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「少なくとも僕は君がヨネタス殿を名前呼びすることに嫉妬するよ」


「ヨネタス公爵家まで付いてくるつもりだったくせに」


 エトリアは嫉妬されることに恥ずかしくなってプイッと横を向いた。


「家臣として付いていくことと、伴侶として嫉妬することは別ですっ!」


「まだ婚約もしていませんっ!」


「ふふふ! 『まだ』ね。君も僕を認めてきてくれているみたいで嬉しいな」


「もう知らないっ! 今日のお話は終わりよ」


 エトリアは立ち上がると寝室である隣室への扉へ向かって歩き出した。それを見たメイドはアロンドを早々に立ち上がらせて部屋を追い出す。


 エトリアは寝室で火照った頬を抑えようとしていた。メイドは微笑みながら冷たい飲み物や濡れタオルを用意してエトリアの世話をした。


 メイドはエトリアが最東の女辺境伯になろうと思ったことはエトリアがアロンドに好意を持っているからだと感じている。しかし、そんな小さな恋心に気がつく様子もないエトリアに対して庇護欲が駆り立てられ、辺境伯領へ付いて行こうと決心していた。


〰️ 〰️ 〰️



 数日後、エトリアが賜ることになった辺境とは反対側である西の辺境地へ護送馬車が向かった。

 その馬車にはセイバーナ以外の四人が乗せられている。


 西の辺境地は未だに隣国と小競り合いが続いており、兵士が集まる辺境砦には使用人が不足していた。辺境伯から使用人を雇用送致してほしいと要望が出されており、四人を送ることになった。

 四人が長く働けるとは思えない場所である。


 リリアーヌが送られる理由は使用人という名の娼婦である。女性であるが性交渉が好きなリリアーヌにとってそれが罰になるのかは疑問に残るところだが、少なくとも辺境地から出られないことは罰になると判断された。それに、清潔でない環境での娼婦は病気になりやすい。避妊薬もないから無理に墮胎させられることもある。


 貴族子息である三人は眉目秀麗で、騎士団を希望していたレボールでさえ荒々しい兵士たちから見ればまだまだか細い。そんな三人が送られれば、使用人としての仕事ではなく違う仕事が充てがわれることになるだろうことは予想に容易い。三人はどこまでそしていつまで耐えられるのだろうか。

 性に溺れ性欲求を満たすために画策した三人の末路は厳しいものだった。


 各家にも保護者として管理責任を問われる罰が与えられた。国からの処罰は多額の罰金と爵位を一つ降格だけであるが、元婚約者の家への慰謝料は膨大な金額になるだろうことは予想できるので、爵位の維持は難しいと思われる。


 男爵家は当然のように爵位の剥奪であるが、父親は喜々として無一文で出ていったという。

 元々、メイドを情婦にして、身籠ったとわかるやメイドに戻し働かせ素知らぬ顔で使用人部屋で育てさせていた。さらには外で遊び放題であった。そのためとうとう首が回らなくなった男爵は年頃になった娘を急遽養女として籍を入れ学園へ押し込んだ。


『顔だけは俺に似て完璧な女なのだ。金持ちの坊っちゃんを落としてくればラッキーだな。こいつが村の男たちを食っているのは知っている。少しは手練手管を持ち合わせているだろう』


 その程度の目論見である。


 爵位剥奪なら無一文で追い出されるだけだが、爵位返上では借金は残る。父親はリリアーヌの愚行を喜んだ。


 だが、世の中そうは上手くはいかない。


 爵位剥奪により、借金は国により踏み倒される形になった。何件かは闇金貸しである。父親はあっけなく捕まり、どこかへ連れていかれた。母親も一緒に。


 母親はリリアーヌが養女になった時、メイドから情婦に戻ったことを喜んでおり、男爵家を出るときももちろん付いて行った。母親は何をされてもその父親を愛していたのだった。男爵はリリアーヌの父親だけあって大変見目麗しい者である。


 たった一人の馬鹿な男に入れ込む母親が哀れに見え自由に恋愛を楽しむ父親を羨ましく思ったリリアーヌは多くの男に囲まれることを夢見るようになった。そのために幼い頃から体を使っていたのだった。


 リリアーヌを金銭で買った男子生徒たちは名前の公開はされなかったものの親である領主たちは積極的に懲罰を与えた。学園内で売春に関わっていたなど醜聞以外の何物でもない。

 国王陛下は領主たちの判断を見て貴族としての矜持やあり方への考えなどをそれぞれに対して考察した。バカ息子に何の懲罰も与えることがなかった家は今後国王陛下から重用されることはないだろう。



〰️ 〰️ 〰️



「おぉ! すごいなぁ! 俺なんかが十人いてもお前さんほどは働けないよ」


 小さな村の小さな役場。新しく赴任してきた若者に、ここで十数年働いている壮年の男はいつもいつも感心している。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん。頑張れ〜セイバーナ。
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