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「エトリア王女殿下……」 


 セイバーナは正式な敬称を付けてエトリアを呼んだ。


「何かしら?」


「随分とあっさり婚約解消をお認めになるのですね……」


「「「はぁ???」」」


 ヘレナ、メリアンナ、ケイトリアが声を揃えて不満を口に出した。

 エトリアがクスリと笑った。


「ヨネタス卿。わたくしが了承したことが不思議なのですか?」


「エトリア様……いえ、エトリア王女殿下は私に執着なさっておいででは……?」


「「「はぁ???」」」


 再び、ヘレナ、メリアンナ、ケイトリアが声を揃えて不満を口に出した。

 今度ばかりはエトリアも扇の陰で口を開けた。


「アロンド。ヨネタス卿はわたくしを愚弄なさっているのかしら?」


 エトリアは後ろに控えていた前髪の長い執事服の男性に質問した。


「申し訳ございません。私も愚者の心は理解しかねます」


 アロンドと呼ばれた男性が目を伏せて返事をする。前髪で見えないが雰囲気で伝わってくる。


「そう。男心というわけではないのね」


 エトリアが立ち上がる絶妙なタイミングでアロンドが椅子を引く。


 凛と立つエトリアの輝く金色の髪が揺れた。男女問わず見惚れる。


「ヨネタス卿。わたくしは自分の立場と価値を理解しております。ですから、貴方に執着することはありえません」


 静寂に包まれた食堂に大きな声ではないが威厳のある王家に相応しい声音できっぱりと言い切った。


「あ……。

…………です……ね……」


 セイバーナは自分から言い出しておいて悲しそうに目を伏せる。


「王家には兄達も弟もいますが、わたくしはこの国において唯一の王女です。それは政治的な駒として格別に高い価値を持っているということです。

ですから、わたくしは幼き頃から婚姻に対して恋や愛を求めておりません。

婚姻する相手と信頼関係を築ければ僥倖。大抵はわたくしを子供を産む道具であると考え、そのように扱うでしょう」


「えっ!!」


 セイバーナは驚愕した。周りの生徒たちも息を呑む。


「当然でしょう? 大切なのはわたくしの血、なのですから。その血が国際的な平和やその家門の発展の礎となるのです。

わたくしの婚姻はそのためのものです」


 ヘレナ、メリアンナ、ケイトリアが自分の目尻にハンカチを当てる。


「そんな……。ならば、なぜ私の婚約者になられたのですか?」


「ヨネタス公爵が強く望まれたからです」


「父上が……?」


「我が国には公爵家は十家。その中で王家の血が入っていないのはヨネタス公爵家だけです。

王家としては、そのようなことは些末なことであり、ヨネタス公爵家の忠義と領地経営能力を信頼しております。ですから、ヨネタス公爵家との政略結婚は必要としておりません。

しかし、なぜかヨネタス公爵が王家の血を強く望まれたのです」


『お祖父様と父上は血に対してとても劣等感を持っていらっしゃる。外で口に出すことはないが、家内ではよく仰っていた』


 セイバーナは思い当たることがあり顔を青くした。現国王の兄弟は弟しかおらず現公爵も弟だけだ。セイバーナが生まれてしばらくして王女が誕生したことに公爵家は我が事のように喜んだ。


「エトリア王女殿下が私を何度も個人的な茶会にお誘いくださったのは?」


 セイバーナの言葉にエトリアは小さく首を傾げた。アロンドがエトリアに耳打ちする。


「ああ! なるほど!

ヨネタス卿。それは貴方の勘違いですわ。わたくしは何度もお茶会にお誘いしたわけではなく、王城でお勉強なさってくださいとご連絡したのですわ」


 婚約者なので個人的な茶会はもちろん数度行われてきたが、エトリアがセイバーナに登城を促すのはほぼ毎日であった。

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