもないか。
「わかった!やってみる!」
でもさ、やったところでもう地面近いしあんま効果はないと思うんだよ俺は。やらないよりもマシなのかな?
手と足を岩にしがみつかせてなんとかスピードを落とす。速度がつきすぎて岩にしがみつけないで滑り落ちているのが現状なんだけど。
なんでお前はおっさんみたく剣を使わないのかって?剣を持ってないからだよ。騎士達の所を抜け出す時にワルト達が武器を奪い返したままになっていて俺自身の武器はおっさんに持ってもらってた。返してもらっときゃよかったな。後悔後に立たずってよく出来た言葉だ。つくづくそう思うよ。
スピードは多少はマシになったけど速いことには変わりない。猫みたいにクルッと一回転すれば大丈夫なんじゃね?やってみよう、そうしよう!
固い岩肌を靴底に押しつけて強く蹴る。蹴ったことによって空中に躍り出る。でもやっぱり上手くはいかなくて地面に着地すると同時にゴロゴロと転がるハメになった。
やれやれ酷い目にあった。騎士が降りてくる前に逃げなくちゃな。おっさんは……どうしよう。
「コブノー!先に行ってるけどいいか?」
崖の途中にいるおっさんに叫ぶ。おっさんは聞こえたのか片手を岩壁から放して素早く手を振る。早く行けってことかな。
「先に行けるとでも?私達が逃がすわけがないでしょう。」
首に尖った冷たいモノが後ろから俺に突きつけられた。ゾッとして後ろを見ると崖の上にいた騎士達よりも多い人数の騎士服を着た人間がいた。これってかなりピンチじゃね?
「なんで騎士がここにいるんだよ。」
コブノーがボソッと呟いたのを聞き取ったのか騎士の一人がご丁寧にも答えてくれる。
「それはもちろん貴方を逃がさないために決まっているでしょう。逆にこのような場所に別部隊を配置しないのであればその隊の隊長は余程の能無しでしょう。能無しは騎士団には入団できないためそのような事は有り得ませんがね。」
俺は捕まるのか。いまいち状況が飲み込めない。動こうにも首の剣が邪魔だけど。
「しかし今回のような件は久しぶりです。あの優秀なヌテバさんが一月の間対象者を捕らえられなかったのですからね。」
楽しそうに喋る騎士はヌテバの部下じゃないのか?騎士団って上司にむかってこんなに上から目線でもいいところなのか?なんかイメージしてたのとは違うな。
しばらくすると手首を鎖で繋がれた。動きたかったんだけど動けなかった。今日はわけがわかんねぇことだらけで最悪だ。
ヌテバ率いる騎士達も崖の上から降りてきた。ワルトとミンユさんはどうなったんだ?
「今回の勇者確保の手柄は3の隊と4の隊のものでいいですよね、ヌテバさん。」
「それはそうだね。君達の協力があったから……」
目の前の風景が揺らいでいく。耳も聞こえない。なんなんだ。なんなんだなんなんだなんなんだ。目もついに見えなくなり、俺は怖くなって叫んだ。いや、叫ぼうとした。でも声が出なかった。自分の耳が聞こえなくなっているから本当は声が出ていたのかもしれないけど。
急になんなんだ。わけがわからない。俺は死ぬのか?こんな死に方は嫌だ。これなら前みたいに首を絞められたってわかるほうがどれだけマシか。わからない方がいいのか?殺すのならせめて一気にやってくれ。こんな生殺しみたいな状態は嫌なんだ。
**----
「勇者!紅の勇者!起きろ!起きてくれ!そうでないと僕達の家族が」
何も聞こえなかったのに微かな声が聞こえた。弱々しくてどこか必死になっている男の声だ。
「隊長!やりました!意識を取り戻したようです!」
「!そうか!」
俺は仰向けになっているらしい。見たくもないヌテバの顔が俺を覗きこんでいるのがいい証拠だ。
……よかった。俺は耳も目も見えて聞こえるようになったみたいだ。さっきのは何だったんだろう?
