第十八話 お前を守るって決めたんだ
「ったく、二人だけでこんなヤバいところに行くからこうなるんだよ。もっと考えろ!」
「う……ごめん」
僕はその通りだと思った。途中までうまくいっていたから二人でも余裕だと調子に乗っていたんだ。
「あとで仁に言いたいことは山ほどあるけどな……一つだけ言うとするならな」
「何?」
「俺は仁を守るって決めたんだ。俺を置いていくな」
「……遥」
「さあ、このデカブツを倒すぞ! 仁も気合入れろ!」
「うん!」
やばい。この遥、イケメンすぎるよ。惚れそう
僕が馬鹿なことを考えていると、遥が動き出す。
「武装切替」
金属製のナックルからトンファーに武器が瞬時に切り替わった。おそらくバトルマスターのスキルだろう。
遥は体をくるっと回転させながらトンファーの連撃をお見舞いする。
まるで嵐のような連撃。蝶のように舞い、蜂のように刺す、そんな連撃だった。
「うりゃうりゃうりゃうりゃ!」
大鬼スライムは耐えきれず、ガードした両腕ごと吹き飛ばされる。
ギャオオオ!
大鬼スライムが怒りの咆哮を上げる。
あれ、さっきまで目の前にいた遥がいない⁉
「ちゃんと後ろにも気を配りな!」
いつの間にか大鬼スライムの背後を取っていた遥が今度は大剣に切り替えて重い一撃を振り下ろす。
その一撃は岩をも叩き斬るであろう。
ブォン!
遥の空中から繰り出される一撃はそれほどの威力を持っていた。
「ギャアアアアア!」
大鬼スライムの金属製の右腕が切り落とされる。
ズシンッ
右腕が石畳に落ちて、重い音が響く。それだけでどれだけの質量を持っていたかがわかる。
「決めるぜ! 連撃」
遥は再びトンファーに持ち変えると大鬼スライムの体を殴り始める。
その一撃は鋭く、それでいて荒々しい。
空気を纏って、美しく舞う遥はボクシング部の頃の動きを思わせた。
大鬼スライムの体はもう凸凹でへこみまくっている。
だがまだ動きそうだ。
「何か弱点があるはずだ。弱点解析!」
弱点解析を繰り返すが、赤い点は出てこない。
だが偶然、少し左を見たときに白い光を帯びたものが解析で見えた。
なんだこれは?
迷っている暇はない!
すぐにそこに行って解析を使うと、過去に行われたであろう戦闘の記録が流れ込んでくる。
これは五人パーティーで前衛二人、遊撃一人、後衛二人で構成されているようだ。
僕達と同じく大鬼スライムと戦っている。
後衛の一人は、遥のお兄さんじゃないか! 戦闘には参加せず、空中をキャンバスにして記録を取っている。
遥のお兄さんが何かを見つけた顔をする。ここで音声が聞こえた。
「こいつは外殻があってその下にスライムの核が隠れているんだ! つまり外殻を貫く攻撃を集中させる必要がある。スライムの核の場所は左胸の少し下、つまり人間の心臓の位置と同じ可能性が八十%!」
その指示を聞いて、もう一人の後衛が魔法の準備をして、前衛がそれに合わせるように時間稼ぎをする。
「三、二、一! 今だ!」
後衛の人はレッドマジシャンだろう。
火属性の青い炎をレーザーのように収束させて、核を打ち抜く!
大鬼スライムが倒れたところで記録の映像が終わった。
「遥! こいつの弱点は左胸の下の心臓部だ!」
「なんでわかるんだ?」
「遥のお兄さんの“記録”が教えてくれたんだ!」
「おう。兄貴も協力してくれてるんだな。どでかい攻撃、一発準備するぜ」
「ふむ、なら私も手伝おうか」
「咲夜先輩! 大丈夫ですか?」
後ろから額から血を流しながら咲夜先輩が歩いてきた。
表情はいつも通りだが……大丈夫なのか?
「あいつの殴られたときに自分から後ろに跳んだから見た目ほどダメージはないよ」
「橘先輩、あんたには色々といいたいことがあるが……まあ今はいい。どうするんだ?」
「咲夜先輩の大斧で心臓部の外殻に傷をつけて、遥の大剣で核を貫いてください」
「わかった。仁は俺が守るからな。俺の後ろにいてくれ」
「いや、私が守るよ。だから私の側に」
「俺が」
「私が」
え? 二人が急にいがみ合い始めた。なんでだ? 全然わからん。
なぜかにらみ合い始めたので、間に入ってとりなした。
女心は秋の空、だよ。
「ったく、仁君は……。リヴェルス――加速するよ!」
何かをぶつぶつ言いながら、前線に駆けだす咲夜先輩。
隻腕となった大鬼スライムの攻撃を掻い潜り、左手を突き出した。
「結界布陣」
透明な結界が大鬼スライムの拳を止める。戸惑っている大鬼スライムに咲夜先輩が切り込む!
「隙だらけだよ! さっきのリベンジ! はああああ!」
――その一撃は風となった。
ブゥン! ガシャン!
大斧が外殻に罅を入れて、核にもダメージを与える!
「ナイス! 橘先輩! とどめだ! うおおおおお!」
宙高くジャンプした後、くるくると回転して、勢いをつける遥。
タイミングよく突き出した大剣は仰向けに倒れていた大鬼スライムの核に突き刺さり、地面ごと貫いた!
グオオオオオオ!
大鬼スライムは最後に絶叫した後、動かなくなり黒い靄になって消えた。
「やった! 倒したよ! 咲夜先輩、遥!」
「こんなに強いと思ってみなかったよ。遥ちゃん、助けに来てくれてありがとう」
「おう、仁も橘先輩も助けられてよかったよ。そのさ、お願いがあるんだけど……」
「何だい?」
「ハグしたいんだ。みんなで」
僕と咲夜先輩はお互いの顔を見るとフッと笑って、遥の腕を引っ張ってぎゅうううと抱きしめた。
三人はこの瞬間一つになっていた。
小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。