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第18話 どうせならイケメンが良かった

本日最後(三話目)の投稿です。

闇域刺突(エル・ウーア・スピム)


 召喚された魔法陣から勢い良く黒い刃が突出する。

 手始めに両脚の付け根を刺突した黒い刃は、その一撃で腰と太ももを切断。


 立っていることが出来ずに前方に倒れる大熊の前に新たな魔法陣を召喚する。

 一、二、三連撃で両脚と心臓の代わりである魂石のすぐ側を貫いた。


「トドメっと」


 最後に顔面を貫いてフィニッシュ。


 動かなくなった大熊の魂石と角を剥ぎ取った僕は、灰になって消えていくソレを見送ることもせずに後ろに立つカレンさんに声を掛ける。


「これお願いします」


「はいよっと」


 言いながら剥ぎ取ったばかりの魂石と角をカレンさんに投げ渡し、カレンさんはそれを布袋の中へと適当に突っ込んでいく。


「やっぱり一対一なら闇域刺突(エル・ウーア・スピム)が強いかなあ。無能な魔物相手なら特に」


 大熊みたいに突っ込んでくるか逃げるかのどちらかしかない相手なら、闇域刺突(エル・ウーア・スピム)で封殺する事が出来るんだよね。


 今みたいに。

 片足ずつ順番に潰して使えなくしてしまえば、後はもう頭をズドーンと。

 魂石近くを攻撃するのは言うまでもなく、魂石の回収を楽にするためだ。


「中位の術式でも楽に倒せるとは思うけれど、熟練度的に闇域刺突(エル・ウーア・スピム)の方が上だしなあ」


 愛用してきた術式故に術式演算や展開はもう流れるような手順で行なうことができる。

 何せ、あんまり弱い魔物相手と戦うことが無かったからね。


 それなりの強さを持つ相手にはそれなりの術式を使わなければならない。

 弱い相手と戦うことがなくなれば必然、弱い術式――具体的には下位や中位の術式は使用率が下がるって訳だ。


「おにいさん、袋もいっぱいになってきたんだよ」


「ではそろそろ戻ることとしましょうか」


 カレンさんが地面に置いていた布袋を担ぎ上げ、来た道へと振り返った。

 続けて周囲を見渡しながら言う。 


「それにしても、あの大熊以外他の魔物と全然合わなかったんだよ?」


「多分他にもいるとは思いますけれどね。まだあまり奥へと踏み込んでいないからでしょうか?」


 本当は深部にどっぷり踏み込んで狩りまくる予定だったけれど、入って間もない所に思った以上に魔物がいたのでそこで狩っている内に袋が満杯で――今に至るという訳だ。


「どうせなら他の魔物も見ておきたかったんだよ~」


「……僕はこの先何度も潜るつもりですが」


 誘いの言葉を口から出すのは少々難しかった。

 荷物持ちとして来てもらって、その分を報酬として払うのは僕としては何ら問題はない。

 でも彼女とて、自分自身で魔物と相対しなければ腕が鈍るという事もあるだろう。


「どうしよっかなあ」


「……まあ、もし着いて来て荷物を持ってくれるというのなら、それ相応の報酬は払いますが」


 僕としては酷い言い様だけれど、荷物持ちとしていてくれたら助かる。


「じゃあ毎日は無理だと思うんだけれど、時々お邪魔させてもらうんだよ!」


「分かりました。基本いつでも歓迎します」


「……ああ、そうそう。この森に昔第二級冒険者だった女が頭やってる山賊がいるって話を聞いたんだよ」


「へえ、そうなんですか」


 昔第二級冒険者だった、ねえ。

 正直あまり大した事無さそうだな。


「おにいさんなら万が一にも殺されるなんて事は無いと思うけど、気をつけるんだよ」


「情報提供ありがとうございます。襲われたら返り討ちついでに壊滅させておきますよ」


 十倍返しくらいのつもりで。


「つ、ついでに壊滅させるなんて軽々と言ってのけるところが実におにいさんらしいんだよ……」


 そんな感じで会話をしつつ、僕は帰り道に現れた魔物を薙ぎ払って森を出た。





 町に戻った僕等はすぐに解散した。


 彼女はこの町で産まれた訳でも、この町を拠点としている訳では無いようなので、普通に宿を取って生活しているらしい。


 トーラスの町は長いらしいカレンさんの話を聞く所、やはり僕が泊まるあの宿はこの町で一番安いみたいだ。


『じゃあねおにいさん! また明日!』


 とはカレンさんの言である。

 明日も僕等と合流することは確定らしい。


「さて」


 まだリオネーラは図書館で本を漁っているのだろうか? 魔術の知識については結構貪欲だったし、もしかしたらまだ籠っているかもしれない。


 宿と図書館の距離はそう離れてもいないし、図書館まで行ったけれどもう帰ってた~なんて事になっても二度手間に思う事も無いだろう。


「帰る前に魔術店に寄りたいし」


 目的の物はズバリ魔術教本。光属性のものだ。


