宴
勇者一行(勇者除く)が一旦山を下り、街で豆を買い込んでからまた山の山頂まで辿り着いた頃には既に夕方になっていた。豆を売っている店が閉店しており、豆をかき集めるのに時間がかかってしまったのだ。それでも互いに頷き合いゆっくりと谷を浮遊魔法で下りていくと茜色の空さえもが見えなくなり暗闇の中、不安を募らせながら降り立った谷の底には何もなくただワルトの手から発光している光魔法のみが谷底を照らしている。
「やはりサラルは谷の向こうにいるのでは?」
紅の髪の少年が白髪の男に問いかけるが白髪の男は訝しげに腕を組み思案顔をしている。
「おかしい。角の生えた連中はいつもここにいるんだが。」
「晩御飯でも食べてるんじゃない?」
金髪の少年がのほほんとした風にそう言うが少年の言葉に男は首を横に振った。
「あいつらはどの時間帯であっても絶対にいた。俺が3週間ずっと観察し続けてもそうだったんだからな。」
「3週間も頑張ったんだね……」
「静かに!」
唯一無言を貫いていた少女が口元に指を当て鋭い声を発した。
「みなさん、何か音がするとは思いませんか?」
そう少女に告げられ少年達が耳を澄ませてみると微かに谷の奥の方から聞いたことのない音が聞こえてきた。
「この音、華ノ国の舞笛っていう楽器の音色にそっくりだ。」
金髪の少年は小さな声でそう呟きながら嬉しそうな表情をして今までの緊張した面持ちはどこへ消えたのか軽い足どりで先頭を歩こうとしたが赤髪の少年に止められつまらなそうに最後尾を歩く。他の3人はとても張りつめた表情で昼下がりの街でかき集めた豆の入った袋を片手にそろりそろりと谷の奥へ進んでいく。
3人が谷の奥へと進むにつれ先程金髪少年が舞笛の音色といったものだけでなく、小太鼓のようなポコポコと叩く音やシャンシャンという金属と金属の触れあう涼やかな音が次第に大きくなっていく。
彼らがそっと岩影から覗くとそこには奇妙な格好をした人間で溢れかえっていた。その妙な格好をした人間達の中の数人は何かを叩く、振るなどしてひどく忙しない。他の者達はお互いに丸いものから何かの液体を器に並々と入れて飲み交わす者、置いてある平べったい皿に山と積まれた果実や料理を食べている者、優雅な舞を踊る者。その様子は老若男女を問わず全員が楽しんでいることが窺い知れる。
奥を見ると二人の男女が何かを守るように立っており、男はくすくすと笑い女は顔を赤らめて不機嫌そうな顔をしている。
その男女のさらに奥、部屋の突き当たりに当たる所では黒髪の少年と男が何かの液体を飲みながら話している。男は上機嫌のようでバシバシと少年の背を叩き少年は少しふらふらしながら男の腕を叩き返している。
「サ~ラルっ!僕も混ぜて~♪」
赤髪の少年が制止するのも虚しく、彼の手は金髪少年の腕を掴み損ね金髪少年は黒髪の少年の所へ駆けていく。金髪少年の突然の登場に驚いた様子の人々だったが奥に座っていた黒髪の少年に抱きつき黒髪の少年も快活に笑ったため再び人々は沸き上がる。また金髪少年が岩影から出てきたことによって見つかった赤髪の少年と男と少女も腕を引かれ強制的に人々の輪の中に入っていくのだった。
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「なぁなぁ~っ!なんで貴方の仲間をさぁ~倒したっていうのにぃ、私をこんな風に歓迎してくれてるわけぇ?」
「おい勇者の童、お前女口調になっているぞ。大丈夫なのか?」
「大鬼さまぁ~大丈夫れす、らいじょうぶっ!だ~ぁ~らっさっきのりゆぅおひえてぇよぉ~!」
大鬼と呼ばれた男は困ったように笑いサラルの髪の毛を撫でる。僕の今いる位置はサラルの横でちょうど男の反対側だ。さっきサラルが生きていたことが嬉しくて抱きついたはいいけどサラルがふらふらしていたから倒れないようにそっと離れた。そこで今の状態に戻る。サラルに抱きついた時すっごい酒臭かったから酒を飲んでいるんだろう。……サラルの誕生日って秋だったはず。まだ13歳だから酒を飲んじゃだめなのにな。誕生日がきていても14歳だからどっちにしてもだめか。キオワ国の成人は15歳だもんね。
