初日
「なあなあ、おっさんとミンユさんはなんでこの旅についてきたんだ?死ぬかもしれねぇんだぞ?」
パカパカとゆっくりとした歩調で馬を歩かせながら聞いてみる。辺りはちょっとした高原で見通しがとてもいい。こっから少し行くと森に入ってそうもいかなくなるらしい。どうもその森は魔物が今大量発生しているらしく近隣の村の人達が困ってるんだそうだ。「こりゃぁ行かないと駄目だろう。」おっさんがはりきって言っていたがたしかに近くまで来たんだからやっておかないとダメだろうな。うん。
「俺は35だ!おっさんじゃない!俺は元々冒険者だからな。前の勇者の時は名乗り遅れてなぁ。人生いろいろ経験しておくもんだろう?餓鬼の頃から勇者一行に憧れてたんで夢を実現させてやろうと思ってな!ファルハンではミンユの姉ちゃんに負けちまったがな!」
「よかったなおっさん。夢が実現できて。俺べつに勇者なんてなりたくねぇから代わってやりたいぐらいだよ。」
「だからおっさん呼びはやめろ、おっさん呼びは!それと勇者になりたくないとはどういうことだ!?」
「じゃあ、コブノーな。ミンユさんは?」
「わ、私がここに参加したのは……」
「おい、俺は無視か!おい!」
「後で話すからちょっと黙ってくんねぇ?」
ミンユさんのお話しを遮るんじゃねぇよこのおっさんが。俺も年上の人をおっさん呼びとか名前呼びするようになっちまったな。嗚呼、過ごしてきた環境恐ろしや。
「私がここに参加したのは、生き別れた兄弟を、探す、ためです。100年ほど前にこの国へ来る途中、と、盗賊にっ襲われてしまってっ、うっ。」
うわぁ。結構重くね?さっきのおっさんの理由とは違って大変な理由だな。やっぱり長生きしてきた分それなりの理由があるもんだな。
ぽろぽろ涙を流し始めたミンユさんに慌てたようにワルトがハンカチを差し出す。それにしても100年前って結構前だな。エルフにしたら100年ってあっという間なのか?
「捜索願いなども出したのですがっ、い、未だに音信不通でっ……」
「つまり家族を探すためにファルハンに参加したってことなんだ。勇者一行は大陸を横断することで有名だからね。ご兄弟が見つかるといいね。」
ぐすぐす泣くミンユさんも可愛い。これで何百年って生きてるんだから信じられないけど。
ミンユさんの話で少ししんみりとしていた俺達だったけど半時ほど経つと木々が鬱蒼と茂る大きな森が見えてきた。俺とマルシさんが住んでいた森の2倍ほどの大きさか。噂に聞く魔物とか出てこなければいいんだけど。
森の手前までつくと森特有の腐葉土の匂いが鼻につく。俺にとったらこの世界に生まれてきてからずっと嗅いできた匂いだからけっこう落ち着く。家に帰ってきたど~!的な?ここの森は俺が住んでいた森と違って針葉樹が多いのが特徴的だ。流石2倍もあるだけあってそれだけの年月を過ごしてきたってことだろう。
俺達一行を出迎えるように森に入るとおっきい熊が仁王立ちになって出迎えてくれた。まぁこれぐらいの熊なら俺の住んでた森でもいたけどね。
「おい!魔熊だ!あいつに掴まれたら人生の終わりだぞ!一旦後ろに下がれ!」
え?嘘ぉ。ただの熊じゃん。たしかにこういう熊は目が赤いけどそれだけじゃん?俺今まで普通に狩ってマルシさんと晩飯にして食べてたし。
俺が首を捻っている間に他のみんなは後ろに後退している。馬もびびって白目剥いてるし。おい落ち着け、熊ぐらいでびびってたらどうしようもねぇな。
「サラル!何してるの!?早く逃げないと食べられちゃうよ!?」
「何言ってんだ。たかが熊だろ。でかいだけの。」
「お前こそ自分の状況がわかってるのか?いいからこっちに早くこい坊主!」
「わかったよ。俺がこの熊がただの熊ってことを証明すりゃいいんだろ?晩飯は熊の肉を使った料理だな。」
「「「はぁ!?」」」
男3人は必死になって後ろの方でごちゃごちゃ言ってるけどこっちに来ない限り俺は止められないからなぁ。ミンユさんだけが何も言わなかったけど口を開けて茫然としてるから、ただ単に何も喋れないだけだろう。口パクパクさせてるし。
