prologue:運否天賦
初めまして、雨霧アリカです。ふとひょんなことから小説書いてみようと思い当たり書いてみたのがこの作品なわけなのですが……、いやはやなかなか難しいものです。
興味のある方は是非まずはお読みいただいて、色々とコメントの類をいただけると幸いです。更新は不定期極まりないですが、一人でも続きが読みたいという方がいらっしゃるのでしたら頑張っていきたいと考えておりますゆえ、どうぞよろしくお願いします。
少し書き直しました。もう少し書き直したいと考えているのでたまには読み返してみてください。
―――アーサー王伝説を知っているだろうか。
アーサー王伝説は中世の騎士道物語の一つであり、ヨーロッパの伝説の中でも最大級の伝説ともいわれ、今日ではヨーロッパだけでなく世界各地で知られている伝説である。
主にアーサー王自身の説話を中心として、円卓の騎士・聖杯伝説・宮廷愛など数々の派生した話に彩られている。
はじめてアーサーの生涯がまとまった形をとったのは、1136年頃ウェールズ人であるジェフリー・オブ・モンマスが書いた『ブリタニア列王史』においてである。
その中でウーゼルの子アーサーは、魔法使いマーリンの助けで名君に成長してゆき、名剣カリブルヌスを手に巨人退治やローマ遠征などの様々な冒険を重ねるが、最期は叛乱を起こしたモルドレッドとの戦いで致命傷の深手を負い、傷を癒すためアヴァロンの島へ去る。『ブリタニア王列史』は歴史書の体裁を取っているものの、非現実的な部分が多くを占めており、騎士達の王アーサーのイメージはここから始まると言ってよい。
さて、ここまではザックリとおおざっぱにアーサー王伝説について語ったわけだが、ここから語るのはかつての伝説とは似て非なる物語の一つである。
では、そろそろ始めるとしよう。
◇◇◇◇
それは暑い夏の夜の出来事だった。
日本特有の蒸し暑さ。俗にいう熱帯夜だ。
夜だというのにこの暑さはいただけない。
何もしなくても汗は滲んでくるわ、エアコンを点けたら点けたで電気メーターは調子に乗ってグルグル回り始めわるわ。
この調子だと今月の電気代はバカにならないだろう。
夜風はやや生暖く、肌に絡みつくよな風が妙に気持ち悪い。
ここはビルやマンションが立ち並ぶオフィス街の一角。
昼間には多くの人々が、十人十色の時間を作り出し、毎日変わることのない喧騒の中を思うがままに過ごしている。
それは客観的に見れば眩しくもありふれた日常に過ぎず、其の実、皆、毎日を誰が書いたシナリオにそって、『ありふれた』日常を舞台上で演じ続けている役者に過ぎない。
それが今ではご覧のとおり街中を歩く人間は一人も居らず一種のゴーストタウンと化している。
役者のいない舞台はいつだって静かで気味が悪い。
百聞は一見にしかず。
野良猫一匹見つけるのに一苦労だ。
日はすでに堕ち、不気味に輝く満月が夜の部の開演を告げるように舞台を照らし始める。
ここからは、夜の舞台。
そして昼間の舞台とは違う、ありとあらゆるものが孤独になれる舞台・・・。
『孤独とは、優れた精神の持ち主の運命である』
ふと、ある哲学者が言っていた言葉を思い出す。
言い換えれば、優れた精神を持たぬ者は孤独という存在を耐えることができない。
この言葉は実に言い得て妙だ。
今、この街に居続けるには生半可な精神ではこの孤独に耐えることはできないだろう。
その結果が、このゴーストタウン化しているこの街だ。
ということは俺は優れた精神力を持ってしまった故にこの孤独の中に立たされていることになるのだが。
それが何の意味があるのだろうか。
