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第十二話 お互いの存在

「ちょっとだけ休憩しよう」

「そうですね。隠しルートでは何があるかわかりませんからね」

「うん」


 僕は咲夜先輩が少しだけ気落ちしているように思えた。それが気になって話しかける。


「咲夜先輩、疲れてますか?」

「いや、疲れてはないんだけど……なんかここ、嫌な魔力の感じがするんだ」

「嫌な魔力?」

「そう、私の家って自分で言うのも恥ずかしいけどちょっといい家でしょ?」

「そうですね」

「昔から魔力って地球に存在しててさ、あ、これオフレコだよ? 話したら一生ヘッドロックするからね」

 そう言って、にやりと笑う咲夜先輩。でもその笑みはちょっとだけ陰を帯びていた。


「話しませんって。そもそも魔力って何ですか?」

「うーん。ちょっと説明が難しいんだけど、自然が多い所とか、霊脈が多い場所とかそういう場所に魔力があるんだ。岐富ッて田舎でしょ? で、山に囲まれてるから自然と魔力がたまりやすいんだよ」

「じゃあ、昔から魔法は使える人はいたってことですか?」


 咲夜先輩はそこで一呼吸おいて、探索者用バックパックからお茶を取り出してごくごくと飲む。つられて僕もお茶を飲んだ。


「そうだね、実は戦国時代には魔法を使える一族は存在していたみたいだよ。橘家は黒田信影に仕えていたんだけど黒田信影自身も魔法が使えたという記述がうちの古文書に残されてるんだ」


 なんかとんでもない話になってきたなあ。魔法が昔から使えたということはスキルもあったんだろうか。まさか、ダンジョンも?


「先輩、まさかダンジョンも昔から存在していたんですか?」

「流石アナリスト、鋭いね。そうだよ。橘家が昔から中京圏のダンジョンを封印してきたんだ。勿論他にもダンジョンを封印する家はあるけどね」

「なるほど」


「それで戦国時代や江戸時代まではダンジョンってのは人々の生活に当たり前のようにあったんだ。でも時は江戸時代になると人々が魔力を帯びて魔物に変異する“魔力災害”が起きたんだ」

「魔力災害?」

「うん、それで当時の人々は大きな被害を受けたみたい。それで当時の幕府から現代にいたるまでダンジョンの存在は秘匿され、封印されてしかるべき家と政府が封印していたんだけど……」


 とんでもない話になってきた。僕は隠された歴史の秘密を今聞いている。でもなぜ咲夜先輩は僕にこんな話をしているんだろう。でも“知りたい”。だからその先の話を聞く。


「何故か、厳重に封印していた、長良川ダンジョンの封印が解けたんだ。そこから連鎖的に各地にダンジョンの封印が弾けてね」

「それで政府はダンジョンの存在を公にしたんですか?」

「そうだよ、五年前までは何とか再封印できないか検討していたみたいだけどね。無理だと判断して民間に公開したんだ」


 ダンジョンの封印が解けたのは、人為的なのか、自然にそうなったのか気になるなあ。でも色々と聞きたいことが増えてきた。


「橘先輩の言っていた嫌な魔力の話とどう繋がるんですか?」

「その嫌な魔力は母がそういう魔力がたまる場所に一緒に行ったときに感じたものでね。そこは古い寺院だったんだけど怨念が溜まった古くて異常な魔力だったんだ」

「それが、この隠しルートの先から感じるんですか?」

「そうなんだよ。だから嫌な魔力の話をしたのさ」


 なるほど……この先の隠しルートは怨念が溜まった魔力があるのか。でもまだ知りたいことはある。


「橘先輩は、なんで重要な話を僕に聞かせてくれたんですか? 本来は秘匿するべきことなのでは?」

「それは……そうだね。この話を聞いて仁君が隠しルートの先に挑む気なのか聞きたかった。それに私は、橘家では落ちこぼれでね。封印をつかさどる家なのに結界術しか使えないのさ。だからいざというときに仁君を守れるか不安なんだよ」


 なるほど、咲夜先輩の話は筋が通っている。でも“まだ”言ってないことがあると僕の直感が言っていた。


「なあ、仁君? 隠しルートの探索は私たち以外に任せてもいいんじゃない?」

 その言葉を言う咲夜先輩の眼は揺れていた。でも僕の答えは決まっていた。


「嫌です。僕は“知りたい”んだ。この先に何があるか。でも咲夜先輩が嫌なら行かなくても……」

「その言葉は卑怯じゃないか。私だって知りたい。そして仁君を守りたいんだ」


 僕は咲夜先輩にとって守られる存在ってことなのか。確かに地味職だし、戦闘向きではない。でもそういうのはなんか“むかつく”。


「咲夜先輩にとって僕は守りたいだけの存在ですか? 僕は確かに弱いけど……でも咲夜先輩を守れるくらいに強くなりたい! 咲夜先輩は僕にとって守りたい人です」


 あれ? 思っていたことを全部言っちゃった。

 僕が後ろを向いてアワアワしていると、後ろから気配がしたと思ったら咲夜先輩の温かくて柔らかい体が包み込んできた。


「ありがとう。仁君……。今はそれだけで十分だよ」

「え?」

「今はただ、その……抱きしめさせてくれないか……」


 自分の心臓がドクドク波打ってうるさい。でもそれ以上に咲夜先輩の柔らかい体と鼓動が伝わってきた。


 僕達は、しばらく一つになってお互いの存在を確かめ合っていた。


小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。

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