気が効く侯爵令嬢は、価値のない者には気を遣う事をやめた
読んでいただきありがとうございます。
「はぁ~。もうやめましたわ」
「アンジュ様?なにをやめるのです?」
「あれを見てエマ」
「はぁ~。あのおかっぱ!他の物が入れない離宮とはいえ。。。。。今日も酷いですね」
「エマ。おかっぱは不敬よ」
私付きの侍女のエマを、たしなめながら見下ろす離宮の庭園には、リューク第一王子が取り巻き令嬢達を侍らせ、お茶会なるものを開いている。
「はい、本人には聞かれないよう注意します。
それにしても価値がありませんね」
おかっぱ。いえ。。。リューク第一王子の婚約者である私、アンジュ・ルーセルは、本日を持ちまして、気を遣う事をやめさせていただきました。
当たり前のことをあたり前にだけやらせていただきます。
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リューク 視点
「リューク様、今日もサラサラの御髪が素敵ですわね~」
「ちょっとリューク様の隣は、今日はわたくしの番よ!」
「リューク様のお気に入りはわたくしですわ、ね~リューク様」
「僕のかわいい子鳥たち、喧嘩はしないでおくれ、かわいい顔が台無しだよ」
ぴーちくうるさいな、アンジュの凛とした美しさを少しは見習えばいい、アンジュに嫉妬してほしくて始めたこのお茶会もそろそろ飽きてきたな~。
ここ数週間、アンジュもすっかり姿を見せない。
違う作戦を立てるか。
「それにしてもリューク様、最近の王宮でいただくお茶やお菓子はなんだかあまりおいしくありませんわ、私達が子爵家の出だからと言って、どなたかが、バカにしていらっしゃるのかしら」
「ん?そうなのか」
テーブルのクッキーをひとつ口に入れる。
「普通に美味しいが、たしかに以前はもっと美味しかったな」
「アンジュ様じゃないですかね、きっとリューク様のおそばにいる私達に嫉妬してるんですわ」
ついに嫉妬してくれたのか~♪
チャンス到来、婚約破棄だと言えばあの美しい瞳から涙を零し、婚約破棄はしないで下さいと縋ってくれるに違いない。
「よし行くぞ、婚約破棄だ」
俺は急ぎ、アンジュの執務室へと向かった。
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「アンジュ様お願いです。前の様にご助言いただけませんでしょうか、隣国との交渉がうまく進まないのです」
「アンジュ様、王妃殿下のご機嫌がずっと悪いのです、どの様にすればよいでしょうか?以前の様にご指導いただきたいのです」
「アンジュ様、次の園遊会のスタッフ配置について正しいか見ていただきたいのです」
「アンジュ様、料理長がご相談したいことがあると、以前の様に時間がある時でいいので、お立ち寄りいただく事はできないでしょうか?」
「アンジュ様」
「アンジュ様」
「皆さんは、ちゃんとお仕事できていますわ、私などがアドバイスしなくても大丈夫」
「そんなこと無いです。是非おねがいします」
アンジュの執務室には、宰相の秘書からコック見習いまで、多くの人が集まり助言を求めていた。
「おい!なんだこの人だかりは!通せ」
「あら。リューク殿下。」
「アンジュ!何の騒ぎだ」
「私も皆さんが集まって、第一王子殿下の婚約者としてのわずかな公務も進まなくて困っておりますの」
「お前は王妃教育を受けにここにきているのではないのか?」
「王妃教育でしたら、学院に通っている間に終わっておりますわ」
「教育は終わっておるのか。そうか。。。。! (そうしたら結婚も直ぐに進められるじゃないか)
どうしてその事を私に言わない」
「リューク殿下はお忙しく、なかなかお目にかかれませんので」
私の返事を聞き、リューク殿下が、にやりと笑い宣言した。
「アンジュとは今日をもって婚約破棄する」
「アンジュ、私の小鳥たちに嫉妬して、お茶や菓子の品質を下げ、嫌がらせしているようだな、人に嫌がらせをするような女は、私にふさわしくない」
「婚約破棄、承知いたしました」
私はきれいにカーテシーをし、周りを見渡した。
「荷物は後日家の者が、取りにまいりますので、これで失礼します」
秘書官が宰相を呼びに走る。
「アンジュ様!どうかお考え直し下さい、アンジュ様の何気ない一言や気遣いが、私たちの仕事を円滑にしていたのです。アンジュ様が居なければ、うまく回らないのです」
この場に集まった中で一番位の高い事務官が私を引き留める。
「そんなことありません。小さな問題はあれど、ちゃんと皆さんお仕事されていますから。
誰かが居なければ回らない職場など無いのです。
居ないはいないなりに何とかなりますわ。
それに、お聞きいただいた通り、ただいまリューク第一王子殿下から婚約破棄を言い渡れ、承諾しましたので私の居場所はここにはありません。
それでは失礼します」
「アンジュ様を止めろ!女性陣とにかく物理的にアンジュ様を止めてくれ、早く宰相を!
