白ノ勇者の旅立ち
忙しくて投稿できませんでした。遅くなり申し訳ないです(>_<")
入学してから約1年。俺達生徒の前には進級試験という大きな一大イベントが迫っていた。進級試験というのは次の学年に上がるだけの能力が備わっているかどうかチェックする試験だ。この試験の最低基準点を満たさなければ上の学年には上がれない。特に最上級生の6年生は試験の結果次第で将来の仕事が決まるのだからチュライ先輩とかはピリピリしている。本人曰く、コネは使いたくないんだそうだ。今時殊勝な人物だよな。
そんなチュライ先輩だが、半年ぐらい前に自分の気持ちとやらをマリー嬢にぶつけてマリー嬢にOKを貰ったらしく仲睦まじく手を握ったり抱きあったりしているところを見ることができる。がっしりした体型で背の高いチュライ先輩とほっそりとして薄い色素のマリーさんが並ぶと近所の兄ちゃんと兄ちゃんに遊んでもらっている子供のように思えるけどそれ以上に二人がいちゃついてるのでそういう風にはまったく見えない。穏和なチュライ先輩とおしとやかなマリーさんはとてもお似合いだ。元女の俺はにやにや笑って見ているんだけどマリーさんに惚れてた男共は
「ちくしょう!!なんでチュライなんだ!!!!」
とか言って涙目になっていた。見てたらちょっと可哀想になってきた。可愛いもんな、マリーさん。こう儚げな感じで。
ちなみにワルトはにこにこ笑って
「仲いいね~先輩達。」
と言っている。カイルのやつは
「仲が良いのはいいことだがあそこまでしなくてもいいのでは?」
と言って頬を少し赤らめている。可愛い反応しやがるな。でも確かにカイルの言い分もわからないことはない。
イチャイチャしすぎ。
二人の先輩方の様子はこの一言につきる。わかるよ?話せなかったから今までの分を詰めようとしたいのはさ。でもよ、わざわざ人前でチュッチュチュッチュするのやめようぜ?俺まだ半年だからいいけどこれ以上見せつけられたら胸焼けするわ。たぶんチュライ先輩にお世話になってなかったら思いっきり
『リア充爆発しろやぁぁぁぁ!!!』
って心の中で中指立ててるね。もちろん俺はあの人達にそんなことは思ってないぜ?末長く……ってだけだ。
この国では14歳から成人だそうでぶっちゃけ二人共もう結婚できるけどチュライ先輩が就職するまでは結婚しないんだそうだ。チュライ先輩は熊面で体つきもがっしりしてるから貴族連中で編成されている白天騎士団とかいう騎士団に入団希望かと思いきや、文官?っていうのかな。王城で仕事をしたいらしい。
「俺はあまり剣術が上手くないからなぁ。」
だそうだ。上手くないって言っても最上級生まで生き残ったんだからそれなりにできるんだろう。武術の授業はクリアしてるってことだし。チュライ先輩さっき言ったみたいにコネは使わない主義っぽいしな。
ま、チュライ先輩賢いから採用試験とかは受かるだろう。だからマリーさんとイチャイチャしているのを見るのはあとちょっとだけだ。それまで我慢すればいい。胸焼けしそうだけど。
今日は進級試験の前日。俺達3人は目の前でいちゃついてる先輩方を見せつけられながら中庭で昼飯を食べている。
「今日は日が照っている!外で食べよう!」
というワルトの提案でいつもは食堂で食べているところを急遽中庭で昼飯を食べることになった。ぽかぽかと日の光さして眠たくなる。うとうととしているとワルトとカイルが話しだした。
「カイルは退魔の剣を引き抜こうとしたことはある?」
「ああ。子供の頃に1度。大抵の親は自分達の子供が退魔の剣を抜けないか連れてこさせるだろう?」
「そうだよね。僕は抜けなかったけど兄上が退魔の剣を抜いたから残りの1本の紅ノ剣が剣の台座に突き刺さったまま。いったい誰があの剣を抜くんだろうね。」
「それは俺達にはわからないこと。剣の持ち主は案外俺達の近くにいるのかもしれん。」
「そうだね。剣のことなんだけど兄上は今年でこのマリン学園を卒業されるでしょ?卒業と同時に今まで引き延ばされてきた魔王討伐の旅に出かけるんだそうだけどその道中に連れていくって言って兄上が選んだ人達が全員……女の人なんだ。」
うへぇ、ハーレムじゃないっすか。
「……ウィー様はよほどご自分の剣の腕に自信があられるようだな。」
「もちろん連れていく女の人達は全員凄い女人なんだよ?だけどその人達はみんな嫌がっていてね。説得するのが大変なんだ。それに兄上の場合男の人と一緒にいるとすぐに険悪になるんだ。」
女の人好きなんだね。あの不審者と同類なのか?
