第二話 アナリストとは?
「ダンジョン職業診断テスト」の午後の部が終わった。診断テストに一喜一憂していた18歳の僕たちは、スカウト部隊に囲まれていた。
「君は国体のボクシングで活躍しているそうじゃないか! ぜひ私のパーティーに入ってくれないか?」
「いやいや、私たちの探索者支援事業に登録してもらえれば、いつでも最適なパーティーとダンジョン探索に出れます!」
バトルマスターを引いた遥は、引く手あまたのスカウト攻めを食らっていた。
他にも、ブルーマジシャンやガーディアン・ナイト、ホワイトマジシャンを引いた人たちはいろんなスカウト部隊から勧誘されている。
僕は会場の隅で壁のシミとなってぽつんと立っていた。一応僕にも話しかけてくれる人はいたんだけど……。
「君はお笑い芸人になった方がいい!」
「コメディのセンスがピカイチだね!」
誰もかれもがお笑い芸人になることを進めてきた。その裏にはお前の職業はダンジョン探索に向いていないと思っているんだろうなと予測できた。だから僕は言ってやったよ。
「僕は諦めません。ダンジョン探索者になります」
僕はそう言い続けた。それを鼻で笑うものはいなかったけど、肯定してくれる人もいなかった。遥とちょっと怪しいシルクハットをかぶったおじさん以外は。
「仁。お前のことを馬鹿にするやつらばっかりで腹が立ったわ。仁は悔しくないのか?」
「別に。僕は“知りたい”だけだからさ。ダンジョンがなぜできたのか。ダンジョンに隠しルートがないのは何故か。ありとあらゆるダンジョンの謎を解き明かしたいんだ」
「仁、何を言ってんだ?」
そんなことを会場の端で話していた時、気配もなく、シルクハットをかぶった長身のおじさんが食いついてきた。
「なるほど……“知りたい”だけとは面白いね」
「おじさん、誰?」
何か胡散臭げな雰囲気を感じる長身のおじさん。しかも先ほどまでは会場にいなかったのに急に現れたおじさんに遥が警戒心を強める。
「てめえ、仁に何の用だ」
「喧嘩をしに来たわけじゃない。そこの少年、仁君に興味を持ってね」
「お前は仁の職業を馬鹿にしに来たわけじゃないのか?」
「そんなわけがない‼ ダンジョンアナリストは‼ おっとこれはまだ言ってはいけないね。むしろ仁君をほめているのだよ。」
僕はこの長身のおじさんに奇妙な感覚を覚えていた。これはまるで……テレビで見た……いやまだ確信はないから言えない。
僕がシルクハットおじさんを見つめていると、おじさんは僕にこう言った。
「君はダンジョンの何を“知りたい”んだい?」
「全てを」
「ククク、それでこそ“アナリスト”だよ」
「おじさんは、ダンジョンアナリストの能力を知っているの?」
「それはそうさ。だがこういうものは自分で知って言った方が面白いだろう?」
「そうだね。じゃあ自分で“知る”ことにするよ」
「ククク、楽しみにしているよ。ああそれと一つだけアドバイスを教えよう。RPGの始まりの地はまだまだ謎に満ち溢れているぞ、と」
シルクハットおじさんはそんな一言を残して会場を後にした。
僕と遥は、帰り道の商店街に立ち寄りながら、今日起きたことやくだらないことを話していく。
「結局、遥はどのパーティーに入ることにしたの?」
「うーん、なんかどれもピンと来ねえんだよなあ」
遥はどのパーティーに入っても活躍するだろう。だから僕は心を鬼にして、思ってもないことを言う。
「遥はいいよな。バトルマスターっていうどこのパーティーに入っても活躍できる職業でさ」
「おい。仁、何言ってんだ」
「どうせ、僕の職業が変だから気を使ってるんだろ? そういうのは好きじゃない」
「仁。私のことを馬鹿にしてるのか? お前の職業だってすげえかもしれねえだろ‼ 何を拗ねたこと言ってんだ!」
「そういうなれ合いはごめんだよ。悪いけど僕はここで帰る」
「おい! 仁!」
その後は自分の家に走り去るように帰った。僕のガラケーには遥の着信が何回もあったけど全部無視した。
これが遥のためになることを信じて……。僕という枷をつけていては遥は羽ばたけない。あいつはすごい奴だ。二ホンをしょって立つダンジョン探索者になるだろう。だから僕はあいつの枷になりたくない。それだけ。
「でも、なんでこんなに……」
僕は涙が止まらなかった。けど、これでいいんだ、と言い聞かせて布団に丸くなって寝た。
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