第十一話 隠しルートへ一歩手前
翌朝、僕は岐富探索者支援センターの待合室にいた。勿論、咲夜先輩との隠しルートの調査のためだ。
僕が到着して、数分も立たないうちに咲夜先輩が現れた。勿論、装備もしてる。
「おお、早いね、仁君。まあ私も早く着いちゃったんだけどね」
「お互い、待ち合わせの三十分前に着いちゃってますからね。まあちょうどいいので行きますか」
お互い緊張しているのか、あまり会話はなく、渡し船を渡って、長良川ダンジョンの前に着いた。
「忘れ物はないかい?」
「はい。所長から託された筆も持ってます」
「なら行こうか」
僕と咲夜先輩は長良川ダンジョンに足を踏み入れた。
一層はあまり探索せずに最短距離で二層へと向かう。道中のスライムからはスライムジェル三個、稀少ジェル二個が出た。相変わらず、僕のドロップ運は他の人よりいいらしい。合計でスライム十五体程度しか戦ってないのにこのドロップ率だ。後、魔石もスライムからごくまれに出るらしい。
普通の人はドロップ率は五%から十%くらいだ。それが僕のドロップ率は三十%くらいある。地味職はドロップ率がいいとかあるのかな?
「仁君のドロップ運がいいから、戦闘は任せっきりだね。なんか申し訳ないね」
「いえいえ、適材適所ってやつですよ。僕のレベルも一上がりましたし」
名前: 青井 仁
年齢: 18歳
職業: ダンジョンアナリスト(解析士)
Lv: 11
HP: 190 / 190
MP: 180 / 180
STR(筋力): 12(武器を安定して扱えるように)
DEX(敏捷): 22(動きの精度と反応速度がさらに向上)
VIT(耐久): 10(まだ一般人レベル)
INT(知力): 52(構造解析や魔力の知識が深化)
WIS(判断力): 35(戦況把握やスキルの応用が冴えてきた)
LUK(運): 13(素材や情報の引きがやや上昇)
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■ スキル一覧
《模写》
自分で見た風景・現象を模写可能。
精度が上がり、戦闘中でも視界の一部だけ模写できるように進化。
→ 敵の陣形やトラップ位置、瞬時の状況記録に活用可能。
《瞬間記憶》
見たものを即座に記憶・保持できる。
同時保持数・記憶精度が向上し、より高度な解析にも対応。
→ 映像・音・動きの再現性が高まり、戦術に応用可能。
《解析》
ダンジョン構造・敵の行動・仕掛けの“真の意図”を見抜く。
→ 敵の属性傾向・トラップの発動条件・魔力の歪みなどを読み解ける。
NEW トラップを任意で発動できるようになる。
NEW《弱点解析》
一部の敵に対し、防御が薄い部位が赤く視覚化されるようになった。
僕のステータスはそんなに変わらないけど、弱点解析っていうのが追加された。
スライムだったら弱点の核が赤く表示されるようになった。地味に役立つ能力だ。地味職だけに。
後はトラップを任意で発動できるのが大きいな。自分の任意のタイミングで使えるならこれほどいい手札はない。
咲夜先輩もステータスとスキルを見せてくれた。
名前: 橘 咲夜
年齢: 22歳
職業: 魔法剣士(サポート寄りバトルメイジ系)
Lv: 18
HP: 240 / 240
MP: 310 / 310
STR(筋力): 22(細身ながら基礎的な剣撃はこなせる)
DEX(敏捷): 28(加速術と相まって瞬発力が高い)
VIT(耐久): 20(防御魔法と合わせて中程度の耐久力)
INT(知力): 38(魔法の制御・組み合わせが得意)
WIS(判断力): 42(戦闘中の判断と動きに無駄が少ない)
LUK(運): 14(突発的な幸運はあまりないが安定している)
