第十六話 遥と壮太
俺が嗚咽を漏らしていると、仁と橘先輩は隠しルートの道を開けて行ってしまった。
しばらく動けずにいると、闇色の靄が俺の方ににじり寄ってきた。
「い、嫌だ。来るな、来るな‼」
だが靄は近づいてくると光を帯びた人型のようになった。
それは間違いない。すらりとしたやせ型の死んだと思われていた兄貴だった。
「遥は変わらないね。そんなに身長が伸びたのに泣き虫なところは昔からだ」
「壮太お兄ちゃん! グスッ、いや、壮太の兄貴」
「何を意地張って。男勝りに見せるような所も相変わらずだ」
間違いない。俺の兄貴の火車 壮太の声だ。でもそんな光になってるってことは……。
壮太の兄貴は死んじまったのか?
「なあ壮太の兄貴はもうこの世にいないのか?」
「……」
「答えてくれよ! 壮太の兄貴、いや壮太お兄ちゃん! 俺を……私を置いていかないで……!」
壮太お兄ちゃんは、こちらに近づいてきて私を黙って抱きしめるように包んでくれた。両親が死んだ頃、一人で泣いていた私を良く抱きしめてくれたんだ。
「遥、僕はこの世にはもういない。でもね、記録士のスキルはまだ生きてる。遥に僕の最後を見届けてほしいんだ」
「壮太お兄ちゃん……」
「無理強いはしないけどね。でも僕の生きた証を記憶に焼けつけてほしいんだ。それにさ」
「何? お兄ちゃん」
「先を進んでいく二人は確かに強いけど、かつての僕達と一緒だ。根拠のない自信に動かされて死んでしまうかもしれない。仁君も咲夜君も友達だろう。その友達まで失ったら遥は本当に一人だ」
「そんなの嫌だ! お兄ちゃんどうにかしてよ!」
「良いかい。遥は仁君を守りたかったんじゃないのかい? もう危険は迫っているかもしれない。そんな時にここでうずくまってたら仁君は守れないよ? だから自分で立って一緒に戦うんだ」
ここで壮太お兄ちゃんの気配が強まった気がした。
「シャキッとしろ! 何とかせんかい!」
それは意外に怒りんぼうな所もある壮太お兄ちゃんの口癖だった。
私はそれを聞いて背筋をピーンと伸ばして立ち上がってしまった。
「フフフフ、それでいい。びしっと言わないと遥はいつもグズルからね」
壮太お兄ちゃんの光はもう見えなくなってきた。
「お兄ちゃん……」
「記録を探してくれ。そこでまた出会えるから」
「お兄ちゃん!」
「僕の残した記録を受け継いでくれ……」
約千文字です。短いですが、ここで区切りたかったのです。
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