一つの運命として受け入れろと言いたいのか。
まったくもって理不尽極まりない。
まぁ、一つだけ確かなことはこの運命には逆らえないということだけだ。
―――まったくといって不憫な話である。
◇◇◇
夏の日差しは一年間通してみても一番の日射量をほこる。
しかし、ここまで日を浴びせられてくると、自分がソーラー発電機か何かと勘違いされているのではないかと思ってしまうぐらいだ。もちろん太陽にだが。
そりゃあ、この暑さを防ごうと思えば、色々と方法はある。しかしそれは、暑さ自体をどうにかする方法ではなく、自販機で冷たいジュースを買ったり、クーラーの効いた喫茶店に入るなど、暑さを一時的に回避する方法であり、焼け石に水とはこのことではないのだろうか。
しかも、どれもお金がかかるし、喫茶店にしたって長時間居座るわけにもいかない。
ならば、図書館があるのではないかと考える知者もいるだろう。確かに名案ではあるのだが、とりわけ読書が好きというわけでもなく、ただ涼みに行くだけに図書館を利用するのも気が引けるため、この案はパスだ。
だったら、文句をいうなと言われるだろうが、学生という身分は色々とめんどくさいのである。
身も心も懐事情も。
つまり文句の一つは許されるべきであって、言うだけタダでもあり、少し気分も晴れる。
決して生産性のある行動ではないのだが。
―――しかし、なんてクソ暑さだ。
そんな文句を口には出さず、心の中のごみ箱に投げ込みながら俺は照りつける太陽を体全体に万遍なく浴びながら自然オーブンで丸焼きにされつつ、加えて床暖房フル稼働しまくりのアスファルトで造られたとあるストリートを歩いている。
そんな俺の名は“湖騎 爛守”。
なんつー難し名前にしてくれたものだとたまに思うのだが両親に文句を言おうにも両親の顔と名前がわからないのだから文句の言いようがない。
なんせここ数年間の17歳より前の記憶がきれいさっぱり清々しいぐらいに無くなっているのだ。
いわゆる記憶喪失だ。
それなのに社会的一般常識はしっかりと記憶に刻まれており、テレビを見てタイムスリップしてきた人がびっくりして腰を抜かすようなベタなリアクションをとらずにすんでいる。
なんていうか……、無駄に都合のいい記憶喪失である。
ちなみに身長は最近175センチを超え、体格は細見なのだがしっかり鍛えられており、髪型短髪、髪色は金髪でしかも顎鬚付のただのオッサンスタイルである。
なぜ、ここだけ客観的な語り口調になってしまっているのかというと、先もほども話したようにまだこの体(もともと俺の体ではあるが)との付き合いも実質一年と数か月なのだから仕方がない。
記憶喪失の話はもう少し先に話すとして、こう見えてもまだ18歳らしいのだが、よく初対面の人間におっさん呼ばわりされてしまう。
たしかに自分が見ても実年齢より老けて見えるのだが、少々イラッとする。しかし、そこは大人の対応を心掛けている。(たまに出来ない時はあるが……)
最大の難点は目つきが怖いとよく言われることなのだか、俺自身、特に怖い目つきは意識していないので意識せずとも怖い目つきなのだろう。
この一年とちょっと暮らしてきたなかでの性格は基本おおざっぱなのだが決められたルールは基本的に守っていくという我ながらよくわからん性格だ。
さすがに性格というのは自然と体に染みついているらしく、記憶とはあまり関係が薄いように感じられる。
それと俺は女性にはめっぽう優しいというのがここ最近の発見だ。
だが、女であれば誰でもいいわけではないことは予め(あらかじめ)言っておこう。
まあ、この性格だけは元から俺に存在していた能力っぽいのでどうすることも出来ない。
