第五話 いざ長良川ダンジョンへ!
僕と橘先輩は、長良川ダンジョンに向かう渡し船に乗って中州へと向かった。
春の心地よい日差しが、川面に揺れていた。
「……いよいよだね、仁君。緊張してる?
「ええ、まあ。だってこれが初ダンジョンですから」
「大丈夫。最初はみんなビビッてるもんさ。いこうか」
川のせせらぎと共に、僕たちは初めてのダンジョンに足を踏み入れた。
「洞窟型のダンジョンなんですね。まあ、テレビの映像で見たことはありましたけど」
「このダンジョンは、一階から三階までは洞窟型のダンジョンになってるよ」
初めての長良川ダンジョンはじめじめとした湿気を感じるダンジョンだった。洞窟の中にはヒカリゴケというべき発光する苔がダンジョン内を照らしていた。ただそれだけでは足りないのでLEDのランタンがダンジョン内に置かれていた。
「さあ、行こうか。一階にいるモンスターは知ってる?」
「ゴブリンとスライムですよね? 長良川ダンジョンはどれくらい階層があるんでしたっけ?」
「そうだね。長良川ダンジョンは十階層までしかない浅層ダンジョンだよ。だから難易度が低くて、初心者向けって言われているんだ」
「なるほど、十階層までしかないんですね」
橘先輩と喋りながら、長良川ダンジョンを進んでいると早速左と右に進む分かれ道が出てくる。
「左は二階に行く道で、右はモンスターが時々出てくる道になってるよ。どっちに行く?」
「じゃあ右に行きましょう」
「まあ戦闘をしてみたいよね。右に行こう」
右の道を進んでいるとついに初モンスターに出会う。それは……。
「スライムですね」
「そうだよ。正確には湿地スライムというらしい。倒してみるといいよ」
ポヨンポヨンと跳ねているだけで襲ってくる様子を見せないのだが、モンスターはモンスターなので、腰に装着していたスタンロッドを取り出して湿地スライムに向けて構える。
「ていやああああっ!!」
僕は掛け声を出してスタンロッドでスライムを思いっきり核めがけて振るった。
粘膜を突き破った時、柔らかい感触を手に感じた。
スタンロッドはスタンガンと同じくビリっと電流が流れる仕様なので柔らかい粘膜を突き抜けて核にあたると電流が流れて、痙攣すると青いガラス瓶に入ったジェルを残して消えた。
「初ドロップ品だね。湿地スライムは星一ランクだからアイテムがドロップしないことの方が多いんだけどね」
「これはスライムジェルですか? 確か安いけど薬品素材に使えるっていう」
「そうだよ。他にも稀少ジェル(青)とかスライム核は買取価格が高いね。後稀に魔石も落ちるよ」
湿地スライムは死のリスクがなく、狩れる最弱スライムとして有名だ。そのため、主婦の方がストレス発散を兼ねて狩りに来るとニュースでやっていたことがあった。
モンスターのランクは星一から星十まであり、その上のランクまであるとされている。
僕たち以外にも長良川ダンジョンに人は勿論来ている。探索者になりたての高卒の学生や主婦パーティーの人も多かった。
僕は青いジェルを回収するとふうと一息つく。
「どうだった? 初戦闘は?」
「なんかあっけなかったですね。もっと戦ったって感じの方が……」
「ははははは! それならゴブリンと戦ってみるといいよ」
「ゴブリンは強いんですか?」
「まあ、私の口から言うとあれだから黙っておくよ」
何故かもったいぶる先輩に僕は疑念を持ちつつ、近場のスライムを倒しながら奥に進んだ。
スライムを十五体くらい倒してドロップ品はスライムジェル二つと稀少ジェル(青)一つだった。
「それにしても仁君は中々ドロップ品が多いね。運は普通なんだろう?」
「そうなんですかね。ステータスの運は普通くらいでしたよ。他の人はは何割くらいですか?」
「そうだね、一割もあればいい方だろう。それがどうだ、三割はドロップしてるだろ?」
「確かに」
話しながら進んでいるとお目当てのモンスターがいた。緑色の肌に尖った耳をしたモンスター。ゴブリンだ。だが何故か黒い靄のようなものを纏っていた。
「最初の戦闘は私に任せてほしい。初心者が一番怪我をしやすいのがこのゴブリンだ」
「ゴブリンなのに?」
「そうだ」
橘先輩は嘘をついているように見えなかった。なので僕はメモ帳を腰のホルダーから取り出しながら、ゴブリンの戦闘の様子を観察することにした。
