第二十三話 金ヶ瀬商店街とダンジョン
ストック数が減ってきたので週三回投稿に変更します。ご了承ください。
翌朝、僕と咲夜先輩と遥は金ヶ瀬商店街に来ていた。
勿論金ヶ瀬商店街にできたダンジョンを調査するためだ。
商店街の路地を奥に行った一角の料理屋の前に市役所の人らしきスーツを着た団体がいた。その中には……。
「あれ? 僕の眼が正しければ、あそこに黒神所長居ない?」
「本当だね。岐富市探索者支援センターにも通報が入ったのかもしれない」
「それにしてもおっかない人だな。ボクシングやらせてもどっかの団体でチャンピォン獲れるくらいには強そうだ」
白髪をオールバックに固めた、柔和だが中に”鬼”を秘めた姿がそこにあった。
市役所の人相手に威圧をバンバン飛ばしてる。
君子危うきに近寄らずだ。
「なんか危なそうだし、僕たちは後で行こうよ。とりあえず金ヶ瀬商店街を探索しよう。
僕達はその場を離れて、商店街を歩き始めた。黒神所長がちらっとこっちを見たような気がしたがあえて気づかないふりをした。
**
僕達は金ヶ瀬商店街の劇場通りを歩いていた。平日で金島屋という名前の老舗百貨店があるにもかかわらず、そこまで人の通りは多くなかった。
「なんか昔よりも人が少なくなった気がするなあ」
「私も昔金島屋に、家族で来た頃より減った気がするよ」
「懐かしいな。俺も仁の家族に連れてきてもらって、金島屋で大判焼き買ってもらったことを思い出す」
僕も覚えてる。遥のお兄ちゃんも一緒に来ていた。大判焼きを買ってもらったな。しっかり詰まったあんことしっとりとした皮が好きだった。
三人でぶらぶらと商店街を探索しているとシャッターのしまった店も増えてきた。古びた喫茶店や八百屋などの名残を感じる。
ただ数十年前にお店を閉めたのだろうと感じる佇まいで、人気はなかった。朝なのに閉まったままのシャッター通りは何処か哀愁とノスタルジーを感じさせる。
なんとなく癖で解析を使うと、脳裏に金ヶ瀬商店街の“記憶”とも呼べるものが記憶された。
「なんか暇をつぶせる落ち着いた喫茶店とか知らない?」
咲夜先輩の一言で我に返る。後でクロノグラスの記憶再写で二人に見せれないか検討しよう。
「それなら美味いモーニング出してる喫茶店があるぜ。そこに行こう」
遥の一言でそこに向かうことにした。
「仁」
僕は誰かに呼ばれた気がして、後ろを振り向くがそこは寂れたシャッター街だけだった。
でも不思議と怖いという感情は抱かなかった。
一人で頭を振り、二人の後を追った。
**
「喫茶 しょぱーん」
お店の中に入るとショパンのクラシックな音楽が流れていた。
店内の中は活気があり、錆びれた商店街にあるとは思えない。
店内は最近はやりの古民家風の喫茶店で木の温もりに溢れていた。ショパンの音楽とよく合っていて何だか別世界に思える。
「ここの店主はショパンが好きだからこの店名にしたらしいぜ」
「ほう、それはいい趣味してるね」
遥と咲夜先輩と話している中、空いていたテーブル席に三人で座る。何故か僕の隣に誰が座るか揉めたので、僕は三人の真ん中に座ることになってしまった。
いや対面のテーブル席が空いてるよって言っても咲夜先輩も遥も笑顔で圧をかけてきて僕は黙るしかなかった。
「ここのおすすめのモーニングはどれ?」
咲夜先輩がメニュー表を見つめながら遥に聞く。
「ここのモーニングのパンは多いからな。ドリンクは三人分頼んで、パンはシェアするのがおすすめだな」
「じゃあそうしようか。仁君もそれでいい?」
「いいですよ」
僕の返答に咲夜先輩が口をとがらせて拗ねた表情を見せる。
「仁君はたまに他人行儀になるよね。もう敬語も先輩呼びもいらないんだけど」