いやアドルフ殿下を御呼びしろ」
立ち去ろうとする私の前に王宮侍女の方々が立ちはだかる。
「通してくださいませ」
「アンジュ様。。。。おかっぱが、固まったままですが。。。。」
侍女たちと向かい合う私に、エマが耳打ちする。
リューク様に眼を向けると。
顔色を悪くし、固まったままのリュークが立っていた。
「そのうち正気に戻るでしょ」
バタバタと複数の足音が聞こえ、人垣が開いた。
「ルーセル公爵令嬢、どうされました」
アドルフ第二王子と宰相様がなぜか騎士団を引き連れて駆け付けた。
「ただ今リューク殿下から婚約破棄を言い渡され、承諾いたしましたのでお暇させていただくところですわ」
「ルーセル公爵令嬢の危機だと聞き駆け付けたが。。。。。」
リューク殿下は未だに固まったままだ。
「気絶してるんですかね?」
エマがまた耳打ちする。
「気絶してたら倒れるでしょ。さあ帰るわよ」
「それでは皆様ごきげんよう」
もう一度みんなを見回し、何度目かの挨拶をして立ち去ろうとするが、今度は宰相様が私を引き留める。
「ルーセル公爵令嬢の様な細やかな対応ができる方は他にはいません。あなたは王宮に必要な方だ。
どうか考え直してください」
ぶち!!堪忍袋の緒が切れた。
「何度も申していますように、私は今、リューク殿下から、婚約破棄を言い渡され、承諾いたしましたので失礼いたしますわ」
「アンジュ様~。
アンジュ様、見捨てないでください。」
みなが口々に名前を呼び、私に迫ってくる。
エマが私の前に出ようとするのを制し、私は声を上げた。
「私は、細やかな気遣いも致しますが、その反対もできますのよ!
これ以上私を引き留めるのなら、覚悟はできているのでしょうね!!」
場の空気は静まり、皆が動きを止めた。
「かっこいい」
アドルフ第二王子がキラキラした笑顔で私の前で跪く。
「ルーセル公爵令嬢、いやアンジュ様。
私は今、あなたに心を奪われました。
兄の婚約者として、皆に丁寧で優しい方だとは感じておりましたが
あなたはそれだけではない芯のあるお方だ。
こんな場での急な申し出ですが、私は真剣にあなたとの未来を築きたい」
私に手を差し伸べる、真直ぐな瞳に、思わず頬が赤くなる。
アドルフ第二王子が、誠実な好青年であることは知っている。
婚約破棄され、啖呵を切ったばかりの私に放たれた直球に、私の気持ちはぐらりと傾いた。
その気持ちを自覚したとたん、耳まで赤くなる。
「アンジュ様、熱でもありますか?」
エマがまた囁く。
「エマ!」
私は小さくエマを肘で突く。
「アドルフ様。急な申し出ですので、正直戸惑っております」
私はアドルフ様の手を取りほほ笑んだ。
「かわいい。。。アンジュ様は、そのような表情もなさるのですね、あなたを笑顔にできるよう、守れるよう頑張りますので、どうか前向きに私の事を考えてください。
まずは、ルーセル公爵に今日の出来事を説明しなければなりませんね。
私も共にこのまま公爵閣下に説明に参りましょう。
アンジュ様が気を回さなくても私が道を開いて見せます」
私は立ち上がったアドルフ様を見上げ、こくりと頷いた。
「では参りましょう」
「アドルフ様素敵」
「アドルフ殿下、アンジュ様を必ず射止めてください」
「お幸せに~」
皆が私たちを祝福する歓喜の声を上げる中、私はアドルフ様と公爵家に向かった。
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そのあとお父様も私も、アドルフ様の熱烈なアプローチに直ぐに篭絡した。
アドルフ様は有言実行。
あのあとようやく回路がつながり、婚約破棄などしないと暴れたリューク様を、療養のためという理由で、離宮に幽閉。
国王陛下にリューク様と私の婚姻白紙を承諾させ。私との婚約を勝ち取った。
そして私は、またここ(執務室)に戻ってきてしまった。
でも前とは違い、今はあたたかな空間だ。
「ジア、そろそろお茶にしないかい?」
「はい。アディ、そうしましょう。今日は公爵家のシェフが作った焼き菓子を持ってきました、アディ好きでしょう」
「アンジュ様、お顔が緩んでますよ」
「もう。エマ!」
~ 終わり ~
いつも誤字脱字などありがとうございます。
人の親切は常になるとありがたみがわからなくなりますよね~(#^^#)
第一王子も優しさに甘えておりました。




