第十五話 そばにいるのに届かない 遥視点
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この話は全編遥視点です
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俺は二人が長良川ダンジョンに入るのを見計らって、渡し船に乗った。どうせ最初は一層だからすぐに追いつけるはずだ。
「お、モデルさんみたいにでかい嬢ちゃんか。調子はどうだい」
「俺はいつでも元気だぜ。さっき乗ってた二人は良くダンジョンに来るのか?」
「おう、一日前に来てたよ。なんか緊張した感じだったけど、仲がよさそうな感じだったな。ありゃあカップルだな」
「へえ、そうかい」
俺は拳を少しだけ握りしめた。あの二人が同じバドミントン部で仲が良いのは知ってたがたった一日であんなに打ち解けるとは思ってもみなかった。
焦る気持ちを抑えて、渡し船のおっちゃんに礼を言って急いでダンジョンに入った。
普段は見つけたらすぐに倒すスライムもスルーして、先を急いだんだ。
《足音消し》を使ってバレないようにしながら仁と橘先輩を見つけた。
ああ、ほんの数日前は仁の隣に俺がいたんだ。あいつは身長が低めなのがコンプレックスなのか、隣で歩いていると恥ずかしそうにしてる時があった。
そんな仁の頭をガシガシ撫でてやると嫌がりながらも笑ってたんだよな。
それが今は橘先輩が俺がいた位置に入れ替わってる。
「クソったれ……なんで俺じゃダメなんだ」
俺は悶々とした気持ちを抱えながら後を追った。
仁と咲夜先輩はあまりスライム狩りをせずに道中出会うスライムとゴブリンを最低限倒していく感じだった。
まあ今日はモンスターの湧きがいつもより多い感じでスライムは十五体くらい倒してたけどな。それにしてもあいつのドロップ率どうなってるんだ?
俺がパーティーで回った時はこんなに落ちなかった。地味職って実はすげえ得な職なんじゃねえか?
「羨ましいぜ。俺にもその分分けてくれよ……」
周りには仁たち以外のパーティーもいる。だから怪しまれない程度にスライムやゴブリンを狩りながら愚痴を漏らしちまった。
その後、仁と橘先輩はステータスを見せ合いながら、ワーワー楽しそうに言っていたよ。
そのくせ、橘先輩が仁にヘッドロックかけてるし。
「俺、なんでこんなことしてるんだろうな……」
虚しさと悲しさがない交ぜになってきたが、まだ目的の隠しルートについていない。
「もやもやする」
その後二階に二人は降りた。ここは一階にはいないコボルトが出てくる。俺も戦ったが意外とすばしっこい動きで短剣を操ってくるのが厄介だ。
「多分、橘先輩がメインで倒すんだろうなあ」
この時点では、そう思っていたんだ。それなのに。
「何だ、あのスキル⁉ 遠隔でトラップを発動した! それにまるで未来でも見てるみたいにコボルトの動きを先読みしてる」
これが本当に地味職なのか……? 仁の職業はダンジョンアナリストってやつだったが、兄貴の記録士もこんなことができたのか?
それに二人の信頼し合ってる感じが腹立つ。連携もとれてるし。
「俺もあの場に……」
仁の動きは正確で迅速で無駄がなかった。その姿が目に焼き付いちまった。
その時、俺は気づく。いやとっくに気づいていたというべきか。
仁は強い。そして俺は。
「俺は仁のことが……好きなんだ」
だがこの後が一番俺にとってきつかった。
二階の行き止まりの所で話を盗み聞きしてたんだけど……
なんだよ! 魔力が昔からあるとかダンジョンも戦国時代から存在してるとか。
驚きの連続だったさ。魔力災害がどうとか、もう馬鹿な俺にはわかんねえ。
そして最後に仁が橘先輩に言った言葉は……もう告白じゃないか。
あんな抱擁、俺にしてくれたこと一度もないじゃないか。
「はははっ、こんなに近くで見てるのにどんどん遠のいていく……」
俺は恥ずかしさと悔しさと妬ましさが絡み合ってぐちゃぐちゃになった。
何も言葉が出てこない。足も動かない。
「ウッ、ウッ、グスッ、グスッ」
嗚咽と涙をこぼした。
「仁、お兄ちゃん……みんな俺を置いてどっかに行っちまう」
俺は一人だ。
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