「いや、それはちょっと礼儀が……」
「じ・ん・く・・ん?」
咲夜先輩がヘッドロックを掛けてくる。
「ぎゃああああ」
僕と咲夜先輩が戯れていると遥がぶすっとした顔をして一言いう。
「羨ましいぜ」
咲夜先輩がハッとしてヘッドロックをやめると遥は言葉を続ける。
「橘先輩は仁のことどう思ってるんだよ」
「そ、それは……仲のいい後輩だと……」
「そういうのずるいと思うぜ。俺はな、仁の事……」
遥は少し言葉を溜めてから、僕を見る。その両目には少し涙が溜まっていた。
「……男として好きだぜ。橘先輩には悪いけどな」
僕は遥の告白に息をのむ。遥は今まで仲のいい幼馴染としか思ってなかった。でも一蹴するには遥の告白は、その気持ちは、あまりにも純粋で重かった。
「僕は……」
「ここで答えを出してくれとは言わないけどな。そういう気持ちがあることは覚えていてくれ」
「……うん」
ちらっと咲夜先輩を見るとその瞳は揺れていた。咲夜先輩は僕のことどう思っているんだろう。僕は遥のことをどう思えるんだろう。
その考えはいくら答えを出そうとしても今は出なかった。
**
店員さんに頼んだブレンドコーヒー三人分とモーニングのパンが運ばれてきた。
モーニングのパンはほぼ一斤の食パンそのものでいちごジャムやこしあん、バターやメープルシロップまで着いていた。
「これはすごいね」
僕が感嘆の声を出すと店員さんが嬉しそうな顔を見せる。
「うち自慢のモーニングですよ。ごゆっくりどうぞ」
店員さんが立ち去った後、三人でシェアして食パンを好きなものにつけて食べる。
ふわふわに焼き上げられた食パンは、甘くて優しい。
咲夜先輩は涙をこらえながら食べていた。遥は知らんぷりで僕は少しおろおろしていて、でも何も言えなかった。
無言で美味しいモーニングを味わっていると二人の探索者らしき人に声を掛けられた。
「食事中悪いな。席が空いてなくて、こっちの席に二人で座ってもいいか?」
見上げると大柄の茶髪の男性と小柄なフードをかぶった女性らしき二人組だった。
「良いですよ。そちらの席にどうぞ」
「ありがとな。店員さん、こっちにもブレンドコーヒーとアイスコーヒーと同じモーニング頼むわ!」
「はーい! 少々お待ちください」
その男性は僕たちより五歳くらい上の探索者だと名乗った。フードをかぶった女性は無言だった。
あっちはあっちで話し始めたので、僕は気まずい空気を変えるためにクロノグラスを取り出して、記憶再写を試すことにした。
「咲夜先輩、遥、面白いものを見せれるかもしれないです」
クロノグラスをバックパックから取り出すように見せかけてアイテムボックスから取り出す。テーブルの上に置くと周りの席からどよめきが起きる。
クロノグラスの近未来的で黒曜と蒼い線が走ったデザインは目を引くようだ。
素知らぬ顔でテーブルの上に移るようにセッティングすると周りの席から人が集まってきた。
「なんだなんだ? 何が始まるんだ?」
「こんな銃、見たことねえよ。こんなエアガン売ってるのか?」
「何をするつもりなのか気になるわ」
前に座っている二人組の探索者も興味深そうにこちらを見ている。
小柄なフードをかぶった女性の眼はキラキラしているように感じた。
「じゃあ行きますよ。“記憶再写”」
僕達は一瞬で深い海の底に連れていかれる感覚がした。
金ヶ瀬商店街の記憶はどんなものなのか、僕たちはワクワクしていた。
*実際の商店街にこのような喫茶店はありません。あくまでフィクションです。
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