昔の俺はどんな思考回路をしていたのだろか……。
自分ことだが他人事のように呆れてしまう。
というわけでこの最高に素晴らしい基本スペックを今さら外せと言われても無理な話なのである。
◇◇◇
いやはや今日も今日とてようやく学校の束縛から解放され、もう空も暗くなった街中を特にやることも無くこうしてブラブラと帰宅中なわけなのだが。
ふと何気なく今日一日を振り返ってみれば一日中ついていないことだらけだった。
まずは朝から学校の正門前で家に提出必須の宿題を忘れていることに気づき、取りに帰ろうとペダルを漕ぎ始めた瞬間に突然自転車のチェーンが盛大に飛び散り、仕方がないのでダッシュで帰っている途中に髪の長い外国人とぶつかってしまい美人だなと思いつつ謝りながら立ち去ろうとした時、何の恨みがあったかは知らんが鳥による糞の急降下爆撃に遭い、悪態をつきながらやっとの思いで取って帰ってみれば案の定担任からは「遅刻だよ、湖奇 爛守。だから罰として居残り掃除をよろしくな」とさわやかな顔で居残り宣言。
そこからも数々の不幸な目に遭遇し、やっとの思いで掃除を終え、一日の愚痴を言いたいところを心の秘密のごみ箱に叩き込みながら教室のカギを担任に返し、「次からは遅刻をしないように!」と笑顔で見送られながら学校の正門を後にした。
ここまでが俺の平凡でいて無駄に疲れた一日の軌跡である。
これでやっと平穏な時間に戻ってこれたとホッと一息ついたのだが、この後今日一番の不幸に出くわしてしまうなんて今の俺には知る由もなかった。
◇◇◇
さて、ここで物語の端っこにさらに足を踏み入れることにしよう。
まったくこれは不幸としか言いようがない出来事だった。
それは、「そうだ、近道しちまおう!」と入ったとある路地裏で謎の黒マント達に絡まれている一人の女性を見つけてしまったことだ。
なんてベストタイミングなんだ俺は……。
そうはいってもこの街ではそう珍しくもない裏世界の姿であり、これが男性がカツアゲされているのであれば特には気にも留めないのだが、いかんせん女性が絡まれているのだから性質が悪い。
たしかにこの頃不可思議な事件が続出しており、謎の失踪事件やビルにいた人たちが突然意識不明になる事件などなど・・・、なんといっても極めつけはどっかの国の犯罪者殿が何をお思いになったのか知らないがこんな極東の島国に逃亡してきたそうで。
それはそうと日頃からこういう出来事には我関せずな俺でも、さすがに女性が襲われそうになっている所をみすみすスルーするようなことは出来るわけがない。決して下心がまるっきりないとまでは言わないが、今はそれどころではない。
「仕方がない。ここはビシッと男見せますかね!」
と格好よく黒マント達と彼女の間に助けに入ったまではいいが、ここでまた一つ問題が発生してしまった。
今日は本当についていない。
さっきは遠くでしかも暗くてよく見えなかったのだが、なんとこの謎の黒マント達は手に金属製の獲物を持っていたのだ。
いやいやそこまで想定してないぜ!?、なんていう言い訳も今は通用しようがない。
いつも相手にしている雑魚キャラ(その辺のごろつき)だと思いきやものの数秒で滅多に出くわさない中ボス級にランクアップした奴らを見てどうするか考えていると、突然後ろの女性が、
「なぜ貴様は私の前に突っ立っているんだ! 用がないのなら退け。邪魔だ!」
なんというか……、「それは助けにわざわざ入った命の恩人になる予定の人に吐くセリフですか!?」と突っ込んでやりたい言葉を言いだしたのだ。
まぁ、勝手に飛び込んできたのはこちらなんだけど。
あれ・・・?
