第十四話 隠しルート 外層 第一フロア
僕達は闇の中に揺らめく靄をできるだけ吸わないようにしながら古びた祠が両隣にある中を進む。
「仁君、この靄はおそらく瘴気だ。なるべく吸わないようにしてね」
「はい。吸いすぎるとどうなるんです?」
「幻覚や幻聴にとらわれるようになるんだ。それぞれのトラウマに応じてね」
「それは怖い……。なるべく吸わないようにします」
両隣の祠の先にモンスターの数が五つ、赤い点で示されている。
どうやらここが最初に戦う所らしい。
僕は咲夜先輩に伝えることにした。
「どうやらこの先の広場にモンスターが五体いますよ。注意してください」
「仁君ありがとう。気を付けるよ」
それにしてもこの場所は何のために作られたのだろう。時折キョロキョロしながら石畳みの道を二人で歩く。
この隠しルートに入ってから、ちょっとジメジメした空気で蒸し暑い。それにチリーンと時々風鈴の音が聞こえるのはもう瘴気にとらわれているのだろうか。
「咲夜先輩、風鈴の音聞こえます?」
「ああ、聞こえるよ。見渡す限り、風鈴は見当たらないからお互い瘴気にやられ始めているのかもね」
再び無言で二人で進むと寂れた寺院の広場のようなところに出た。
「ちょっと解析しますね」
解析を使うと寺院のお賽銭を入れる場所に硬貨を入れると敵が出てくるようだ。だがお賽銭に一万円札を入れると敵が五体同時に出現する代わりに、討伐すると宝箱が四つ出てくるようだ。
「お賽銭箱に硬貨を入れるとモンスターが出てくる仕掛けらしいです」
「……普通じゃないね。瘴気といい、このルートは本当に”封印されていた場所“なのかも」
僕はここで博打に出ることにした。
「どうする? 小銭から行く?」
「……いえ、ここはあえて一万円札で行きましょう。解析によると“報酬”が一番多い、四つです」
「仁君……博打癖があるのか」
「地味職はドロップ運が命ってデータがありまして」
「あるかい⁉」
スパーンと咲夜先輩のツッコミが炸裂する。お互い何故かハイテンションだ。
それは緊張もあるのだろう。僕は咲夜先輩に声をかける。
「入れますよ。良いですか?」
「ああ、準備は出来てる」
僕はお賽銭箱に一万円札を入れる。すると……
ゴーン!
存在しない鐘の音が低く鈍く聞こえる。僕の解析に反応があった!
「敵襲! 柱の陰からモンスターが五体来ます!」
「了解!」
小さく浮かぶ紙が柱の陰から幽霊のように三枚飛んできた! 黒い札みたいに見えるからこいつは黒札お化けと呼ぼう。
もう二体は墨色のスライムだ。動きは遅いので最優先は黒札お化けでいいだろう。
「解析!」
黒札お化け:危険度ランクD
魔力の残債が具現化した“元・封印具”のような存在。
スキル《混乱文字》:視界の一部が歪む幻覚を見せる。
封印喰らいのスライム:危険度ランクD
外見は墨色で動きは鈍重。しかし一定時間で“形態変化”するギミック持ち。
攻撃を受け流す粘性あり。普通に殴っても効かない。
「咲夜先輩! 黒札のお化けみたいなやつから倒しましょう! こいつは視界の一部が歪む幻覚を見せてきます」
「お化けはあんまり得意じゃないんだけどね……」
咲夜先輩は大斧を構えるとぼそりと呟きながら向かっていく。
「加速術。リヴェルス――加速するよ!」
白い光を纏いながら黒札のお化けを切ろうとするが……全然違う方向に大斧を振るっていた。
「クソ、視界が歪んでどこを切ればいいかわからないよ!」
その間にあざ笑うかのように黒札お化けは三体、いや三枚ひらひらと咲夜先輩の周りを飛んでいる。
まずいな。咲夜先輩の周りだけ瘴気が増しているように見える。
これで幻聴、幻覚が聞こえ始めると……
状況がより一層悪くなる。
考えろ、打開策を!
スライムの方を見ると、何やらよくわからない動きをしながらこちらを覗っている。
そうか! こいつが時間稼ぎして封印喰らいのスライムが形態変化する時間を稼ぐんだ。
ということは……順番を間違えた。
「咲夜先輩! やっぱり墨色のスライムからやってください! その間に黒札お化けを何とかします!」
「わかったよ!」
咲夜先輩が封印喰らいのスライムを相手にしているうちに僕はスタンロッドを構えて黒札お化けに走り出す。
黒札お化けに近づくと、視界の一部が歪んできてどこにいるかわからなくなる。
だが、視界を閉じても弱点解析の赤い点は消えない!
「ていやぁ!」
視界を閉じてスタンロッドの電源を入れながら、揺らめく赤い点に向かって一突き!
これはバドミントンのヘアピンの時にラケットを突き出す動きに似ていた。
グシャ!
手ごたえあり!
もう一体の赤い点も足を戻した後、また左足を踏み出してスタンロッドで潰した!
目を開けると、二体の黒札お化けが黒い靄になって消えた。
最後の黒札お化けは蚊のように周りを慌てたように飛び回っている。
横を見ると咲夜先輩が大斧で封印喰らいのスライムを一匹叩き潰して倒していた。
前を見ると黒札お化けが二秒先に僕の顔に引っ付こうとしている様子が見えた。
「なら!」
黒札お化けが動き出す一秒前に目をつぶってスタンロッドを突き出す!
赤い点めがけて突いた一撃は弱点ごと紙を貫き、確かな手ごたえを感じた。
「やった!」
僕が少し充実した気持ちになっているときに、咲夜先輩の大斧を振るう音が横で聞こえた。
「こいつ、形態変化してる!」
僕が横を見ると、墨色のスライムが大きな鬼のような形になろうとしていた。
「どうやら第二ラウンドみたいですね……」
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