「その女人達は何故嫌がる?ウィー様は顔だけは良かろう。」
カイル、顔だけって言いきっちまったよ。この1年でカイルもワルトの兄貴の悪い面を見てきたしな。これ本人にばれたら不敬罪だな。
「……みんな結婚したばかりなんだ。」
「どうしてそのような方ばかり選ぶのだ、ウィー様は。それにいくら男が嫌だといえど魔王討伐の旅は命懸けの旅だ。ご自分の命が惜しくはないのか?」
「本当にね。兄上みたいな人が白鹿ノ剣を抜いちゃいけないんだ。」
はあっとため息をつくワルト。こいつが人の愚痴を言うなんて珍しい。あまり王城に帰っていないワルトがこれだけ言うのだから実際はもっとひどいことになっているんだろう。
「なあなあ。その退魔の剣は誰でも触れるのか?」
俺のその言葉を聞いて俺の横に座っていた二人はそれぞれ驚いた顔をしている。
「サラルは退魔の剣に触ったことがないの!?」
「なんかまずいのか?俺前も言ったと思うけど今年初めて王都に来たからさ~よくわかんねぇんだ。父さんに退魔の剣とかいう剣が2本あるのは聞いてたけど一般人でも触れるのか?」
「もちろん!もし2本のうちのどちらかを抜くことができれば勇者として魔王を倒しに行かなくちゃならなくなるんだ。魔王を倒せればこの国だけじゃなくて全土の英雄になれる。魔王を倒すのに王も庶民も関係ないじゃないか。」
「でもよ、魔王強いんだろ?なんでわざわざ死にに行きたがるんだ?」
「憧れじゃないかな?もちろんサラルと同じ考えの人だってたくさんいる。あえて剣に触らない人だっているんだ。」
「へぇ~それと魔王ってそんなに悪いやつなのか?」
「よく出る被害は魔物による畑荒らしや人殺しかな。それに女の人が拐われたりもする。」
この世界の神やら魔王やらは女の人が好きなようだ。べリアルと同類なら迷いなく殺せるな。いや、殺す。絶対殺す。
「だからみんな魔王を倒そうとするのさ。」
ワルトがそう言ったところで昼休みの終了を知らせる鐘の音が鳴り響く。俺はまだまだ知らないことが多すぎだな。ワルトの兄貴は勇者だったんだ。そういや初めて会ったときに取り巻きの女の一人がそれっぽいことを言っていたような気がする。あのワルトの兄貴が勇者になれるんなら他の人はバンバン勇者になれそうなもんなのに。世の中不思議なもんだ。
魔法学の授業に遅れてしまった俺達はガンサ先生に薬の調合を手伝わされた。薬の調合に使う虫がその体から俺のかき混ぜる棒によって紫や緑の液を撒き散らすのはもう見たくない。芋虫キモかった。
次の日から9日間に渡って行われた進級試験に俺達は合格した。ちなみにワルトは魔法学で学年一位だった。俺とカイル?俺達二人は座学の方の学年内順位は一桁のところにいて武術の方は俺が一位だった。トーナメント式に勝ち上がっていったんだけどいや~カイルは格別だった。他のやつらと比べてめちゃくちゃ強かった。俺が勝てたのはマルシさんに教えてもらっていた体術のお陰かな。ほんとマルシさんにはお世話になってばかりだ。
進級試験が終わった次の日からワルトの兄貴は魔王討伐の旅に出る。それは全国民に告げられていて明日は街一体で送り出す準備をしている。街中が花や旗で飾られていていつもと違ったお祭りモードだ。俺もワルトの兄貴のパレードが終わった後にこの間話していた退魔の剣のある神殿へワルトとカイルの二人に案内してもらうことになっている。俺が退魔の剣を見たことがないって言った後に
