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手合わせ

 しばらく落下していると、下の方に赤や青の光が見える。体の上下が逆になってるのかもしれない。落ちてる途中だから上下感覚が狂ってしまっているからな。それにしても上から見るその光景は不思議なものだった。ふよふよと赤・青・黄といった鮮やかな光の塊が移動しながら浮いている。その下には着物を着た人達が俺の方を見上げていて俺がけっこうな速度をつけて地面に衝突しようとするのを魔法で和らげてくれている。

 その人達のお陰でスタッと地面にぶつかることなく着地した俺は魔法をかけていてくれた人達に囲まれる。みなさん俺よりも背が高くて俺を見下ろす形になっている。ぐるっとその人達の顔を見るとその人達は少し驚いた顔をして何かを口々に喋りだした。

 辺りを覆っている薄ぼんやりとした暗闇は色とりどりの光の玉に照らされて周辺の様子を知ることができる。ここはかなり広い空間で二つのそそりたつ岩の壁に挟まれている。地面にはチロチロと水が流れている部分もあって奥にある洞窟みたいなところに通じている。

 それにしてもこの国で着物を着ている人を見ることになるなんて思ってもいなかった。俺の方をチラッチラッと見ている人達の額には尖った三角のものがついている。みんな着けてるってことはここで今流行りの飾りかな。

 お互いジーッと観察しあっていると俺を囲んでいた人の輪が崩れて一人の男の人が俺の前に立った。なんだ?と様子を見ていると俺の前に立った男の人は何かを俺に話し始める。でも俺は何を言っているのか分からなかったので内心首を傾げていると男の人は俺が話を理解していないことに気づいたのか顔をしかめている。


「貴方が普段使っている言葉はこの言語ですか?」


いきなり俺が分かる言葉で話しかけてきたので首を縦に振ると


「そうですか。では貴方は私達の存在を知った上でここにきたのでしょう?」


いや知らねぇし。俺はただ花ん中をごろごろしてただけだし。男の話は続く。


「故に私達と戦う覚悟は出来ているということだと判断する。前回来た男には逃げられてしまったので。久々に来た貴方には期待させてもらいます。」


 おう?いまいち話が掴めないんだけど。どっから俺がこの人と戦わなきゃならなくなったんだ?男が逃げたってどういうことよ?

 また首を傾げるループに入ろうとしていた俺だったけど男の人が鈍く光る鋭いモノを俺に降り下ろしたのでループに入ることはなかった。さっきのはなんだ?よく見るとそれは前世で博物館や漫画でよく見たことのある日本刀だった。日本刀!!ここって剣ばっかだと思ってたけど刀もあるんだ!刀があることに興奮して男の人が持っている刀ばっかを見て男の人の攻撃を避けていると男の人が怒った顔で刀を振りだした。


「貴方は私と戦う気がないのか!」


え~そう言われてもな~。俺人斬りたくないし~。嫌だし~。


「攻撃してこないのならば私が貴方の息の根を止めてさしあげよう!」


 なんでそうなるかな~。その思考回路が理解不能。

 やたらと急所を狙ってくる攻撃が多くなってきたけど適当に避けておく。そのうち男の人はぜぇぜぇと肩で息をして攻撃の手をやめた。結構長い間やってたから疲れたんだろう。ご苦労さんお兄さん。恨めしげな目でハァハァと息を吐くお兄さんに睨まれる。言っとくけど断じて俺は何もやってないからな?お兄さんの攻撃を避けてただけ。


「何故私と手合わせしてくれぬのだ。避けてばかりで楽しくもなんともないではないか。」


一人ブツブツとごねているお兄さんの独り言を聞いて一応聞いてみる。


「殺し合いじゃなくてただの手合わせをするのか?」


「物騒な。殺し合いなど論外です。私達は貴方に手合わせをしていただきたいだけなのです。」


「ふ~ん、手合わせをするぐらいだったらいいよ?」


「本当ですか!ありがとうございます!」


 そう言うなりまたもや刀を振りかざすお兄さん。お前は戦闘狂か!とつっこみたいところだけど手合わせするって言ってしまった以上、やらなきゃダメだよなぁ。仕方ねぇな。付き合ってやるか。めんどくさいから一発で終わらせよ。

 紅ノ剣を腰の鞘から抜いてお兄さんの手元から刀を弾き飛ばす。お兄さんの刀はクルクルと弧を描いて向こうの方へ飛んでいった。


「はい、手合わせ終了な。俺、上に仲間を待たせてるから戻るわ。」


 呆然としているお兄さんに刀を持たせてから手を振って壁の上の方へ飛んでいこうとすると誰かにグッと足首を掴まれた。下を見るとニカッと笑った綺麗なお姉さんが俺の足首を掴んでいる。この位置からだとお姉さん着物がはだけてるから胸が丸見えなんだけど。これは目のやり場に困るな。俺からすれば興味ないんだけど今は男だしさぁ。誰か分かってくれねぇかな、俺の気持ち。