 リオネーラが光属性を学びたいだなんて言うとは思っていなかったけれど、彼女がそうしたいというなら僕は僕で出来る限りのことをやろうと思う。


 このままだとずっと手を付けずに終わったかもしれないからいい機会だとは思う。


 ……出来るか出来ないかは別として。


 まず向かったのは質屋。

 そこで今日の収穫を全て売り払う。


 続けて五分程度歩いた場所に位置する魔術店へとやって来た。

 規模は冒険者ギルドや服屋と比べてかなり小さい。

 他の民家と変わらないくらいの大きさだった。


「よく来たね、お兄さん」


 出迎えてくれたのは僕より三つくらい歳上の綺麗なお姉さんだった。


 黒に近い紫色のロングヘアーを後ろで一括りにして、同色の少し切れ長の瞳には優しい色が含まれている。


 ……いつも思うけれど、この世界の人達の容姿レベルは宵中夕夜として生きていた地球と比べて別格だと思う。


 綺麗な人――僕視線で――が全体の六・七割を占めているんじゃないかとも思ったりする。

 まだ十七年しかこの世界で生きてない僕の世界はあまり広くはないけれど。


 そんな感じで。

 端的に『綺麗なお姉さん』が店主の店だった。


 店の中は石材で出来たガラス無し版のショーウィンドウが広がっていて、そこに様々な魔術関係の道具が置かれていた。

 武器の類は全然ないけど、日常生活で使えそうな道具は幾つか置いてあった。


「見ない顔だね、どこか別の町からやって来たのかい?」

「ええ、まあちょっと遠くから来まして」

「ふぅん、なかなかの可愛い顔してるじゃない」

「お礼しづらい褒め言葉ですね、ありがとうございます。お姉さんも綺麗ですよ」

「お世辞はいいんだよ」

「こちらこそ」

 

 どうせなら普通のイケメンに生まれてきたかった。

 気がつけばお世辞の言い合いになっていたので咳払いを一つ。


「教本を一つ買いに来たんですが」

「はいよ。種類は?」

「光属性のでお願いします」


 その言葉で用意されたのは三冊。全ての属性を満遍なく記された教本、光属性だけを記した教本が二冊。

 買うとしたら、前者かな。


 全ての属性の下位と中位が記された前者の教本は他の二冊よりも少し分厚い。

 値段も高そうだけれど、光適性がない僕がやるにしてもリオネーラにプレゼントするにしてもこっちの方がいいだろう。


 僕はそれを指差しながら、


「これください」


「あいよ。三〇〇〇〇レギンね」


 金貨三枚を手渡して教本を受け取った僕はすぐに魔術店を出て、距離の近い図書館へと向かう。

 建ち並ぶ民家ほどの大きさしかない図書館の中には既にリオネーラはいなかった。


 受付員らしき人に尋ねたところ、『水色の髪をした小さな女の子は十分以上前にもう出て行った』との事だ。

 なら今頃はもう宿についているはずだね。


 受付員さんにお礼をした後宿の自室に戻ると、そこには小さな少女の影があった。

 よかった、何事もなかったみたい。


「おかえりなさいませ、ヴァル様」


「うん、ただいま。変な奴らに絡まれたりとかしなかった?」


「……はい、大丈夫でした」


「そうか、よかった」


 思わず安堵の微笑みを浮かべると、いつもの様にリオネーラが僕の瞳をジッと覗き込むかのように見つめてくる。


 でも……なんでだろう。

 いつもと少し違うように感じるのは。


 その後は酒場におもむき何事も起きずに夕食を食べ終え、宿に戻った後はシャワーを浴び、就寝時間を迎えた。


 ……とは言っても、僕はまだ寝られない。

 やる事があるからだ。


「という訳でリオネーラ、僕は少しやる事があるから先に寝てて」


「…………分かりました」


 応答が何時もより遅かったのはきっと『僕より先にベッドで眠りにつくなんて』とかそんな事を考えていたのかもしれないな。

 全く気にしない訳だが。


 でも、やっぱり毎日の魔術修練は身体に響くらしい。 

 リオネーラは遠慮気味にベッドに寝転がると、身を縮めて直ぐに寝息を掻き始めた。


「……さて」


 僕は懐に隠していた教本を取り出す。英語辞書みたいな鈍器サイズではない、B5サイズのものだから大して苦にならなかった。


 そりゃあ、リオネーラには隠すでしょ……?

 まさかリオネーラの為に頑張るだなんて恩着せがましい事を言う訳ないし、どうせプレゼントするならサプライズの方が味がある。


 僕は部屋の隅に置かれた小さな机に腰を掛け、『魔石』という魔力を流し込むことでそれ相応の効果を発揮する石に手を置き、魔力を流し込んだ。

 俗に『光魔石』と呼ばれるそれは魔力に反応し、淡く輝きを灯し出す。


 普段は天井に取り付けられた一際大きい光魔石で照らしているけれど、それをつけたらリオネーラの目を覚ましちゃうし。


 そんな訳で僕は教本を開き、光属性のページを捲っていく。

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