「絶対見ておいたほうがいいよ!綺麗だから!」
「お試し半分にでも退魔の剣に触ってみればいい。どうせ抜けないだろうしな。いい体験になるんじゃないか?次の休暇で家に帰った時にマルシ殿との話題としても役立つだろう。」
と二人に勧められたので二人に頼んで王都案内をしてもらうことにした。明日は街をあげてのお祭り。王都なんだからすごい祭りになるだろうな。明日が楽しみだ!屋台たくさん出てるんだろうな!屋台満喫してやるぜっ!
次の朝早くにカイルに叩き起こされた俺はまずワルトの兄貴のパレードを見るために街の広場に連れてこさせられた。あのクソ神の銅像の前に白で統一されてある大掛かりなステージが用意されている。ワルトの兄貴は白鹿ノ剣とやらを引っこ抜いたから白で統一されているんだそうだ。その白鹿ノ剣の柄の部分は白く、紅ノ剣の柄は真っ赤という風に柄の部分のみが違うのでパレードは勇者の抜いた剣の柄の色でそれぞれ区別するそうだ。そうでないと二つの剣はそれ以外の部分は対になっているため区別しようがないんだそうだ。そこから白鹿ノ剣を抜いた勇者は白のステージ、紅ノ剣を抜いた勇者は赤いステージの上で王様から送り出されるしきたりだということだ。
それにしてもやたらとステージの装飾品、金が多いな。白と金の比率が5:3ってとこか。ワルトの兄貴がなんか言ったんだろうな。派手なの好きそうだし。
しばらく何かの焼肉を食べていると王城から人がたくさん出てきた。先頭は白い豪奢な服を着た色の白い不健康そうな男と黒い服をピシリと着こなした仏頂面の男が馬に乗ってステージの方にやってきており、その後ろにはこれまた白と黒の騎士服を着た騎士達がパカパカと馬に乗って先頭の二人に続いている。ここからはまだ遠いので黒と白の二つの線がくっきりと見える。その騎士達の後ろからは俺が乗ったことのないくらい大きな馬車が王城の門から出てきて騎士達が前にいる騎士達と同じく黒と白の線を作りながら追従している。
「先頭の二人が白天騎士団のラティウス団長と黒狼騎士団のセユリス団長であの馬車に乗っていらっしゃるのが父上と母上と兄上だよ。」
「その白天騎士団と黒狼騎士団の違いって何なんだ?この間白天騎士団っていうのは貴族で構成されてるっていうのは聞いたけど黒狼騎士団は平民から構成されてるってことか?」
「大まかな違いはそんなところかな。詳しく言うと白天騎士団は貴族しか入団できなくて黒狼騎士団は誰でも入れる。もちろん入団するだけの実力が無ければ駄目だけどね。白天騎士団の人達は王族の警護、黒狼騎士団の人達は隣国からの警護が仕事なんだ。」
それって命の危険度が違いすぎねぇか?黒い方は何かあれば隣国の人達と戦うってことだもんな。
「それと黒狼騎士団は実力主義だ。二つの騎士団は6つの隊でできてあり、その中でも精鋭が揃う1ノ隊の隊長職の者は同時に騎士団一の実力者ということを指す。白天騎士団の方はどうか知らないが。」
「じゃああの先頭の二人のおっさんはこの国で一番強い二人ってこと?」
「そういうことになる。実質的にはセユリス殿の方がお強い。この間の模擬大会ではセユリス殿が圧勝していた。」
なるほどね。家の実力と力の実力ね。ちなみにこの国の貴族達の大半は領土を治めるーとかチュライ先輩のように文官になるらしい。
