俺のやったこと
港町-ガザリア-二日目の朝、綺麗に盛りつけられた魚料理をいただいて、もう1回港町を散策するか~!となったんだけどなんとその散策にカイルの兄貴-ムールさん-がじきじきに案内してくれることになった。領主さんに案内してもらえるなんて凄いことだよな。こういう時は勇者やっててよかったわ~って思うよね。たぶんムールさんにしたらただ単に書類の仕事から逃げたいだけなんだろうけど。
ムールさんが案内してくれたのはちょっとお上品な料理店から小汚ない居酒屋まで。それぞれのお店のいいところ、悪いところを教えてくれた。もちろん料理店ばっかりじゃねぇ。他の雑貨屋さんとか道ばたで魚や果物を売っている店や、ガザリアで一番景色のいい場所とかもだ。
街を観光していてわかったのは街のみんなからムールさんが慕われてるってことだ。今だって領主サマ、また逃げ出したのか。と漁師のおっちゃんにからかわれている。ムールさんは今日は違うんだ。と言って反論している。
このやり取りがたくさんの街の住民達と交わされてるんだから面白い。あんたいつも逃げ出してんだな。中には奥さんに逃げられちまうよ、という意見もあって奥さんの苦労も知れ渡ってることがわかった。
「これからあの船が出港しますね。あの船の船長はクイガニをたくさん捕ってくることで有名なんですよ。」
ブォ~と汽笛を鳴らして港を出ていく船の船員達は首から提げている首飾りを持って何かに祈っていた。やっぱり無事に戻ってこれるように祈ってるんだろうか。大漁祈願かな?
「彼ら漁師が祈っているのは無事にこのガザリアに帰ってこれるよう海の神に祈っているんですよ。」
お、1個当たってた。
「大漁祈願とかは別の神様にするのか?」
「ええ。海の神の僕に祈りますね。」
僕ってことは精霊とかかな。あれ?でもこの世界じゃ神様は不審者一人だけじゃなかったっけ。
「なぁカイル。神様ってべリアル神だけじゃねぇのか?」
「そうだ。一柱だけだが土地ごとに存在しないが信仰されている神のようなものもある。」
つまり公式には神様として認定されてないってことか。
「いいや、そうでもないぞカイル。ここの海蛇様は本当に存在するんだ。2年前、俺も嵐に巻き込まれた時に助けられたからな。」
2年前助けられたって最近のことじゃねぇか。それにしてもあんたなんで船に乗ったんだ?領主の仕事にそんなのはないと思うんだけど。
「ここの海蛇様は何千年と昔からいるらしくてここの記録にも海蛇様に助けられたって話が何件も残ってるんだ。それに海蛇様って昔は人間だったて話もある。当時の記録はほとんど残っていないが住民達の間で言い伝えられてるんだよ。」
「へぇ~。人間から海蛇になっちまったなんてどうしたんだろな。」
「こういう話は結構あるもんだぜサラル。例えば華ノ国じゃカミサマが龍に変わっちまったとかな。」
コブノーのおっさんが自慢気に言っている。あっちこっち行ってるおっさんはそういうのよく知ってそうだよな。
「さて次は居酒屋で実際に酒を……」
「兄上!未成年の者に酒を勧めてどうするのですか!家に戻って夕飯を食べますよ!その後は仕事です!仕事!」
「今日の分はもう済ませたからいいだろ~カイル~。」
「明日、明後日の分もするのです!」
弟カイルに引きずられていく兄ムールさん。この図を見るのも慣れてきた。ムールさんいい人なんだけどな。仕事が好きじゃないっていうね。仕事が好きな人も珍しいだろうけどな。
屋台で買った醤油みたいな調味料で焼かれたイカみたいな生物を食べながらカイルの後に続く。よく見たら街のあちこちに白い蛇みたいな紋章が掲げられている。ちなみに不審者の紋章は羽だ。天使かこの野郎。
それにしてもこの街は珍しい。何が珍しいかって言うと不審者を拝む礼拝堂がねぇんだ。どんなに小さい村でさえもこじんまりとした礼拝堂はあったんだから尚更だ。
「なぁ兄ちゃん、そこの果物くれ。」
「23リーアだ。毎度ありっ!」
「それとちょっと聞きたいんだけどここには不審者……いやべリアル神の礼拝堂っていうのはないのか?」
「べリアル神?あ~美男美女好きの神様な。ああないね。だってこんな街だぜ?小汚ないこんな街だし、きれーなねえちゃんはいるけど男は毎日毎日汗水流して働いてんだぜ?優男風の顔のやつはいてもべリアル神好みの体つきのやつがいないからなぁ。
それに俺達には海蛇様がいるからな!だからべリアル神の礼拝堂なんていらねぇだろ?」
そう言ってウインクした果物屋の兄ちゃんは俺にリンゴみたいな果物を渡してくれた。カイルはむむって顔をしているけど何も言わなかった。カイルって頑固ってわけじゃなくて考え方は柔軟なんだ。そういうやつって分かってるから色々言い合えるんだよな。
なんか俺ばっか屋台の食い物を食べてる気がする。他のやつらも食えばいいのに。金?金は国から支給されてっからこの国を出るまでは心配せずにすむ。なんか働いてない公務員っぽいけど俺達ちゃんと働いてるもんね!魔獣(ただデカイだけの動物)倒してるし。
コブノーのおっさんはこの旅に加わるまではギルドに入って稼いでいたんだそうだ。今も参加しているけど旅をメインにしたいってことで仕事は受け付けていないらしい。ミンユさんは各地を回る薬屋の一員だったそうだ。薬屋の仕事はミンユさんに合ってたんだろな。
「その金色の丸いものはなんだ?お前はさっきあの男に渡してたけど。」
「これか?これは金貨っつって物を買う時に同じ価値だけ渡すやつだ。」
「それに僕達が人に物を売るときに要求したり、物じゃなくてもお金と交換したりするんだ。わかったかな、ロテカさん。」
「金の存在は大鬼様から聞いてたから知っていたが、これが金というものだったんだな。ありがとう、ワルト。」
「ねぇ俺は?俺も説明したじゃん。え、無視?無視かよ!」
俺の扱いひどくね?なんなのロテカさん。俺が何やったっていうんだよ!!
