5 オレは料理人 出される飯がまずいなら、自分で作ればいい
「そうだ! オレは料理人じゃないか。どうしてそのことを忘れていたんだ!」
落ちぶれた凜答応のために料理を作る人がいないというなら、自分で作ればいい。
「ナイスアイデアだ! 詩夏、ここに厨房はあるか?」
「もちろんありますよ。ずっと使われていないですけど」
「OK! 手入れをすればなんとかなるはず。で、食材を手にいれるには、どこに行けばいい?」
「御膳房に行けば手に入ります。何をなさるのですか?」
「自分で飯を作るのさ。詩夏の分も作ってやる」
「でも凜答応さま、お料理なんてしたことないですよね。ご実家にいた時だって作っているところを見たことがないです。作れるんですか?」
「ああ、今までのオレはオレじゃないから、それは問題ない」
詩夏は目をまん丸くさせ、きょとんとして首を傾げる。
「詩夏にとびきりうまいもん食わせてやる。食べたいだろ?」
「はい、食べたいです。おいしいものをたくさん、凜答応さま!」
思わず一心は、詩夏の痩せた体をぎゅっと抱きしめた。
なんて素直で可愛いんだ。よし、この子のためにも腹一杯うまいもんを食わせてやろうじゃないか。
「妹よ! 料理人のオレの腕前を見せてやる。期待して待ってろ」
「え、ええ? 凜答応さまはいつから料理人に? それに妹って」
「私にとって詩夏は可愛い妹みたいなものだからな。妹妹」
「妹だなんて、恐れおおいです」
「なに言ってんだ。子どもの頃から私に仕えてくれてたんだろ? だったら、妹みたいな存在じゃないか」
「凜答応さま」
詩夏の目にじわじわと涙が浮かび上がった。
くーっ! 可愛いなあ。オレもこんな愛くるしい妹が欲しかったんだよ。
「そう思ってくださるなんて嬉しいです。凜答応さま、この先もずっと、誠心誠意を込めて凜答応さまにお仕えいたしますね! あの、私も姉姉とお呼びしてもいいですか?」
「もちろんだ。なんなら、お兄さまでもいいぞ」
「それは意味がわかりません」
「はは! よし、そうと決まったら御膳房とやらへ行ってくる」
旗袍の裾をぐいっとたくしあげ、一心は大股で歩き出す。
「待ってください! 御膳房の場所、わからないですよね。ご案内します」
「おお、助かる」
「それから!」
奥の部屋に行った詩夏は、あるものを手に戻って来た。
「絶対にこれが必要です!」
「なるほど。確かに必要かもな。さすがオレの妹は賢くて気が利く。行くぞ」
「はい!」
二人で部屋を飛び出すと、林杏とばったりと会った。
彼女の手にしているカゴには、暖をとるための炭が入っていた。内務府に出向いて貰ってきてくれたのだ。
「凜答応さま、どちらへ? 風が冷たくなってきました。お風邪を召します」
「食材の調達に行く。林杏にもオレの料理を食べさせてやるからな。楽しみに待ってろ」
「やっと火鉢用の炭をいただけました。体を温めて……」
「林杏こそ、暖かくして休んでろ」
「林杏さま、すぐに戻りますー!」
「な、なりません凜答応さま! 宮中の掟に反します。ちょっと、詩夏あなたまで!」
一心は足を止め振り返る。
そこには青い顔でおろおろする林杏の姿があった。
「生きるか死ぬかの直面で掟なんて、クソくらえだ!」
と吐き捨て、詩夏の手を取り、勢いよく月明宮を飛び出して行く。
「く、く……そ? 凜答応さまは今クソと? ねえ、言った? 言ったわよね?」
林杏はぽかんと口を開け、周りにいる侍女や太監に同意を求める。
「いえ……存じません」
彼らは揃って、知らない何も聞いていないというように、表情を強ばらせ首を振った。