それにしてもサラル機嫌いいなぁ。サラルの機嫌がいい時は女の人の話し方になるのとあとはたぶん本人は知らないんだろうけど……可愛いモノがサラルから出るんだ。さわり心地がすごくいいんだぁ。触ったら機嫌が悪くなるから触らないけどね。寝ている時もサラルのお父上の名前を寝言で呼んでそれを振ってるしね。たぶん僕達5人の中でサラルのこれのことを知らないのはサラルとミンユさんぐらいだろうなぁ。ミンユさんはいつも一緒に寝てないし、今だって失神してるしね。彼女って人見知りが激しすぎて初対面の人と何もできない。たまにわざとらしく感じる時があるから演技かな?って思う時もあるくらいだ。
男はサラルを撫でていた手を離して透明な液体の入った皿を傾ける。
「お前は知らないのか?我ら鬼一族はこのように地底に暮らしているせいで他の種族との繋がりがほとんどないだろう?故に時たま何かがここを訪れると宴を開くのだ。」
「ふぇ~しょうなんだぁ。でもぉ、なんでぇ初対面のぉ相手にぃ稽古ぉつけてとかぁうぃってくるわけぇ?」
「それはだな、数百年前にここへ来た人間と打ち合ったところ非常に喜んでくれてな。それからずっと同じようにしているのだ。」
「まぁっさっきのお姉さんわあ強かったなぁああ。でもぉ他の人間わよろこばないとおもうよぉぉぉ。」
「そうか。では今度からは何か食べ物でも振る舞おうか。」
サラル泥酔しちゃって男の膝の上で気持ち良さそうに寝てるなあ。あ、あそこで女の人に囲まれて珍しく大慌てしているのはカイルだ。カイル、君元から怖い顔なんだからそんな顔したら女の人が逃げちゃうよ?カイルってサラルみたいな見た目は細いけど実は凄い筋肉が詰まってるタイプじゃなくてどちらかというとコブノーさんみたいな筋肉がついているのが一目でわかる体つきをしているからマリン学園の女の子達に人気だった。サラルとか僕も密かにファンクラブっていうのがあったみたいだけど女の子達は筋肉のついた男の人が好きだからなぁ。カイルはそのせいでちょっと女の人が苦手みたいだけど。もったいないよね。
カイルがずんずんこっちに来て男の前にどかっと座る。少し怒っているのか目が鋭くなっている。
「今日は勇者がお世話になりました。しかしこれ以上お世話になるのも悪いので地上に帰らせていただきます。」
男は残念そうな顔をしているけど首を横に振って笑っている。
「それは無理な話だ。その勇者に約束を1つした。そやつが帰る時にやると約束したのでな。その童が起きなければ帰らせられんな。」
「私が代わりに…」
「何をそのように急ぐのかは知らないがお前にいい情報を教えてやろう。」
カイルの耳元まで音もなく近寄ったその男は驚くカイルの耳にボソボソと何事かを囁いている。カイルの表情の変化が面白い。驚いた顔のまま頬がぽっと赤くなったかと思うと顔を真っ赤にして男を睨み付ける。カイルの場合、目も髪も深紅だから顔全体が真っ赤っか。赤一色だね。
「俺はそのような感情は抱いていないし、確かにたまに口調がそうなるがそうと決まったわけではないだろう!」
「さてな。信じるか信じまいかはお前次第さな。」
男は愉快愉快と手に持っている紙きれのようなものをパンッと開くとそれで自分を扇いでいる。カイル男の人に遊ばれてるな。
横目で様子を見ながらそう思う。何を言われたのかはわからないけどあの様子だとそうだろう。
「やぁ~♪男前やぁ~♪私と一緒に遊んでな。」
「いやうちも、うちも。うちの方が肌触りええでぇ。」
「何言ってんねん。わっちの方がよか!」
女の人3人に知らないうちに囲まれていた。なんか揉めだしたから
「何をしてほしいの?」
と聞くと
「「「ええことに決まってるがな。」」」
と口を揃えて言ってくれた。彼女達にとっていいことが何なのかよくわからないから僕の得意なことをしてあげよう。
「ちょっと聞いておいてね?」
僕は実は琴を奏でるのが大好きだ。悲しい時や辛い時はこうして琴を奏でてなんとか乗り越えてきた。一心不乱に琴を弾き終わると女の人達はみんなすごいと誉めてくれた。心なしか見ている人が増えている気もする。
「どう?これでお姉さん達は満足してくれたかな?」
お姉さん達に問いかけるとお姉さん達は首を横にふる。ちょっとがっくりした僕に
「坊っちゃんはまっさらなんやなぁ。でもお姉さんがええこと教えたるさかい。」
