第一話 ダンジョンアナリストって何ですか?
この世界には「ダンジョン」と呼ばれる未知のモンスターが出てくる領域がある。
それができたのは十年位前のことらしい。僕が住んでいる二ホンの中京圏と呼ばれる地域は二ホン列島の真ん中あたりの地域だ。岐富市に生まれた僕にとって、ダンジョンがこんな田舎にダンジョンが初めてできるとは思ってもみなかった。
初めは川の中州に洞窟の入り口のようなものがあると警察に通報が入ったのが最初らしい。
当時は「ダンジョン」なんて概念は田舎に存在しなかったから大変な騒ぎになったらしい。マスコミや野次馬が大層岐富市にやってきたみたいだ。
だけど二ホンの主要都市にダンジョンができるとその騒ぎもだんだん収まって行ったんだって。
それから国の調査が入って、モンスターと呼ばれる特殊な生物がダンジョン内に生息していること。それを倒さないとダンジョン内からその生物があふれ出すことが分かった。
だから二ホンの職業には新しく「探索者」と呼ばれるものができたんだ。初めはモンスターを倒す役目を自衛隊が担っていたんだけ五年前に民間にその役割が委託された。
それから高校を卒業した学生には「ダンジョン職業診断テスト」というものを受けるように義務化された。勿論大人もそのテストを受けることはできるけどね。
ただ十八歳以上じゃないとそのテストを受けられないってだけだよ。
僕はそのテストを受けるために岐富市探索者センターに昼から来ていた。
「やっとダンジョン職業診断テストを受けられるのか! 高校生活も楽しかったけどこの日を待つのはしんどかったぜ。なあ仁?」
「そうだね。僕は高校の部活がしんどかったけど……」
僕の名前は青井 仁。隣にいるのは火車 遥だ。遥は女にしては肩幅が広く筋肉質でガタイのいい百七十五センチはある長身の赤髪の女の子だ。
僕は遥とは対照的で身長は百六十五センチのやせ型だ。ちなみに遥はボクシング部に入っていて国体にも出るくらいの腕前でもある。
僕はバトミントン部だよ。身長は低いからシングルスは強くなかったけど、ダブルスでは相手の弱点を見抜いて嫌な位置にシャトルを落とすのが得意だった。
僕と遥が話しているうちに午後の部の「ダンジョン職業診断テスト」が始まったみたいだ。
受付の綺麗なお姉さんたちが四人並んでいて、それに列を作って、どんどん診断テストをしていくみたいだ。
「よし! 私たちも行こうぜ」
「そうだね」
僕と遥は同じ列に並んで、前の人がどんな職業か見守ることにした。
「あたしの番だよ!」
金髪のギャルっぽいメイクの女の子が、喋っているのが聞こえた。
体重測定の機械みたいな見た目のものに乗って、備え付けのレバーを握ると、十秒ほどしてから職業が出てくるみたいだ。
この女の子が午後の部、初めての診断テストを受ける人としてどんな職業が出るか気になっている人は多いみたいだ。周りが静まり返る中、十秒ほどたって……。
ピー!
機械から光が生まれ……画面には……。
「やった! 私の職業はブルーマジシャン‼」
おお! 会場にどよめきが起きる。
ブルーマジシャンという職業は水や氷魔法を使えるようになる魔法使いのことだ。使い道は色々とあり、重宝される職業でもある。
そんな期待の職業である金髪ギャルは、当然ほかの探索者や探索者支援事業をしている会社から狙われる存在であった。
他にもガーディアン・ナイトやホワイトマジシャンなど、期待の職業を持つ人たちが誕生していく。
その期待感はだんだん僕にも伝わってきて、どんな職業になるかワクワクしてきた自分がいた。
そして遥の番が来る。身長が高い遥は、企業やスカウトに来た一般探索者が期待している人物らしい。この瞬間を逃すものかと視線が遥に集まっているのが僕にも伝わってきた。
「よし、やるぜ‼」
遥が機械に乗ってレバーを握ると……。
今までの光よりもひときわ大きい、まばゆい光が生まれる。
「わ、私の職業は、バトルマスタ―だ‼」
周りの人たちはそれを聞いた瞬間、うおおおおおっと雄たけびを上げる。
バトルマスターは二ホンに十人しかいない、貴重な戦闘職だ。上位職で「ダンジョン職業診断テスト」で初めからそれを引いている人はおそらく遥が初めてだろう。
要は前衛職でとても強い職業というわけだ。
周りのスカウトに来た探索者たちや企業の人たちがどよめきを起こすのも無理はなかった。
そしてその次に「ダンジョン職業診断テスト」をする僕にもなぜか期待感が集まってきた。
ただ僕も何かすごい職業を引けるのではないかという期待感があった。
「次の方、どうぞ」
綺麗な受付のお姉さんが僕を呼んでいる。
僕は周りがどよめいている中、機械の上に乗り、レバーを握る。
計測を始めた瞬間、ピカーっと遥の時以上の眩い光が機械の画面から発せられる。
「うおおお!! あいつの職業はなんだ⁉」
「あのガタイのでかいやつより光っているぞ!」
周りの探索者や企業のスカウト部隊が驚きの声を発する中、画面に現れた文字は……。
「ダンジョン・アナリスト?」
僕がその文字を読みあげると周りが静まり返る。
「ダンジョン・アナリスト? なんだあ、そりゃ」
「アナリストって何や?」
「全然わからんわ」
僕は静まり返る会場の中、何を言っていいのかわからなかった。
だが僕が何かを言わなければいけない空気だったので、考えた末に……。
「だ、ダンジョンにも穴はあるから……」
その一言は、シーンとした会場に鳴り響き、やがてクックックっと笑いをこらえた後、あーはっはっはと笑い声がそこら中から鳴り響いた。
「だーはっはっはっは! そうだよな、ダンジョンにも穴があるよな」
「穴にしてはでかすぎるだろ! あーはっはっはっは!」
「笑っちゃダメ、笑っちゃダメなのに。ぶふっ」
いつの間にか僕の前の綺麗なお姉さんまで笑っていた。
こうして僕は今日一番の喝さいと笑いを取ってしまった。
謎の職業と共に……。
*この作品の現代は2000年代から始まっていきます。そのためアナリストという職業自体が広まっていません。その点をご了承ください。
小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。