私と妹
初めて短編を書きました。
短く纏めましたので、最後までお読み頂ければ幸いです。
余命半年。
突きつけられた宣告に、私は心臓を掴まれた思いだった。
この重たい現実を、両親も受け止めきれない様子で、傍で見ているのが辛かった。
私は、この事実を妹にも明かすべきだと両親に話をした。しかし、二人とも首を縦には振ってくれなかった。
曰く、そんなことを話したら、妹は酷く動揺するだろうし、可哀想だ、ということらしい。
昔から、妹には甘い両親だった。
その二人の決断は、私の胸の内に黒い渦を巻かせた。
***
妹は、明るくて、誰にでも好かれるような性格をしていた。美人という訳ではないが、愛嬌のある顔立ちで、いつも笑顔の絶えない、普通の女子高生。
対して私は、いつまでも垢抜けない、嫌味の多い女子大生。友達も少ないし、特技もない。普通というより、普通より少し下のところを生きてきた。
そんなふうにして、元々分かたれていた姉妹の人生という道は、この余命宣告によって、完全に分岐を果たしたのである。
半年という有限の時間を与えられ、私は妹への気持ちに整理をつけるようになった。
***
初恋は、中学の時。隣のクラスの高野君。
派手な人ではないけれど、誰にでも優しい物腰柔らかな彼のことを、いつも家族の前で語っていた。
毎日聞かされて、流石に耳にタコの家族を他所に、ここでしか話せないからと、存分に想いを吐き出した。
そんなある日、妹と出掛けた先で、高野君を見かけた。妹が「あっ」と短く声を上げたとき、視線の先の高野君の横に、可愛らしい女の子が、ひょっこりと顔を出した。
二人の雰囲気は、初々しい恋人そのもので、私と妹は口を開けたまま、彼らが視界から消えていくのを、立ち尽くして見送った。
気まずくて、妹の顔が見られなかった。
だけど、何も言えないでいる私に、妹は「馬鹿だよね、お姉ちゃん」と言って肩を揺らして笑った。
私はとてもじゃないけれど笑うことができなくて、喉をきゅっと縮こまらせて、拳を強く握って過ごした。
それ以来、家族の前で、好きな人のことは話さなくなった。
***
余命宣告を受けてから、ニヶ月ほどが経った頃、結局妹にも、今の状況を説明することになった。隠しきれることではないと、両親が観念したのである。
事実を知った妹は、驚きはしたが、あまり悲しむような顔は見せなかった。
それじゃあ、楽しい思い出を作らなきゃね、と私を連れてデパートを梯子した。私は、渦に飲み込まれそうになる胸の中を、必死に奮い立たせた。
妹は、こういう人間なのだ。
デパートでは、凡そ私には縁のなさそうな、余所行きの服を妹が選んでいく。
彼女が手に取る服は、どれも綺羅びやかで、私は思わず目を眇めた。
そんなことは全く気にしていない妹は、手に取った白いワンピースを、満面の笑みでこちらに見せてきた。
「これ、かわいい。似合うと思わない?」
華奢なデザインは、妹にはきっと似合うだろうと思った。でも、うまく言葉は出てこない。
私が妹と代われたなら、どんなに良かっただろうと思うと、自然と涙がこみ上げてきて、私はバレないようにとそっぽを向いた。
反応のない私に、妹はつまらなさそうに口を尖らせたようだった。
***
それから更に二ヶ月が経ち、転げ落ちるように体調が悪くなった。
ちょっと前まで、普通に歩けていたのに。ご飯もちゃんと食べれていたのに。今はもう、管に繋がれて寝たきりだ。
話すことも出来なくなって、私は夢の中に逃げ込んだ。夢の中では、元気な姿で走り回って、おしゃべりもできた。ずっとこのまま、目が覚めなければいいのにと思って、泣きながら朝を迎える日々が続いた。
そして、宣告された余命は正確に時を刻み、私は遂に妹とさよならをした。
***
享年十八歳。
未来が無限に広がっていたはずの妹は、静かにこの世を去った。
初恋の高野くん、お葬式に来ていたよ。この際だからと、あなたの初恋だったんだよと暴露したら、すごく驚いてた。勝手に話しちゃって、ごめんね。でも、散々あなたの恋バナに付き合わされたんだから、これでチャラかな。
デパートで選んだワンピース。
「似合うと思わない?」お姉ちゃんに、と続けたあなたが、渋る私を無視して結局買った、あのワンピースね。見る度に寂しくなるから、まだ当分着られそうにないの。
せっかく選んだのにって、怒るかな?でもいつか、絶対着るからね。
ごめんね、最後まで頼りないお姉ちゃんだったね。代わってあげられたらって、思うことしかできない、力不足のお姉ちゃんで、ごめんね。
大好きな妹へ。
また、会いたいな。