「よかったな。君が毒で倒れたから君を裁く審判は2日後に引き延ばされたよ。」
何がいいんだ。2日後に延びたっていってもたったの2日。大してかわんねぇ。
ところでワルト達はどうなったんだろう。どさくさに紛れて逮捕されてないか心配だ。
「ワルト達は逃がしたんだろうな?」
妙に力が体に入らなくて細い声しか出なかったけど声を出すことには成功した。
「もちろん君に言った通り彼らには手を出してはいない。第2王子殿下はどうなったのかは知らないけれど。」
「……どういう意味だよ。」
第2王子ってことはワルトってことだ。ワルトがどうかしたって言うのか?
「君を追おうとする僕達を第2王子殿下達は邪魔をされたのは知っているね?邪魔をする殿下を黒服の者達が食い止めたんだよ。突然どこからともなく現れたのには驚いた。その隙に僕達は君を追った。後で殿下がいらした所へ向かうと山一帯が焼けて木が1本も無くなっていた。もちろん殿下達の姿は見られなかった。
断じて言っておくが僕達は君の仲間に指1本たりとも触れていない。誓ってもいい。」
あんた達のことは信用してねぇから誓ってもらっても意味ないんだけど。
山一帯が丸焦げってすげぇことやらかしたなワルト。でもそれだけワルトにとって危険なことが起きたんだろうからすげぇ心配だ。
「君と崖を降りていた白髪の男は君を僕達に渡すまいと最後まで抗議していたよ。最終的には呆然としていたけどね。なんという名だったかな。冒険者の……コブノーだったか。」
おっさんがなんか頑張ってくれたみたいだな。
「君の仲間達のことはもういいだろう。君のこれからのことを話していこう。」
俺が仰向けになっている所の近くには椅子か何か座るモノがあるのかヌテバの顔が俺の上からちょうど俺の真横にまで沈みこんだ。ガタッと何かを引く音が聞こえる。パイプ椅子みたいな椅子に座っているんだろうか?
「これから君は審判の場まで僕達騎士に連行される。そして国王殿下と王妃殿下の御前で審議が進行されるという流れだ。」
「流れってそんな軽い感じでいいんですか?」
「ええ。これはただの打ち合わせだからね。なにせ君は何も悪事は働いていないのだから。君にはこのような茶番に付き合って貰って申し訳ないと思っているよ。」
「……は?」
茶番?確かにこれは俺にとっちゃ茶番でしかないけど騎士の人達からすれば王妃とかの王族の命令って絶対なんだろ?これじゃあ騎士達が自分達の主人である王妃に逆らっていることになってるんじゃね?
「あんた達が王妃様の命令と逆のことをしてもいいのか?」
「なに、僕達の仕えている人物は王妃殿下ではない。国王殿下だ。国王殿下直々の命なのだからその命に従うことは当たり前だ。」
さらっと大事なことを言ってくれてるけどとんでもないことなんだからね!?わかってんの!?
「そうならそうと初めから言ってくれていたらあんなに辛い目までして逃げなかったのに。なんで言ってくれなかったんだ?」
「それは王妃の隠者に常に見られていたからね。本気で君達に逃げてもらえないと僕達の立場も危うかったんだよ。」
「騎士が見張られるって相当なことじゃねーか!」
「まあね。それに今回は人質もとられていたし。こんなことをしたと知ればマルシ怒るだろうね。」
最後はなぜか声を小さくしてボソボソと話したのでまったくヌテバの声は聞き取れなかった。大事なことなら普通の声で喋るだろうから聞き取れなくても大丈夫だと思っておこう。
「でもさ、その隠者?っていうのに見張られてたんなら今こんなことを話しても大丈夫なのか?今も見られてるかも知れねぇんだぞ?」
「この部屋には僕と君以外に会話が聞こえないよう術を施してあるから大丈夫だ。他には何か聞きたいことはないかい?」
「腹減った。」
「アハハ、ごめんごめん。持ってくるよ。」
その次の日は俺の今後について話された。
どうやら王妃は俺を国外追放って形で俺を国から叩き出したいらしい。ついでに俺が国へ戻ってこれないように隣国のトンデモ貴族に俺の身柄を引き渡すつもりのようだ。
ヌテバいわく。その相手の貴族は自分の所持している奴隷を痛めつけるのが大好きなクズらしい。お陰で死んでいった奴隷身分の人達は数知れず。半年前にやってきた奴隷が死んでいたことはザラではないとのことだ。
それにもう1つ。その貴族は金と流行りものが好きなんだそうで王妃との手紙のやり取りではモ・サドーレで見せ物にする奴隷が手に入ってよかったと喜んでいたんだと。
モ・サドーレとは貴族や金持ちの商人、いわゆる富裕層の人間が自分とこの奴隷同士を殺し合わせる娯楽場なんだとか。
はっきりいって正気じゃねぇ。人間同士を殺しあわせて何が楽しいんだ。その貴族の性格はしらないけどかなり人格は歪んでいるんじゃないのか?
