魚達の恩恵
ブックマークがついている……!機能がよくわからず昨日気づきました(-_-;)
いつも読んでいただきありがとうございます!
「ところでなんでコブノーはここにいるんだ?海に落ちたのは俺だけだっただろ?」
今食べているウニみたいなものの味はどっちかというとウニよりもエビだな。ウニの形をしていてエビの味がするなんて、流石異世界。
「フガッ、お前が海に落ちた後に俺はお前を助けようとして海に飛び込んだんだが、俺自身が泳げないことを忘れててなぁ。お前を助けるどころか自分も溺れてたんだ。
いや~本当に海蛇のカミサマがいて助かった。いなかったら今頃俺達溺死体だぞ。」
コブノーのおっさんが食べてるのはイクラ丼みたいなやつ。あの魚の卵は噛み砕く時に炭酸みたいにシュワッてなるメロンソーダ味だ。
あ~炭酸飲料飲みてぇ。炭酸飲料ないかな。この調子だとありそうだけどな。
「人助けようとして自分が溺れるとかダサくね?自分が泳げないってことは覚えとけよ。」
ん!この貝超ウマイ!なんだこの舌の上でとろける感触は!
「体が動いちまったんだよ。お前こそ今度から酔ってる時に海に入ろうなんてするな。俺は助けられんからな。」
「たぶん入らないと思う。」
それにしてもおっさん食いかた汚いな。米がボロボロこぼれてるよ。口の周りにも米粒つけて……。小さい子どもか、あんたは。
「たぶんをつけるな。絶対に、だ。」
「へいへい。」
美味い!やっぱり取れたては違うね!
「あんた達二人共、人の家ってこと忘れてない?よく遠慮せずにその量を食べるわね。」
「遠慮せずに食べろって言ったのはあんただろ?ダメだったか?」
「いやいいけどね。もうちょっとお上品に食べたらどう?特にそこの白髪。こぼしてばっかりじゃないの。」
「わりぃわりぃ。気をつける。」
そう言いながらもボロボロこぼすおっさん。米がもったいない。
「ああっもうあんたって男は。もういいわ。気にしないから好きなだけ食べなさい。」
「海蛇のカミサマは太っ腹だなぁ。有り難く頂くぜ。」
俺達の前で女の人を複数人侍らせている男はふぅ、とため息をつく。肌の色が異常なほど白い。もうちょっと日に当たったらどうよそれ。
ちなみにこの女の人を侍らせている男こそが俺が額の石を壊した大蛇-リル-だ。何がいいのか知らねぇけど女の人達はうっとりとリルの顔を見ている。
肌が白すぎるのを除けばイケメンだけどな?口調が女口調なんだぜ?オカマじゃないけど。ここ重要。こいつはオカマじゃないんだと。
元の姿に戻った時は驚いた。なんせ女の人だと思ってたから一糸まとわぬ姿で立ったから見ちゃダメだって目をそらそうとしたんだけどその前に立派なもんが目に入ったせいでこいつ男じゃねぇか。ってわかったんだ。なんであんなに大きいんだ?俺あんなに大きいの寮の風呂場とかでも見たことねぇぞ。
で、今リルの膝やら肩やらに垂れかかってるのは全員リルの奥さんだってさ。美人っていうかほんわかした感じの顔の人が大半だな。みんな優しそう。
「ちょっとあんた。何あたしの奥さん見てるの。あんたにあげないからね。あ、でもあんたはアレだから無理ね。」
「サラルだって好きでなったわけじゃないんだ。そんなこと言ってやるなよ海蛇のカミサマ。」
俺は不能だろうがなんだろうがいいんだけどな。今さら男も女も好きになれなさそうだし。でもオカマ蛇はこいつ馬鹿にしてんな、っていうのがありありとわかる。馬鹿にされるのはムカつく。どうせなら俺、女に産まれたかった。そうすりゃこんな葛藤を心ん中でしなくてもすんだわけだし。元はというと俺を殺した不審者が悪いんだ。まったく人をなんだと思ってんだ。俺が死ぬのはあの不審者を殺してからだな、うん。
「せっかく元の姿に戻してもらったし、何か欲しい物はないの?」
「いらねぇ。大鬼様からは2本も太刀もらったし、俺こんなに魚介類食えて幸せだからもういいや。ごちそーさん。」
「これくらいでいいならいいんだけど。でも三兄が太刀をあげたのにあたしは食べ物だけってねぇ。じゃあ、こうしましょう!あたしからのプレゼントってことでこれあげるわ。どうせあたしはそんなもの使わなくても魔力は沢山持ってるしね。あんた達人間はあたし達に比べて魔力が少ないみたいだから役に立つんじゃないかしら。」
ポイッと投げ渡されたのは指輪。様々な青色に光る装飾が金属の指輪に施されている。綺麗だけどこれ女物じゃね?俺の指入るのか?
