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第六話 初狩りと仁のゴブリンとの初戦闘

「それで初狩りについて聞きたいんですけど」

「言っておくが、私も詳しくはないぞ? 初狩りというのはダンジョンができて七年位前から観測されている一部モンスターの異常な強化についてだな」

「さっきのゴブリンは元々あれくらい強いわけではないと?」


 さっきのゴブリンはRPGの始まりの地としてはありえないくらい強かった。そして探索者支援センターでもあの情報はなかった。


「初狩りは、ある種のダンジョンを舐めるようなものがいないように作られたシステムだと考えられている。今回は私が倒したが負けてもダンジョンの初めの場所に戻されるだけで死ぬわけではないんだ」


「なるほど。だから探索者支援センターでも初狩りについては情報を言わずにその強さを体感してもらうことにしているんですね」


「その通りだ」


 ちなみに戦闘中に叫んでいた「加速術ブースト・リズム」と「見切り」は橘先輩の持っているスキルらしい。時間があればもっと詳しく聞きたいな。


 それにしても初狩りは、ダンジョン側が探索者を正しく導くために作られたシステムみたいだ。僕はおぼろげに会場で出会ったシルクハットおじさんなら何か知ってるかもなと思った。まあこの場にシルクハットおじさんはいなかったけど。


「やっぱり新しいことを“知る”って楽しいなあ」

「うんうん、やっぱり君はアナリストだね」


 橘先輩は優しい笑みを浮かべていた。


 その後ひと段落してからさっきの初狩りを倒した場所に戻ってきた。現場には布切れが残されていた。ちなみにゴブリンからも魔石が落ちるときもあるらしい。


「うん、これはゴミだね。私はいらないけど持って帰るかい?」

「ちょっと待ってください。何かの模様があるような……」

「そうかい? 私には見えないけど」

 橘先輩はいぶかしげな表情を見せる。


「ちょっとメモ帳に模写しますね」


 僕はゴブリンが落とした布切れに書かれていた模様をメモ帳の新しいページに模写した。

「何かの地図の一部に見えますね」

「もしかしたらほかのゴブリンを倒せば、布の切れ端が見つかるかもね」



「仁君、ゴブリン狩りやってみるかい?」

「それは……」


 僕にもできる……のか?


 あの時の 橘先輩の圧倒的な戦いぶりを目の当たりにして、僕は言葉を失っていた。


 橘先輩はすごい……本当に、強いんだ……。


 ゴブリンがあんな動きをするなんて思いもしなかった。あんなの、僕一人じゃ絶対勝てなかった。橘先輩がいなかったら……と想像して、背筋がすっと冷たくなる。


「仁君も戦いたいだろう?」


 橘先輩が少しだけ顔をのぞかせて、穏やかに微笑んだ。その笑顔は優しくて、だけどほんの少しだけ――試すような光を宿していた気がした。


 僕はスタンロッドを握りしめる。手のひらにはじっとりと汗が滲んでいた。

「大丈夫。君ならできる。私がちゃんとフォローするから」

 橘先輩はそう言って笑ったけど、その声にはわずかに緊張が混じっていた。


「……はい」


 自分の声が思ったよりも震えていた。だけど、逃げ出す気はなかった。逃げちゃダメだ、って心のどこかで誰かが叫んでいた。


 ――だって、僕は知りたいんだ。

 ダンジョンのこと。職業のこと。自分自身の可能性のこと。

 ただの「地味職」で終わるなんて、嫌だから。


 そんな思いを胸に抱えて、僕はゆっくりと前に歩き出す。

 すると、ヒカリゴケがぼんやりと照らす先、揺れる影の中にそれはいた。

「スライムじゃない……ゴブリンだ」

 さっきのような黒いもやはまとっていない。たぶん、普通の個体だ。


 僕は息を深く吸い、そして吐く。スタンロッドを構える。メモ帳と万年筆は腰のホルダーにちゃんとしまってある。いける。いける……はず。

「仁君、落ち着いて。相手の動きをよく見て」


 橘先輩の声が、背中をそっと押してくれる。

 ――さあ、僕の初戦闘が始まる。


「ゴブリン! かかってこい!!」


 自分の不安をあえて圧し潰すように声を出す。スポーツでも声を出すことは動きをよくするうえで重要だった。


 ついでに解析アナライズも使っておこう。


 ゴブリン:危険度ランクF

 動きは早くもなく遅くもない。武器の素材によって危険度ランクが変わる。

 耐久力もそこまでない。


「よし、これなら行ける!」


 僕はロッドを構えた。その瞬間、冷たい金属の感触が手に伝わる。息を一つ整えて、僕は前を見る。


 その後、僕はバドミントンをやっていたころを思い出す。スタンロッドは先が棒であることを除けばラケットに似ている。


「このゴブリン、右利きに見えるけど…いや、左足に体重かけすぎ。突撃型かも」


「ゲギャギャ!」


 思った通り、ゴブリンが突撃してくる。先ほどの初狩りゴブリンとは違って動きも緩慢だったしフットワークも全然違った。


 だから僕は瞬時に近づいてスタンロッドをゴブリンの頭に向けて叩く。これはシャトルをネット前で相手のコートに落とすプッシュに似ていた。


「グギャギャギャ!」


 相手の頭にスタンロッドがヒット! 僕は独特のフットワークですぐに相手の所から離れる。するとゴブリンは棍棒を振り回して泣きわめく。


「解析!」


 ゴブリンの前方左方向にトラップが見える。起動方法は壁面に探索者が触れること。ならば! 僕は壁面に自ら触りに行き、トラップを起動する。木の矢が穴から飛び出す仕掛けだ。


 僕は自らが木の矢に当たらない位置から壁面を触る準備をして、ゴブリンが罠の位置に来るのを待つ。そして……。


「グギャギャギャ!」

「今だ!」


 壁面を触ると、木の矢がゴブリンに突き刺さる。その一撃でゴブリンは死に至った。

 ゴブリンは黒い靄となる。


 こうしてあっけなく初のゴブリン狩りを勝利で終えることができた。


「仁君、やったね」

「はい。なんか途中からバドミントンしてる気分になってました。でもトラップをうまく使えたのはよかったです」

「うん、動きがすごいそれっぽかった。トラップの使い方も見事だね」


 ちょっとだけ、クスクス、橘先輩が笑ってる。

 笑う橘先輩は可愛いし、絵になるし最高やな!


「そういうふうに笑う橘先輩もいいですね」

「ん~~。なんか恥ずかしい」


 しばらく談笑しながらゴブリンが落とした布の切れ端を眺める僕たち。


「仁君、その切れ端にも模様が書いてあるの?」

「はい、模様が書いてあります。そういえばスキルを使ってなかった。解析のスキルを使います。解析!」



 布の切れ端を解析すると……。


 布の切れ端:隠しルートに至る地図の切れ端になっている。その模様はダンジョン・アナリストにしか見えない。


 必要枚数:五分の二


 橘先輩にそれを話すと、難しい表情を見せる。

「んー。一応岐富探索者支援センターにも話しておいた方がいい気がするよ? ダンジョンに隠しルートがあるなんて前代未聞だから」


「でもそこで見つかったものが取られたら嫌ですよ? そもそも信じてもらえない可能性の方が高いし」


「それはそうかも……」


 二人で話し合った結果、僕らは隠しルートを見つけてそこを探索した後、岐富探索者支援センターに報告することにした。


小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。

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