そんなところに俺は送り出されるなんてまっぴらごめんだが流石そこは国王様。国境付近まで俺を騎士に送らせて逃がしてくれるんだそうだ。王妃にはそれでいいんじゃね?って同意しといて俺を逃がすんだって。
トンデモ貴族と王妃との俺の引き渡しは貴族の屋敷ですることになっているのでそこんとこは大丈夫なんだってさ。
だから俺は王妃の前で審議されている間だけ我慢すればいいってこと。しばらくの間はキオワ国に入れないけどそれだけだ。マルシさんは国外にいるしきっと会えるだろう。探さなきゃダメだけど。
「ところで君は薬でもしていたのか?」
ヌテバは俺に計画の内容を話終えるとそのように振ってきた。
「俺がクスリとかするわけねぇだろ。体に悪いことなんてやる前から分かりきってることだろ。」
「だがそれでは君が死亡しかけた原因と辻褄が合わない。」
おどけたように首を傾げるヌテバはやれやれといった感じだ。
「あ?俺がいつ死にかけたって言うんだよ。一時的に耳とか目がまったく機能しなくなったけど今はピンピンしてんだぜ?中毒者だったらこうはいかないだろ。」
もっと目が虚ろだったり呂律が回ってなかったりするもんだろ。俺はどうよ?健康体だろ?
「それはだね、僕達騎士団の医療班の面々が尽力した結果にすぎないよ。それに君が先程言った症状こそがその薬の特徴なんだ。どこで薬を口にしたんだ?その薬は君のような青少年がそんな体の発達時に口にしてはならないものだ。もちろん大人になったとしても駄目だが。」
医療班か。やっぱ騎士団だし優秀な人達なんだろうか。治してもらったんならお礼を言わなくちゃな。お礼を言える機会があればいいんだけど。
「う~ん?俺道々いろんな美味しいもん食ったけどそんなクスリは食べてないと思うんだけどな。それにずっと同じものは食べ続けてないし。毎日肉だったけど。」
そうだよなぁ。魔獣の肉ばっか。キノコとか山菜とかも食べてたけど基本肉だった。
「そうか。そうだとすれば余計に謎が増える。この薬は口からの摂取でしか体内に取り込めないようになっているんだ。」
「俺絶対クスリとかしねぇんだけど……」
二人とも考え込んだ形で日が暮れた。さあ、明日は王妃のツラを見ないように頑張ろう。どういう考えからは知らないけど俺の未来を壊そうとしていたんだ。それに今までのワルトへの仕打ちもあるからな。
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さて俺は今、クソムカつく王妃のババアを前に鎖で椅子にくくりつけられて審議とやらを大人し~く聞いている。
ヌテバによるとこの鎖は魔力を封じるもので罪人を捕まえる時によく使われるんだって。だから崖の途中で飛べなくなったのか。
今にも倒れそうな感じのおじいちゃんがフルフル震えながら俺の偽の罪状とやらを読み上げている。じいちゃん大丈夫なのか?震えすぎじゃね?