―――まてよ……。この女性どっかで見たような……。
ふと今日一日の出来事がフラッシュバックされる。
どこかで俺はこの黒髪美人と遭っているはず。
まだ顔をよく見ていないが確かに記憶の片隅に歯に物が挟まったよな不快感がある。
この場合は女と何処で遭遇したのか思い出せないことに不快感を覚えているのだが。
まぁ、とりあえず―――、
「おいおい、俺はこれでもか弱い女性を悪の手先から助けに来たんだが・・・。そのセリフはないだろ? さぁ、お嬢ちゃんは下がってな」
なんて自分でも寒気がするようなセリフを後ろに言い残しながら、さっきの疑問はとりあえず思考の片隅によけ、ここは先手必勝とばかりに正面の物騒な黒マント達に向かって拳一本で走りこんでいった。
しかしまぁ、今思えば無謀な作戦に他ならない。
愚策も愚策。
目も当てられない。
「ちょっ!? まてっ! 貴様の力では勝てるわけがない! 無駄死にする気か!? おいっ!? 聞いているのか!?」
なんて後ろで叫んでるたぶん初対面ではない女性の言葉を無視して、とりあえず目の前の黒マント達に集中する。
まずは、走り込みながら改めて状況を把握する。
敵の数は三人。路地自体も広くはないが決して狭くもない。三人程度ならギリギリ横一列になれるぐらいの広さだ。そこの前に一人、後ろに二人と三角形の布陣を引いて獲物を構え待ち受けている。
勢いよく走りだしたのはいいが、相手からは仕掛けてくる気配がない。
もしかして、もう少し様子を見るべきだったか……。
ここでもう一度言っておこう。
我ながらなんと浅はかな判断をしてしまったのだろうか。
「さて、どうすっかな……。やってしまったことは仕方がないとして、普通のそこらのガキの喧嘩とは違う。殺る(やる)か殺られるか(やられる)かの勝負だ。こんな経験初めてなんだが……んっ、まてよ。本当に俺は初めてか?」
なぜかこんな時に記憶の混乱が起こる。さっきといい今といい、気にはなることが何点かあるが今気にしていても意味がない。なんせこの身は記憶喪失。そんな奴がこの数秒のうちに「記憶よ戻れ」みたいな勢いで記憶を復元できたら俺を含めた世の中の記憶消失者は苦労などしない。まあ、俺は記憶が無いからといってさして苦労はしてないんだが。
それは置いといて、そんなことを考えているうちに敵まであと数十メートルというところまで差し掛かった時、突然先頭の黒マントも斧らしきモノを構えながらこちらに走り込んできた。
とうとう待つより仕掛けたほうが早いと判断したのか、それとも一人でも始末できると高を括ったのか。
確かにあながちその考えは間違いではない。
なんせこちらは殺し合いについては全くのド素人。
たいしてあちらさんはエキスパートっぽい。
どちらにせよ、後方との二人とは距離が離れ、実質一対一の場面に諮らずともなったわけだが。
一対一になったからといって以前俺自身の劣勢は覆ってない。
一瞬後衛の二人が戸惑った素振りをしたように見えたが気のせいだろう。
この歳でそんな一瞬の出来事を瞬時に判断し生き残るための解決策をたたき出すことができるのはどっかの紛争地帯に住んでいる少年兵ぐらいだろう。
しかし、こんな平和ボケした島国で育った俺に残念ながらそんな能力はありはしない。
かといってあって欲しくはない……。
さて、本格的にどうするか。
残り数メートル。
だいたい敵の攻撃範囲までもう残り10歩程度。
正面の黒マントも必殺の一撃のために戦斧を頭上に持ち上げ狙いを定める。狙うは俺の左肩から斜めに瞬息の一撃。
……残り7歩。
俺も拳を構えつつ、敵の攻撃に備える。素人がてらに敵の攻撃手段を予測してみるがまるっきり見当もつかない。分かるとすれば、斧だけに振り下ろすだろうということぐらい。
我ながら笑いがでちまうような幼稚な発想。
……残り4歩。
後ろで見かねたこれまた謎の黒髪美女も走ってきている。しかし、先行している俺に追いつけるはずもなく何かしら叫んでいるが、もはや目の前の敵に集中している俺には何を言っているのかさっぱりだ。
もし生きていたらアドレスと電話番号一緒に何を喚き散らしていたのか聞いてもいいかもしれない。
……残り1歩。
