第九話 隠しルートの調査依頼
黒神所長と僕たちが椅子に座ったところで、また喋りだす。
「まあ“あのこと”は咲夜君から話した方がいいだろう。今は隠しルートの話だね」
僕は内心不満げな気持ちを抑えられなかったが、橘先輩の方を見たときにその気持ちは治まった。
橘先輩は顔を赤らめながら僕の方を見て、すごくアワアワしていたのだ。控えめに言ってヤバいくらい可愛すぎた。ちょっと鼻血が出そうだった。
「咲夜君は……今はちょっとダメそうだね。仁君は隠しルートの可能性を見つけた訳だが、本当にあると思っているのかい?」
「はい。ダンジョン・アナリストの解析で出た情報が嘘だとは思えません」
「ダンジョン・アナリストか……。普通の役人は信じないだろうが、私はその職業について知見があってね。君の言葉を十分信じられる」
「知見? 公式でも情報は調べ中だと出ていたのに黒神所長は何を知っているんですか?」
僕は少し食い気味に黒神所長の話に食いつく。この人は何を知っているのか。それが“知りたかった”んだ。
「それに関しては今は教えられない。だが君は知りたいだろう?」
「はい」
「ならば、咲夜君と二人で隠しルートを見つけて探索するんだ。あ、そうそうこれも渡しておこう」
黒神所長は、何もない空間から一本の筆をとりだす。僕と橘先輩は呆気にとられる。
「黒神所長、それは……『アイテムボックス』ですか⁉」
橘先輩は、黒神所長のしたことを『アイテムボックス』だと言った。そういえば、ステータス欄にあったな。
「ああ、そうだよ。咲夜君には見せたことはなかったね。仁君はあることを知っていたようだが」
「ええ、“見ました”から。それでその筆はどう使えばいいんですか? どんな力があるんですか?」
「これは私の先祖から伝わる、大事な筆でね。これを仁君に託そう。仁君は、隠しルートにつながる入口の前で“解”と空中に描いてくれればいい」
「それは……まるで黒神所長は……」
僕がハッとあることに気づくと、黒神所長はにこやかな笑顔を見せる。
「おっとこれ以上は話は無しだ。隠しルートの探索については君たちに依頼という形でお願いしよう。いいね」
「はい。橘先輩もいいですか・」
「う、うん。任せるよ」
「では、よろしく頼むよ」
そう言って、僕たちは解散した。
話が終わった後、岐富探索者支援センターの買取窓口に行って買取をしてもらう。
出すのはスライムジェル 二つと稀少ジェル(青)一つだ。
買取価格はスライムジェルは一個千円。
稀少ジェル(青)は一個五千円だった。
「え、こんなに高いんですか?」
僕がさっきのポニーテールのお姉さんにびっくりして聞くと、お姉さんはにっこりとして話してくれる。
「ええ、時価で価格は変わるので一概には言えませんが、これくらいの価格ですよ」
「へースライム狩りに来る人たちがいるわけだなあ」
「美容系の会社が高値で買い取ってくれるそうですよ」
「なるほど」
「あと申し遅れました。私、如月 楓と申します。以降お見知りおきを」
僕はポニーテールのお姉さんの笑顔に見とれる。橘先輩は美人でクールな感じだが椎名さんは可愛い系で守ってあげたくなる感じだ。
しばらく見とれていると、二の腕の裏を誰かにつねられる。
「いてっ!」
慌てて、橘先輩の方を見るとふくれっ面でそっぽを向いていた。
苦笑いをした如月さんからお金を受け取るとずかずかと外に行く橘先輩を追いかける。
「橘先輩! お金を二等分しましょうって!」
「いらない」
「え? それは困ります。ちゃんと二等分にして――」
「今日はダンジョンデビューした新人のお祝いってことにしよう」
「そんな訳にはいかないですよ」
「じゃあ美味しいもの奢って?」
僕は悩んだ末、それならいいかと決断した。
「うーん、それならいいか。でもあんまりご飯屋さん知らないんですよね……」
「じゃあ、私のおすすめのところに行こうか」
「高いところは……」
「アハハ、そんなに値段しないから、大丈夫」
岐富探索者支援センターの駐車場に着くと橘先輩の車に案内される。
車は国産の高級車だった。どうやって買ったのかと聞くと親に譲ってもらったらしい。
流石名家。お金持ちだ。
橘先輩の運転で、長良川の橋を越えて北に向かう。
それから十五分くらいして、お店に着いた。
「ここだよ、仁君」
お店の名前は「やっぱりどて煮 岐富」
入口の暖簾がゆらっとしていて中から、美味しそうな匂いが漂ってくる。
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