虚言と奇行と不機嫌な王子 3
エイラが混乱する中、皇帝やクロドゥルフが口を開かないうちに、間髪入れずにライムがエイラの問いに答えた。
「この国の事を知ってもらう為に、お前を竜の国から帝国へ招待したと知らせた」
「随分都合のいい解釈だな。お前がやった事は招待ではなく拉致だぞ。しかも一国の王をだ! 謝罪だけで済まされる問題じゃないんだぞ!? 判ってるのか?」
頭を抱えてクロドゥルフが言えば、エイラは慌ててまた先程の言葉を繰り返す。
「いえあの、本当にこの国に来たのは私の意思なんです。ですから……」
ですから……とエイラはハッとする。
もしかして不法入国をしてしまった私を庇うために、ライムはそのようなことを書状に書いたのだろうか?
国を守るために話を合わせろと言ったのは、少しでも竜の国の不利益を減らすために……?
ライムを見上げれば、余計な事を……と、また苛立たしげにしているライムの雰囲気が伝わってくる。
なぜ自分が責められるようなことまでして、エイラを……竜の国を守ってくれようとするのか判らないが、関係のないライムがこれ以上責められるのを、やはり黙って聞いているわけにはいかない。
「ですから謝罪をすべきなのは私の方なのです。勝手にデールの領地内へ侵入してしまったこと、深くお詫び致します」
「よせ!」
エイラが頭を下げようとすれば、ライムがそれを強く制止しエイラの肩を抱き寄せる。
「望んだのは俺だ! お前じゃない。俺がお前に会いたかったんだ」
ライムがそう言ってエイラを強く抱きしめれば、ライムのそのセリフと行動に、エイラを含め、謁見室に居た全ての人間が、ライムを凝視し、固まった。
ライムは周りの反応もエイラの反応も気にせずに、こっそりとエイラに不機嫌そうな低い声で注意を促してくる。
『説明は後でちゃんとする。だから今は俺を信じて話を合わせてくれ』
ライムの呟きに、エイラは訳もわからないまま反射的にコクリと小さく頷いてしまう。
誰かに抱きしめられるなんて、生まれて初めてのことだった。
エイラは困惑するばかりで、女王らしく冷静にと思う反面、バクバクと高鳴る心臓の音が気になって、顔に出さないようにするだけで精一杯になってしまった。
「……お前がそこまで情熱的な男だとは知らなかったな。ライマール」
「婚約者に会いたいと思うのは、ごく自然な事だと思うが?兄上」
半顔を寄せ、呆れ顔でクロドゥルフが言えば、ライマールと呼ばれたライムは、至極当然と言わんばかりにしれっとクロドゥルフにそう答えた。
ライムに抱きしめられたまま、「ああ、やはり……」と、エイラは静かに目を伏せる。
「お前がどんなに望んでも、残念ながらそこには"元"という文字がつくんだ。そもそもお前、エイラ様とまだ面識はなかったじゃないか……」
「勝手に婚約の話を取り付けて、勝手に破棄された方の身にもなって欲しいものだな。俺はもうずっと前から覚悟を決めていた。なかったことになどされてたまるか」
ライムはそう言ってエイラを離すと、さも愛おしいそうに微笑んで、エイラの頬をそっと撫でる。
ただでさえ混乱しているのに、ライムのこの行動が演技なのかそれとも本心なのかエイラは測りかねてしまう。
彼が何をしようとしているのか意図が見えてこないせいもあるが、白紙になった婚約話があったのもまた事実なのだから。
ーーデール帝国第二王子、ライムことライマール・バルフ・ラスキンは、確かにエイラの元婚約者だった。