とりあえずここまで来たら出たとこ勝負。勝つか負けるかはやってみないとわからない。
そう心に決意を新たにして敵の顔面に渾身の一撃をお見舞いするために最後の一歩を踏み出した。
我ながら熱血精神旺盛な奴だと自虐的に苦笑しながら。
……残り0歩。
決着の先に聞いたのは、ゴツッという骨が軋む音だった―――。
◇◇◇
何故このような事態になってしまった。
初めに決めた作戦では何の抜かりもないはずだったのだ。
何が起きた……。
何故こうなった……。
何故。
何故。
何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故。
今さら考えてもどうにもならないのに何故か頭の隅っこの“失敗”という二文字がこびり付いて離れない。
しかも、まだ作戦は終了してないのだ。
そう―――、まだ始まってもいない。
でも、何故なのだ。
何故こうも自分自身の敗北に怯えているのか・・・。
わからない。今だ自分の人生でこんな感情になったことがない・・・。
こんな感情は初めてだ。
自分の前に立っているあの男の存在がこうも自分を怯えさすのか。
先ほどいきなり我らの前に飛び出してきた男。
見た目はオッサンのような風体だが、制服を着ているということはどこかの学生なのだろう。
この場に存在してはいけないイレギュラー。
それゆえになんのためらいもなく排除する。
私は、あの男を今まで殺してきた取るに足らない雑魚となんの変わりもない存在だと思っていた。
だが、それは間違いだったようだ。
それは相手の目を見れば一目でわかる。
奴は我らと一緒・・・“戦いの中でしか生きられない者”だ。
そんなことを考えていると目の前の敵が拳を構えながらこちらに走りこんできた。
何故ただの学生風情にここまでの感情を抱いてしまうのか・・・。
とにかく今は冷静になれ。
私自身も臨戦態勢をとる。
そうだ――――――。
これはいつもと変わりのない取るに足らない作戦。
取るに足らない雑魚。
いつも通り、相手を刈り取るだけ・・・・・・。
――――――さあ始めよう。
いつも通りの味気のない仕事を・・・・・・。
◇◇◇
|もう一度言う、相手は殺しのプロだ。
それは素人にでも分かることだが大概の素人は殺された後に薄れゆく意識の中で感じるのが精一杯だろう。
もしくは即死だ。
湖騎 爛守も少なからずそうなる運命の中の一人にすぎなかった。
しかし、神様は残酷なものである。
いや、まったくもって無慈悲だ。
くしくも神は彼に生きたままでその危険を察知させてしまった。
いや、神自身がそうさせたのか爛守自身がそうしてしまったのかは定かではないか、一つはっきりしていることは今だ彼が生きていることだ。
しかも、敵対している黒マントの一人の戦斧による必殺の攻撃をすんでのところでよけ、さらに顔面に渾身の一撃を叩き込むという偉業を成し遂げていた。
まあ、それが本当に偉業かどうかはともかく、彼自身にとってデットオアアライブなのだから自己満足の偉業でも大歓迎だろう。
そして、一番驚いているのは後ろの美女である。
あの呆けていた黒髪美少女である。
彼女の名は、“レヴィ・ビビアン”。とある教会の組織に所属しているシスターだ。身長は172センチと女性にしては長身でスタイルは抜群。髪型はロングの髪を後ろで一つに束ねており、髪色はイギリス人には珍しい黒色の髪。何故黒色なのかは本人にもわからないが黒は黒で嫌いでもないので特には気にしていない。目は釣り目で瞳の色は黒。俗にいうクールビューティーを具現化した存在だ。日本風にいえば大和撫子というほうが馴染み深いだろう。今のこの騒動の原因の一人である。
何故、聖職者たる彼女がこんな血なまぐさい騒動に巻き込まれているのか―――――――。
彼女は今から一週間前の7月8日に極東の島国である日本にやってきた。
理由は一つ。
とある人間を探し出すためだ。
その男の名は、“エドアルト・ティッチ”。
イギリス国内を暴れまわる大悪党だが、未だに素性が知られていなという厄介な男だ。
そんな男が何故だか突然極東の島国である日本を目指し始めたという噂が流れ始めていた。
ただの犯罪者なら国際指名手配にでもしたらいいのだが、いかんせん普通の犯罪者ではないのだから頭が痛くなる。