「よって紅ノ勇者サラルの身柄はヨーゥイ帝国テカ・サウーナ卿に引き渡すことでよろしいですかな、両殿下?」
「ええ。サウーナ卿もお喜びになられますわ。」
「ああ。了承しよう。」
王様が王妃に同意すると俺は鎖を引かれ立ち上がる。やっと終わった。後はこの国から出るだけだ。
大扉がギイィ、と音を鳴らして開かれる。俺がこの部屋から出るために開けたのか?早くこっから出たいからありがたいな。
何やら大扉の外が騒がしい。野次馬みたいなのがいるのかな?騎士達が制止しようと張り上げる声も聞こえる。
「騒がしい。何事ですの?」
王妃は頬杖をつきながら傍に控えている他の騎士に比べると立派な騎士団の服を着た顔色の悪い男に訊ねる。
「御許し下さい。紅ノ勇者を見ようと民衆が集まっているようです。しばらくすれば静まると思いますので少しの間私達にご恩情を。」
ぺこりと礼をする男に王妃は気だるげな風に返事をした。
「よい。早くすることね。煩いのは我慢ならないの。」
「はっ。」
顔色の悪い騎士が意外にもテキパキと指示をすると外のざわめきもだいぶマシになった。この騎士の服はヌテバ達と違って白い。城にいつもいる貴族出身の騎士だっけ。コブノーのおっさんはお飾りとか言ってたけどやっぱ強いんだろうな。
「王妃殿下。殿下にお目通りを願う者が1名いるのですが、どうなさいますか?」
「本日私に会う予定の人間とは全員会ったのだが?」
「それが急いで取り次げと喧しく。異国の男でしたが。」
不機嫌な様子の王妃にも怯えず応える騎士。王妃の態度に慣れているのかな。
「まあいい。その無礼者を連れてきなさい。」
「はっ。」
さっきから王妃しか喋ってねぇな。王様は無口なのか?それはないな。あんだけ城を出発する時に喋ったんだから。
顔色の悪い騎士の部下に連れてこられた男は抹茶みたいな濃い緑色の髪と目の上品な服装をした男だった。この世界観で言えば別に緑色の目とか髪は珍しくともなんともないけどここまで濃い色は初めて見る。
「これは、お前だったか。私に何の用?」
「いえ、テア王妃殿下。あまりにも私の奴隷となる者が待ち遠しく、迎えにきた所存でございます。」
「はっ、相変わらず気が短い男だな。お前自身が来ずともお前の部下に迎えにこさせればよいだろう。」
「そのようにすれば部下が逃げてしまいますので私は自分で奴隷を迎えに行く方針をとっております。」
「そうか。お前が来たことで勇者を送る手間が省けたと思えばいいか。その者の扱いはどうとでもしろ。気にはしない。」
もしかしてこのグリーンマンがトンデモ貴族か?おいおい、話が違うぞ。どうしてくれんだよヌテバ!
ヌテバの方を見ると驚きを隠せないらしく目を見開いている。予想外だったみたいだな。
「行こうか。君がどれだけ耐えられるか楽しみだ。」
そう言って俺に笑いかける笑みは悪魔としか言いようがない。グイグイと鎖を引っ張られ歩く。
「ではまたご機会があればお会いしましょう王妃殿下。」
「喜んでもらえて何よりだ。」
王妃達がいる部屋の大扉が閉まっていく。最後までヌテバは俺の目を見つめたまま放さなかった。それだけがなぜか印象深かった。
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鎖で繋がれて馬車に乗り約1ヶ月。鎖のせいで魔法は使えない。それにずっとろくな飯を食わせてもらえていない。なんか?野菜の?切れはし?みたいな?こんなもんで食ったって言えねぇ。
俺はトンデモ貴族の世話係りの奴隷には選ばれなかったようで鎖に繋がれたまま囚人を護送するみたいな馬車で座ってただけだけど世話係りの奴隷達の扱いは酷いものだった。
ずっと馬車に閉じ込められてるから見たわけじゃないけど声や音は聞こえてくる。しきりに何かを蹴ったり殴ったりする音と共に人の呻き声がするんだから暴力を振るわれてるんだろう。
やっぱヌテバの言った通りの人間だってことだ。
怖い。俺は何をされるっていうんだろう?てかモ・サドーレで人を殺すとか考えられない。おぞましい。
これから負う痛みを想像すると震える体はどうしようもなかった。