びびってる馬を一応おっさん達の方へ避難させておいてから俺は熊に向かって走り出す。今回持っている武器は不安なことに紅の剣だけだから紅の剣で倒すしかないな。折れないかちょっと心配だ。
熊は剣を抜いて走る俺にロックオンしたらしく、こちらに向かって鋭い爪の攻撃を繰り出してくる。もちろん
「グォォォォォォォォォォ!!!」
っていう熊の素敵なサウンドもついてくる。目の前にある爪を切っておいてからジャンプして熊の右肩に飛び乗る。熊は爪を切られたことにショックを受けていたのかしばらく動作が止まっていたけど俺が右肩に乗った時点で我に帰ったのかガッと噛みつこうとしてくる。流石はでかい熊だけはある。間近で見ると牙とかも一個一個がすげぇ鋭そうででかい。普通の熊なら爪を切られた時点で暴れだすんだけどそうしないのも流石っていうべきか。まあ、どっちにせよ反応遅いけどね。噛みつこうとしていた熊はすでに首と胴体を切り離されて俺に噛みつくことはできなかった。
いつもの熊とかだと爪を切った時点で暴れだすから逆に狩りにくいんだけど今回は大人しくしていてくれたからすぐに終わっちゃったね。動物を殺す時は食料や毛皮を大切に使わせてもらう。毎日動物達のお陰で生きれてありがたいという気持ちで美味しく頂いている。でも人を殺すのとはまた別だ。人を殺しても俺にはなんのメリットもないと思うんだよね。みんないい人とは限らないけど人を殺すような悪い人ではないし。それにしてもやっぱり紅ノ剣って勇者の剣って言われるだけあってよく斬れるな。爪だってスパーンと1発だったし。普通だったらこうはいかないな。
おっさん達の方を向いて俺は手招きする。さばくの手伝ってもらわなきゃダメだしな。
「な、ただの熊だったろ?早くこいつの毛皮とか剥いで先に進もうぜ。村につかなきゃダメなんだろ?」
なんかおっさん達震えてんだけど。ミンユさんに到っては気絶してないか?大丈夫かあれ。
どいつもこいつも動こうとしなかったから俺が一人で全部剥いだ。時間がかかって仕方ねぇから残りの部分は馬に乗っけておいた。ほとんど剥いで他のみんなに持ってもらったから大して重くはないはずだ。
森の奥に入って行くと巨木がところどころに倒れていてそこからまた木が生えていたりする。苔が木々や地面に広がっていてひんやりとしている。この頃になると気絶していたミンユさんも復活して馬から降りて様々な植物を採取していた。今なんかハート型の葉っぱを採っている。
「その採っている植物とかは何に使うんです?」
喋りかけると植物採取に熱中していたミンユさんは肩をビクッと震わせて俺の方を見る。俺そんなにびびらせることしたか?
「えっと……この植物は料理に入れると甘味を出すものです。他の植物は、治療などに、役立つものなので……」
「へぇ~そうですか。ミンユさんは植物に詳しいんですね。」
俺がそう言うと大事そうに植物の入ったポーチを抱えるミンユさん。
「ええ。植物は本当にたくさんの役にたつのです。この森は種類が豊富なのでとても嬉しいです……」
途中、また熊が2、3匹出てきたけどそのたびに俺が倒した。お陰で晩飯の熊肉が大量だ!食いきれるか少し心配になる量だけど。
夜になってきたので小さい焚き火を焚いて晩飯にする。料理は1日ごとに作る人を交代することにして初日は俺になった。くじ運ねぇな、俺。適当に熊の肉をじわじわとあぶって宰相さんが持たせてくれた荷物から調味料を出して振りかける。狐色にこんがり焼きあがったところで5等分して手渡した。
ハグハグと肉を頬張っているとおっさんが俺をまじまじと見ていた。
「なんだ?コブノー」
「やっぱり勇者になるやつは強いんだな、と思ってな。魔熊を一人であんなに早く倒す人間を俺は今まで見たことがないぞ。」
「うん。僕も騎士達が倒すところを見たことがあるけど10人がかりでやっと倒せていたかな。」