「これって指入れればいいのか?」
「指輪なんだからそうに決まってるじゃない。大きさとかは気にしなくても大丈夫。持ち主にぴったりの大きさに変形する代物なんだから。」
さいですか。指輪を右手の人指し指にはめる。うわ、確かに指輪が指にフィットしてる。指輪の青い模様が所々光ってて綺麗だな。
「それでこの指輪ってどんな効果があるんだ?」
「持ち主が持っている魔力を5倍にするってことかしら。」
すごい指輪なんだな。大事にしよ。
「ありがとなリル。こんな貴重なもんもらっちまって。」
「気にすることないわ。それとそっちの白髪にはあたしの足を一匹あげるわ。」
「足ぃ!?足ってカミサマ、足を切るのか?気持ち悪いだけだからいらん!」
「誰があたしの足を切るって言ったの。あたしが海でお散歩する時に使う海獣をあげようって言ってるんじゃない。あたしだって治るとはいえ足切るのは嫌よ。」
治るんだ。足切っても治るんだ。すごいな海の神様。
で、コブノーのおっさんの前に連れてこられたのは、イルカっぽい何か。イルカだけどイルカじゃない。まず大きさが手乗りサイズだからな。イルカだけど。
「何故こんな生物をくれるんだ?」
早くもおっさんはイルカになつかれて頭をすりすり指に押しつけられている。イルカ可愛い~!目ぇ閉じてる。気持ちいいのか?どうせならおっさんじゃなくて俺の指にすればいいのに。
「何故ってあんた泳げないんでしょ?その子は今は小さいけどあと一年ぐらいすると人を5~6人は乗せられる大きさになるわ。体を小さくできるから大きくなって困った時はその子に頼んで小さくなってもらえばいいわ。
それにもう断ろうったって無理よ?その種の生物は産まれた時に初めて見た生き物を親と認識するんだから。途中で世話を放りだしたら容赦しないわ。大事になさい。」
生まれたてかい。そのイルカ。
「わかった。だがカミサマが何かしようとしてもここの海域から出られないんじゃ俺に何もできないんじゃないか?」
「二姉に頼むからいいの。二姉怖いんだから覚悟しときなさいよ。」
そう。この元蛇男は元の姿に戻れた代わりかはわかんねぇけどここの海域からは出られないままだ。なんとかしてやりてぇけど俺に解決できる問題じゃねぇ。どうしようもないのが現状だ。
「その二姉っていうのはリルの姉ちゃんの名前なのか?」
「そんなわけないじゃない!兄弟の中で上から二番目だから二姉って呼んでいるだけ。ちゃんとした可愛い名前があるわ。会いたいなら洞窟とかに入って名前を呼べば会えるわよ?でもまだ人生楽しみたいって言うのなら、桃とかの果物を持っていくことをお奨めするわね。」
「……海蛇のカミサマの姉ちゃんは物騒な姉ちゃんだな。その姉ちゃんは洞窟にでも閉じ込められたのか?」
「いいえ。二姉は強すぎてお子ちゃまには対処しきれなかったのでしょうね。元々二姉は随分前から出てこられなくなったから、洞窟に入らなければいいとでも思ってお子ちゃまは放っておいたのではないかしら。」
「洞窟から出られないってかわいそうだな。」
「正確には地上には出られない、かしら。二姉は一兄に怒って1日に千人もの人間を殺し、それに対抗して二兄は1日に千五百人を生まれさせているの。
あんた達が可哀想って言うんだったらずっと一緒にいてあげればとっても喜ぶと思うわよ。」
リルは奥さん方に酌をしてもらいながらそう話す。
知らないやつと一緒に長時間いるっていうのだけでもキツいだろうに、ずっと一緒とか苦痛でしかないと思うんだけど。それに相手の性格にもよるしな。反りの合わないやつとは一緒にいたくねぇのは誰にでも当てはまるだろう。
「リルの兄弟はいったい何人いるんだ?」
「あたしを含めて6人兄弟。これでも一兄と二姉以外はみんな仲良くやってたのよ?たまに喧嘩した時とかは嵐になったけどね。」
兄弟喧嘩で嵐ってどうなんですか。周りに被害が出るじゃねぇか。兄弟喧嘩なのに。もっと穏やかにできねぇのか?あ、でも穏やかだったら喧嘩じゃねぇな。
「次は何食べよっかなっと。あぁ?」
皿の上に唯一残っているマグロの刺身みたいなやつを取ろうとするとコブノーのおっさんの箸と交差する。
これも美味いんだよ。ビスケット味の刺身なんだぜ。もう刺身じゃねぇだろ。おもしろいな。
他の皿にも食い物は残っておらず、残りはこれひときれ。譲れねぇ。絶対譲れねぇ!
