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転生したら後宮妃!? ―料理で陛下の胃袋を掴んだら、寵妃になってしまいました―  作者: 島崎紗都子
第1章 もしかして、これは転生? オレが後宮妃?
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3 どうせ転生するなら

「それよりも、オレ」

「コホン!」

 林杏が口元に手を持っていき咳払いをする。

「乱暴な言葉使いは改めてください」

「わ、私って、どんな女だったのかしら?」

 一心は小首を傾げながら、目をパチパチする。

 女の言葉使いとか気持ち悪ぃ。


「それは、どういう意味でございましょう」

「ほら、川に落ちたショックでどうも記憶があやふやというか……アレで」

「しょっく?」

「ええと、ほら私、死にそうな思いをしただろ?」

 林杏はやれやれと緩く首を振り、仕方がないというように口を開いた。

 凜答応こと凜花は、良家の娘ではあるが、かといってそれほど裕福というわけではなく、二年前の秀女選抜に、半ばダメもとで両親に送り出され、落選するかと思いきや、幸か不幸か下級妃嬪として合格した。

 秀女選抜とは、簡単にいえば皇帝の側室候補だ。


 取り柄も特技もなく、美人でもないから華もない。実家は弱小ゆえ後ろ盾もない。面白みもないから友人もできない。仕える侍女たちにすら見下され、後宮に入っても一度も陛下のお目通りはなく、他の妃嬪たちに侮られ、後宮の端っこに与えられたボロ宮殿で地味にひっそり息をひそめるように暮らしている。

「なんてことだ!」

 一心はひたいに手をあて、天井をあおぐ。


 どうせ転生するなら金持ちの家の、超絶美女でスタイル抜群な妃に転生させてくれよ! と思ったが、一心は自分の両肩を抱き、ぶるっと身を震わせた。

「いや、だめだ! それは絶対にだめだ!」

 一心の大声に林杏と詩夏がびくりと肩を跳ねる。

 皇帝陛下が気に入るほどの美女だったら、夜伽をしなければならない。

「イヤだ! それは却下だ。多少器量が悪くて痩せっぽちでも、このままでいい」

 表情をころころ変えながら思いを巡らせる一心を、林杏は冷めた目で見つめ、詩夏は肩を小刻みに震わせ笑っている。


「凜答応さま、下賜された品々はいかがいたしましょう」

 一心はそこら中に置かれた贈り物を見やる。

「邪魔だから空いてる所にてきとーに積み上げちゃって。欲しいものがあったら持ってっていいぞ。装飾品とか興味ないし」

「かしこまりました。それではすべての贈品を台帳に記帳し、倉庫に保管いたします」

 欲しい物があったら持っていけという一心の言葉を一蹴し、すかさず林杏は事務的に答え贈り物を片付け始めた。そうでなければ、侍女たちが贈り物に群がるところだった。

「重そうな箱もあるな。何が入ってんだ? げ、壺かよ使わねえよ。あ、運ぶの手伝う」

「けっこうです」

「そうですよ、こういうことは私たちの仕事ですから、凜答応さまは休んでくださいね」

 詩夏はおっとりした口調で言う。


 うーん、なんか癒やされる子だなあ。可愛い。


「いやダメだ。女に重たい物は持たせられない。オレに任せろ」

 と、カッコいいことを言って、部屋の中央を陣取る大壺を抱えようとしたが、あまりの重さに持ち上げられなかった。というより、女の力では腕力が足りないことに気づく。

 不便な体になったもんだよ。

「凜答応さま、面白いことをおっしゃいますね。とにかく大丈夫ですから任せてください。それよりも、そろそろお食事の時間ですよ。あ、ちょうど御膳房から届いたようです」

「食事?」

「凜答応さま、夕餉の膳をお持ちしました」

 侍女の一人が部屋の前に立ち、膳を運んできたことを告げる。


 食事と聞いて、一心の腹が派手に鳴った。

 思えばBBQ会場でも、肉を焼くばかりでほとんど食べていなかった。

「待ってました。あれこれ悩む前にまずは腹ごしらえだな」

 どうして古代中国に来たのか分からない状況だし、元の世界に戻る方法もさっぱりだが、腹が減るのは現実だ。

 まずは飯だ。

 意気揚々とテーブルに走って行く。

 料理研究家としては、この時代の食事がどんなものか興味がある。

 皇帝の妃の食事というからには中国料理の最高峰、満漢全席(マンハンチユエンシー)か。


 あはは! いくらなんでもそれはないだろうが、アワビにフカヒレ、ナマコに燕の巣。高級食材を使ったご馳走に違いない。それに、燕鶯帝と言えば美食家としても有名だ。

 これは絶対、期待できそうだ。


「へへ、どんな飯が出るのか楽しみだ、な……はあ?」

 用意された料理を見た一心は、あんぐりと口を開けた。

 テーブルに並べられた料理は――。


 炒めすぎたのか、傷んでいるのかわからない茶色くなった菜っ葉のようなものと、冷めた饅頭(マントウ)一つのみ。饅頭とは、具が入っていない肉まんのようなものだ。ちなみに中に具を包んだものは包子(パオズ)

「なんだよこれ。たったこれだけか?」

 食事を運んできた侍女は一礼し、無言で退出してしまう。目も合わせようとはしない。

「おいおい、冗談だろ。これが食事だって? てか、こんなんじゃ足りねえよ!」

 一心は指で菜っ葉をつまんで口に放り込む。すぐにペッと吐き出した。

「くっそまずっ。なんか酸っぱいぞ。腐ってんじゃないか! こんなもの食えないだろ」

 家畜の餌よりひどい。いや、家畜だってこんな粗末なものは食べない。


 文句を言うと、林杏が目を細めた。

 彼女の瞳の奥に、凍えるような冷たい光が宿ったような気がして思わず震えた。

「今さら何をおっしゃいますか、凜答応さま」

「そうですよ、いつも文句ひとつ言わずに召し上がるのに、今日に限ってどうしたんですか? やっぱり、変ですね」

「いつも? いつも李凜花は、こんなくそまずい飯を食ってたっていうのか?」

 そもそもこんなものを飯とは言わない。

「そうですよ。はい、お茶をどうぞ」

 詩夏はこくりと頷き、お茶をいれてくれた。


 湯飲みをのぞくと、申し訳程度に色のついた湯だ。湯飲みの縁も欠けている。

 これが皇帝の妃の扱いだというのか。

「林杏や詩夏は何を食べているんだ? ちゃんと食べているのか?」

 一心の問いに林杏は口をつぐみ、詩夏は視線を泳がす。


 なんだこの空気は?


「ええと……」

 迷ったすえに、詩夏はぽつりと答えた。

「私たちも凜答応さまと似たような食事です。日に一度いただけたらよい方かと」

「日に一度だって! こんなまずい飯を食わされるのか? 嘘だろ」

「失礼ながら凜答応さま、我が儘はそこまでに。食事がいただけるだけでもありがたいと思っていただかないと」

「そうじゃない!」

 一心は声を荒らげ、ぐっと手を握りしめた。

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