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 エトリアは表情を変えない。男四人に比べて背が低いのはエトリアなのに、圧倒的に大きく見える。


「ヨネタス卿。『どなたに』は問題ではないわ。なぜわたくしたちが虐めなどという矮小なことをしたと思ったのかしら?」


「それは」

「聞かないでっ!」


 リリアーヌがセイバーナに縋りながらエトリアに訴える。


「なぜ?」


 セイバーナの気持ちは縋るリリアーヌよりエトリアの眼力にひれ伏している。


「リリアーヌ嬢がそう言っていたからです」

「だからこんなこと止めてって言ったじゃないっ! みんなの前で糾弾するなんて普通じゃないわっ!

こんなことしなければっ! こんなことっ!」


 リリアーヌがセイバーナの言葉に被せるように叫びだし男子生徒四人に怒鳴った。

 セイバーナはそんなリリアーヌの様子を見たのは初めてで驚きを隠せない。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。

コニャール王国第一王女エトリアでございます。お見知りおき願いますわ」


 エトリアがキレイなカーテシーでリリアーヌに向かって頭を下げた。


「「「エトリア様っ!!」」」


 びっくりしたヘレナたちは立ち上がり手を伸ばしてエトリアを止める。周りもざわめく。

 王女にも関わらず頭を下げ先に自己紹介をしたエトリアに生徒たちは驚きを隠せない。

 それに説明するようにエトリアはヘレナたちへ語った。


「身分の高い者から声をかけ、身分の低い者から自己紹介することは当然でしょう?

そちら様はわたくしに『聞くな』と声をかけ、自己紹介なさいませんもの。わたくしより高い身分なのでしょう?」


 ヘレナたちはエトリアの意思を理解して少しだけ口角を上げた。


「わたくしよりも優先させて証言を受け入れるのですもの。きっと高貴なお方なのですわ」


 エトリアがヘレナたちからリリアーヌへと視線を移した。


「大帝国の皇女様かしら? それとも聖教国の聖女様かしら? まさか、そのお年で女王様!!?

ご縁が持ててとても嬉しいですわ。

ヨネタス卿がそれほどの方にお心がお移りになったのなら、納得ですわね」


 エトリアが優しく微笑む。セイバーナは露骨にガクガクと震えていた。


「あら? わたくしの声は小さかったかしら?

コニャール王国第一王女エトリ……」

「リリアーヌ・テンソーですっ!」


 今度は王女の言葉に被せた。必死に身を乗り出しすぎて頭も下げない。それを見聞きしている男子生徒四人は蒼白だ。


「我が国の男爵家と同じお名前なのですね。

アロンド。わたくし、無知なようだわ。テンソー国を知らないの。どちらにあるお国なの?」


 エトリアは視線はリリアーヌに向けたまま斜め後ろに控えるアロンドに聞く。


「だん……(男爵家のご令嬢です)」

「コニャール王国の男爵家ですっ!」


 リリアーヌは今度はアロンドの言葉に被せる。どう見ても王女殿下のお世話をし慣れているお付きの者であるアロンド。高位貴族令息だと予想できる。つまりはリリアーヌより身分は上だ。


 リリアーヌに呆れているエトリアは首をゆっくりとアロンドに向けた。


「アロンド。この場合どうすればいいのかしら?」


 アロンドも苦笑いだ。

 エトリアはもちろん、ヘレナもメリアンナもケイトリアもリリアーヌのことは調査で知っている。だが、話したことはない。

 エトリアが頭を下げたときにびっくりしたヘレナたちだが、その後の展開を見越した行動であったエトリアへの羨望を強め、裏を読めずにエトリアを止めようとした自分たちを少しだけ恥ずかしく思っている。

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