女の人の一人に違う所へ連れていかれる。他の女の人は悔しそうな顔をしている。そこには厚い布が敷かれていて薄黄色の光の玉が1つ。
「何するの?」
することってそんなにいいことなんだろうか?ちょっと怖いな。
僕が息を詰める前で女の人は僕の膝の上に乗ってくる。えぇ?と思っている間に女の人の顔が近づいて柔らかい肉の感触が唇につく。え、え?と戸惑って抗議しようと開けた口の間から何かうねうねと動くものが口の中に入ってくる。僕の舌は絡みつけられて吸い込まれて。口の色んな所を舐めまわされて頭の奥が痺れるような感覚を覚えながら僕はなされるがままになっていた。
やっと口を離してくれた女の人にほっとしていると
「初めてにしたらええ反応や。楽しめそうでええわぁ、坊っちゃん。」
妖艶な笑みを浮かべてそう言った彼女は彼女の着ている服と僕の服を脱がせ始めるのだった。
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今俺と酒を飲んでいるのは松吉という男の鬼だ。話をするうちに鬼達が俺の考えていたような凶悪なやつではないということが分かってきた。手を引っ張られてここへ連れてこられた時は食われてしまうのか、と半ば諦めたがびびっている俺に気を使ったのか色々と話しかけてくれる鬼の話を聞くうちに俺達は意気投合した。
「なぁ松吉。なんでお前達鬼は俺達人間が谷底へ降りてくると戦いを挑んでくるんだ?俺の知っている有名な話では騎士の連中がここへ降りてきた時にお前達を食うと追いかけられて命からがら逃げ帰ってきたというものなんだが。」
すると松吉は指でトントンと酒の入った瓶を鳴らしながら眉をひそめ溜め息をついた。
「それはきっと私が言ったことだな。」
「あぁ?お前人を食うのか?」
ぎょっとして思わず俺がそう言うと松吉は荒々しく首を横に振った。
「そんなわけがない。あの時降りてきた騎士達を出迎えるとあいつらは宴の後大鬼様の宝を盗もうとしたんだ。俺があいつらを制止するとそのうちの一人が馬鹿にしたかのように『俺達を傷つけないのだろう?』と言ったのでな。我ら鬼族は確かに客人を傷つけるような真似はしない。だがやって良いことと悪いことがあるだろう?だからお前達を食ってやるぞ、と脅したのだ。そうするとあの者達は雲を散らすように逃げていった。まさかそのように伝えられていたとは。腹立たしい。」
「そうだったのか……」
「人は昔から己の都合の良いように事実を捏造するものだ。人の愚かな習性のうちの1つだな。人だけでなく、この世界で神と崇められている者でさえ嘘で塗りかためられているのだから仕方のないことか。知っているかコブノー。俺達には昔、額に角なぞ無かったのだぞ?かつて我らは他の人間よりも力が少し強かっただけの人間の一族だった。それが初代魔王の血筋を引いているというだけで約五千年もの間、この地底に束縛されているのだ。それが地上では悪鬼を封じているなどとあの若造はほざきよって……」
松吉の口調がどんどん荒々しくなっていく。これはまずい、と何か違う話題を探しているとキオワ国からかなり東にある華ノ国の妓生と呼ばれるような者達のような格好をした者達が俺達の所へ集まってきた。酒を注いでくれたりしている。彼女らと華ノ国の妓生と違うのは鬼達が着ている着物というものを何枚か重ねて着ており、髪を妓生達のように何重も束ねていないところか。もちろん彼女達の髪も美しい金属の細工が入っているもので結われてはいるが。
「もぅ松吉のじい様、お客様に失礼やない。なんもこの人が悪いわけやないんやから。」
松吉の持つ器に酒を注いでいる女が松吉をそう慰める。
「なぁ、松吉っていくつなんだ?」
隣で俺に酒を注いでくれている女に小声で聞くと女はくすくすと面白そうに笑う。
「驚かんといて下さいね?ここにいる私らは全員千年以上生きとるんですわ。特に大鬼様や松吉のじい様までいくとここにべリアルに封印された五千年前から生きてはりますの。」
五千年前からずっとここに……。さっきの松吉の言葉が気になる。初代魔王の血筋とか昔は角がなかったとか。
「元々角が無かったのにあんた達はなんで角が出来るようになったんだ?それと……初代魔王の血筋ってどういうことなんだ?」