当然、彼女の上司の耳にも入り、彼女自身「人選ミスのなにものでもない!!」という反論も聞く耳持たずで彼女が身柄拘束の任を任されてしまった。
確かにこういった警察や国が手間取るような“特殊”な犯罪者を秘密裏に身柄を確保、または断罪するのが彼女の所属する組織の仕事ではあるのだか・・・。
彼女は不満に思う。
何故私がこんな極東のしかも島国に飛ばされなければならないのか。
まあ、イギリスも島国ではあるのだが・・・。
今はそんなことは関係ない。
確かに飛ばされる理由は何点か思い当たるのだが、今さらその原因を治せと言われても、少々どころかかなり厄介な問題である。
なんせ彼女は世界でも数少ない“特別な人間”なのだから。
なぜ自分なのかと恨んでみた頃もあるが、今ではこれはこれで困るものでもないと開き直っている。
まあ、たまにこういう厄介ごとを仕事として回されるのはいただけないのだが。
「ふぅー。言いたいことは山ほどあるが、今は神の御意志とやらに従い、迷える子羊に救いの手を・・・もとい、さまよえる罪人に正義の鉄槌を落とすとするか。我が気高き英名にかけて。」
とまあ、そんな決意を新たに日本までやって来たのが先ほど述べたように7月8日。
そして、一週間エドアルト・ティッチの足取りを調べて、やっとの思いで奴の手下と接触できたのがついさっき。そして、いきなりその場に乱入してきた謎の人物が彼女の静止の声を振り切って突貫しているのが今この瞬間である。
この一週間、悩みに悩み(本人が思っているほど悩んではない)、念入りに計画を練り、身辺調査から土地の把握、その他色々な苦労がこの一瞬の出来事で水の泡になろうとしている。
実に頭の痛くなるような事態だ。
目の前には、ティッチの優秀な部下に丸腰で特攻を駆けている馬鹿一匹が見える。
相手は殺しのプロでこちらは学生(学生服を着ていなかったらただのオッサンにしか見えないが)。
勝てる見込みは数パーセントしかない。
いや、数パーセントすらないかもしれない。
一応は大声で止めてはみたが効力無しで寧ろ(むし)血気盛んに突っ込んでいったのだから、本当に頭を抑えたくなる。
たしかに突然の出来事で私の対応も遅れてしまったのも事実。
しかし、我が身は一様は聖職者の端くれ。
苦難している神の子には救いの手を差し伸べなければならない。
なので、一応は助けるために彼の後ろを追いかける。
しかし心中ではこれで見ず知らずの学生の遺体処理の仕事が増えてしまったと半ば諦めていた。
そう思った矢先に目の前で奇跡が起きた。
――――――――見ず知らずの学生がティッチの部下の一人を殴り飛ばしたのだ。
「まさかっ、信じられない!?あの戦斧の速度に対応したなんて!!」
本当に信じられない。
確かに彼は戦斧の動きを見つつも戦斧を回避した後の自分の攻撃に備えて準備をしていた。
それはほんのコンマ何秒かの一瞬の出来事ではあるが、いくら素人でも奇跡としか言いようがない出来事だ。
「まさか、彼も“こちら側の人間”か・・・。」
一瞬頭をよぎった予想を呟きながらレヴィはすぐに頭を切り替えていた。
この先、どうやってこの難局を乗り越えていくか・・・。
先ほどのことで度胆は抜かれはしたが、いつまでも呆けておくのは自分が今すべきことではない。
今しなければならないことは、冷静に状況判断をしつつ任務を遂行すること。
そして、任務に障害が起きようならば、あの見ず知らずの学生も排除しなければならない。
「やれやれ・・・。これは面倒なことになった。余計な手間は増やさないでくれ。」
そうため息を吐きながら、彼を追うスピード早めていった。
運否天賦.end
◇◇◇
ども、雨霧アリカです。読んでくださってありがとうございます。いやはや、どうでしたでしょうか、この中途半端&話の展開が今ひとつわからない文章は!!次あたり色々と本格的な設定などを書いていく予定なのですが、それまで辛抱ください。あと、誰かキャラの設定画などを書いてくださるとうれしいと思います。もし、我こそはと言ってくださる方は雨霧アリカ充てに連絡ください。お願いします。では、また次回にお会いしましょう。