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第二十話 ダンジョンアナリスト専用装備 クロノグラス

 長刀のつばには桜の意匠があり、刀身はうっすらピンクがかった光沢がある。


「姫巫女よ、護桜ごおうを手に取り振ってみなさい」


 咲夜先輩は静かに台座に近づき、恐る恐る護桜を手に取る。

 感覚を確かめるように、ゆっくりと斬り、突き、薙ぎ払いを繰り返す。

 動作のたびに、桜色の光が花弁かべん状に出現しながら散っていく。

 一瞬だけの美しさは荘厳でどこかはかなかった。


「ご先祖様、護桜にはどのような能力があるのでしょうか?」

「そうですね。では能力の説明をしましょう」


 その能力をわかりやすく説明するとこうだ。


《護陣・桜結界さくらけっかい》【防御特化】

 •斬撃と共に桜の花びらが舞い、防御フィールドを展開する技。

 •自分を中心に範囲内の仲間の被ダメージ軽減&状態異常無効。



桜霞おうかノ太刀》【回避・移動】

 •斬撃の軌跡が桜の霞のように分身を生む。

 •一瞬だけ回避率が爆上がりする“加速+錯乱”技。



《護桜・花斬かざん

 •桜をまとった太刀で敵の“闇”を斬るような演出。

 •攻撃だけでなく、呪いや瘴気などの“異常効果”を斬り払う浄化斬り。



 パッシブスキル:《刃に宿る想い》

 ・咲夜が誰かを守りたいと強く思っているとき、攻撃力・防御力・反応速度が上昇。


 総じて、咲夜先輩に合っている能力の刀だと思った。誰かを護れる力が欲しい。そんな咲夜先輩の声が聞こえてくる気がした。


「(よかった。これで仁君を……周りの人たちを守れる力を得られる)」

「(実家の人から“落ちこぼれ”扱いされることもなくなるかも)」


 スキル心情解析で咲夜先輩の心の声が聞こえてきた。感情は相変わらずわからない。

 横目で咲夜先輩の表情を見ると、涙腺に涙が溜まっていた。護桜の美しさと相まってとてもきれいだと感じた。丸眼鏡をはずして涙をぬぐおうとしていたのでハンカチを差し出す。


「咲夜先輩に涙は似合いませんよ。これで拭いてください」

「……うん。仁君ありがとう。お礼に……」


 咲夜先輩が刀をそっと台座に戻してから、僕に抱き着いてこようとする。

 だが、その直前で遥が横から咲夜先輩に抱き着いてきた。


「いや――! なんで遥ちゃんが!」

「俺が仁の代わりに抱きしめてやるからな~!」


「(ちっ、仁君に抱き着くチャンスが!)」

「(させねーよ? ハッハッハ!)」


 実はこの二人仲が悪いのか? って感じの心情だった。

 二人の表情を見るとなんだかんだ笑っていたから大丈夫だろう。


 二人がギャーギャー言いながら騒ぐのが落ち着いた後、ご先祖様が話し出す。


『そちらの解析者専用アイテムも開けてみてください』

「わかりました」

「仁、どれから開けるんだ?」

「やっぱり真ん中からがいいんじゃない?」

「じゃあ、真ん中から」


 真ん中の宝箱を開けると、丸く白い光を放つオーブが入っていた。

 解析を使うと中身がわかる。


「これはスキルオーブだね。スキルは……アイテムボックスだ!」

「仁君! これはすごいよ! ダンジョン外でも使えるし今のパーティーに欲しいと思ってたんだよ!」

「めちゃくちゃすげえじゃねえか! 俺たちのパーティーにぴったりだな!」

「遥ちゃん、助けに来てくれたのは嬉しいけどパーティーに入るの?」

「なんだ? 良いじゃねえか! 俺は強いぞ。橘先輩よりも」

「は? もう私にはこの刀があるんだけど? 遥ちゃんより強いよね?」

「あ? やるか?」


 何故か二人が武器を構えてにらみ合い始めた。もういいや、放っておこう。


「ご先祖様、このアイテムボックスは容量はどれくらい入るのでしょうか?」

「この世の全てが入るわ。うーん、いや青空の上に広がる漆黒の闇より入るでしょうね」

「「無視しないで!」するな!」


 このアイテムボックスヤバすぎるよ。現状アイテムボックスというスキルは二ホンや世界でも数人しか持ってないのに、容量が無限なんてズルすぎるじゃないか!


「仁君、私と付き合ってくれないか?(おしゃれな服の買い物し放題!)」

「仁、今度飯行こうぜ!(食い物入れ放題じゃねえか!)」


 心情解析嫌かも。めちゃくちゃ本音が聞こえる。しかもお互い自分のことしか考えてない。


「もしかして……時間停止とかついてます?」

「もちろんだわ。それに任意で時間を進めることも可能よ」


「「うひょ――!!」」


 あっ、二人が壊れた。このスキルは公言しちゃだめだ。隠そう。


「はあ。もういいや。次は左の宝箱を開けよう」

「「ワクワク!」」


 ……感情表現を口で言い始めたよ。でも僕も楽しみだ。

 

 宝箱に触れた瞬間、漆黒の闇と純白の光があふれ出し世界を彩る。

 これは……僕専用の装備な気がする。


 宝箱を開けた瞬間、その光が形どられ、大きな時計台のような映像を生み出す。

 カチカチ。

 時計の秒針が動く音がする。


 それは銃のような形となった。


 光が収まると黒曜に輝く細身の銃が静かに横たわっていた。

 中央のコアには、蒼く揺らめく時計のような機構。

 名前が刻まれていた。


 ──《Chrono Glassクロノグラス


 世界を“解析”し、“読み解き”、“撃ち抜く”。

 僕に与えられたのは、未来へと繋がる一丁の銃だった。


小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。

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