「わ、私も人生で数回しか見たことがありません。」
おっさんに続いてワルトとミンユさんが感想を教えてくれる。
「お前らがいうほど珍しいことじゃないと思うぞ?マルシさんも普通に毎日やってたし。」
「は!?マルシだと!あの戦神の?どこでお前みたいな坊主とあいつが接点を持つって言うんだ?」
「え?父さんだけど?」
「はぁぁぁっ?嘘だろあいつが子供を持つとか考えられないんだが!」
「俺がいるじゃん。俺が。」
「あの女が苦手なマルシがなぁ。確かにあいつの子供ならこれぐらい出来るとか軽々言えるのも分かるような分からないような……。でも俺、あいつに先超されるとは思ってなかったぞ。」
おっさん、白い髪の毛をかきむしってすげぇ混乱してる。人生色々苦労してきたんだな。それと俺は養子なんだけどな。言わないけど。
「コブノー殿はマルシ殿とお知り合いなのですか?」
カイルはワルトと同様、綺麗な動作で肉を食べながらおっさんに質問している。おっさんに敬語使ってるんだからやっぱカイルって真面目なやつだ。
「知り合いと言えばそうだな。ダンジョンに潜った時にあいつと俺のパーティで一緒にダンジョン攻略をしたからな。けっこう俺達の行くところが被ってよく一緒に攻略したな。無口な傭兵だったな。」
「へぇ、父さんは無口だったんだ。」
「無口じゃないか?あいつは。」
「毎日すげぇ喋ってたんだけど。」
「……マルシのイメージが崩れていく。」
ふるふると首を横に振るおっさん。ミンユさんがやったら可愛いんだろうけどちょっと筋骨逞しいおっさんだから別になぁ。ムキムキってほどじゃないんだけど。
見張りを時間制で交代して寝る。またもやくじで決めたところ、俺が最初にすることになった。今日わかった。今度からくじで決めるのはやめておこう。
夜の森は黒々としていて空を見上げても細い月の光が射し込むだけで星は見えない。交代の時間になったのでカイルを揺さぶり起こしてから地面に丸まる。頬に当たる苔の感触が気持ちよく、俺はすぐに眠りにつくことができた。
朝、起きると最後の当番だったおっさんがだいぶ小さくなった焚き火のそばでおっさんの槍の手入れをしていた。使いこなされているのが柄の部分の変色ぐあいからよくわかる。全体的に黒い漆みたいなもので塗られてるのに色が剥げてるせいで元の木の部分が見え隠れしている。穂先の部分に何か彫られているけど飾りか何かだろう。きちんと手入れがされているのか綺麗な槍だ。
「お早うコブノー。その槍綺麗だな。」
起き上がってそう言うとおっさんは少し苦笑してから手入れする手を止める。
「俺の槍を綺麗だと言うとはな。これは俺が何十年と使ってきた槍だ。しかもその年月以上にたくさんの生き物を殺してきた槍だ。お前は人が斬れないそうだがそんなことは言ってられないぞ。世の中色んな人間がいるからな。お前が今まで知り合ったことのないような人種のな。」
「それはそうだけど……なぁコブノー、なんで俺が人を斬れないことを知ってるんだ?それ誰もいない所で喋った内容なんだけど。」
ギクッといった風にピクリと槍を持つ手を震わせるおっさん。だけどそれ以外はなんの変化も見せないところは流石おっさんだな。
「それね、僕とコブノーさんでお父上の部屋の前で盗み聞きしてたんだ。話の途中から盗み聞きしたからサラルが人を斬れないってところしか聞き取れなかったよ。顔馴染みの騎士さんだったから見逃してくれてね。お菓子を請求されちゃったけどね。」
そう言ったのは所々寝癖で髪の毛が跳ねているワルト。朝っぱらからにこにこと機嫌がいい。
「あんた達二人で何やってんだ。それとワルト、早く朝飯作れ。お前当番だろ。」
「は~い。」
「コブノーも大概にしてくれよ。盗み聞きはよくねぇ。」
「ああ。すまなかった。」
ったく35にもなって何してんだか。少年か。まったく。
「だが、人を殺すであろうことはきちんと考えておけ。そうでないと後々大変な目に逢うぞ。」
「……」
