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雀のお宿

作者: 悪鬼乗り
掲載日:2023/09/01

ドンドンドンドンドンッ!!

その日の夜・・・

俺は、ドアが叩かれる音で目を覚ました。

「開けんかーい、コラッ!! いるのはわかってんだぞぉ!!」

外から濁声が聞こえる。

こんな夜中に、いったい何だってんだ?

寝ぼけていたのだろう。

俺はそいつに文句の一つも言ってやろうと思い、迂闊にもドアを開けてしまった。

「うっせーな! 今何時だと・・・」

そこまで言いかけて、俺はドアを開けたことを後悔した。

そこに立っていたのは・・・見知らぬオッサン!

口髭!

サングラス!

パンチパーマ!

見るからにチンピラ!!

そのチンピラは、俺を見下ろしながらニヤリと笑ってこう言った。

「恩返しに・・・来てやったぜぇ!!」

恩返し?

何言ってんだ、コイツは?

「あの・・・部屋、間違えてませんか?」

恐る恐るそう尋ねると、チンピラはキョトンとした顔をした。

「いや、間違えとりゃせんぞ。お前今朝、雀を助けたろ?

 ワシがその雀じゃ!」

はぁ?

何言ってんの?

・・・って、いや待て。

そういえば、身に覚えがある。


俺は、今朝の出来事を思い出した。

マンホールの空気穴に挟まって身動きの取れなくなった雀がいた。

自力で抜け出すことができないのだろう。

俺はその雀を助けた。

助けてしまった・・・

「美少女になって、恩返しに来いよ。」

雀を穴から助け出して、そんなことを言った。

ほんの冗談のつもりだったんだ・・・


「すまんのぉ、美少女じゃなくて・・・

 ワシ、雄なんじゃ。」

いやいやいやいや・・・

百歩譲って雄だったとしても、そこは美少年になって来るところだろ?

なんでチンピラ?

なんでオッサン?

「そんじゃ、行こか?」

雀は俺の手を掴んで、そのまま外へ引っ張って行く。

「あ、あの・・・行くって、どこへ?」

俺の質問に、雀はニヤリと笑いながらこう返す。

「雀が恩返しをする場所ったら、決まっとるじゃろ・・・?

 雀のお宿じゃ!!」




どこをどう歩いたのか憶えていない。

いや、もしかしたら、歩いていなかったのかもしれない。

気づいたら、俺は大きな屋敷の前にいた。

「着いたぜぇ! ここが雀のお宿じゃ!」

俺は雀に手を引かれ、屋敷の中へ連れ込まれた。


「お帰りなさいませ、兄貴!」

坊主頭の黒服が、深々と頭を下げて出迎えてくれた。

「おぅ! 親父は?」

「へい、奥の部屋におられます。」

雀は俺に振り向いて言う。

「ワシは親父に挨拶してくるけぇ、先に部屋で待っとってくれ。」

そして雀は坊主頭に何やら声をかけた後、屋敷の奥へと姿を消した。

「それではお客人、こちらへ・・・」

俺は坊主頭に促されるまま、屋敷の奥へと足を運んだ。


部屋に案内されると、俺は畳の中央に座らせられた。

「ここで暫しお待ちください。 酒を持って参ります。」

坊主頭はそう言って姿を消した。

どうしよう・・・?

このまま逃げちゃおうか?

いや、でも、どうやってここに辿り着いたか憶えてないぞ!

しかも俺、パジャマのままだし、靴も履いてない。

・・・などと考え込んでいると、坊主頭が一升瓶と盃を持って戻ってきやがった。

「ささ、お客人。 まずは一献。」

坊主頭は俺に盃を渡す。

仕方なく受け取る・・・と、その時だった。

「おう、恩人! 雀の酒は・・・」

背後の襖が開き、あのチンピラが入ってきた。

そして、坊主頭をいきなり蹴り倒した!?

「この・・・アホんだらぁッ!」

なんで!?

なんなの?

この理不尽な暴力!

「ワシの恩人に、なんつぅ無礼なことをしとるんじゃあ!」

はい?

