彼の素顔、彼の告白 3
エイラがまた問えば、ライマールは躊躇いがちに、それでも先程よりもきちんと説明しだした。
「……先に婚約の話を持ち出していれば、リー…………エイラは二つ返事で迷うことなくそれを受け入れていただろう。でもそれでは結婚した後もお前はずっと政略結婚だと思い込んでしまう。その誤解を解くのに最低でも三年は掛かる。そんな新婚生活などあり得ない。謁見後に……エイラが怒ると分かっていても、こちらの未来を選択するしなかった」
ライマールの説明にエイラはまた「ん?」と首を傾げる。
二つ返事で迷うことなく受け入れる……のは確かにそうだろうと思う。
実際にエイラ自身、最初から話してくれていればスムーズに話を合わせて協力したのにと思ったのだから。
でも、それの何が問題なのだろうか?
思い込むもなにも事実、政略結婚は政略結婚なのだし、それになんだかやたら具体的な"三年"という数字が引っ掛かった。
「三年の根拠はよくわかりませんが……あの……お聞きしている限りではなにも問題ないように思えるのですが…………むしろ話して下さっていれば、クロドゥルフ様やデール皇帝にも不振に思われるようなことはかったでしょうし、私もその、腹を立てることもなかったかったかと」
訝しんで言うエイラに、ライマールは身に纏っていた重い空気を更に重くして、ソファーの上で膝を抱えて蹲ってしまった。
「それじゃダメだ……周りからいくら政略結婚と言われても構わないが、俺は本気でリー……エイラと結婚したいんだ。そこを誤解されたまま三年も過ごすなんて……俺には耐えられない」
くぐもった声がどこか切なげに聞こえるのは気のせいだろうか?
まさかとは思うのだけど、この人は本気で自分のことを好きだと、そう言っているのだろうか?
いや、まさか……とエイラはライマールを凝視する。
「あの……どうしてもわからないんですが、ライマール様は私に……その、恋愛感情的なものを抱いていると仰っているのでしょうか……」
照れながらというよりは物凄く困惑した様子でエイラが言えば、ライマールは少々ムッとした様子で顔を上げてきた。
「先程からずっとそう言っている。謁見で言ったことも本心だし、研究室で言ったことにも偽りはない」
「……からかっている訳ではーー」
「ない! 断じて違う!! あの実の正体を知りたいから言ってる訳でもない! …………あれがなんなのかは確かに気になるが……リ…………エイラがどうしても言えないと言うのならばもう聞かない。名も……呼ばれるのが嫌ならば……気をつける……」
少し寂しそうにライマールは呟くと、またションボリと頭を垂れる。
それを見てエイラはますます信じられないと目を見開いて、「何故……?」と小さく呟いた。
「とても信じられません。一体いつからそのようなことを……いくら元々婚約の話があったからと言っても私達は初対面ですよ? 会話だってほとんどしていないです。好きになる要素なんて……」
……顔? とエイラは一瞬考えたが、冷酷な淑女と言われるくらいなので、そこまで人に好かれるような容姿を自分はしていないだろうとエイラはその考えを否定する。
だいたいエイラの笑顔を否定したのは、目の前にいるこの王子なのだ。
そうなってくると一体なにがライマールの琴線に触れたのか全くもって検討がつかなかった。
ライマールは口を開きかけてまた黙り込む。
どう説明すれば信じてもらえるだろうかと本気で悩んでいるようで、また恐る恐る口を開いた。
「デール帝国が出来てから今までの間に、バルフ・ラスキン家がどれだけの神獣の血を取り込んだのか知っているか?」
唐突に何の話を……とエイラは眉を顰めたが、戸惑いがちに頷いてみせる。
世界の中心の王としてそれくらいのことは流石に知っていた。
大陸にいる神獣に関する情報は、全て竜の国の聖地へ自動的に記録されるのだ。
契約者はもちろん、神獣の伴侶となった者の情報も然りだった。
エイラは昔覚えさせられたバルフ・ラスキン家の血統を、記憶を手繰り寄せるように挙げ連ねていく。
「デール帝国のバルフ・ラスキン家には……ユニコーン、雪狐、それから……確か皇妃様がラハテスナ王家の縁戚でらしたと記憶しているので、眠虎の血も僅かばかりに入っていますね。後は神獣ではありませんが、初代皇帝の妃がウイニー王家の親戚でらしたので、いまでは滅亡してしまった天神族の血も入っているかと」
覚えていたことを羅列してみて、こうしてみるとデール帝国の王族は随分と神獣と関わりがあるなぁとエイラは今更ながら驚いた。
他国にも神獣と契約している国主ももちろんいるが、ここまで深く関わっている王家はデール帝国以外にはないだろう。
ライマールはエイラの説明に頷き肯定する。
「そうだ。それだけの血が俺には流れている。無論クロドゥルフにも流れているが……俺と……俺だけにその神獣の力が顕現してしまっているんだ」
ライマールは途中で何か言い淀んだ様子だったが、エイラはふとライマールの目が時折金色に輝いて見えることがあったのを思い出した。
金色に瞳が輝くのは、神獣と契約して、その力を使用する時によく見られる現象だった。
契約者でなくとも本人の中にその血が流れているのであれば、そんなこともあるのかもしれないとエイラは納得した。
ともすれば、ライマールは先祖返りとしてなんらかの力を持っていることになる。
「神獣の力が顕現しているということは、神獣の力のいずれかが使えるということですよね? 雪狐なら雪や氷、ユニコーンなら夢……幻術や戦、眠虎なら……」
エイラはそこまで言いかけてハッとする。
困惑した様子のエイラの視線を受け止めて、ライマールは少し悲しげな表情を浮かべてコクリと神妙に頷いてくる。
眠虎の力はユニコーンよりも強い夢の力、ありとあらゆる時を視る力がある。
ーーそれは過去は勿論、未来を視る力も含まれていた。