ワルトが細々と肉を皿に盛りつけている間に話は終わる。しばらくするとミンユさん、カイルの順に目を覚ましている。カイルが一番遅かったけどまだ時間帯的に言えば早朝でかなり早い。ワルトによって肉と野菜でカラフルに彩られた朝飯を食べて森を進む。森を抜けたのは夕方ぐらいになってその日は近くの村に泊まることにした。
まだ夜まで時間があるので村を散策することにした。宿に集合ってことで村をぶらぶら歩く。村についた時の歓迎っぷりはすごかった。村の人達一同で出迎えてくれたんだ。熊4匹を渡すとちょっと目をひんむいていたけど毛皮とかの金と交換してくれた。
呉服屋みたいなところがあって色とりどりの布や服が売られている。ちょっと気になって見ていると店主のおばさんがいろんな服をすすめてくれた。ちょっと困ったので紺色と渋い抹茶色の服を買って俺が着せられていた赤い派手なマントと交換してもらったらこんな高価なものと交換なんて値段が……!とおばさんは言っていたけどあまりあの派手なマントは気に入っていなかったので引き取ってもらうことにした。武器屋などけっこう店の種類があるな、と店を覗いていると村の端の方から甲高い悲鳴と凄まじい咆哮が上がった。鞄に手早く服をいれて急いでそちらへ行くと青い毛並みの大虎が女の子を足で押さえつけている。周りを見ると鍬を持った男達がいるけど大した戦力にはならないだろう。鍬とか折れそうだし。俺が女の子へ駆け寄ろうとすると
「紅の勇者様!上!」
女の声の通り頭上を見ると大きな鷹が。なんだ?タイミングが悪すぎじゃねぇか?ちっ、と舌打ちをして鷹の翼を切り落とす。バタバタと暴れる鷹は翼を失っても嘴で俺の目を攻撃してくる。てこずっている間に女の子が虎に食われちまう、と虎の方を見るといつの間に来たのかコブノーのおっさんとミンユさんが応戦している。コブノーのおっさんが槍で攻撃している間にミンユさんが女の子を虎の足下から救いだす。ミンユさんがこちらをちらっと見たので手を振るとミンユさんは蒼白な顔をして叫んだ。
「サラルさん!!!前!!」
あ?と前を向くと鷹の嘴が俺の手に向かっていた。やばい、と思っている間に嘴が手にガツンと当たる。俺の手は手首から半分もげたようになってしまった。
「っっっっっっ!!!!」
油断した。たかが鷹だと油断したよ!左手に紅ノ剣を持ちかえて剣を鷹の首に突き刺し地面にささるまで差し込んでから引き抜く。大人しくなった鷹と入れ替わったかのように右手に酷い痛みが感じられる。声を堪えてうずくまっているとミンユさんがちょこちょこと駆けてきた。
「サラルさん、サラルさん。患部を見せて下さい。」
汗だくの顔をあげてミンユさんを見上げると腕を引っ張られた。鋭い痛みに歯を食いしばりながら右手を見せるとミンユさんははっと息を一瞬呑んだけど昨日森で葉っぱを入れていたポーチを開けるとその中から黄色いキラキラした粉末を出して俺の右手に振りかけた。ちょっとちくちくしたけどそのまま歯を食いしばっているとミンユさんは何かを唱え始めた。すると俺の右手はするすると元の位置に戻っていく。夢のようで思わずほけーっとしているとミンユさんに
「右手を動かしてみて下さい。」
と言われたのでゆっくりと右手を動かすと普通に動かせた。すげぇ。さっきのは何だったんだ?
「ありがとうございますミンユさん。右手が元通りになりました!」
「お役に立てて、嬉しいです。私、こんなことぐらいしかできないもので……」
「すごいことですよっ!今のは何だったんです?」
「さっきのは……それよりもコブノーさんを援助しましょう。苦戦していらっしゃるようですし。」
コブノーのおっさんを見ると虎といい勝負をしていた。でも決定打を与えられずに少々手こずっている。すると俺の横から少し高めの声が響く。
「ミンユさんは弓使いだよね?僕が雷撃をあの虎に落とすからその間にミンユさんが虎の目を弓矢で潰してよ。そうすればコブノーさんも虎を倒せるんじゃないかな?」
ワルト、お前どっから沸いた?さっきまでそこにいなかったよな?