橘先輩はどこからか召喚した大斧を取り出して、油断なくゴブリンに構える。一方ゴブリンはゲギャギャっと気味の悪い声を出しながら棍棒を構える。
両者がにらみ合う中、周りの探索者がその様子を見ながら小声で話しているのが聞こえてきた。
「お、今年の初狩りはどれくらい動くんだろうなあ」
「見た目が普通のゴブリンなのに、あんな動きをするのがおかしいんだよな」
ゴブリンが仕掛けた! 意外にもすばしっこい、巧みなフットワークを見せながら橘先輩の様子をうかがう。
ゴブリンは橘先輩が揺らいだ隙を見逃さず、頭に棍棒を力の限り振るう。
「見切り」
ブルゥ! 頭に向けて振るわれた棍棒の動きを最小限で躱す橘先輩。
カウンターで大斧を下から振り上げるとゴブリンは素早いバックステップでそれを避ける。橘先輩は追撃しながら、叫ぶ。
「加速術。リヴェルス――加速するよ!」
橘先輩の体に白い霧のようなぼんやりとした光が纏わりつく。
橘先輩の動きは加速し、光が線を引くような速さでゴブリンに向かっていく。
そのままゴブリンと大斧と棍棒の鍔迫り合いに入る。
何合か打ち合うと、ゴブリンの棍棒はどんどんひびが入っていき、ついには壊れてしまう。
ゴブリンはもう打つ手がない。しかし、何故かあきらめた様子を見せない。
ゴブリンは洞窟の壁に向かって走り出した。
「逃げたか。だが例年の初狩りならここで……」
「ああ……あれだよな」
ゴブリンは壁に向かった後跳びあがり、三角跳びを見せながら橘先輩に向かう。
黒い靄がゴブリンの肌にまとわりつき、その鋭い犬歯で橘先輩を食いちぎろうとするが……。
「初狩りよ、安らかに眠れ」
白い靄をさらに光らせた橘先輩は、大斧を音速の速さで一閃――。
ゴブリンは上半身と下半身を真っ二つに分かれて死んだ。
「うおおおおおおおお! 初狩り撃破!!」
「クールビューティ―な橘家の探索者!! 流石名家のお嬢様だぜ」
「ソロで潜ってるのに探索者ランクCに上がった岐富の探索者のホープは強いな」
周りの探索者たちが大喜びで騒いでいる。だが僕の知らない情報がいっぱいあったので固まってしまった。
「え? 橘先輩が名家のお嬢様? 探索者ランクC? それに初狩りについても気になるし.……」
橘先輩は恥ずかしそうに俯いていた。
「仁君。メモは取れたかい?」
「ええ。ゴブリンの行動パターンは大体書きましたけど……」
「ならいい。周りが騒がしいからほかの場所に行こう」
橘先輩は僕の手を取って、顔を赤くしながら人のいない方に歩いていく。
「橘先輩って名家のお嬢様なんですか?」
「うっ、それはだな。まあその生まれは名家に当たるかな」
何と話を聞くと岐富城をたて、天下統一の夢を見た歴史的に有名な黒田 信影の家来として有名だった武将の橘家の末裔で長女として生まれたらしい。
そのため、武道の稽古は幼いころから当たり前のようにあったとのこと。
「そんなに強いのに何でソロで潜ってるんですか?」
「家が色々と厳しくてな……パーティーを組むとその……」
「その……?」
橘先輩の顔は紅潮して、耳まで赤くなっていた。
「いや、これはまだ言えないな」
「はあ。まあ深くは聞かないでおきます」
「探索者ランクCなのはなんで言わなかったんですか?」
「言ったら、一緒にパーティーを組んでくれないかなと思ってだな」
「まあ、そりゃ、遠慮はしますけど」
橘先輩はふうと息をついて、また話し出す。
「私は探索者たちのホープなんかじゃない。たまたま運よくランクが上がっただけなんだ。だからこういう扱いは好きじゃない。だから仁君は普通に接してくれないかな?」
なるほど、橘先輩は名家に生まれたりとかで特別扱いされることが多かったんだろうな。僕はバドミントン部の頃から橘先輩に良く絡みに行ってたからそういうのがなくて心地よかったてのもあるんだろう。
「わかりました。橘先輩は橘先輩ですからね。特別扱いは無しで行きます」
「ありがとう」
「でも僕にとってはあこがれの先輩ですからね」
「はうぅ」
「はう?」
「いや何でもない……」
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