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 一階は役所で二階には寝室がいくつかある。モナタスは領主ベイドルン侯爵が来た時に泊まると言った。


「セナはここで暮らすから二番目に大きな部屋だ。ここなら本棚もテーブルも揃っているからな。台所や便所は下の仕事場のを使っていいぞ。バーノンの部屋の本は読んでもいいと言っていたぞ。俺は本なんか読まねぇけどな、ガハハハ!」


 建物内の説明を受けているうちに夕方になり、モナタスが家に招待してくれた。モナタスの妻は突然の来客にも笑顔で受け入れてくれ、慣れるまでは夕食を出してくれると言う。

 翌日からセナの朝ごはんと昼ごはんにと、モナタスから受け取った。モナタスの妻がサンドイッチを作ってくれたのだ。


 モナタスは本当に仕事の説明はできなかった。


「その辺の書類見て出来そうなものだけやっといてくれ。次に文官が来てくれたときに他の仕事は聞くといい」


 セナことセイバーナは役所内の書類を一週間かけて隅々まで読んだ。それは理解できるものばかりであった。

 公爵家後継者として勉強してきたセイバーナにとって小さな村の管理はすでにできるものであった。ベイドルン侯爵に派遣された役人に説明を受け、全ての書類を管理できるほどに理解した。

 

 モナタスはそれを絶賛する。


「セナは天才だな。本当なら王城で働けるんじゃないのかぁ!」


 確かにもう少し勉強すれば王城で働けるだけの力はある。


「そんなことありませんよ。僕は力仕事よりこちらが得意だというだけです。村の人のお役に立っているという点はモナタスさんの方がずっとずっと上ですよ」


「いいねぇ! その謙虚さ! 村のばあさんたちのお気に入りになるわけだ。わっはっは」


 モナタスがセイバーナの背をバンバンと叩きセイバーナは困り笑顔でよろける。


 これはいつもの風景。いつものやり取り。


 セイバーナはこの穏やかな時間に幸せを感じていた。


〰️ 


 セイバーナがここに来て半年ほど経った頃、ベイドルン侯爵が視察に来た。


 セイバーナは役場の応接室に呼ばれた。不安と期待とで心臓は破裂寸前だ。


「セナ。とてもよくやってくれているようだな。とにかく、座ってくれ」


 入室して挨拶をしたセイバーナにベイドルン侯爵は柔和な笑顔を見せた。ホッとしたセイバーナは素直に従った。


「それで? 私に聞きたいことがあるだろう? 答えられることばかりではないが、できる限り答えよう」


「僕はご温情をいただけたのですね」


 セイバーナはしっかりとベイドルン侯爵を見つめた。


「それへの答えは難しいな。確かに温情にも見える。だが、角度を変えれば試練だ」


「試練ですか?」


 手厚い護送に手配されていた仕事と衣食住。楽しい上司に気さくな住民たち。

 セイバーナには何が試練なのか理解できなかった。


「どうやら君は本当に実直な若者なのだな」


 セイバーナは思わず目を伏せた。


「そのようなことはありません。僕が罪人なのはご存知なのでしょう?」


「そうだな。詳しくは知らないがそうかもしれないとは思っていた。私はとあるお方に君の保護を頼まれたのだが、ここまで来る旅程で君が逃げても追う必要はないし、逃したことに罪の意識はいらないと言われている」


「え!?」


 思わず顔をあげる。


「君は長い道のりの間、縄も付けられず監禁もされずいつでも逃げられる状況にあっただろう?」


「は、はい」


「チェスタヤ王国に入国してからの馭者は私の家の厩舎係の者だ。コニャール王国内はかのお方が雇った街の貸し馬車だと聞いている」


 護送官だと思っていたセイバーナは目を見開いた。セイバーナは護送は本来騎士が務めるということを知らなかった。

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