第二十五話 竹田琴葉と金ヶ瀬商店街
「あたしは竹田 琴葉っちゅうもんや。あんたの名前は?」
「青井仁ですけど」
「そうか、仁はんか。でもな、覚えといてや。あんたはあたしの恋敵や!」
なんかものすごく敵視されてるのでどういう理由なのか聞くと……。
「なんや? そんなもん当たり前やろ! 遥はんを獲ったのはお前やろ。遥はんは私と付き合ってたんやから!」
遥に確認すると、全然付き合ってないとのこと。
「あたしといちゃいちゃしよ~や~」
「はあ、まだ一日しかパーティー組んでないのにこんな感じなんだよ」
「(遥はんはあたしのもんやで! 絶対仁はんには渡さん!)」
心情解析でも竹田さんの決意が伝わってくる。まあ遥には悪いけどこのままにしとこう。
ここでちょっと変な空気になった時に八百屋のおっちゃんが何かを言おうとして立ち上がった時に腰を痛めてしまった。
「こんな時にはあたしに任せとき! ヒールライト!」
痛そうに座り込んでいたおっちゃんはスクッと立ち上がり、声をあげている。
「うおおおお! わしの腰が痛くない!」
僕はこのヒールライトは普通のヒールと違うことに気づいた。通常のヒールは遠隔の人に飛ばすことはできない。だが竹田 琴葉さんはそれをやってのけた。
この人が橘家のご先祖様が求めていた癒しの力を使える存在に違いないと僕は思い、咲夜先輩の方を見ると、うんうんと声は出さずに頷いていた。
欲しいな、うちのパーティーに。僕が竹田さんに認められればパーティーに入ってくれるかもしれない。
竹田さんは黒髪でボブのふんわりとした髪型だが目つきは鋭い猫目だ。咲夜先輩や遥も相当な美人だが、竹田さんもそれに漏れず、美人といえるだろう。
「絶対に遥はんは渡さんからな!」
ちょっと残念美人だけど……。
そんなこんながあったが黒神所長と竹田 琴葉さんにも記憶再写を見てもらうことになった。
途中までは同じシーンだったが黒神所長と竹田さんは感慨深そうに見ていた。
そして先ほどは映らなかったシルクハット風のおじさんと土地神様の契約のシーンが映る。
「本当によろしいのですね? あなたの命を担保にして金ヶ瀬商店街にダンジョンを作る。それはあなたはダンジョンの主となることと同意義ですよ?」
「くどい。妾の命が金ヶ瀬ダンジョンの新たな希望となり、喜びとなるのであればそれでいいのじゃ」
「ちなみに場所はどうしますか?」
「妾が姿をあらわにしても無料で食事を出してくれた料理屋があっての。そこにしたいのじゃ」
「なるほど。私が直接行ってその料理屋を見てきましょう。では……」
「「契約!」」
光る紙にさらさらと筆でサインをした後、少女の姿はひらひらと花弁が散るようにその姿をなくし、光る球体となった。
「ふむ。これで私の計画通り、ダンジョンを増やすことができました。あの少年は仲間とともに来てくれるでしょうか?」
最後はまるでカメラの位置を知っているかのようにこちらを向いて、シルクハットをはずして優雅に一礼する。
記憶はここで途切れた。
**
少しの間、静寂に包まれた後、竹田さんが口を開く。
「あの女の子、まだあたしが幼いころ、うちの店に来てたんや。他のお客さんがいない時に来てな。家の父さんは笑顔でオムライスとかカレーを作ってあげてたんや……」
「竹田さんのお父さんは霊感とかある人だったの?」
僕が聞くと、少しだけこちらをじっと見て答える。
「そうや、昔からこの商店街には神様がおる言うてな、調理場に神棚を作ってたんや。あの子が来た後は毎回神棚に手を叩いてお祈りしてたから私もあの子がそうなんやってうすうす思うてた」
「そうなんだ」
「でもな、あの子がなんで犠牲になってダンジョンの主にならなあかん? あの子の命はどうなるんや」
「それは……」
「私は絶対、あの子の命を無駄にしたくない。それがあの子の決意に、いや契約に報いる形になるなら……。そしてあの怪しいシルクハット野郎はぶっ飛ばす。それがあたしの思いや」
竹田さんの決意にみんなの心が胸を打たれる。そうだよな、神様の命を代償にダンジョンを作るなんて許されるものではない。
それにシルクハットおじさんは何かを狙ってダンジョンを増やしているように見えた。その目的はわからないけど。金ヶ瀬ダンジョンがどんなダンジョンであろうと僕達が攻略して金ヶ瀬商店街にどんな影響をもたらすものか調査しなければいけない。
それにこれは確証がないからまだ言えないけど、シルクハットおじさんはダンジョンにいる“モンスター”が外身だけ整えている気がするんだ。ダンジョンからモンスターが出るなんて前代未聞なんだけどね。
黒神所長も口を開く。
「この契約は”代償型“であり、土地神様が自らの命と引き換えに周囲の穢れた魔力をダンジョンに集め、浄化した可能性があります」
五十嵐兄妹も口を開く。
「ダンジョンを通じて、土地神様の決意に触れるのかもな」
「……土地神様の決意を無駄にしたくない」
「そうだね。土地神様の記憶と決意を無駄にしないためにも金ヶ瀬ダンジョンを攻略しましょう」
僕達六人や喫茶店の中にいた人たちの視線が黒神所長に集まる。
「では、君達六人に非公式ですが、金ヶ瀬ダンジョンの先見調査隊を頼みます。良いですね?」
「はい!」
「承った」
「おうよ!」
「所長、託されたぜ」
「……わかった」
「あの子のためにやりまっせ!」
僕達は土地神様や金ヶ瀬商店街の思いを背負って、ダンジョンに潜ることになった。
次回、金ヶ瀬ダンジョン、突入開始!
小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。




