第十七話 ヒーロー見参! 前半 遥視点→後半 仁視点
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遥視点
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「お兄ちゃん、私頑張るからね」
さあ、ここからは“俺”にならなきゃな。
うずくまっていた体を起こして、準備体操をする。
「うん。いい気分だ」
俺は、仁と橘先輩が消えた隠しルートの入り口に向かって走り出した。闇色の靄が漂っている寂れた祠が並んだ道は息をのむ雰囲気がある。
「でも、もう怖くない」
だって兄貴が見守ってくれてるだろうから。兄貴が残した“記録”を探さなきゃいけないしな。
俺は石畳が続く隠しルートを歩いて進んでいった。
道中で兄貴が残した光を帯びたものを見つけた。どうやら俺にしか見えていないらしい。
「黒札お化けと封印喰らいのスライムか……」
どうやら黒札の方は幻覚を見せてかく乱するスタイルのようだ。封印喰らいのスライムはその間に形態変化して圧倒的な強さになるらしい。
「こりゃあ、仁と橘先輩が心配だ。早くいかないとな」
仁はたまに大胆な行動に出ることがある。“記録”によるとお賽銭に一万円札を入れると五体の敵が出現するらしい。仁はアナリストだからわかった上でそれをする可能性がある。
「そもそも、あの二人だと前衛二人なのに盾役も後衛もいないんだよな」
仁は地味職だけど想像以上に強い。橘先輩も安定した強さがある。だがそれでも相性が悪い相手はいるものだ。
「早くいかないと!」
俺は歩を速めて、走り出した。そこに守りたいものがあるから。
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仁視点
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まずい。僕はそう思った。この大鬼スライムは強いと肌で感じてしまったからだ。
スライムの頃と比べ物にならないくらい動きが速い。咲夜先輩が前線で体を張って引きつけてくれているが、対応しきれていない。見切りを使っているのに、だ。
大鬼は表情を気味の悪い笑みで歪めながら、咲夜先輩の攻撃はわざとぎりぎりで避けている。そのくせ反撃の威力がでかいのだ。金属のような体のため、腕を振り回すだけでもかなりの威力だ。
「クソ、どうにかできると思ってた僕のミスだ。なんとかしなきゃ」
咲夜先輩は大鬼スライムの隙を見計らって渾身の一撃を繰り出す。
「仁君に恥ずかしい所を見せる訳にはいかないんだ! リヴェルス――加速して‼」
瞬時に前進しながら大斧を振りかざし、腰だめを作ってからの一撃!
……だが。
ガキィン!
「これでも切り落とせないのか⁉」
大斧が大鬼スライムの右腕を襲うも、金属に弾かれる。
驚愕していた咲夜先輩に無慈悲な左腕の拳が迫り――。
「咲夜先輩‼ っクソ!」
咲夜先輩は広場から後ろの壁に吹き飛ばされて、血反吐を吐いた。
まずいまずいまずい。咲夜先輩の火力が通じないなら、僕の攻撃ではだめだ。
しかし大鬼スライムは考える暇を与えてくれなかった。
ドンッ!
巨大な質量が空気を伴って迫ってくる。何とか初撃のフックを躱すが、それはフェイクだった。二秒前の軌道は……避けきれないっ‼
「ああ……」
右腕のストレートパンチがやけにゆっくりと見える。線の細い僕では全身骨折、内臓破裂は免れないだろう。最後に咲夜先輩と遥のことが思い浮かぶ。
「咲夜先輩……遥にもあんなこと言うんじゃなかったな。ごめん、遥……」
僕は目を閉じて最後の時を待った。
「何やってんだ、バカ仁‼ 間に合えええ‼」
遥の高くて大きな声が響いた気がした。そんな馬鹿な。ここに入るはずがない。
ガギィン‼
目の前で金属と金属のぶつかる音が響く。え、まさか……?
「は、遥?」
「おうよ、色ボケ仁」
目を開けると、赤髪で男勝りな短髪の女性が立っていた。僕からは見上げるほど身長が高い。間違いない、遥だ。
遥は大鬼スライムの大きな拳に金属製のナックルをつけて拳で止めていた。
「おう、悪いがついてきちまった。だが言わせてくれよ、ヒーローは遅れてやってくるってな」
僕にニヤッと笑う遥は昔憧れたヒーローそのものだった。
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