「俺達の角はあの若造が俺達をここに閉じ込めた時にかけた魔法のせいだ。この角のお陰でやつの話に信憑性を持たせたから、あいつの魔法は成功したといえばそうなのだろう。
初代魔王と血が繋がっているというのは大鬼様が初代魔王の弟だったからだ。我々は大鬼様の配下の者だ。大鬼様や他の初代魔王の弟達も家臣だけは見逃してくれ、とあいつに懇願して下さったのだが無意味だった。大鬼様には初めからついていくと決意していたので俺には関係ないが。
ああ、やめだやめだ。このような嫌な話は客人の前ですることじゃない。そうだな。それにしても今日のお前んとこの勇者の戦いっぷりは良かったなぁ。まだまだ技も出来ていないがあれは将来良い戦士になる。若頭二人を倒したんだからなぁ。」
「え?サラルが何かしでかしたのか!?」
「別にそんな風に慌てんでもええですよ?わいら怒ってませんから。それにしても今わいらの中で一番若い若頭二人がああもやられるとは思ってもなかったなぁ。蕗啼霞はええとこまでいってたみたいやけど岩が落ちてきてわいらから見えんくなったかと思ったら鵬婪が勇者さんの勝ちやて言うし。蕗啼霞は伸びてたみたいやけど足しか見えんかったからなぁ。鵬婪とやった時なんて一瞬で終わったし。ま、わいらやったら負けんけどな。」
くすくすと楽しそうに笑いながら話す女達の言葉に唖然となる。まったくサラル、とんでもないことをしでかしたんだな。若いとは言え、鬼だぞ?末恐ろしい若者だ。
「それにしても大鬼様はいいよなぁ。お前んとこの勇者が地上に帰る時に手合わせをするんだってさ。俺も久しぶりに違う相手と打ち合いたいよ。」
「なぁ松吉。俺で良ければやらないか?俺は槍を使うが。」
「良いのか!?ありがとう!これで四千年ぶりにいつもと違う相手と稽古が出来る!」
満面の笑みで笑う松吉。俺で満足してもらえるとは思えないけど頑張ろう。カイルが先ほどから女達に追いかけられている。ま、俺には関係ないな。
コブノーが女に手を引かれて個室に入るのはそれから少し後のことだった。
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カイルは姿を消したワルトを探していた。大鬼とかいう男と話している間にカイルの前からいなくなってしまったのだ。ワルトが琴を弾いていたのは知っている。でもその後にまた大鬼と口論になったのだ。
ワルトを探しウロウロしているとコブノー殿が他の鬼と豪快に笑い合いながら酒を飲んでいる。すっかり馴染んでいるな。隣の部屋を覗くとミンユ様が寝させられている。他にも酔っぱらって吐いた者や寝てしまっている者も運び込まれている。ざっと部屋を見渡したがワルトはいない。どこに行ったんだ?さらに奥の個室のような所に入ると女達が1つの部屋の前で集まっていた。気づかれぬように気配を消して次の部屋を探ろうとすると耳に少し高めの複数人の女達の声が聞こえてくる。
「もう姐さんったらほんにいけずやわぁ。久しぶりに生きのええ若い男の子が来たからって一人じめするなんて。」
「しゃあないわぁ。ここの男共は若くても千歳以上やさかい。じじぃばっかりやもの。」
「そうやなぁ。あの子は姐さんに譲って他の人間の男3人を捕まえよかぁ。」
「あぁ、一人は大鬼様のお気に入りやさけあかんでぇ。」
「もう一人は広間におるなぁ。もう一人の赤い子はどこやぁ?」
「ほんまや、おらんなぁ。さがそか。」
女達の気配が完全に消えるのを待ってから先程女達が集まっていた扉の隙間を覗くとワルトと女がことを為していた。いや、あれはワルトが女に襲われている。俺からはワルトに股がっている女の背が見えるだけでワルトの一物を女の中に出し入れしている。
「ええわぁ。やっぱり坊っちゃん見込んだだけあるわぁ♪」
何が「ええわぁ」だ!見込んだって何を見込んだんだ!!俺は思わず叫びたい衝動を抑えくらっとなる体をなんとか支えて歩き出す。俺は絶対に操を護り抜く!ワルトの呻き声を後ろに聞きながら俺は足早にその場を立ち去った。
大鬼のいる部屋を覗くとコブノー殿が先程の女達を交え酒を飲んでいる。ちらりと俺に気づいた女がぱぁぁぁっと顔を綻ばせて俺の近くへ駆け寄ろうとしてくる。駄目だ!このままだと女に捕まってしまう!
