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逃げてやる!

 ワルトの兄貴と不機嫌そうなお姉さん達の一団が過ぎ去ると混んでいた周りもスキッスキとまではいかないけどそれなりにすいてきた。前を歩くワルトとカイルの後ろをついていくと白い大理石のような石で作られた大きな建物が見えてくる。前の世界でいうとパルテノン神殿みたいな感じだな。

 近くまで行くと入口のところに騎士さんが二人立っている。勇者じゃ抜けないって言っても重要な宝だからか護衛として配置されてるみたいだな。神殿に入ろうとすると神殿の手前に建てられてある小屋で入場料を払わされた。おい、金を払わなきゃならないなんて聞いてねぇぞ。


「神殿にきた人が落書きや窓を壊したりするんだ。これが結構多くて困ってるんだ。今払った料金はその修繕費さ。」


 どこの世界でもマナーのなってないやつはいるもんだな。ったく阿呆どものせいで俺の少ない小遣いが消えていくじゃねぇか。今度見つけたらしばいてやろう。


「そういやここの神殿の名前はなんていうんだ?」


「サラル、あそこを見てみて。」


 ワルトが指し示したのは神殿への入口の大扉の上。そこには神殿を構成している白い石と同じもので作られたプレートのようなものがかけられていて俺達が普段使っている文字とは違う文字がプレートの上でのたくっていた。


「ベール…神殿?」


「ほう、よく読めたな。あれは神聖文字なのだが。」


「父さんの本棚にあの字の辞典みたいなのがあったんだよ。ボロボロだったけどな。」


「サラルのお父上は珍しい本を持っていらっしゃるんだね。」


「そうなのか?難しいことが書かれた本ばっかりだったぞ。読んでもちっとも面白くなかったぜ?」


 そう、マルシさんは本をたくさん持っていた。部屋丸々1つを使うぐらいに。でも俺が役作りの参考にできる本は一冊もなかった。物語の本が一冊もなかったんだ。本棚や床に散らばっている本は全て専門分野の本ばかりだった。脳筋のように見えて脳筋でないのだ我が養父は。


「ベール神殿ねぇ。そういやベール神とかいう女神様がいなかったっけ?」


 選択できる授業の1つの神学とかいう授業を見学した時に神様の家系図とかいうのをやっていたんだけどあんまりにもつまらないもんだから授業はとっていない。今から思えばやっときゃよかったかね。


「そうだよ。女神様が神殿の奥で眠ってるんだ。魔王との戦いで負った傷を治すためにね。」


 どうせあの不審者の母親なんだからろくでもないんだろうけどな。


「眠ってるってどんな風に?」


「それは見てのお楽しみさ!すごく神秘的なんだ!」


 神秘的ってか。寝てるのが神秘的ってどう寝たら神秘的になるんだよ。横たわってる姿が神々しいとか?女神様ともなると寝てるだけで騒がれるんだな。神様を身近に見れるんだから当たり前っちゃ当たり前か。


「神殿の中では静かにね。」


「はいはい。」


 二人の騎士さん達に会釈してから神殿の敷居をまたぐ。神殿の中は縦と横の空間に大きく広がっていた。教会みたいな感じだな。木製のベンチが奥の蜜色に輝く何か大きな物のところまで何十席と置かれている。天井の窓からは暖かな日の光がうっすらとさしていて厳かな雰囲気をかもしだしていた。

 そのままベンチの間の通路を進んでいった俺は徐々に近づく光景が信じられなくてそれの前についたとき歩みを止めてしまった。さっき入口付近から遠目で目視した蜜色の大きな物は一人の女の人をその中に閉じ込めていた。女の人の目を閉じて手を組んでいる様子はまるで眠っているように見える。口元は緩く弧を描いているその(ひと)はまるで生きているかのような生々しさを感じさせていて。女の人を閉じ込めている蜜色の大きな物体を軽く叩くとコンコンという音が神殿に響いた。