イヤイヤイヤ・・・

無礼なことなんて、何一つ無かったよ?

「ちんまい盃なんぞ用意してぇ! もっとデカいの持ってこんかい!!」

「す、すんません!兄貴!!」

な、何言ってんのこの人?

いや、人じゃなかった。

雀だった・・・


坊主頭が奥に引っ込むと、雀は言った。

「すまんのぉ・・・気の効かん奴で。」

いや、気の効かんのはアンタだよ!!

俺はそう言いたいのをグッと堪えて、作り笑顔を引きつらせた。

程なくして、坊主頭が盃を持ってきた。

・・・盃?

あれ、盃?

確かに盃の形はしているけど・・・

あれ、タライじゃないの?

「先ほどは失礼いたしました、お客人!」

そう言って坊主頭は、そのタライを俺に渡してきた。

俺も仕方なく、両手でそれを受け取る。

すると坊主頭は一升瓶の中身を全部、そのタライに注ぎやがった。

「さあ恩人! 遠慮せずグーッとイってくれ!」

いつの間にか隣に座っていた雀が、満面の笑みで俺を見てる。

嫌と言ったら殺される・・・

そう思った俺は覚悟を決めて、盃の酒を飲み干そうとした。

・・・が、一升瓶の中身全部だぞ!?

無理に決まってる!

俺は1/3程飲み干したところで、盃を置いた。

「どうした、恩人? 雀の酒は口に合わんか?」

チンピラが俺の顔を覗き込みながら、そんなことを言いやがった。

いや、一升だぞ!?

口に合うとか合わないとか、そういう問題じゃねえだろぉ!!

「イヤ...チョット...アジワッテマス......ゼンブ?」

俺が口から絞り出せたのは、そのセリフだけだった。

それを聞いた雀は、何かに気づいたようにポンと手を叩くと・・・

また坊主頭を蹴り飛ばした!?

なんで!?

「この・・・アホんだらぁ! ツマミが無うて、酒が進まんじゃろうがぁ!!」

「す、すんません! すぐに持ってきます!」

イヤイヤイヤ・・・

ツマミがあるとか無いとか、そういう問題でも無ぇんだよぉぉぉぉ!

なんとかこの場から消える策を練らなければ・・・

そんなことを思って、俺は言葉を絞り出した。

「アノ...ボク...オナカ痛インデ...帰ッテモ...イイデスカ?」

それを聞いた雀は、心底残念そうな顔をした。

「そうか・・・そりゃ、残念じゃのう・・・」


「おーい! 恩人がお帰りじゃー! 土産を用意せぇ!」

「いや、お気遣いなく・・・」

やっと・・・やっと帰れる。

安堵した俺の目の前に、坊主頭が葛篭を持ってきた。

大きい葛篭と小さい葛篭だ。

「さあ恩人! どっちでも好きな方を持って行ってくれ。

 あ、両方はダメだぞ。 決まりなんじゃ。」

ぶっちゃけ、土産なんぞいらないから早く帰してくれ。

と、言いたいところだが、どっちかを持って帰らなければいけないらしい・・・

仕方なく、俺は小さい葛篭を持って帰ることにした。

「なんじゃ恩人。欲が無いのぉ・・・

 まあええ。小さい方はな・・・飛べるぞぉ!」

そう言って、雀は俺の手を引いて外に出た。




どこをどう歩いたのか憶えていない。

俺は道の真ん中にいた。

夜はもう明けている。

そして背には葛篭を担いでいた。

何はともあれ、俺はあの館から無事に生還できた!

「すいませーん。チョットよろしいですか?」

安堵した俺を呼び止めたのは、警察官だった。

貼り付けたような笑顔で、警察官は『職務質問』だと言った。

「パジャマのまま裸足で歩いているとか、おかしいでしょ?

 取り敢えず、荷物見せてもらえるかなぁ?」

そういえば、俺も葛篭の中身が気になっていたんだ。

俺は葛篭を開けた。

葛篭の中には、植物片が・・・




俺は『薬物所持』の現行犯で逮捕された。


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