「サラル、この魚の身は俺に食べさせろ。年長者からの頼みだ、な?」
「それを言うなら子供の俺に譲ろうとは考えねぇのか?子供の成長に食い物は大事だろ?」
ギギギ、と皿に押しつけた4本の箸がきしむ。箸に引っ張られた刺身は今にも裂けそうだ。
「あんた達二等分するっていうことを考えないの?ご飯でそんなに必死にならなくたっていいじゃない。」
俺とおっさんに勢いよく顔を向けられたリルは少しのけ反った。
奥さん達は腕やら膝やらに巻きついているからリルがのけ反ったところで変わったところはない。そこ、すりすりする必要あります?みなさん顔がほわぁわぁんとしていて可愛らしいけどさ。
「俺達にとってこの機会を逃したら美味い飯を食えるのは次はいつになるかわかんねぇんだ!
ミンユさんやワルト、ロテカさんの飯は美味いけど!毎日毎日基本的に肉肉肉!
俺達が通る道だって魔物が出やすいところを通るから魔物を倒したらそいつの肉に晩飯が決定だ。魔物はでかいからその肉を食いきるまでは同じ肉だ。
この砦は絶対に守らなきゃダメなんだよリル!!」
「そうだ!サラルの言う通り。聞いてくれ海蛇のカミサマ。ミンユやロテカの姉ちゃんとワルトの飯はいいとして俺達二人の作れる料理は肉の丸焼きだけ。カイルに到っては焼きすぎて食べられたもんじゃない。
俺の職業柄、旅をするのは慣れたもんだが食べ物だけは未だに不満だ。
だから街や村に寄った時の俺の一番の楽しみは名物だけではなく普通の飯を食べることだ。
悪いがサラル。俺だって負けられない!」
ボキッ。箸が折れてしまったが関係ねぇ。最後まで粘った者が勝者だ!