「この人がさっき話した女神様だよ。綺麗な方だよね。」


「ああ。そうだな。でもさ、なんかちょっと哀しそうな雰囲気だな。」


「そうかなぁ。僕そんなことを言ってる人今まで見たことがなかったよ。」


 そうなのか。俺の思い違いみたいだな。


「女神様に夢中なのはいいが今日ここへ来た目的は紅ノ剣を見るためだろう。女神様から少し目線を下にずらせ。」


 カイルにそう言われて女神様に向けていた視線を女神様の足元の方へ向けるとそこには不自然に左側の空間の空いた石の台座の右側に深緋色の柄を持った剣がささっていた。


「この剣がベリアル神がお授けして下さった片割れの剣の紅ノ剣だ。もしかするとお前がもう一人の勇者かもしれないぞ。」


「まさか。もしそうだとしてもわざわざ俺は命を危険に晒したくねぇから勇者なんざなりたくねぇな。」


「いいからやってみなよ!剣が抜ける確率なんてすっごく低いんだしさ!」


「わかったわかった。やりゃあいいんだろ?」


 どうせ抜けねぇんだったらわざわざ両手で引っこ抜くマネしなくたっていいよな?そこまでして抜けなかったらカッコ悪いし剣を抜きにくるのは子供ばかりだそうだしな。こんなおっきい兄ちゃんが剣抜くマネしてたとか恥ずかしすぎる。

片手を赤い柄に添えて柄を握りしめる。スベスベとした革のような感触が掌に心地いい。フンッと腕に力を入れて上に上げると鉛色の刀身を持った剣は呆気なく台座から抜けてしまった。


 え?おっかしいな。この剣簡単には抜けないって聞いてたんだけど?あ、わかった。これ偽物なんだわ。そうじゃなきゃ俺が抜けるわけないもんな。よし元の場所に戻そ。

 剣を石の台座に突っ込む。なかなか上手くささらないので刀身の半分ほどまで無理矢理突き刺して神殿の入口の方へ歩く。

 いや~いい思い出ができたな。偽物とはいえ剣抜けたし?アハハハハ!

 早足で歩いていた俺はガシッと肩を掴まれる。(俺の中では)最高級の笑顔を顔に浮かべながら後ろを振り向くとこれまた見たことのないすんばらしい笑顔を顔中に浮かべているカイル君が。


「カイルぅ~俺ちょっとトイレ行きたいんだわ。ちょっと手ぇ離してくんない?」


「トイレなら一緒についていってやろうか?場所がわからないだろう?」


「いやっそこの騎士さん達に聞くから大丈夫だぜっ?」


「別に遠慮しなくてもいいんだぞ?俺達友達だろ?」


 笑みを浮かべながら俺は肩にかけられたカイルの手を外そうとするんだがなかなかどうしてこれが外れない。


「サラル凄いね!紅ノ剣を抜くなんて!その耳飾りも剣に主として認められた証だね!」


 ワルトの呑気な声に少し殺意が沸いてしまう。


「は?」


 耳飾り?なんじゃそりゃ。いや俺偽物抜いただけだしそんなモノねぇよwそれに俺耳飾りつける趣味ねぇし。


「たしかに。その赤い耳飾りは目立つものだな。」


 もうっ嫌だな二人共。からかうのはそれぐらいにしろよ。俺しつこいのは嫌なんだぜ?


「何言ってんだよ。俺は耳飾りなんざつけねぇんだ……」


 そう二人に言いながら耳たぶに触った俺の手にスベスベした石のようなものが当たる。

 アレッ、イツノマニコンナデキモノガデキタノカナ?


「サラル……諦めようね?」


 ぽんぽんと背を叩くワルトの声を聞きながら俺は固まった。


「俺は違うからっっ!俺の人生計画的には前みたいな死に方をするのが一番悪いんだからな!」


「何言ってるの。僕達まだ1回も死んだことなんてないじゃないか。死んでたら僕達会えなかったんだよ?ほら、凄く名誉なことなんだから僕と一緒に城に行こうよサラr」


「ぜってえちがうんだぁぁぁぁ!!」


 カイルを投げ飛ばして肩が自由になる。カイルはそのまま神殿のぶっとい柱にぶつかって伸びている。こりゃあさっさととんずらしたもん勝ちだぜっ!今までの一連を見ていた入口に立っている騎士さん達が手に持っている剣で俺を牽制してきたけど手に持っていた剣で弾き飛ばしてやった。フンッ俺を止められると思うなよ?今の俺はこの逃避行に人生がかかってるんだからな!俺の邪魔をするんじゃねぇぞ!!!

