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デール帝国の不機嫌な王子  作者: みすみ蓮華
デール帝国の不機嫌な王子
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理の外に生きる者 3

 エイラは驚きつつも、二人に向かって微笑を浮かべ、優雅に挨拶をする。

 ライマールの婚約者だと伝えれば、目の前の姉弟は目を見開いてライマールとエイラを交互に見比べた。

 無口で常にむすっとして他者を寄せ付けようとしない王子が、婚約と言うだけでも驚きなのに、その相手が竜の国の女王陛下とくれば、驚きも一入(ひとしお)だった。

 のんびりとガランが「おめでとう御座います〜」と言えば、ギリファンもハッとして、ライマールに食いかかった。


「お前、もしやそれで髪を切ったのか!? あれっっっっっだけ切れと言っても断固として拒否していたお前が!? 嘘だろう!? ガラン! 明日は槍が降るかも……いやっ! この世の終わりかもしれんぞ!!」

「いいですねぇ〜それは楽しみですー。風説が現実化する際に自然発生する魔法文字の観察レポートが作れるかもしれませんよ〜」

「兄さん……そんな事象見たことも聞いたことありませんよ……」


 好き勝手に言い合う三姉弟を、バツが悪そうに頬を染めてライマールが睨み付けていれば、口を開けたままその場に立ち尽くしていたアダルベルトが、我に返って全身の毛を逆立て怒鳴り声を上げた。


「これは一体どういうことだ!! このような怪しげな場所があるなどと騎士団に報告は来ていないぞ!! 殿下! 流石にこれは報告させて頂きますぞ!! 国家法違反も甚だしい!!」


 プルプルと小刻みに震え、鼻筋にシワを寄せるアダルベルトに、一同が一斉に注目する。

 なかでもギリファンは一層顔を顰めてアダルベルトをジロリと睨み付けていた。


「先程から気になってはいたが、なぜあの男の(いぬ)がここにいる」

「こいつのことは気にするな」

「……すいません。無知だとは知ってたんですが、流石にボクもまさかここまでとは……」


 ライマールとギリファンが悪態をつけば、なぜか同情交じりにメルが恐縮し、アダルベルトは更に憤慨して三人を睨みつける。

 ライマールは溜息をつくと、チラリとメルに視線を送る。その視線を受け取ったメルはガックリと肩を落としてアダルベルトに説明を始めた。


「怪しい場所に見えても、ここは由緒正しい王家所縁の場所だよ。結界内と外で空気が違っただろう? 神殿の形をした祠に、湖を模した池でピンと来ると思ったのに……ゼイル様の祠って知らないのか?」


「…………まさか……そんな……ここがそうだというのか……?」


 半ば独り言のように呟くアダルベルトを皆が呆れ顔で見ていれば、エイラただ一人がピンとこない顔で首を少し傾げる。

 そのことに気がついたライマールが、メルの説明を補足するようにエイラに話して聞かせた。


「帝国の神獣ユニコーンの祠だ。ここは建国と同じ時期にユニコーンが住む為に作られた住居だ」

「ユニコーンの……」


 ユニコーンの森のユニコーンの祠。

 ユニコーンが住まう場所に今自分が立っている。

 エイラは言葉を失い、おもわず胸を押さえた。


 幼い頃より何度も乳母に話をせがんだ思い出が甦り、エイラは感動に瞳を潤ませて周囲をくるりと見渡す。

 住居と言っても生活感がある人のそれとは違い、やはり祠の中というのが正しいのだろう。

 空気はとても清らかで、畏怖のようなものすら感じ取れた。

 神獣の情報こそ世界の中心である竜の国に集まってくるものの、やはりエイラもその姿を一目でいいから見て見たいと密かに思い続けていたのだ。


「ご本人はご不在なのでしょうか? それに住居なのですよね? 勝手に上がり込んで怒られないでしょうか?」

「問題ない。どうせいつも不在だ」


 不在と聞いてエイラは少しガッカリする。

 もちろんユニコーンに会うためにここへ来た訳ではないのは百も承知なのだが、それでもやはり会えないのは残念だと肩を落とした。

 そんなエイラを見て、ライマールはエイラの背中をぽんぽんと慰めるように撫で、フッと頬を緩めて見せた。


「ゼイルに会いたいなら後で呼べばいい。それより今はやることをやらなくてはな。ギリファン」


 唖然と口を開いてライマールの顔を見ていたギリファンは名前を呼ばれ、ハッとする。

 それと同時にライマールを指差し、口をパクパクとさせながら信じられないものを見たと言った感じでメルに話しかけた。


「おい! こいつ、女性に優しい言葉を吐き出した上で笑ったぞ!? 偽物じゃないのか!?」

「姉さん……そう言う事は思っても口にしない方がいいです。そりゃあボクも最初は驚きましたが……」

「いい加減にその話題から離れろ!! ギリファン! 準備は出来ているのか!!」


 ライマールが顔を真っ赤にして言えば、ギリファンはヒョイっと肩を竦める。


「出来てるぞ。……と言いたいところだけどな、ゼイルが鍵をかけてるみたいで魔法陣の発動が遮られている」

「前はこのようなことなかったんですがねぇ〜。色々試してはいるんですが、書き換え箇所が見つからなくってぇ〜」


 困り果てた様子でゆっくりと首を捻るガランの返答に、ライマールは眉間にシワを寄せると憮然とした様子で腕を組み、苛立たしげに周囲の壁をや床をくるりと見渡した。

 文字が敷き詰められている壁をさっと見た後、イライラしたままライマールは北側の壁へと近寄り、袖口から小さな青いチョークを取り出すと、怒りをぶつけるかのような勢いで、Aと書かれた文字を∀に書き換えた。


 その直後、ブォンと言う大きな音とともに、空中に浮かんでいた魔法陣の真下の床に、同じ魔法陣が浮かび上がった。


「流石殿下です〜。よく分かりましたねぇ〜」

「このなかで唯一、一文字しか使われていない文字はあの箇所だけだろう。後々元に戻すつもりなら同じ文字が使われた箇所を書き換えるのは面倒だ」

「なるほどな。そういう考え方もあるか」


 感心して二人が言えば、ライマールは短く溜息をついて全員に指示を出した。


「とっとと始めるぞ。全員配置につけ。アダルベルト、お前はどっか端っこで黙って見ていろ。リータはこっちだ」


 ライマールの指示にギリファン、ガラン、メルは頷いて、各々魔法陣の円上に立つ。

 ギリファンは真北、ガランは南西、メルは南東に立ち、三人を線で結べば、正三角形が出来るように向かい合った。

 ライマールはエイラを円の中心に誘導すると、その場で横たわるように指示を出す。

 アダルベルトはメルのすぐ後ろにあった柱に寄りかかり、訝しげに事の成り行きを見守っていた。


「長引かせない。直ぐに終わらせる」


 ライマールは胡座をかいてエイラの横に座ると、ギュッとエイラの手を握る。

 エイラは少し歯がゆそうな顔で見下ろしてくるライマールに、「お任せします」と、微笑を浮かべて静かに答えた。


 ライマールは手に力を込めてエイラの手を握り直し、ゆっくりと目を伏せて、呪文を唱え始めた。

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