第二十四話 金ヶ瀬商店街の記憶
僕達は深い海の底に沈んでから、一気に海面まで上がっていったような感覚を覚えた。
海面からの風景は、金ヶ瀬商店街の過去の記憶だった。
「いらっしゃい! 今日は特売日だよ! 野菜が安いよ、いかがかな~」
「おじちゃん、今日はどの野菜が安いんだい?」
「今日はブロッコリーと白菜だよ!」
先ほど見た人気のない八百屋ではなく、人が朝から混雑する金ヶ瀬商店街だった。
シャッター街だった場所は服屋と八百屋にパチンコ屋などとにかく色々な業種のお店が並んでいた。
白いワンピースを着た小さな女の子が“宙”を漂いながら、嬉しそうに金ヶ瀬商店街の様子を見つめている。
「ふむふむ、我が金ヶ瀬商店街は今日も盛況じゃ!」
どうやら記憶再写はこの女の子の目線の記憶のようだ。
少女は金ヶ瀬商店街の劇場通りや百貨店の金島屋の前を空を飛ぶように駆けながらくるくると回っていた。
これがいつ頃の金ヶ瀬商店街かはわからないが、昔はものすごく栄えていたのだろう。
ザザザッ!
記憶にブラウン管のテレビの砂嵐のようなものが映る。少女は一瞬苦しそうな顔をする。
「むっ! またか! 何か穢れのような魔力を感じる。だがどこから漏れているのかわからぬ……もしや岐富全体の問題なのじゃろうか。妾の力では何もできぬが……」
その穢れのような魔力は段々と金ヶ瀬商店街を蝕んでいく。
表向きは被害はなく、爆発や破壊もなかった。ただ、大気中に「微細な魔力の汚染」が広がっただけ。
だが、金ヶ瀬商店街を不運が襲い始める。近隣県の愛衣知県の中心部の奈古屋市の発展による岐富市の中心部の空洞化。
店舗の売り上げがだんだんと落ち始めた。金ヶ瀬商店街に住んでいる人たちの相次ぐ体調不良が続いた。
花街では揉め事が多くなり、治安や評判も悪くなった。
「最近、金ヶ瀬商店街に悪いことが続くなあ」
「もうだめなのかしらね」
八百屋の前での人々の会話も変わってしまった。段々と人も離れていく。
純白のワンピースを着ていた少女はいつの間にか真っ黒のボロボロのワンピースを着て沈んでいる。
「妾の力がないせいで、金ヶ瀬商店街は変わってしまった……」
そこにシルクハットをかぶった長身の中年男性が少女に話しかける。
「おやおや、ここの商店街の土地神様ですか? ずいぶんと薄汚れた格好をしていますね」
「お主、何者じゃ。妾の姿が見えるのか? 妾は穢れた魔力に汚染されてしまった。もう長くないじゃろう」
少女は楽しそうに“宙”を駆けていたころの元気は見えなかった。ゲホゲホと咳をしていて苦しそうだ。
「貴方とこの商店街を救う方法が一つだけありますよ?」
シルクハットおじさんは怪しげな空気を漂わせながら、冷たい笑顔で営業トークを繰り出す。
少女は藁にもすがる思いでその話を聞くのであった。
……金ヶ瀬商店街の記憶はここで途切れた。
**
「金ヶ瀬商店街が空洞化した理由に魔力災害もあったなんて……」
「あの少女は何者なんだろう。金ヶ瀬商店街を見守ってきた存在か」
「まさか土地神様がいるなんてな。にしても魔力災害とは何なんだ?」
僕達は口々に話始める。
周りの人たちも少し沈んだ様子でボソボソと喋っていた。
「あの怪しいシルクハット野郎は何者なんだ? もしかしてダンジョンができたのはあいつのせいか?」
今喋っているのは金ヶ瀬商店街の元八百屋さんの店主らしい。大分腰が曲がってきていて記憶の映像よりもだいぶ老けていた。
「それはそうだろう。最後の記憶の部分で土地神様とあいつは何らかの取引をしたんだろう」
「うっ、うー、うっ、グスッ。土地神様は最後までこの商店街を見守ってくれてたのね」
今泣いている人は喫茶 しょぱーんを経営しているおばあさんだ。
喫茶店にいた人たちが色々なことをしゃべりながら、何らかの感情を見せていた。
感涙して泣いている人も多かった。
目の前の席にいた長身の茶髪の男性は何かを考え込んでいた。
フードをかぶった小柄な女性はその男性の裾を引っ張って小声で話しかけていた。
喫茶店内のざわめきが収まったところで長身の茶髪の男性が僕達に話しかけてきた。
「貴重なものを見せてくれてありがとな。お前さんは何者なんだ? あ、まだ名前を名乗ってなかったな。俺は五十嵐 徹って名前だ。こっちは妹の透子だ」
「……透子」
「僕は青井 仁です。ダンジョンアナリストって職業で頑張ってるしがない探索者ですよ」
「私は橘 咲夜です。仁君と同じパーティーなの」
「俺は火車 遥だ。俺も仁と同じパーティーだぜ」
「なるほどな。ここにいるのは、金ヶ瀬商店街のダンジョンに興味があるからだろ?」
「そうですよ。この商店街には子供のころからお世話になってますからね」
「俺はパーティーメンバーに頼まれてたってのもあるけどな。あっ、そう言えばパーティー抜けるって言ってなかったな……」
遥はあちゃ~と顔をゆがませて、怒られる……と沈んでいた。一日しかパーティーを組んでいないわりには信頼していたパーティだったのだろう。
「提案なんだが、もし黒神所長に依頼されたら一緒に金ヶ瀬ダンジョンに潜らないか? さっきの記憶を見て、金ヶ瀬ダンジョンには何かがあると感じたんだ」
「何かとは?」
「金ヶ瀬商店街を活性化させるための特産品だよ」
「それは興味深いですね。五十嵐君たちと青井君たち」
カランコロンとベルが鳴り、まるで最初から聞いていたかのように白髪の中年男性が現れる。正体は勿論黒神所長だった。後ろには僕らと同じくらいの探索者のような女の人もついてきていた。
「ちょうど君たちに依頼をしたいと思っていたのですよ。電話を掛ける前に美味しいモーニングで落ち着こうと思っていたのですが手間が省けましたね」
「黒神所長、後ろの女の人は?」
「仁、あいつはダンジョンができた料理屋の一人娘で“元”同じパーティーの……」
「なんや? 何で“元”って言うんや。しかも隣にちっこい男連れとる。はあ遥にとってうちらは一日だけの関係やったんやなあ。はああ、嫌やわ~」
関西弁だが岐阜っぽい喋り方の女の人は口では悲しそうに言いながらも、僕を思いっきり睨みつけてきた。これは一筋縄でいかなそうだ。
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