 ん?俺自分の剣なんて持ってないんだけど。恐る恐る手元を見ると赤い柄が目に入る。


「うわぁぁぁぁ!!!なんで俺こんなもん持ってんだよ!」


「カイルを投げた時にっ…手に握らせたらそのまま君が……ハアッ持っていっただけだよっ。」


 ぎょっとして後ろを振り向くと何故か俺の暴走についてこられているワルトが息を乱しながら俺に笑いかけた。


「何してくれてんだよぉぉっっ!それとそんな笑顔を俺に向けるなぁっ!汗かきながらも笑うイケメンなんて今の俺には毒でしかねぇんだよおおおお!」


 チクショウ!!男にも女にもなりきれねぇ俺はどうすればいいんだよっ!!


「ああああああ!!!!!泣きてぇよぉ!!もう死にてぇ!!!」


「そこの騎士っ!!!早くこの者を取り抑えてくれっ!!この者は紅ノ剣を抜いた勇者なのだ!」


「ワルトお前殺されたいのぉぉ!?」


 あーもうワルトのせいで見るからに強そうな騎士の人が目の前で抜刀してるよ。紺色のマントに黒い騎士服だ。黒い騎士服着てるからこの人黒狼騎士団の人じゃん。強いんだろうな。はぁ、それにしてもこの騎士さん金髪が綺麗だな。茜色の目とかちょっと尖っててワイルドだし。おっといけねぇ何呑気に観察してんだ。やっぱ昔っからの癖はなかなか消えないな。イケメン観察してる間になんか間合い詰められてるよ。うおおおおお冷ややかな目がヤバい!鳥肌モンだ!ゾクゾクするっ!いや俺はマゾじゃないからな?男に走る気もないしな。


「叔父上!!早くそいつを抑えて下さい!それとその者は前に叔父上が話して下さった"あの"子供ですよ!」


 カイルが復活してこっちにきたみたいだな。ちっ、もうちょっと強く投げればよかったかな。


「そうですか。この少年があの時の……」


 なんか二人で盛り上がってるよ。金髪騎士さんの目がキラキラしてる気がする。えっ何?俺って有名人なわけ?


「あの……俺のこと知ってるんっすか?」


「ああ。大きくなったねサラル君。」


 名前まで知られちゃってたよぉぉぉ!俺こんな人と一切接触するようなことしてないハズなんですけどぉぉぉぉ?

 強いて言えば4歳の時に傭兵団のおっさん達に拉致られた時ぐらいなんだけど!あの時はホント怖かったよね!さっきみたいに金髪のお兄さんに冷た~く見下ろされて殺されそうだったもんね!その人騎士だったからよかったけど!うん?そういやあの人とこの騎士さん酷似してる気が……


「失礼ですけどもしかしてあんたって傭兵団に潜りこんでた騎士さん?」


 おずおずと聞いてみると金髪の騎士さんはにこりと微笑む。


「覚えているとは。貴方とは4歳の頃にお会いしたことがある、ヨリダ・ゼッツアという者です。勇者様になられるとは。以後お見知りおきを。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


 それにしてもお兄さん若々しさが変わらないっすね!ちょっと神がかって見えますよ!


「ところで大人しく王城まで来ていただけませんか?手荒な真似はしたくないのですが。」


「俺、こればっかりはゆずれないですね。勇者とか絶対なりたくないので。」


「残念です。そうであるのなら仕方がありませんね。」


 そう言うと持っていた剣を構えていきなり剣を振り下ろしてきた。


 ガンっ!!


 紅ノ剣でなんとか受け止める。ったくか弱い市民に向かって剣を振るとはなんたることかね!


「今です!早く取り押さえなさい!」


 周りで俺達の会話を見ていた騎士達が駆け寄ってくる。前はともかく今はこんな男達に囲まれたって何にも嬉しくねぇ!!邪魔だ邪魔ぁ!!!

