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26【最終話】

 僕セイバーナはずっとずっと苦しかった。


 エトリア様は本当に素晴らしい方だ。王女という身分なんて付属にすぎない。


 だが、僕は違う。僕自身が公爵令息という身分の付属品でしかないのだ。


 エトリア様との婚姻は緩い緩い監獄に囚われに行くもののような気がしていた。僕にはエトリア様をお守りする自信もエトリア様をお支えする能力もエトリア様と並び立つ度量もない。そんな僕と婚姻しなくてはならないエトリア様も、また、緩い緩い監獄に囚われることになるのだろう。

 僕は僕達の未来に絶望感を抱いていた。


 そんな時、リリアーヌといかがわしいことをしてしまった。酔いも抜けきらぬ朝方、夢か現かもわからぬ頭で欲望の赴くままにそこにある裸体を貪った。


 僕はすぐにエトリア様にご相談することを考えた。だが、エトリア様が困ったような笑顔で受け入れ僕を赦してくれる姿が思い描けた。エトリア様ならきっとそうする。


 だけど、それはエトリア様にとって幸福なことでない。


 僕はエトリア様に打ち明けることができなくなった。


 すると二ヶ月後、リリアーヌから妊娠を聞かされた。

 ああ、だけど、エトリア様はそれさえも受け入れてくださってしまうだろう。


 僕にはリリアーヌの妊娠より、エトリア様に我慢させてしまうことに心を痛めた。


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、級友たちがアドバイスをくれた。


『エトリア王女殿下はセイバーナに執着しているぞ』


 それは絶対にない。


『王族が相手だからな、公にやらないと握りつぶされるぞ』


 握りつぶしはしないが、大きく受け止めてくれてしまうだろう。


 かくして僕は公の場で婚約を解消してもらう道を選んだ。前日、父上には廃籍してくれるよう手紙を送っておいた。


 なのに、僕は未練がましくエトリア様に執着の件を聞いてしまった。当然、否定された。

 もし、少しでも肯定されていたら……縋り泣いてしまっていたかもしれない。


 エトリア様への遠慮はあったけど、エトリア様を娶ることに重圧はあったけど、それでもエトリア様への羨望と敬意はあるのだから。


 僕は緩い緩い監獄へ向かう道から救い出してもらったのだ。



〰️ 〰️ 〰️


 これまで大変お世話になりました。

 私は元気でやっております。皆さんによくしていただき毎日が充実しています。


 私の家族に愛していると伝えてください。そして、ご自愛し長生きしてくださいと。


 セナ


〰️ 〰️ 〰️


 セイバーナが働き始めて一年以上経った。ある日、ベイドルン侯爵からセナ宛に小包が届いた。


「おっ! 新聞じゃねぇか。この村ではとってないからなぁ。どれどれ」


 新聞が二部入っていた。モナタスが広げる。


「ああ。第五王子の婚約の話か、一年近くも前の新聞だな。んで、こっちは…………第五王子の結婚か、これはつい最近みたいだぞ。

なんだ? セナは第五王子の知り合いか?」


「いえ、存じ上げません」


 セイバーナは新聞の一つを広げた。


【アロンド第五王子殿下と隣国コニャール王国のエトリア王女殿下 ご婚約!

二国の絆、さらに深まる!】


『ああ、そうか。僕を救ってくれたのは、かのお方だったのか。あのお方ならエトリア様を必ずお幸せにしてくださる』


 セイバーナは……セナはいつも熱くエトリアを見ていた執事服の男を思い浮かべ、嬉しそうに笑った。



〜 fin 〜

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― 新着の感想 ―
[一言] ハッピーエンドなのに、ちょっと切ないです。セイバーに幸あれ!
[良い点] 最終話がセイバーナの話でしめられ、セイバーナがよくあるテンプレな敵役婚約者じゃなかったこと。 [一言] 王女が王女らしくありすぎ、婚約者はそれを支え切るには一歩踏み込めず、さりとて自暴自棄…
[一言] いやホント頑張れ!セイバーナ! って感じのラストでしたね〜 面白く読ませて戴きました。
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