見えない障壁
毎回タイトル違うなーって思いながら書いてます。
注:すっげぇ長いです
しばらくして、鏡さんが運転してくれていた車は、ある大きな家の前に止まり、そこで下ろされた。
「えっと…ここは?」
もちろん私は、行き先など知らされずにこの車に乗ったのでここが何処なのかは分からない。
なので榊さんに聞いてみた。
すると、何故か鏡さんから答えが返ってきた。
「ここかぁ?ここは燎ん家だよ」
ん?燎って誰だ?
頭にはてなマークを浮かべていると、いつの間にか隣にいた榊さんが答える。
「鏡…お前、敬語を使うべきだと毎回言っているだろ……。申し訳ありません澪様。こいつが言っている「燎」というのは私です」
そう言われてみれば、さっき鏡さんがしてた話に出てきてたかも…。
「あの、すみません榊さん。何故榊さんの家の前に止まったんですか?」
気づけば改めてそう聞いていた。
言われた榊さんは、その質問がくることも予想していたようで、簡潔に説明してくれた。
曰く、
・神折師と護衛官は一緒に生活するという慣習があり、それを守るため。
・そもそも私が家を持っていないため。
・もし榊さんが不在でも私を守れる人が家にいるため。
らしい。
一緒に生活するとはいっても、部屋は別になるようだ。そのほうが安心するのでありがたい。
ついでに前までの部屋よりももっと広い部屋を使わせてくれるらしい。
「こんな落ちこぼれに、そこまでの待遇はしなくてもいいと思いますよ」
つい、そう呟いてしまった。
しかし榊さんはそれが聞こえていたのか、ポカンとした表情で言う。
「何を言っているんですか?貴女は、あの家のどの人間とも比べるまでもない。当代で最も優秀な神折師ではないですか」
「っ!!」
私は即座に2人から距離を取り、無詠唱で《反射》《全属性魔法防御》《状態異常無効領域》の3つを発動した。
「…何の事を言っているのか、よく分かりません。私が両親や姉よりも優秀だと?そんな訳ありません。私は一族の『落ちこぼれ』ですよ?」
バレてはいけない。落ちこぼれは、落ちこぼれのままで生きる。それが、唯一の私の幸せを見つける方法だ。
そうすれば、いつか開放されるから。いつか、家を出ることが出来るから。
「今は貴女の姉が作ったという物になっている依代。あれは、貴女が作ったものだ」
そう言いながらこちらに歩み寄ってくる彼。
どうして、解放してくれないの?
「ぅ…」
彼が一歩踏み出す度に、創り出した障壁が1つ、優しく音もなく崩れ落ちていく。
「護衛官という者たちは、皆魔力が『視える』。だからあれが貴女の姉が作ったものでは無いことはわかっていた」
また一歩、彼は足を踏み出す。
彼はもう、すぐそこまで来ていた。
どうして、この世界に絶望させてくれないの?
言葉にならない問いかけが心の中に溜まっていく。
「貴女はもう自由になるべきだ。あんな長い間酷い扱いを受けて、耐えながら暮らすなんて間違っている」
いつの間にか榊さんの長い腕が、私を包み込んでいた。
「もういい。もう何にも耐えなくていい。誰にも従わなくたってもいい」
多数の障壁を維持・創造するのも忘れて、彼の言葉を聞き続ける。
「何があっても、誰を敵に回しても、俺は絶対に貴女の味方だ」
いつの間に、泣いていたのだろうか。
『泣いたら、殴られるから』
あの家にいた頃は、泣くことすら出来なかったのに。
味方がいるということに安心したのか、どんどん涙が溢れ出てくる。
「ごめん、なさい、止められ、なくて」
嗚咽のせいで言葉も切れて、変な喋り方になっている。
「大丈夫ですよ。落ち着いたら、家に入りましょうか」
私の背中をさすりながら言う榊さん。
人前で泣いてしまったのが恥ずかしくて、彼の顔は見ることが出来なかった。
(あれ?俺、空気…?)
by鏡
いやー、この人不憫ですねぇ。
一応、次の話からは次の章になりそうです(多分)。