 トーンと地面を蹴って男達の頭上に浮かび上がる。足を掴もうと騎士達が手を伸ばしてきたので回し蹴りで騎士達の頭を蹴飛ばしておく。人数が多すぎる。騎士達の頭から頭へ飛び移ってブーツの先で次々と蹴飛ばす。そうするうちに俺の周りで立っているのは金髪の騎士さんだけになった。


「なっ……」


  ふふふ。唖然としてるなぁ。久しぶりにこれだけ動いたからちょっと疲れちまったぜ。肩をコリコリ回して一息ついていると俺の背後から低い重低音の声が響く。


「お前ら餓鬼に何を手間取っている。情けない。今日は特別メニューをするぞ。」


 いつの間に!全く気配を感じなかったぞ。戦慄を覚えて後ろを振り向こうとすると俺の首筋に何者かの手刀が叩き込まれる。あ、やばい。ここは叩かれたらダメな場所だ。

 そう思いながら俺の意識は黒く暗転していった。



 気がつくと俺はふっかふかのベットの上に寝ていた。ふんわり手触りのいい天国に来た気分だ。もふもふ幸せ~♪しばらく布団をもふもふ触っているとゴホンと遠慮がちな咳が聞こえた。慌てて周りを見るとカイルが俺の寝ているベットから少し離れたところに立っていた。うわ、結構恥ずかしい。13歳男子が布団もふもふしてる図なんて考えただけでもおぞましいな。


「王様から目が覚めたら謁見室に来いとのお達しだ。早く身なりを整えろ。」


 ごめん。さっきは俺が悪かったから目そらさないでくれる?俺の柔い心が折れそうだ。

 結局目線をそらされたまま俺はふかふかの絨毯の上を歩いて王様のいる謁見室にたどり着いた。もちろん逃げようとしたんだけど騎士の人達に両腕をがっしりと捕まえられてたせいで暴れられなかったんだ。それに足には足枷がはめられてたし。俺は囚人か!!ってつっこみたいところだね。でかくて豪奢な扉の前に立ったカイルは扉の横に立っていたおじさんとぼそぼそ話していたかと思うと


「王様の御前では顔を上げるな。」


やや視線を俺の顔の横にさまよわせながらそう言った。王様と会えるらしい。ところでなんでそこまでするんだ?俺はちょっと女の時みたいな声を発してもふりを楽しんでただけじゃねぇか!


「入れ。」


 謁見室の中からきっちりと服を着ているおじさんが出てきて部屋に入るよう促される。カイルを見ると顔を下に向けて膝まずいたので俺も同じようにする。こういうのは全くわからんからな。


「お前が今回紅ノ剣を抜いたサラルか。面を上げよ。」


 カイルに避けられ続けて少ししょげていた俺はゆるゆると顔を上げる。王様は前にも思ったようにやっぱりどこかで見たことのある顔だった。親子ってだけあってワルトと顔がそっくりだな。違う点といえば目の色ぐらいか。


「お前にはこれから魔王討伐の旅にでてもらうが旅支度は我々が揃えよう。ルイス、この者に説明せよ。」


「はっ。」


 ルイスと呼ばれたおじさんはさっき俺達を部屋に入るよう促した人だった。今は何か分厚そうな紙の束を王様が座っている玉座の右横で捲っている。左横には暇そうな顔をした騎士服を着たおいちゃんがほけーっとしている。おいちゃんそれでいいのかね。


「では明日からのスケジュールをお伝えいたします。明日は魔王討伐のメンバーと顔を合わせていただきます。そこにいるゼッツアの者もそうですね。その後、食料や道具などの点検と不備がないかを確認していただき見送りの式典となります。ご質問はありますか?」


 へ~カイルも行くのか。友達と一緒に行けるのは嬉しいけどカイルって結構良いとこの坊っちゃんだったよな。なんで行くんだ?まあそれは後で本人に聞くとして。


「見送りの式典が明日ってどういうことです?」


「いえ、勇者とわかればすぐにでも出発するのがしきたりなのですよ。」


 いやいやいやいや。それを言ったらこの間まで出発を引き延ばされてたワルトの兄貴はどうなんの。

 ルイスさんは俺の怪訝そうな表情から俺の言いたいことが伝わったらしく


「第1王子様は例外でしたが。」


渋い顔でそう言ってくれた。


「王族だから例外なのですか?」


「いえそういうことではなく……」


 言葉を詰まらせてしまうルイスさん。でもそういうことだよね?そうとしか言い様がないよね?馬鹿にしてんのか?あぁ?

