表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第四話「メリーゴーラウンドの見張り番」

風に乗って、遠くから音楽が聞こえてくる。賑やかな声、歓声、笑い声。でも、それらはもう、この片隅まではやってこない。


廃園となった遊園地の端、使われなくなったメリーゴーラウンドの格納庫で、私は今日も薄闇と戯れている。かつて、この建物には毎晩、色とりどりの木馬たちが戻ってきた。真鍮の手綱を、私の光が優しく照らしていたものだ。


技術部の藤村さんが、最後にスイッチを切ってから、もう半年。それ以来、誰も戻ってはこない。でも、時折こうして勝手に明滅を繰り返している。配電は生きているから。


「おや、また点いてるのか」


警備員の村上さんが、巡回の途中で立ち寄ってくれる。もう完全に閉園した遊園地だが、夜間の警備だけは続いているのだ。


「しぶとい奴だな」


懐中電灯の光が、埃を被った木馬たちを照らす。私は意地でも光を放とうとする。かつての光量の半分も出せないが、それでも頑張って格納庫の片隅を照らし続ける。


昔は、ここでメンテナンスが行われていた。塗装の剥げた木馬を丁寧に補修し、壊れた機械を修理する。技術部の面々は、まるで本物の馬を世話するように、木馬たちを大切に扱っていた。


...ぽっ。


また光が揺らぐ。でも、すぐには消えない。長年の経験で、どれくらいの光を保てるか、加減が分かるようになった。


昨日、経営本部の人たちが視察に来ていた。LEDの導入計画を立てているらしい。遊園地の再開発が決まったのだ。この格納庫も、いずれは取り壊されるという。


木馬たちの行く末は分からない。骨董品として売られるものもあれば、廃棄されるものもあるだろう。私が照らしてきた小さな世界は、確実に終わりを迎えようとしている。


でも、それは悲しいことばかりではないのかもしれない。


...ぽっ、ぽっ。


光が断続的に明滅する中、木馬たちの影が壁で踊っているように見える。まるで、最後の円舞曲でも踊っているかのように。


子供たちの歓声、オルガンの音色、回転する光と影。それらの記憶が、今も確かにここに残っている。新しい遊園地になっても、きっとまた別の歓声が響くのだろう。


光が微かになる度、村上さんは「まだ頑張ってるな」と声をかけてくれる。


ええ、まだ頑張れます。建物の解体が始まるまでの間、この格納庫を、この木馬たちを、見守り続けたい。それが、遊園地で過ごした二十年の、私なりの締めくくり方。


...ぽっ。


今宵も、メリーゴーラウンドの木馬たちは、私の不安定な光の中で、静かな夢を見ている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