「ホウランに楽々勝つたぁ面白い人間だなぁ!私にも手合わせしてくれ!」


 カッカと機嫌良さげにそのお姉さんは笑うと俺を手荒く地面に叩き落として金棒を振り回す。おうおう、姉ちゃん力があるんだな。けっこう重そうな鉄の金棒なのにそれだけぶんぶん振り回せるとかどんな怪力だよ。スレンダーな体型のお姉さんなのにな。

 金棒を俺の顔へ叩きつけようとしてきたので横に避ける。お姉さんが金棒をよっこらせ、と持ち直してもう一度金棒を振り回し始めた時に彼女の脇に飛び込む。お姉さんは俺がいた少し離れたところに金棒を投げ飛ばしたから至近距離の攻撃には咄嗟に対応できないだろう。そう踏んだ俺はごめんなさい、と思いながらもお姉さんの溝尾に拳を叩きこむ。ガッと鈍い音が響いたかと思うとお姉さんはよろよろと後ろに後退する。あれを受けてまだ立ってられるとか凄いな。一応手加減はしたけどな。


「ふんっっっ!!」


 お姉さんが俺にパンチ攻撃をしてくる。あの重そうな金棒を振り回してたんだから食らったらやばいんだろな。避けながら後ろに下がっていくと岩の壁にぶつかった。後ろに下がれなくなったので右方向に避けるとお姉さんの拳が岩でできた壁を粉砕する。えっとこれって岩でできてるよね?それなのに壁の上のほうまで亀裂が走ってるのはどういうことだ……?ヤベェよこのお姉さん。岩を打ち砕くとかどんな怪力だよ。


「もう逃げ場はないね。次は外さないよ!!」


 いやいやいやいや何言ってるんです?そんなパンチ受けたら俺が粉砕しちゃうじゃん。無理無理。俺美女に殴られたって嬉しくないし。美女じゃなくても嫌だよ、もちろん。でも逃げ場がないんだよな。背後は壁で左は大岩、右は粉砕された岩の壁。目の前にはなぜか目を爛々と光らせたお姉さんだし。


「覚悟ぉっ!!」


 近づいてきたお姉さんの拳が顔面を狙ってきたので思わずしゃがむ。そのままお姉さんの足下をスライディングしてお姉さんの背後から蹴りでも入れようと思ってお姉さんの足下を腹這いになって滑ると


  ガガガガガッガズドドドガガッドドッ


 という轟音と共に目の前が真っ暗になる。あれ?なんだ?さっきまでぼんやりとだけど前は見えてたのに。下をペタペタと触るとさっきまでの地面と同じだ。停電?いやでもさっきの球は電気じゃないだろうしな。


 立ち上がろうとするとムニュッと柔らかい感触が。


「小僧、どこ触ってんだい!!人のけつをよく触れるね!!」

「え?うおおおおお!ごめんなさい!ほんとごめんなさいっ!」


 結局、


「ロテカ!人間の子供さん!大丈夫ですか!?」


 お兄さんの顔がひょっこり隙間から見えたかと思うと俺を暗闇の中から抱え上げてくれた。周りを見るとお姉さんがすごく大きい岩を持っててくれたみてぇだ。こんなでけぇ岩が落石するほど強い力ってどんなだよ。こえぇこえぇ。でもやっぱお姉さんにもこの岩は流石に重いのかちょっと着物がはだけている。

 遠巻きに他の人達も見ているけどお姉さんの裸体は岩で隠れて他の人達に見えないようになっているみたいだ。


「貴方の名前は?」


お兄さんがお姉さんに目を釘づけにしながら俺の名前を聞いてくる。でもお姉さんが持っていた岩を持ってあげたりと手は動かしている。


「サラル。」


 俺の名前を教えるとお兄さんはお姉さんの体から目を離して遠巻きに見ていた人達に顔を向けた。


「我ら鬼族ロテカと人族サラル、引き分けだ!大鬼様をお呼びしろ!」


 グワァングワァンと岩の壁にもその声は反響しものすごい大音量だ。離れて見ていた人達はざわざわとざわめいてその声も谷底に響き渡る。

 まだ戦わなきゃダメなの?いい加減飽きてきたんだけど。そういう願いをこめて俺を抱いているお兄さんを見上げるとお兄さんはその顔を和ませる。


「貴方のお陰で良いものが見られた。このあとは大鬼様との宴です。好きなだけ酒を飲むと良いですよ。」


 あの、まだ俺未成年なんですけど。やれやれと顔を下ろすとはだけた着物をきちんと着たお姉さんが立ち上がるところだった。

 お姉さんはまっすぐ立つとお兄さんと俺をキッと睨み付けて洞窟の方へ歩いていく。何でだ?お兄さんはお姉さんの体をガン見してたけど俺は何もしてないのに。


「では、私達も大鬼様の御前に行きましょう。」


 宴会ならいっか。お兄さんに抱っこされながら俺もぽっかりと口を開ける洞窟に入っていった。



10/24に修正致しました。穴があったら入りたいです……

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