旅立ち
お待たせしました!
赤い剣を抜いてしまった次の日、そのまま城のベットで寝ていた俺は手荒く女の人達に叩き起こされた。彼女達の服装はTHEメイドって感じなんだけど、スカートの裾は足首ぐらいまであるロングスカートで、生地は俺でも分かるような質の良いであろうものだった。それにどう言えばいいのかな女の人達は、メイド喫茶とかの女の子達の可愛らしい雰囲気ではなくってどちらかと言うと清廉でぴしりとした気配を纏っている。俺がベットから立ち上がる間にさっと寝間着から真っ赤の派手な衣装に着替えさせられて部屋かなら追い出されるように廊下に出される。まだ俺が逃げ出すと思っているのか両腕を女の人達に掴まれてふかふかの絨毯の上を歩く。若干俺の腕に彼女達の胸が当たってしまっている。他の男なら内心喜ぶかもしれないけど俺だしなぁ。女性に対して喜ばない俺はやっぱりダメなんじゃないか。最近ちょっとそんな自分に不安になってきている。
左右のお姉さん達のおっぱいの感触を感じながら辿り着いたのは昨日カイルに引きずられて退室した謁見室だった。部屋の前に立っている騎士の兄ちゃんに右の女の人が小さく会釈すると騎士の兄ちゃんはわかった、というようにコクリとひとつ頷いて謁見室のドアを開けた。顔パスかよ!とちょっと感心してる間にポイっと床に下ろされる。後ろを振り返ると女の人達はまた廊下に戻っていくところだった。
「これがお前達と共に魔王城まで旅をする勇者だ。挨拶をしておけ。」
前を向くと男4人と女の人が一人いる。その中の男3人は王様とワルトとカイルだ。さっきの少し深い声はきっと王様の声だろう。まったく人のことをこれ扱いとはねぇ。そこまで俺、王様と関係ないんだけどな。
「私達カイルとワルトは既に知己の仲のため挨拶は割愛させて頂きます。」
カイルがそう言って王様に恭しくお辞儀をしている。ワルトもお辞儀とまではいかないけど軽く会釈をしていた。
「それじゃ、俺から自己紹介をさせてもらう。俺の名前はコブノー。この間開かれたファルハンで2位を取った槍使いだ。魔王城までよろしくな!」
快活な感じで話すのは日に焼けた健康そうなおっさん。人の良さそうな笑顔と白い歯が印象的だ。
「私の名前は、ミンユです。……えっと、よろしくお願いします。」
こちらは自信がないのか少しおどおどしている女の子。ちなみにエルフだ。耳が俺達人よりも横に長く伸びている。エルフ。エルフ!人生初の生エルフだよ!よくラノベとかの挿し絵とかでみる典型的なエルフ然とした女の子だ!ふぉ~!やべぇ!!テンション上がるわ~!
そうしているとなぜかミンユちゃんは顔を下にうつむけてしまう。
「こらサラル。女人をそのように見ては失礼だろう。」
むっと眉をひそめているカイルに注意される。そっか。いきなり知らねぇ男にガン見されるのは女の子にすれば恥ずかしいことか。寮に住んでたら男としかつきあわねぇからな。感覚が鈍ってるな、こりゃ。だって仕方ねぇだろ?男同士で話すことって言えば自分達の好きなこととか好きな女の子とかクラスの女子のこととか自分の技を磨いたとか飯のこととか付き合ってる女の子が超可愛いとか……そんなことばっかりだからな。はっきり言って大半は女の子のことばっかだ。そりゃ勉強とか他のふざけたことだって喋るけど女の子の話題に比べるとちょっとでしかない。前は女だったから俺ゲイになるかも、って入学前は心配してたけど男友達の姿を見てたら幻滅したね。男も女も大して変わらない気がするんだよ。お陰様で未だに恋愛感情を生まれ変わってから一度も抱いたことがない。かっこいいなー可愛いいなーとは思うけど「好きだ!」とまではいかない。ちょっとばかし悲しくなってくる。
「ま、勇者の坊主がミンユの姉ちゃんを見ていたいのもわかるがな。この国じゃエルフはほとんどいないに等しいから物珍しいんだろう。姉ちゃんもあまり気にしないでやってくれ。慣れたら今みたいにジロジロ見られることもなくなるだろうよ。」
「は、はい。」
おっさんがしゃーないって風に俺をフォローしてくれる。カイルよりも高い位置にある顎をクイッとミンユちゃんの方へ何度も動かす。謝れってことね。言われなくたって謝りますよ、ええ。
「先ほどはすいませんでした。これから仲良くしてください!ミンユちゃん!」
ばっ、とお辞儀をするのと同時に手をミンユちゃんの方へ伸ばすと少ししてから手の端の方をちょっと握って握手をしてくれた。おずおずとした感じがたまんねぇ。可愛いいいいい。
俺が壊れかけているところにカイルの一言が降りかかる。
「ミンユ様はお前より数倍もの年月を生きてこられたお方。敬意を払うように。」
「いえ、私達種族の中では……まだまだ若い方なので……。お気に、しないで下さい。」
あれか。エルフは長生きだよ☆ってか。じゃあちゃん呼びはできないな。さん呼びだな。でもすげぇ可愛いんだよな~♪
「二人共、これからよろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしく。」
「こちらこそ……」
なぜかカイルに締められた。解せぬ!
そんな俺達の様子を玉座に座って無言で見ていた王様が俺以外の者達を退出させて挨拶のやり取りは終了した。俺以外は。なんで俺だけ残すんだよ!
