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なんで私がこんな目に!?

 私はその日の夜、いつも通りにベットの上でスマホをいじっていた。高校一年生最後の定期テストが明日から始まるというのに私はろくに勉強もせずだらだらする。

 期待?そんなものはとっくの昔にされなくなった。逆に高校に入学できたのはまぐれなんじゃないかとため息をつかれている。つまりはもう。愛想を尽かされているんだろう。いい点数をとってこないのだから。

 あれほど高校入学時には熱心にしていた勉強が無精に虚しく感じ始めたのはいつだったか。もう覚えていない。

 将来の夢って何なのか。友達が嬉々として話す様子が羨ましく思えたのに気づいた時には少し愕然とした。

 私は何のためにここにいるのだろう?私のような人間がいなくなったって世界の何が変わるわけでもない。


 そんな不毛なことを考えていた時だった。あのクソ男が表れたのは。


「こんばんわ。突然だけどこれから異世界に行ってもらうから。魔王を殺したらこの世界に戻してやるからさ。頑張ってよね。」


  え?何!?どこから湧いてきたの!?この部屋二階だし窓もドアも閉まってるのに!近頃の不審者ってなんでもありなの?どうやって部屋に入ってきたのよ!

  それにこの人絶対に頭おかしい人だ。異世界とか言っちゃってるもん。あれだ。少年がそのまま大人になっちゃって変なところがこじれちゃったんだ。どっちにせよ恐すぎだよっ!不審者っっ!早く逃げなきゃ!

 ドアに向かって全力疾走し始めた私の肩が不審者の男にぐいっと強い力で後ろ向きに引っ張られ床に倒れこむ。床に頭を強くぶつけたせいで頭がジンジンと痛む。でもそんなことは関係ない。この人は危ない。身を起こしてドアに突進する私を男はまたもや床に叩きつけると今度は私のおなかの上にまたがった。

 重い。どけられない!操の危機を感じる!ジタバタと暴れる私を冷ややかに見下していた男は


「君何考えてるのか知らないけど、君の体なんかどうでもいいから。それに僕が君みたいなブスの相手なんかするわけないじゃん。」


  と言い放った。それならいいんだけど。でも殺されるっていう可能性もあるよね?それに自分でブスってわかってるけど面と向かってこういう風に言われるのはやっぱりすごくきつい。思わず顔を歪ませた私だったけどそれを見た男はますます嫌そうな顔をして


「そんな顔したってきもいだけなんだよ。ほんと君ってきもいね。顔もきもいしやる気もないし。さっさと僕のために異世界行って魔王倒してよね。」


 だからなんのことを言ってるんだこの脳みそ湧いてる男は!


「なんでって顔してるね。優しい僕は一応君に説明してあげるよ。この世界で別に消えてもいいよねって感じの君みたいなブスとか馬鹿を邪魔な魔王を殺すために異世界(あっち)に送ってるんだ。今まで結構な数を送ってるんだけどみんな途中で死ぬんだよねぇ。ほんと使えない。」


  本当になんなんだこの男は。人の死をなんだと思ってんだ?それにこの男のことだから強制的に連れていかれたんだろう。つーか馬鹿ブス連呼すんな!この野郎!


「あんた人のことなんだと思ってるのっ!何様なのよ!人の上に乗っかって!それにあんたの言う魔王(笑)ってどうせ強いんでしょ?優秀な人を選んだ方が効率的でいいじゃない!」


「何様って?僕神様だし。」


  は?キターー( ^∀^)異世界魔王ときて僕神様発言。マジで笑えるわー!笑える状況じゃないけど。


「優秀な人はもったいないから君みたいな人を使うんだよ。さっきから僕のこと馬鹿にしてる顔だね。うん。君に決定。大丈夫。異世界に行ってる間の君の存在は消しとくから。じゃ、せいぜい頑張ってね。ああ大丈夫だよ。君には期待していないから。」


