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幕開け

 みんなで話し合った結果、騎士さんに追いかけられているといっても旅の経路は変えないことにした。理由は簡単。ほとんど街や村がなく山や森ばっかだからだ。漁村はたくさん点在するけどさっと通過すればいいだろうってことで。問題は国境で繁栄しているキオワ国第二の首都とまで呼ばれている街があるらしいがたぶんいっぱい騎士さんがいるだろうとのこと。海で隣国まで泳げばいいじゃんと言うと呆れられた。いい案だと思ったのに。

 今までは王様に言われていた通りに勇者だとすぐにわかるよう紅の剣を帯刀していたけど一発で俺だとわからないよう柄や鞘の上から黒い布を巻いて赤い部分を隠した。ちなみに布はガザリアの街で購入したものだ。

 それと王様から配給されていた金はもちろん受け取らない。わざわざ自分から捕まりに行くなんてことにはなりたくないからだ。じゃあ金どうすんの?ってことなんだけど旅は基本的に野宿だし前まで貰ってた金がかなり残っているのでしばらくの間は大丈夫そうだ。


 ガザリアの街を出てから8日が経った。カイル怒ってそうだな。また会えた時にどう謝ろうかな。会えれば、の話だけどな。

 情報を取り入れるために経由した山から少し離れた所にあった街で居酒屋に入る。なんかいいねぇ。隠密活動っぽくてドキドキする。居酒屋に入るのは俺一人。ワルトやコブノーのおっさんは金髪や白髪という珍しい上に目立つ容姿。特にコブノーのおっさんは顔が広いので万が一知り合いと会ったらダメだということで街外れで待機。ミンユさんもあまり見かけないエルフってことでワルト、おっさんと一緒に待機だ。黒髪とかどこにでもいるもんな。それに俺イケメンとかでもないし。普通が一番だな。


「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」


 女の人がメモっぽいものを片手に入口に立つ俺に近づいてきた。女の人の呼びかけにそうだ、と言うとカウンター席に案内された。初老の男がカウンターの向こう側で料理を作っている。あれは焼き飯かな。いい匂いでヨダレが垂れそうだ。


「この店の一番人気ってなんだ?」


「ムハンラっていう魚の煮物が人気だ。魚と一緒に煮詰めた異国の香辛料の香りが好評だな。」


「そっか。じゃ、それ頼むわ。」


「あいよっ!ムハンラ1つ!」


「「「ムハンラ1つ~!」」」


 男がオーダーを取ると男と同じように料理を作っていた人達が男の言葉を繰り返す。ちょうど客入る時間帯なのか厨房に立つ者達はそれぞれ鍋やフライパンを片手に忙しそうだ。

 しばらく料理人達の様子をカウンター越しに観察していると仕事帰りのサラリーマンみたいに疲れた顔をした男が俺の横の席にどかっと座った。スーツは着てないけどいかにも仕事して疲れた~って感じだな。カウンターの向こうで料理を作っている男に気安く注文をすると暇なのか俺に話しかけてきた。


「ねぇ君。こんな遅い時間にどうして居酒屋にいるのかな?親御さんが心配しているだろうから早く家に帰りなさい。」


 何を言われるかと思えば説教かよ。カイルがいないからこの8日間ずっと聞いてなかったのに。

 親御さんと言えば。マルシさん元気かな?今頃何してんだろ。俺がこんなことになってるなんて知ったら心配するだろうな。何やっているんだ、ってな。


「今旅行中なんだ。父さんが海の見れる街に行こうって言い出してさ。父さんと母さんが買い物をしてる間に何か食べとけって言われて一人で飯食ってんだ。」


「そうか。君は海を見るのは初めてかい?」


「うん。俺こんなに先が見えない水の塊、初めて見たよ。」


 嘘八百。嘘も方便。ごまかせりゃあそれでいい。


「最近は君のような少年が大勢家を出てね。なんでも勇者達のように旅をするんだとか。白の勇者は兎も角、紅の勇者の少年のように盗みを働くことは止めてほしいものだよ。お陰で私の仕事が……いや、すまないね少年。君は楽しい旅行中だというのに疑って。」


「はあ。おじさん大変なんだね。お仕事は騎士さんとか?」


「おっ!よくわかったね。この街を任されている騎士の一人さ。」


「一人と言っても五ノ隊の頭だがな。」


 カウンター越しに俺達の会話を聞いていたのか料理を作っている男がぼそっと漏らす。へえ、じゃあ隊長じゃん。……胃が痛くなってきた。おかしいな。何も食べてないのに。


「君その耳飾りは趣味かい?赤くてとても目立つけれど。」


「いや、これは友達から貰ったもので着けないと五月蝿くて。そのまま着けたままになっちゃって。」


「そうなのか。その友人はあまり趣味がいいとは言えないね。紅の勇者が身に着けているようなものを贈るなんて。」


 かなり口調が荒々しい。ストレス貯まってんだろうな。さっさと捕まらなくてすんません。


「紅の勇者がどこにいるのかとかわからないの?」


「ここから少し西へ行くとガザリアという街があるんだがそこに数日前まで滞在していたようだね。そこから先は仲間だったゼッツァ家の次男も知らないと言っていたから一ノ隊を除く5つの隊で周辺を捜索しているんだ。」


「騎士団総動員じゃないですか。」


「焼き魚一丁!」


 初老の男が隣に座る男の前に焼き魚を乗せた皿を置く。魚の上にはミカンのような柑橘類の果物が輪切りにされて飾られている。隣に座る男は魚の身をほぐして食べ始める。


「ところで君。お父さんは白い髪の男の人でお母さんはエルフ?そうすれば君はハーフなはずだけど君人間だよね。嘘はいけないよ。」


 まさかばれてる!?なんでだ?他の3人は街の中には入ってないのに……街に入る前から見られてた!?


「うちは盗人に出す品はない。よそに行ってくれ。」


 焼き魚を食べている男は箸を止めて俺に箸を突きつけた。


「観念しな。君の仲間も捕らえている。」


 背後から剣の腹を首筋に押しつけられ立たされる。改めて店内を見ると騎士服を着た者達が大半だった。ハナから俺だとバレてたらしい。両手を後ろ手に括られて店の外に連行され街の牢に入れられる。ワルト達どこにいるんだろう?煮魚食べたかったな。石の冷たい床に座りこんで壁に背を預ける。紅の剣はもちろん取り上げられた。大鬼様から貰った刀はワルト達のところに置いてきてしまった。ワルト達も捕まえたって言ってたな。じゃあこの建物にある他の牢にいるのか?今持っているのはリルに貰った剣だけだ。ネックレス状になったそれを握りしめる。今俺がしなければならないのはこの牢からの脱出とみんなとの合流。できなければならない。このままでは--1貫の終わりだ。--

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