他の人が部屋から出ていくと少し強ばった顔をして王様は喋り出す。
「お前にはこれから魔王討伐へと赴いてもらうわけだが、魔物だけでなく人間にも気をつけろ。お前と共に旅をするワルトを狙い、テアが刺客を放つようだ。重々気をつけるように。」
「テアって誰ですか?」
「この国の妃のことだ。情報は掴んだものの、証拠が掴めんのでこうして言わせてもらっている。お前の仲間となった者達は俺が直々に選んだ者達のゆえ心配せずとも大丈夫だ。お前の父親にも招集をかけたのだが連絡がつかなくてな。どうやら華ノ国の迷宮に潜るらしい。すまないな。」
「あれ?国王様ってワルトに無関心じゃないんんですか?そう聞いてるんだけど。」
おっとやべぇ。心の声が漏れちまったぜ。王様の顔がどんどん怖くなっていく。そうだよね。そうだよね。国の第2王子として見てるだけだもんね。失礼しました。あ~早くこの部屋から出たい。生命の危機を感じる。
はぁ、っとため息をついた王様は俺をじっと見つめるとこう言い始めた。
「テアの手前、可愛がるとテアのやつが俺の知らぬところで何かしでかすのでな。俺も可愛がりたいのだが、テアのしでかすことが怖くてな。その上狡猾な女だから決して形跡を残さん。腹のたつことこの上ない。シーリアと共に逃がしてやりたかったが失敗してな。どうしようもならなかったのだ。」
え?何言っちゃってるの、この王様。絶対一般人に喋ったらだめなこと話してるよ!俺がその正室様から狙われたらどうすんだよ!つか何気にワルトのこと可愛い発言してるよね?それとワルトのお母さん逃がしたとか言ってねぇか?逃げられたんじゃなくて?逃がした?俺今すごいこと知っちゃったよ。やばくね?
「あの、そんなこと俺みたいな人間が知ったらダメじゃないんですか?」
「お前は勇者でありワルトの友人だからな。ちなみにウィーのやつと入園の際ぶつかった時から既にテアには敵視されているようだぞ。まあお前は剣術が巧みなようだから人を斬ることなぞ朝飯前だろうがな。」
なんというこったぁ!!!ワルトの兄貴に喧嘩売った時点で目ぇつけられてたってか!あれは完全にあっちが悪いよね!?それとなんか今王様さらっと凄いこと言ったよね!俺が人を斬れるわけないじゃん!僕チキンハートの持ち主ですよ?本とかの人みたいに「俺が殺した奴らの一生を背負う」みたいな覚悟なんて全くできてないし無理だからね!?
「何言ってるんです?人を斬るって……どういうことですか?俺にそんなことができるとでも思ってるんですか?無理に決まってるじゃないですか。」
「暗殺者や襲いかかってくる者達を斬るのは当たり前だろう。もちろん罪のない者達は斬ってはいかんが。人を殺せないなどとそんなことを言っているのならばお前はすぐに殺されてしまうぞ。お前にワルトを任せるのはやめておいた方がよかったかもしれんな。まったく俺も勘が鈍った。学園で俺を直視し続けた時にこいつだ、と思ったのだが。」
「ワルトを……任せる?」
「守るだけでなく共に戦う者として。既に後戻りはできなくなってしまったが。まったくマルシのやつに甘やかされてきたようだな。俺がとやかく言える立場ではないが。」
その後はしっしという風に手をはらって退室を促されて渋々引き下がるしかなかった。最後の王様の言葉は納得できない。まったく勝手に好きなこと言われたような気がする。マルシさんは関係ない話だし、人を斬るということはあんな風に軽く扱っちゃだめなことだ。それに王様凄いこといっぱい漏らしてたし。本当に勘弁していただきたい。
その後は宰相のおじさんが用意してくれた荷物を持ってガタゴト馬車に揺られながら城下町のあのべリアル神の像のある広場まで行って王様に見送りの言葉を言ってもらってから通りをワルトの兄貴のように歩きぬけ、街から出たところに用意されている馬に乗って魔王城に出発した。いや~あのパレード?凄かった!流石に俺に人の視線が無数に集まったのは鳥肌が立ったね。お陰でありがたいはずの王様の言葉も全く耳に入らなかった。もったいない(?)ことをしちまった。
「ウィー王子はここから東へまっすぐ行かれたようです。私達はぐるっと国の西側を回って……東へ行くのはどうでしょうか。」
ミンユさんがおずおずとした感じで提案してくる。魔王城がこの国の国境を越えて結構な東にあるんだっけ。ちなみにこの国は西から東に横断するのに馬で約1ヶ月かかるらしい。まだましな方なのか何なのか。距離感が全く掴めん!この国が広いってことはわかるけど。
「いいんじゃないか?ウィー王子が討伐していない西の魔物も討伐しなければだからな。このルートでどうだ?村や街を一周してから行くんだが。」
「……確かにそのルートが一番効率的ですね。」
おっさんの指が広げた地図のところをすぅっとなぞっていくのを見てミンユさんがコクコクと頷く。可愛い。
「俺はそういうのがまったくわかんねぇからあんたにまかせるよ。」
「おっ。そう言ってもらえると嬉しいねぇ紅の勇者さん。」
「おっさんの方が年上なんだから呼び捨てでいい。その勇者っていうのも俺は嫌だし。なりたくてなったんじゃねぇし。」
「おっさんて……俺はまだ35だぞ!?確かに坊主よりも年上だがな!?」
俺達の魔王城への旅が始まった。
やっと始まりました。はぁ、ここまでくるのが長かったです。主人公達を暴れさせていこうと思います!