ぽつぽつと雨が降ってきた。せっかくのお祭りが雨で台無しにされたら最悪だ。街の人達は不吉だと言ってざわめいている。そんな不穏な空気の中、騎士達とステージ前に到着した王からの見送りの言葉が贈られる。今日のワルトの兄貴の服装は腰に提げた剣と同じ真っ白な装いだ。ところどころ金色とかが使われているのは兄貴の嗜好としか言い様がない。
「―――――!―――――――――――!」
こっからステージまで遠すぎて声が聞こえねぇ。ステージにいるの王様だよな?あれ?前に見たことがある気がする。おかしいな、俺王様がでるような式典とかに行ったことねぇんだけど……なんで見覚えがあるんだ?まったくもってわかんねぇ。
「ステージにいっぱい王族がいるな。お前は行かなくていいのか?」
横で壇上を他の人達と同じく見ていたワルトは少し苦笑いをする。
「僕はいいんだ。昨日兄上から直々にお前は来なくてもいいって言われたから。それに僕は今まで王族として舞台上に上がったことがないんだ。」
「じゃあお前がずーっとボッチ…いや、友達がいなかったのは今までの話からすると全部兄貴が何かしらの悪口を言ったからなのか?」
「うんそうだね。」
「お前はこれでいいのか?王族として舞台上に上がらなくても?」
「今は……ね。もちろん兄上にお仕えする時にはステージに立つことになるからそれまでの自由時間だと僕は考えている。嫌でもお母様達とお付き合いしなければならなくなるから。」
「まったく大変だな、ワルトも。でも魔王を殺しに行った勇者はほとんど死ぬんだろ?今回も上手くいかなければお前が王様になるんじゃねぇか!やったな!」
「どうだろうね。他にも側室の子供がいるしお母様は僕のことをお嫌いだから。他の子供を推すんじゃないかな。」
「この国の正室すげぇ強いんだな……」
「今この国にいる妃は2人。正室様と側室様だ。後宮の権力は正室様が握っていると言っても過言ではない。」
正室こっわ!ワルトのお母さんが逃げたくなるのもわかるわ~
俺が同じ状況だったらカッコいい騎士さんが優しくしてくれた時点でとんずらするね。
どうやら見送り(?)の言葉が終わったらしくワルトの兄貴が女の人を引き連れて式を見ている俺達民衆の間の道を歩いてくる。この通りを抜けたら王都から出られるもんな。それにしてもワルトの兄貴の仲間の人達の顔の怖いこと。みんな美人なんだけどしかめっ面をしていたり無表情だったりとお姉さん達心の中の声ダダ漏れですな。行きたくないっていうのがはっきりしてるね。
「なあ、あの女の人達をどうやって説得したんだ?納得してるような顔じゃねぇけど。」
「大臣達が話していたのを聞いたんだけどお母様が自ら彼女達に説かれたそうだよ。」
……こえー。正室こえー!絶対お姉さん達何か脅されたんだろな。想像がついちまう。
「じゃあ神殿に行こうか。父上のお話も終わったことだし。」
でも移動しようとしても人が多すぎてなかなか動けない。人混みの中で前に進もうともがく俺をよそに周りの女の子達はキャアキャアと騒ぎ始める。女の子達の熱い目線を辿るとまあ予想通りにワルトの兄貴がいた。その顔はこれから死地に向かう顔ではなく、騒がれて浮かれた顔で。上手いこと隠してらっしゃるけど。淡い紫色の目を細めてみるからにこの状況を楽しんでいる。
まったく本当にこんな男が勇者でいいのかねぇ。
俺は勇者に一抹の不安を感じるのだった。