「お前あんなことやったんだから仕方ないな。諦めな。」
「俺が何やったっていうんだ!!記憶にねぇんだよ!!!」
「は!?ちょっ待て、こっちに来い。ワルト、俺サラルともう少し街を見ておこうと思う。ロテカさんとミンユさん連れて先に行っててくれ。」
「うんわかった。ごゆっくり~。」
ワルトはロテカさんの肩に腕を回して歩いていく。すぐに腕ははずされてたけどな。
俺はコブノーのおっさんに腕を引かれて一軒の居酒屋に入る。店の中は薄暗くてあまり声が響かないようになっている。自由に座っていいみたいでコブノーのおっさんは店の奥の方のテーブルに座る。店員の露出の高い服を着た女の子に飲み物を注文する。コブノーのおっさんはもちろん酒、俺は柑橘系のジュースを注文した。ミカンとジンジャーエールを混ぜた味のジュースだ。けっこう美味しいんだぜ?
「本当にお前、ロテカの姉ちゃんにやったことを覚えてないのか?」
「ああ。覚えてねぇよ。俺が酒飲んでる時に何かやったのか?酒を飲んだ時の記憶がないんだ。」
「酒を飲んでいた時じゃねぇ。お前とロテカの姉ちゃんが手合わせとやらをやったんだってな。」
「やったな。あいつが谷の壁を壊したから岩が落ちてきて大変だった。弾みでロテカさんの着物の中に入っちまって怒られた。」
俺が話し終えるとコブノーのおっさんは女の子の店員に運ばれてきた酒をぐいっと飲むとはぁぁぁぁ、とため息をつく。ついでに店員の女の子にセクハラしてる。やめなおっさん。
「それだよそれ。お前ちゃんと謝ったのか?」
「謝った。でもそう言えばちゃんと面と向かって謝ってない気がする。」
「たぶんそれだ。女の子は傷つきやすい生き物なんだ。ちゃんと謝らねぇとギスギスした仲になっちまうぞ。」
「こちらで注文は以上でしょうか。」
店員の女の子がジュースを俺の前に置いてそう聞いてくる。
「ここに置いてある酒で一番きついのをくれ。」
酒を飲んでいるうちに俺は酷い罪悪感にもまれていた。昔の女の人はパンツ履いてなかったっていうし。実際ロテカさんもそうだった。
なんであんなことやったんだろ。言うなればパンツ履いてない女の子のスカートめくりをやってるってじょとじゃん?俺が、この元女の俺が!意識してないとはいえ!
「死にたい……」
「おいサラル。飲みすぎだ、その辺でやめとけ。」
「死にたい……うわぁぁぁぁっっ!!」
何杯飲んだかわかんないけど酒を飲んでるうちに無償に死にたくなってきた。店をとびだして無茶苦茶に街を走る。
「サラル、落ち着け!」
ゼェゼェ言っているコブノーのおっさんに捕まって押さえつけられる。
「私なんていなくなればいい存在なのぉぉ!」
「おいサラルっっ!!そっちは海だ!気をつけろ!おい!あぶな」
バッシャーンゴポゴポゴポ…………
体を水が包み込む。ゆらゆら揺れる水と泡が月光に照らされて綺麗だ。俺は視界に何か白いものを見て、気を失った。
サラル、コブノー、ロテカさんの口調が似ていて(ほぼ一緒)で読み辛くなってますね……。すみません。