「じゃあ魔法を発動させるよ!」
手を虎の頭の方へ向けて雷を呼ぶ魔法を唱え始める。自分のイメージだけでもできるんだけど魔法をより強力なものにするためには呪文みたいなのを唱えなきゃダメだ。ワルトは流石学年1位というかかなりの魔法の使い手だ。暇がありゃ魔導書を読んでたし。今から思えば末恐ろしい王子だな。
呪文を唱え始めた頃から黒い小さな雲が出来てきてワルトが呪文を唱え終わると雷特有の雷鳴が辺りに轟く。至近距離のため、思わず耳を塞いでいると隣にいたミンユさんがどこからともなく弓を取り出して弦を引き絞る。彼女の細い手が弦を離した瞬間、弓は虎の左目に直撃した。
「ガァァァァァァッッッッッ!!!」
虎の左目から赤い血が飛び出す青い毛並みが赤い血と混じって汚い紫になっている。虎が目を射たミンユさんをターゲットに変えてミンユさんに向かって突進してくる。思うけどこういう風に大きい獣ってたまになぜか人間のような行為をするときがある。不思議だ。虎がミンユさんに牙を剥いたとき4本の得物が虎を貫いた。1本は槍。1本は氷の槍。あとの2本は剣だ。もちろんその持ち主はコブノーのおっさん、ワルト、カイル、俺なわけで。村を大騒がせした青い虎とでかい鷹の討伐はこれにて終了した。
結局その虎と鷹は熊同様村の人達にもらってもらうことにして金をもらった。宰相さんにもらった分を合わせると結構な金額になっている。宿で晩飯をとって部屋に戻る。もちろんミンユさんは一人部屋で俺達男4人は一部屋に泊まった。晩飯の時に改めてミンユさんに右手の礼を言うと他のやつらも驚いていた。ちなみにミンユさんが唱えていたのはエルフ語らしく、エルフ語の治癒魔法だそうだ。俺の右手に振りかけていた黄色い粉末はキノコからとれた粉だそうで治癒力を促進させる働きをするんだそうだ。ミンユさんがいなかったら俺の右手は無くなってたんだ、と思うと少しぞっとする。ミンユさんは命の恩人と言っても過言じゃねぇな。右手がなかったら俺、生きていけないことはないけど俺の戦闘スタイル的にすごい不利にはなっただろうから。
カイルとワルトは布団に入るとすぐに寝てしまったので暇をもて余しているとコブノーのおっさんがまた槍の手入れをしている。今日は虎と戦ったしな。うん。寝るにはまだ早いし。コブノーのおっさんと何か話すか。
「なあコブノー。あんたはファルハンとかいうので2位って言ってたけどファルハンって何なんだ?」
俺が布団の中から話しかけると、「まだ起きてたのか。」と言って手入れを続けながら話してくれた。
「ファルハンっていうのはなぁ、ここキオワ国で2年に一度開催される腕自慢みたいなもんだ。そこで勝ち抜いた1位、2位のやつらが勇者の一行と同行することができるんだ。去年開かれたファルハンで俺はミンユの姉ちゃんに負けちまってな。ま、これたからよかったがな。」
「へぇ~なんでミンユさんに負けたんだ?体格とか技的にもあんたの方が有利じゃねぇか。」
返事がない。ちらっと布団から顔を出しておっさんの顔を見るとコブノーのおっさんは少し眉を潜めて悔しそうな顔をしていた。
「勝ったとおもったんだが、最後の最後で後ろにいたやつが斬りかかってきたのを避けた時にミンユの姉ちゃんから一瞬気をそらしちまってな。後ろのやつは倒したんだがミンユの姉ちゃんに毒矢で射されちまってそのままダウンだった。あの姉ちゃんは敵に回すと怖いぞ。」
毒、ねぇ。確かに薬とかをよく知っている分だけ毒のことだって知ってるだろうしな。コブノーのおっさんもミンユさんもそれなりの実力者ってわけか。可愛いだけじゃなくて毒も持ってるのか。どこぞの花みたいだな。
「コブノーのおっさん。話してくれてありがとう。お休み。」
「ああ。ゆっくり寝な。……それと俺はおっさんじゃないと言ってるだろ!」
俺はもう寝てるから聞こえない聞こえない。槍を研ぐ独特の音を聞きながら俺は布団の中で丸まった。
遅くなりましたがやっと女の子を出せて嬉しいです。ずっと男ばかりでしたので。