 ガンを飛ばしているとカイルに小突かれた。何すんだよこんにゃろう。


「この者が礼にかけましたが寛大な御心でお許し下さい。では失礼いたします。」


 顔を下に向けたまま一層深く礼をしたカイルは何を思ったか俺の首根っこを掴んで謁見室から退出した。足に足枷をされたままなので上手く足を動かせないせいでずるずると引きずられる。何度も階段などの段差にガコンガコンと打ち付けられ続けたのち、カイルの目的地についたらしくぱっと首から手を離される。お陰様で顔から床に突っ込みました。鼻がもげそうです。


「おいカイル、痛ぇんだよ。それに俺まで退室する必要なかっただろ。なんで俺まで連れてきたんだ。」


 今俺達がいるのはどうやら城の庭の中らしく春先というのもあるだろうけど辺りには様々な花が咲き乱れている。綺麗だけど鼻のいい俺には匂いが強いこの庭園はちょっときついのであんまり長居はしたくない。


「お前に話しておこうと思ってな。先程お前が王様に問うたことだが第1王子様はその母君の正室様の要望で引き延ばされていたのだ。引き延ばす件について王様の一派と正室様の一派が激しく争ったというのは有名なことだ。ルイス様は王の御前で話すことをはばかられて口ごもられたのだ。わかったか?」


「おう。正室が強い権力を持ってるってことがよくわかったよ。ところでさぁ、カイルは何で討伐についてくるんだ?」


「ワルト様のお付きに決まってるだろう。それ以外はあり得ん。」


「は!?ワルトもついてくるのか!?それはいくらなんでもおかしいだろ!!!ワルトは第2王子だぞ!」


「正室様からのお達しだそうだ。もっと自分を磨けとのことだそうだ。」


「そんなのは学園にいればできるだろ。どんだけワルトのこと消したいんだ。」


「ここは王城だ。口を慎め。」


 たしかに。誰に聞かれてるかわからないからな。


「なんで俺が勇者とかならなきゃならねぇんだ。魔王討伐とかよっぽどの天才じゃない限り無理だろ。」


「それならばお前で適任なのでは?」


「はぁ?カイル、頭を強く打ったんじゃねぇか?俺が強いとかあり得ないんですけど。」


「お前のお陰で神殿の柱に頭をぶつけたな。」


「あ、すいません。」


 すでに夜になっている空は細い月で照らされている。鼻を花の匂いから守りながら星空を見上げる。点々と空に散る星はいつもと同じく瞬いていた。


「お前はもう逃げないのか?」


 カイルも俺と同じように空を見上げながらそう言った。いまだに俺と視線を合わせようとしない。苛めだろうか?これは巷で流行っているというIJIMEというやつなのか?


「逃げて欲しいのか?そうなら逃げるけど。」


「そういうことではないが……」


「逃げてもどうせ捕まりそうだからさ。諦めたんだよ。逃げるのも面倒になってきたしな。2回目の人生はこうも過ごしたくなかったんだけど。」


 最後の方はほとんど小声で答える。これ以上避けられたら精神面でまいっちまうからな。


「これから一緒に旅することになるんだろ?だから目線を避けるのをそろそろやめてもらえねぇか。」


「わかった。では1つ聞くがお前は男を恋愛対照として見るのか?」


 どうしてそうなる!!!!どこからそうなったんだ!ガンッと頭を地面に打ち付ける。カイルがちょっと引いたっぽいけどこの際関係ねぇ。


「そんなわけねぇだろうが!!!!!!」


 本日二度目だけど思わずカイルを投げ飛ばすとカイルは木に顔からぶつかった。南無。

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