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【短編】ホラー短編シリーズ

ホラー小説のネタ探し

作者: 烏川 ハル

   

 私の趣味は小説執筆。職業作家ではなく、あくまでも趣味として書いている素人作家に過ぎないので、作品発表の舞台は(もっぱ)ら小説投稿サイトだった。

 残念ながら「だった」と過去形になってしまうのは、最後に投稿したのが3年前。それ以来、新しい作品の投稿が出来ていないからなのだが……。


 大学時代の友人である田中が新居を探しており、一日かけて色々と物件を見て回るという。いわゆる内見というやつだ。

 これは小説のネタ探しになるかもしれない、と思った私は、友人に同行することにした。住宅の内見といえば、ホラーの定番みたいな気がしたからだ。

 例えば、天井の隅にいわくありげな、人の形にもみえるようなシミがあるとか。備え付けの家具の後ろの隙間を覗いてみたり、不動産屋が敢えて開けなかった押し入れをこっそり開けてみたりすると、そこにはお(ふだ)が貼ってあるとか。

 ショートフィルムのホラー映画や短編のホラー小説で、そういうシチュエーションは何度も見たり読んだりした覚えがある。でも現実で同じ状況に立ち会った機会はないので、これは絶好のチャンス。ここで得たネタを元にして、新しくホラー小説を書いてみよう。

 そんな思惑で、不動産屋が田中を乗せた車に、私も一緒に乗り込んで……。


「どうです? なかなか素敵なところでしょう? 特に、こちらのキッチンが使い勝手の良いタイプでしてね。使う人間の気持ちになって設計されていまして……」

 まずは一軒目。不動産屋が田中に色々とアピールする間、私は勝手に他の部屋も含めて見て回ったのだが、怪しいものは何もなし。扉や家具の隙間など、私みたいな者にしか覗き込めないような狭いところまで調べてみたが、本当に何も見つからなかった。怪しいものどころか、まさに塵ひとつ落ちていないというレベルにまで掃除されていて、そちらに驚かされるほどだった。


「こちらの物件は、玄関スペースの吹き抜けが特徴でして、毎日この開放感を味わえるのが……」

 二軒目でも同様だった。不動産屋や田中から離れて、私ひとりで動き回ってみたが、完全に空振り。


「こちらは、この窓からの見晴らしが最高で……」

 三軒目以降も同じで、途中から私は飽きてしまったが、それでも最後の部屋までは同行して……。


「一応は条件に合致しますので、こちらも案内しますけどね。ここはいわゆる事故物件に相当するところでして、先々代の住人が亡くなり……」

「えっ、事故現場!?」

「いえいえ、『事故物件』の『事故』はそういう意味ではありません。普通に老衰で亡くなったのですよ。それでも『誰かが亡くなった場所は縁起悪い』と考えるお客様も多く……」

 田中も「そんな物件は嫌!」という態度だったが、むしろ私は興奮。ようやくホラー小説のネタになりそうなものが出てくるのではないか。

 しかし私の期待とは裏腹に、それらしき痕跡は一切なし。既に全て消された後だった。

 もちろん、ここで亡くなったという先々代の住人が幽霊となって出てくることもなく……。


「それじゃ、田中。お前は元気でな!」

 部屋から立ち去る友人の背中に声をかけて、私はそこに残ることにした。

 今日は何も見つからなかったとはいえ、一応は本物の事故物件だ。私一人、ここに残ってもっと探し回りたいと思ってしまったのだ。

「ホラー小説のネタ探し、続行だな」

 独り言を口にしながら、ふと自嘲気味に考えてしまう。

 どうせネタを見つけて新作が書けても、もはや私にはそれを発表する場はないのに、と。

 今の私は、小説投稿サイトにもアクセスできないのだ。先ほど田中への挨拶が独り言だった――田中には聞こえなかった――のと同じ理由で。

 なにしろ私は、3年前に事故で死んでいるのだから。


「私が成仏できないのは、おそらく小説関連で強い未練があるからだろうな。もっと評価されたかったとか、心の奥底では『プロ作家になりたい』という気持ちがあったとか」

 今更のように自分を振り返る余裕が出来たのは、この部屋が何となく居心地よいからだろうか。

 ならば、もうしばらくここに居させてもらおう。

 ここは不動産屋も「事故物件」と認めるところだ。ここで亡くなった当人は既に成仏したみたいだが、代わりに別の幽霊が居着くというのも、それはそれで面白いのかもしれない。




(「ホラー小説のネタ探し」完)

   

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