第二十二話 つけ麺 武士道
ストック数が減り、毎日投稿が厳しくなってきたため、週2,3回投稿に変更します。申し訳ありません。
まず、僕達は岐富探索者支援センターで素材の売却をする。
僕と咲夜先輩の持っていた素材はスライムジェル三個、稀少ジェル二個、コボルトから出た毛皮だ。地属性の魔石はクロノグラスに使うので売却しない。
遥は稀少ジェル一個だけだった。遥は助けに来てくれたので自分たちの分と遥の素材の分を合わせて三等分にすると言ったのだが、遥は反対した。
「俺は勝手にストーカーして、危ないところをたまたま助けに来ただけだ!」
「でも遥がいないと二人とも死んでたんだ」
「そうだよ。遥ちゃんのおかげでこうして戻ってこられた。だから素材の売却額だけでも受け取ってほしいな」
それでも頑として首を振らない遥に僕はこう言った。
「遥も同じパーティーに入るんだろ? 仲間の証として受け取ってくれよ」
「うーん。じゃあ一つだけ頼みがある」
「何?」
「仁とき……いやハグがしたい」
遥は恥ずかしそうな顔をしながら言った。
……もう岐富探索者支援センター内だから恥ずかしいんだけど。
ちらっと咲夜先輩の方を見ると、ちょっとムッとした顔で渋々頷いていた。
仕方ないな。よくわからないけど、遥の願いならかなえてあげなきゃ。
僕は背伸びをしながら、遥をギューッとハグする。
遥の優しい香りが鼻をくすぐる。ってかちょうど胸のあたりに顔が埋もれる。
「仁!」
遥は俺を力の限り抱きしめながら体ごとくるくる回す。
ヤバイ、大きくなった胸の柔らかさと体の浮遊感でふわふわする。
「おいおい。モデルみたいなデカさの美人じゃねえか。そんな奴に抱きしめられるってどんなご褒美だよ」
「リア充爆発しろ!」
周りの人たちがざわざわしていても遥は離してくれない。
周りの人の目線をめちゃくちゃ感じながら僕はタップするまで抱きしめられた。
咲夜先輩は絶対零度の視線でガン見していたけど。
ううう、なんか遥に母性を感じてしまった。恥ずかしい。
**
素材の売却額は合計で二万五千円だった。三等分して八千三百三十円ということにした。小銭は僕がもらった。
コボルトから出た毛皮は七千円で売れた。もう少し高いかと思ったけど受付嬢の如月さん曰く流通量が多くなってきていて値段が下がったらしい。
ちょっとした小金持ちだ。
「うひょー! 三等分なのに昨日より高いよ! 流石仁君!」
「仁のパーティーはやっぱすげえな」
僕達は人目もはばからず喜んでいた。
「それにしても仁たちのドロップ量は多いよな。俺も結構スライム倒したけど一個しかドロップしなかったし」
「いつもこれくらいなんだよね。アナリストだからドロップしやすいとかあるのかな?」
「仁君、それはあるだろう。私も遥ちゃんと同じくらいのドロップ率だからね」
なるほどね。誰かをパーティーに勧誘するときもこういうメリットがあると提示できるのはいいことだ。
車で遥のおすすめのお店に向かう。
長良川を橋で北に渡って、五分ほどで着いた。
「つけ麺 武士道」
お店の前には二十人ほどの行列が並んでいた。僕たち三人はそこに並んで店に入るのを待つ。
咲夜先輩や遥はモデル並みの長身で美人なのでとにかく目立つ。僕だけ身長が低いので恥ずかしいのだが、咲夜先輩も遥も何故かニコニコとしながら前と後ろで僕をつかんで離さない。
たまに頭を撫でられるので、振り払うがニコニコとしている。
「(探索の後のこの時間も好きだね)」
「(仁は小さいから可愛いんだよなあ)」
咲夜先輩はともかく遥の考えていることにものすごく抗議したかったが、心情解析で分かったことなので何も言えない。
僕達はよくわからない空気の中、お店に入るのを待った。
