不器用な思いやり 3
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ーー時間は少しだけ遡り
神の肉片の浄化から三日経ち、エイラの体調も思いのほか早く回復していた。
初日は流石に熱と不快感に悩まされたものの、体内に残っていた"呪"の量が以前よりも少なかったせいか、二日目には不快感が取れ、今では微熱程度におさまっていた。
「は〜い。大丈夫ですよ〜。体内にもう"呪"は残っていませんから〜。ですが、今日一日は安静になさっていた方が良いでしょう〜。熱がまだ少し残っていますから〜。明日また診て熱がなければ動いても構わないですよ〜」
「有難うございます。お手間を取らせてしまってすみません」
のんびりとした口調で喋るガランは、城に戻ってから付きっ切りでエイラの看病をしてくれていた。
外では同じようにアダルベルトが見張りをしてくれているらしく、エイラは心苦しいばかりであった。
「いえいえ気になさらずに〜。こちらこそ色々とご迷惑をおかけしています〜。ライマール様がまだ目を覚まされないので、メル君も駆り出されてましてねぇ。暇なのは私くらいなものなのですよ〜」
薬の入ったコップを手渡しながら、ガランはまたのんびりとエイラに答える。
その薬を受け取り、グッと飲み干した後、エイラは難しい表情で手元のコップを見つめた。
帝国へ着いたばかりの頃は、ライマールが何度もエイラの元へ来て、試薬の入ったコップを押し付けていたのに、今はそのライマールが寝込んでいるという。
神獣の力はキチンとした契約者でも体に負荷が掛かることは珍しくない。
その形は様々で、肉体的に負荷が掛かる者もいれば、精神面で負荷が現れる者もいる。
負荷を軽減させるには、掛かる負荷に対する抵抗力をつけるしか対策はないのだが、ライマールの場合、その血に直接神獣の力が流れている上に、内に魂の番人を宿している為、神獣と繋がりの強い契約者とは比べものにならない位の負荷がかかっているのではないだろうか。
エイラはそこでふと、浄化の際にライマールの額に角が生えていたことを思い出す。
ライマールの、未来を視る力は、ユニコーンの持つ不確定な時を視る力ではなく、眠虎の持つありとあらゆる時を視る力に起因するものの筈だ。
ユニコーンにも未来を視る力はあるが、その力では日時をハッキリと断言することはできないし、なによりライマール自身が眠虎の力だと認めていた。
ならばなぇ、あの時眠虎にある筈のない角がライマールに生えていたのだろうか?
「あの、お聞きしたいのですが、ライマール様はユニコーンの力も使えるのですか?」
暫く考えこんでいたエイラが顔を上げると、ガランはキョトンとした後首を傾げ、
「ん〜そうですねぇ〜」
と、のんびりと答える。
「使えるとも言えますが〜、使えないとも言えますねぇ〜」
要領を得ない回答に今度はエイラが首を傾げれば、ガランは細い目を更に細めてウンウンと頷く。
「ライマール様の場合〜、ご先祖様から引き継いで来た血の中に〜、神獣の持つ魔法文字が流れているので〜、それを利用することになるのですが〜、眠虎以外の血は極端に薄いものになっているらしくって〜、通常では使えませんねぇ〜。例えば、普通に雪狐の力を使ったとして〜、麦の粒位の大きさの氷が〜、手の平に浮かび上がれば良い方ですよ〜。ですが〜、使う方法がないわけではないみたいですよ〜」
その方法を見つけちゃう所がライマール様の凄い所ですねぇ〜。とガランは続ける。
ガランの説明によれば、神獣に縁のある物や場所を力の増幅装置として使用することで、その神獣の力を使うことができるのだという。
無論、その神獣の血が流れているのも条件に入るが、その条件さえ満たしていれば、例えばデール皇帝やクロドゥルフも神獣にまつわる魔法を使うことが可能らしい。
「ただですねぇ〜、この間のエイラ様の浄化みたいに大きな物になってきますと〜、力を維持するために〜、使用する文字の量も必然的に増えますから〜、祠みたいに神獣がよく出入りする密閉された場所で〜、結界等を使って〜、漂っている神獣の魔法文字を大量に集めて〜、術の使用者〜、つまりライマール様に送り続けないといけないんですよ〜。雪狐の氷をちょっと生み出すくらいなら〜、その辺の雪山でも良いらしいんですけどねぇ〜」
なるほど。と、漸く全てを理解しエイラは頷く。
あの時使った浄化の力は、紡がれた呪文からも魂の番人の力に違いなかったが、エイラの精神に生身で干渉していた点に関しては、おそらくユニコーンの夢の力を行使していたのだろう。
二つの力を同時に行使していたのならば、肉体と精神の両方に計り知れない負荷がかかっていたに違いないとエイラは眉を顰める。
そんなエイラの様子を見て「大丈夫ですよ〜」と、ガランはのほほんとして言った。
「確かに今回はいつもと比べて寝ている時間が長いですが〜、姉さんの見立てでも〜、本当に疲労で眠っているだけですから〜。そのうちちゃんと起きてきますよ〜」
非力に見えますが〜、体は丈夫ですから〜と、付け加える。
エイラはなんとなく微笑を浮かべて見せるも、不安が消えたとは言い切れなかった。
今は寝ているだけかもしれない、でもいつか本当に倒れてしまう日が来るのではないだろうか?
また難しい顔をしていたのか、ガランが苦笑しながらそっとエイラからコップを取り上げた。
「そんなに心配なのでしたら〜私が見てきましょうか〜? "呪"はもう抜け切っていますし〜、女官に全て任せてしまっても問題無い筈ですし〜」
「そこまでして頂かなくても……すみません。私が至らないばかりに……」
「そんなことないですよ〜」
ガランがメルに似たニコニコとした笑みを浮かべたところで、コンコンと扉が叩かれる。
「おや?」とガランは首を捻り、のんびりと扉の方へと歩み寄り扉を開ける。
するとアダルベルトが緊張した面持ちで中へと入り、エイラに向かって一礼をした。
「クロドゥルフ様と皇帝陛下がお見舞いにお見えになられていますが、いかが致しますかな? エイラ様の体調が戻られていないのであれば、無理に面会するつもりはないと仰られておりますが……」
エイラはちらりとガランを見ると、ガランは「問題無いですよ〜」と、頷きながら答える。
エイラもそれに頷いて、「お通しして下さい」と、アダルベルトに答えた。
エイラはガウンを羽織り直すと、軽く身づくろいをしながらふとイルミナの話を思い出す。
もしかして、これはチャンスなのではないのだろうか?
この先、皇帝やクロドゥルフと周りに人が居ない状態で話し合う機会があるとは思えない。
再び扉にノックの音が落とされ、エイラはそちらへと顔を向ける。
扉が開き、皇帝とクロドゥルフが部屋の中へと入室すると、エイラはそっと目を伏せてベッドの上から挨拶を交わす。
ガランとアダルベルトに人払いを頼み、限られた時間の中でどれだけの話し合いが可能なのか、エイラは慎重に考えを巡らせながら、二人を席へと促した。