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二人が粘り続けてどれだけ時間が経っただろう。魚の身が千切れる寸前なのだからそれ相応の時が経ったということだ。
「あんた達さっきまで沢山食べてたじゃない。そんなことで張り合わなくたって……」
二人はそんなリルの言葉など聞いていない。始めは無視をされても気にしていなかったリルだったが二人の間にある魚の身がプツッと裂けた時、リルの神経も魚の身と同じくプツッと切れた。
丸い円卓のような形の机を持ち上げ投げ飛ばす。俗に言う、ちゃぶ台返しである。
卓上の皿やコップにはほとんど何も入っていなかったので皿などが割れただけでほぼ床への被害はない。もし床が汚れたとしても清掃をするのはリルの僕である精霊達の役目なのだが。
それにしても二人はまだ、諦めない。リルのちゃぶ台返しに意表を突かれて魚を床に落としてしまったが、素早く2本の箸が魚に向かうのを一対の箸が食い止めた。箸の持ち主の手を見るとその手は魚の腹のように白い。
「煩いわね!!あんた達の苦労はわかったけど何もあれだけ食べたのにこんなことをする必要はないじゃない!その魚もボロボロよ!そんな風にするならあたしが食べるわ!」
床に落ちた魚の身を箸を持っていない方の手で拾うとさっと口に入れた白い手の持ち主は目の前にいる男と少年が項垂れるのを見て満足したように笑ったのだった。
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「あんた達の食い意地の悪さには呆れるわ。仕方のないことだとしても、ね。
それよりもあんた達は陸に帰らなくてもいいの?結構日数が経っているわよ?あんた達の仲間は心配していないのかしら。」
日数経っているってどういうことだ?せいぜいここにいたのは2~3時間だろ。
「言っておくけれどここの時間の速さは陸の速さとは違うの。そうね、4日ぐらいは余裕で経っているわね。」
「4日!?嘘つけぇ!!そんなにここにいてないだろ!」
「だから時間の速さが違うのよ。」
浦島さんですか。帰ったらみんなジジババとか考えるだけでもいや~!4日だからジジババとまではいってないけどさ。うん。早く帰ろう。そうじゃないとロテカさんに謝れないし俺死ねない。
「コブノー帰るぞ!」
「だがどうやって帰るんだ?俺も目が覚めたらここにいたから帰りかたなんてわからんぞ。」
「そのコブノーがもらった生き物に乗ればいいじゃん。」
「……生後数日しかたっていない赤ちゃんに何させようとしてるのよ。」
そうだった。こいつまだ生まれたてのイルカもどきだった。あ~どうしよう帰れない!
「なぁリル。ここの天井って何でできてるんだ?」
「床と同じで水よ。そうそう簡単には壊せないようにはしてあるわ。」
「壊しても大丈夫か?」
「すぐに直せるからいいけど修理するのは面倒だからやめて……」
「アイス……アロー?」
魔力を手のひらに集めて天井に向けて放つ。テキトーに考えて技(?)の名前言ってみたんだけどどっちかって言うと、アローよりもドリルだな。
やべぇ。いつもより魔力が多いせいでなんかとんでもない大きさの氷の塊ができちゃったんだけど。すげぇ。すげぇぞこの指輪。リルからもらっておいて正解だったな。
俺の作り出した氷のドリルはドリルのクセに回ることなく天井をぶっ飛ばした。すると天井の上にあった水が流れ落ちてくるわけで。やべぇ。ということで空気の膜を作って避難する。
「まったくあんた、何考えてるの!あたし達は問題ないけどあんた達人間には問題があるじゃない!死ぬ気?」
「俺はあの不審者を殺るまで死ねないし死なないから。一気に海面まで浮かび上がって陸まで飛んだらいいかな~と思ってさ。」
「無茶苦茶ね。それに気がついた時に比べて随分と意見が違うわ。でも最終的には死ぬ気なのね。」
「当たり前だろ?」
「もしまた来る時はあんた達が食べきれない程の魚介類を用意してあげる。
あら?白髪の男はどこへ行ったの?もう1つプレゼントをあげようと思ってたのだけど。」
リルの言葉に背筋がスゥッと冷たくなる。そういえばあの人、泳げない上に魔法も治癒魔法しか使えないんじゃ……
「リルヤバい!コブノーは泳げないし魔法が使えないんだ!早く助けないと!!」
「なんですって!!!あの男泳げないだけでなくて魔法も使えないの!?この水に巻き込まれたらひとたまりもないじゃない!」
ゴウゴウと流れていく太い水の流れを辿っていくと前の方から妙なものが近づいてくる。すごく小さいイルカに白い毛が生えている。新種のイルカもどきか!?いやよく見るとそれはイルカもどきにくわえられて引っ張られているコブノーのおっさんだ。気絶しているのか動いていない。
「……この子を白髪の男にあげておいて正解だったわね。あたしが直々に送ってあげる。海岸までだけどね。」
俺がコブノーのおっさんに空気の膜をかぶせているとボソッとリルは呟いていた。
ホントだな。このイルカもどきがいなかったらおっさんは死んでたんだろうな。イルカもどきは赤ちゃんなのにすごい生命力だな。こいつのお陰で助かった。
その間もイルカもどきの赤ちゃんはキュイキュイと頭をおっさんにすりつけていた。マーキングなのか?
実は海蛇様は元から二人を海岸まで送ろうと考えていたのに、主人公がドリルをだしたせいで最後までセリフを言えませんでした。