店の中に入ると醤油系と鶏ガラと豚から取った出汁のいい匂いがする。
僕は胸いっぱいに息を吸った。
「麺の種類は、細麺、太麺、太平麺、極平麺って書いてあるね」
「俺のおすすめは極平麺だぞ!」
「私はどうしよう。太平麺にしようかな」
「僕は極平麺かな」
大盛り(三百グラムまで)無料だったので、僕は大盛り、遥は特盛り(四百グラム)にしていた。咲夜先輩は中盛り(二百グラム)だ。咲夜先輩は麺はそこまで食べないらしい。
僕はメンマが好きなのでメンマトッピング、遥はガツンとチャーシュートッピングにしていた。咲夜先輩はトッピングなしだ。
店主が目の前で箱から麺を取り出して分けていく様子が目の前に見える。
僕達はゴクリと喉を鳴らしていた。その後もチャーシューの塊を切り分けて厚切りのベーコンのように切っていく様は見事だった。
麺をゆでた後、ぬめりを水でとりながら締める。まさに職人の仕事だった。
つけ汁のドンブリは一見小さめだが、食べるとちょうどいいのだろう。
醤油と鶏ガラと豚と香味野菜から取った出汁を合わせて少し冷ましている。
アツアツのスープじゃないのか。僕は猫舌なのでありがたい。
「あいよ! 極平大、メンマ増し。極平特、チャーシュー増し。太平中!」
極平麺は光沢があり、幅は広く、厚みは薄い。つけ汁に合わせてから口の中に入れるともちもちした食感が楽しませてくれる。つけ汁は醤油の塩辛さと出汁がきいて、探索後の疲れた体にしみわたる美味さだ。
コリコリしたメンマを頬張るとまたつけ汁と合わさっていい。ちゅるちゅると麺をすすって箸休めにメンマを食うのが最高だ。
「ここのチャーシューは分厚いのにほろほろで口の中に入れると崩れていくんだよな」
「私はトッピング頼んでないのに二枚入ってる。めっちゃ美味しいわ」
僕達は夢中で食べ進め、ボリュームのある平皿に乗っていた麺はあっという間になくなっていた。
遥は残ったつけ汁を豪快に飲み干して水を飲む。
「美味い!」
三人の払った額はトッピング込みで千五百円から千円くらいだった。庶民と探索者にやさしい食事だったね。
「ごちそうさまでした! また来ます」
「店主! いつもありがと!」
「美味かったよ。また来るね」
「あいよ! ありがとうございました!」
店主が仏頂面だが優しい雰囲気で見送ってくれた。
僕達も心地よい満腹感と共に笑顔で店を出た。
「美味かったね! また来たいな」
「遥ちゃんもいい店知ってるね」
「当たり前だぞ! いい体はいい食事から作られるんだぜ?」
遥がノリノリで上腕二頭筋でコブを作るので、僕たちはクスクス笑った。
今日もいい日だったなあ。
帰りの車で三人でこれからのことを話す。
「それにしても癒しの力を持つものってヒーラーですよね? 人気職だからもういないんじゃないかな」
「確かにね。私はソロだったから知り合いあんまりいないのよ」
「それなら一人心当たりあるぜ。ってかそいつに頼み事されてたからな」
「頼み事って何?」
「実はな、金ヶ瀬商店街にダンジョンがつい最近できたんだ。それがそいつの親父の料理店の中にできたらしくてな。どうにかならないかって言われてるんだ」
ん? 金ヶ瀬商店街にダンジョン? それは気になるな。
金ヶ瀬ダンジョンとは僕の住んでる家の近くにある商店街だ。駅周辺は空洞化が進んでいてシャッター街になっちゃったんだけどもね。
「しかもな、ダンジョンができる前にシルクハットをかぶった長身のおじさんが来たらしい。仁、気にならないか?」
僕は目を丸くして、数日前を思い出した。
あれ……あの人、職業診断テストの後に話しかけてきた……。
……まさかシルクハットおじさん?
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