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■ スキル一覧
《見切り》
敵の初撃を直感的に回避する補助スキル。
→ 発動時、身体感覚が一時的に研ぎ澄まされる。再使用には数分のクールタイム。
《加速術》
自身の移動速度と反応速度を約5秒間2倍に引き上げる。
→ 緊急回避や攻め込みの起点として優秀。ただし魔力消費はやや大きめ。
《結界布陣》
前方に結界を展開し、物理・魔法の攻撃を一定量防ぐ。
→ 陣形維持や味方の立て直しに活躍する。耐久値は知力・魔力に依存。
《方向感覚喪失》
本人の体内磁場が狂っているため、ダンジョン内では方向音痴になる。
→ 基本は仁の《模写》や《解析》頼りで迷わないようにしている。
実は、咲夜先輩はダンジョン内では方向音痴だった。たまに全然違う方に歩いていくのは何かを見つけた訳じゃなくてただの方向音痴だったとは……。かわいい。
「うう、だから仁君にはステータスを見せたくなかったんだよ」
口をへの字に曲げて、拗ねる咲夜先輩は実にかわいらしくて小動物みたいだった。
それにしてもサポートよりのバトルメイジだったのか。斧でガンガン殴っていくイメージだったからアタッカーだと思ってたけど。結界を使えるのはすごく便利だ。戦略の幅が広がりそう。
ゴブリンとは何体か、出会ったけど布の切れ端は落とさなかった。これについては咲夜先輩と話していて、おそらく一階層ではこれだけとドロップ数が決まってるんだと思う。
なのでサクサクと次の階層に向かうことにした。僕の解析で道を探しながらだけど。
ちなみに長良川ダンジョンはEランクダンジョンだ。ただ黒神所長と話したときに隠しルート次第では長良川ダンジョンも格上げになるかも、と言っていた。
「ふう、ここからが二階層に降りる階段だよ」
「苦労しましたね。咲夜先輩が変な方に歩くのは……」
「じ・ん・く・ん⁉」
「ギャー痛い痛い‼」
咲夜先輩にヘッドロックを決められて悶絶する僕。でも先輩からスキンシップを取ってきてくれたのはこれが初めてだった。ちょっと嬉しくもあるのは先輩には内緒だ。
二階層に降り立つと、広くなった洞窟の広場とその先に三つの分かれ道があった。
「解析! うーん、この三つの道はどれもモンスターの反応がありますね」
「仁君の解析は便利だなあ。とても地味職だとは思えないよ」
どっちの道を行くか迷ったので、スタンロッドを立てて倒れた方に向かうことにした。
倒れた方向は……真ん中だった。
「じゃあ真ん中の道に行こう! 行くよ!」
真ん中の道を数分進むと解析スキルによるダンジョン構造のマップに赤い点が三つ映る。
「咲夜先輩、この先の広場にモンスターが三匹います」
「了解。敵の種類は?」
「二体はゴブリンで、一体は未発見のモンスターですね」
「未発見? ああ、多分仁君がまだあってないモンスターってことかな。それならコボルトだと思うよ」
コボルトとは、犬がずんぐりむっくりした二足歩行のモンスターだ。武器を持っていることもあって初心者がなめてかかると大怪我を負うらしい。
「じゃあ、二体のゴブリンを咲夜先輩が担当して、一体のコボルトを僕が引き受けます」
「了解。でも大丈夫? コボルトは意外と厄介だよ」
「時間はかかるかもしれませんが、一体なら大丈夫です。解析して死なないようにしますから」
「それならいいけど。でも危なかったら結界を使うからね」
「はい。それでお願いします」
広場に近づくと、緑色の小鬼が二体とずんぐりむっくりで顔が醜悪な二足歩行の犬がいた。間違いない。ゴブリンとコボルトだ。
僕は素早く罠がないかどうか、コボルトとはどんなモンスターなのか、解析する。
「解析!」
罠は……ある! 左方向に毒煙が噴出する罠がある!