「お~いカイルぅ~♪こっちこてぇ酒のもぉよぉ~♪」
声のした方をパッと見るとサラルが手に壺のようなものを持って何かを壺から直接飲んでいる。先程まで寝ていたというのにまた起きて酒を飲んでいるようだ。体に悪影響を及ぼさないだろうか?
手招きされたことをいいことにサラルの所まで逃げる。サラルの横についた時後ろを振り返ると女は俺ににたりと笑いかけて去っていった。
「サラル、助かった。礼を言う。」
「え~?なにがぁ?それよりさぁカイルってぇ女の人にだぁいにんきだよねぇ~。さっきからぁ君と一緒にいたいのにカイルがいなぃってぇ女の子達が泣いてたよぉ?女の子を泣かせたら、だめだろお~!」
割と強い力で背中を叩かれる。くっ。息が止まりそうになった。
「まったくぅ私みたいなぁ男も女も好きになれないじんしゅのこともぉ考えてよれ!たーくいろおほこのくへになり女からにげふぇんだぁ~!」
大半何を言っているのか全くわからない。
「俺達はまだ酒を飲んではいけない年齢だろ?いいから早く地上に戻るぞ。」
「うっさいなぁカイルぅ。わはしのせーしーねんれー30こえてんだぞぅ?」
サラルは何が面白いのかガハハハ!と哄笑しながら大鬼の背を俺にしたのと同じようにバシバシと叩いている。大鬼は呆れたようにサラルを見ている。
「お前は本当に遠慮がないな。面白いが。」
「あははっ!面白いならいーでしょお~?それからさ大鬼ぃ、カイルのやつがぁ帰ろ帰ろってうっさいからぁそろそろ帰るわぁ。だからぁ約束通りぃ大鬼とぉ勝負してやんよぉ。勝負するからぁ刀1本ちょーだいねー?」
「1本でいいのか?刀の1本や2本、いくらでもくれてやるが。1本でいいというのならそれでいいが。」
「じゃーお言葉に甘えて2本もらっとこかな~っ?ではっ、ちょーぶといひますか。」
先程から勝負勝負と言っているが今のサラルだとこの大鬼には勝てないだろう。酔っていなくとも勝てないのかもしれない。大鬼の実力を知らないのではっきりと言いきることはできないからだ。
「俺と勇者の坊主では魔力の桁が違いすぎるため、魔法は使わないという方針でどうだ?」
「ややっ!お気遣いあっりがとうごぜぇまあ~す!でも大鬼様のほうが絶対強いよね。」
「久々にいつもとは違う者と打ち合いたい。ここ数百年ここに住む者以外とは剣を交えていないのでな。」
「ふぅ~ん?私弱いから期待に添えないけどごめんね?」
「そのような心構えだと到底我が甥は倒せぬぞ。」
「だって私なりたくて勇者になったわけじゃないし~。魔王って言ったって人殺すのも嫌だし~。代われるものなら代わりたいよ~。」
「それは地上の者達に聞かれぬように注意せねばならんぞ?」
「わーってるわーってる。」
二人はそう言いながらそれぞれの武器を構えた。宴で騒いでいた者達も大半の者は二人の様子に気づき未だに酒を飲んでいる者を引きずり部屋の隅へと移動する。先程まで俺達の前で大鬼を護るかのように立っていた二人の男女のうちの女人がすっと持っていた棒を頭上へ高々と掲げ
「両者尋常に。始め!」
棒を降り下ろすと同時にサラルと大鬼の戦いが始まった。