  次の瞬間、首を絞められる。殺される!期待してないんなら殺すなよ!ほっといて!首にかけられた手をはずそうとするけど自称神様の手を引っ掻くばかりではずせない。息できない……苦しいっ!だれか……たす…けて………

 目が霞んで何も見えなくなる。なんなんだ。本当になんだっていうんだ。私が何したんだよ。容姿が優れてないからか?そんなので区別するとか神様失格だろ。サイテーだ……


  意識がプツンと切れて目の前が真っ暗になった。次に私が耳にした声は


「男の子……。耳は……普通か。早く捨てよう。あんな男のっ…子供の顔なんて見たくないっ。」


 苦しそうに喘ぐ女の人の声だった。そっと目を開けると黒くて長い髪をゆったりとくくった若い女の人が蒼白な顔をして私を見ていた。髪の毛は艶がなくて着ている服はボロボロだ。女の人を見ていると目が合った。すると女の人の顔がピクピクとひきつった。


「目はあのケダモノと一緒なのね……。早くこの子を捨てて逃げないと。あいつらが追ってくる。」


 そう言うと彼女は少し歩いてから草むらに私を乱暴に置いた。なんでだろう?女の人と喋ろうとしても喋れない。出てアウアウって感じの声しか出ないし。それになんでこんなにこの女の人でっかいの?おかしいよ。サイズ的に。自称神様は巨人の国に私を飛ばしやがったの?身動きがとれないせいで女の人に抵抗もできないよ。


 女の人はチラッとこちらを見てからふらふらと遠ざかっていく。しばらくすると今度はたくさんの足音と声が聞こえてくる。


「人間め。どこにいった?匂いは……東の方からするな。あっちだ!急げ!逃がすんじゃないよっ!」


「はい!お頭っ!ところでお頭。近くで血の匂いがします。見に行きますか?」


「どうせ動物の死骸だろう。さっさとしないと人間が逃げちまう!早くするんだ!」


「ちぇっ。うまそうな匂いなのにな。」


「バルン、後にしなよ。お頭すごくイライラしてるしさ。叩かれるよ。」


「そうだね。お頭今恐いもんね。」


「さっさとしなって言ってるだろう!?」


「「あいすみません!お頭ぁ!」」


 ドタドタという足音とともにそれらは遠ざかっていった。さっきくるまれている布から見えたのは恐い顔をした女の人達でグレーの髪を風になびかせて猫耳らしきものが頭の上についていた。……異世界で猫耳流行ってるのかな?でもさっきの黒髪の人はしてなかったな。よくわかんないなぁ。



  灰色の猫耳をした女の人達が走り去ってからどれだけたっただろう。おなかすいた……。でも立てないからご飯を探そうにも探せない。ちょっと前まで人が助けてくれないかなって一生懸命アウアウ言ってたんだけどそんな元気もなくなっちゃった。異世界で魔王倒す前に死んじゃうんじゃないの?1日で2回も死ぬなんて最悪だ……。


  しとしとと雨が降ってくる。上に被さった布がすぐに濡れてびちょびちょになって気持ち悪い上に布がずっしりと重い。雨が口の中に入ってきて気持ちよかったけど雨の勢いはだんだん強くなって顔に打ち付ける雨はビシビシと強くなり息もできなくなる。

 必死に顔を布のある部分に隠して雨をなんとかよける。寒い。体がブルブル震えてくる。ザアアアアッとますます強くなっていく雨の中、雨の音とは違う音が聞こえた。


 ザクザクザクとこちらに向かって歩いてくる。獣かな。獣に食べられるのか。諦めた私をのぞきこんだのは私の予想とは違ってガラの悪そうな茶髪の男の人。男の人は大きな植物の葉を傘のように持っていて思わずあの有名なジブリ映画のキャラクターを思い出す。


「ガキがこんな所に捨てられるとはな。世も末だな。」


 ボソボソっとなにかを呟くとその巨人の男の人は布ごと私を腕に抱えて歩きだす。ゆらゆらと揺れる腕の中、私は気が抜けて眠ってしまった。

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