モンスター名:コボルト 危険度ランクE
普段は二足歩行だが、近づいてくるときは四足歩行で走ってくる。素早い短剣攻撃に注意。耐久力はそこまでない。
「仁君! 前に出るよ!」
「咲夜先輩! 左方向、尖った石がある所の床は罠があるので行かないでください!」
「わかった! 見切り!」
咲夜先輩が前に出ながら二匹のゴブリンの攻撃をかわした。それを横目で見ながらコボルトに集中する。
「ガアアア!!」
コボルトが僕に狙いを定めて、トラップのある方にコースを膨らませながら四足歩行で走り出した。
「かかったな! トラップ発動!」
コボルトがトラップをぎりぎり踏むか踏まないかの所で毒煙のトラップを発動する。
「ガアアア⁉」
コボルトが毒煙を浴びて毒状態になった! これならそこまで時間はかからないだろう。
「ん?」
コボルトの横にバーが出た。これはゲームでよく見るHPバーだ!
だんだんとHPバーが減っていくのがわかる。
ここに来て「解析さん」がどんどん有能になっているよ。
「コボルト! 来い!」
僕は解析を使いつつ、スタンロッドを構えながらコボルトに走っていく。
その時、コボルトの姿がぶれて、二秒先に飛び掛かりながら、短剣を突き刺してくるビジョンが見えた。
「え?」
僕は戸惑いつつも、コボルトが飛び掛かろうとする寸前で横に跳んだ。
「ガアアア?」
コボルトはそのまま飛び掛かり、簡単に避けられたことに疑問の声を上げている中、僕は考える。
これは解析が進化する兆しかもしれない。確かに二秒先のコボルトの行動が見えた。
その横で咲夜先輩がゴブリンの棍棒を跳ね上げて大斧を一閃して、一匹のゴブリンの首をはねる。
スタンロッドのスタンスイッチをカチッと入れる。
僕は隙だらけのコボルトに紅い光が点滅する弱点の眉間に向けて打撃を叩きこんだ。
ビリビリビリッ!
「ガアアア‼」
コボルトは、ひどく痙攣して、ブルブルと体を震わせながら倒れこむ。
コボルトは毒のダメージもあって、黒い霧になって消えた。
咲夜先輩ももう一体のゴブリンにとどめを刺して、戦闘を終わらせたようだ。
「見て、二体のゴブリンから布の切れ端が二枚ドロップしてるよ」
「ですね。コボルトからは毛皮と魔石の欠片がドロップしましたよ」
二体のゴブリンからは白と茶色の布の切れ端、コボルトからは白い毛皮と魔石の欠片がドロップした。
「これ、ほとんどドロップしないやつだよ。地属性の魔力を帯びた魔石だね」
僕がそれを手に取ると、解析が発動する。
「なるほど、地属性の魔力がうっすらと感じられますね」
「一応、買取もしてもらえるけど装備のエンチャントに使えるくらいだね」
「うーん、でも何かに使えそうなんですよね。取っておきます」
「布の切れ端はいつも通り模様が見えるのかい?」
「そうですね。あと一枚ですねえ」
「それにしても……」
「何です?」
「さっきの仁君の動きはすごかったよ! トラップの有効活用。相手の動きの先読み。躊躇ない弱点への攻撃! どれ一つとっても素晴らしかった。急にどうしたんだい?」
「いや、解析で相手の弱点とかトラップの任意発動とかできるようになって……あと」
「ん? なんだい?」
「相手の二秒前の動きがわかったんですよね。でもスキルには載ってないし、どうしたんだろうって」
「まあ、悪いもんじゃないからいいでしょ? それにしても仁君にすぐに追い抜かされちゃいそう。私、着いていけるかなあ」
「何言ってるんですか! 咲夜先輩の動きもすごかったですよ!」
「そうかなあ」
咲夜先輩の動きに比べれば、僕なんてまだまだだ。足手まといにならないように頑張ろう。そう決意を固めていると、咲夜先輩が僕の頭を自然に撫でてきた。僕は照れて顔が真っ赤になってしまったが、咲夜先輩も耳が真っ赤だった。かわいいかよ。
そんなこんながあったが、先に進んだところにいたゴブリンを倒して布の切れ端が五枚揃った。
そして怪しいと思われる何もない行き止まりの道までたどり着いたのだった。
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