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「ねぇ、アロンド……」


「ん?」


 エトリアの思い詰めた顔にアロンドは身を乗り出して真剣に聞く姿勢をとった。


「セイバーナさんにも言ったけど、わたくしは恋や愛を諦めて過ごしてきたから、それらがよくわからないの。

あっ! 子供なら愛せると思うわ。わたくしはお父様にもお母様にも大切にしていただいているから」


「うん」


「でもね、旦那様を愛せるかはわからない……」


 エトリアは自嘲するように呟いた。

 たった一人の王女という立場がエトリアが誰かを愛することを邪魔だてするようだ。


「うん。それでもいいよ。その分僕が君をいっぱい愛するから。

僕は第五王子だからね。幼い頃から好きな人ができたら、その人に合わせて身分を変えていいって言われてきたんだ。平民に恋した時には本気で平民になろうと思ったほどだよ」


「その方とはどうなったの?」 


「うん! 盛大にフラレた! それはもう取り付く島もなかったんだ」


 アロンドはなぜか嬉しそうに報告しエトリアは戸惑う。


「心を決めて告白に行った日に結婚式の招待状をもらったんだよ。それはもう満面の笑顔でさぁ」


「え?!」


 エトリアのあまりの驚きにアロンドはクスクスと笑い始めた。エトリアは首を傾げる。


「僕は八歳、彼女は十八歳だったんだぁ。彼女は僕が王子って知らなかったんだよね。貴族の坊っちゃんが教会のボランティアに来ているって思っていたと思う」


「まあ、おませさんねぇ」


 エトリアがホッとしたように笑う。


「そっ。結婚式の招待状っていっても、大人が出るやつじゃなくて、教会の孤児院の子供たちとお祝いする方のやつ、ね。悲しくて行かなかったけどさ」


「あらあら」


 エトリアが楽しそうに笑うのをアロンドは微笑んで見つめる。


「小さい頃からの思い込みって簡単には直せないよね。君は王女としての責任感で伴侶を愛することを諦めてしまっているんだろうね。

大丈夫! 僕の片思いでも全く問題ないっ!」


 アロンドのガッツポーズにエトリアは胸を撫で下ろした。


「あっ! でも、子供なら愛せるんだよね! ならいっぱい子供作ろうね」


「もう! 婚約していないでしょう」


 今度はエトリアが頬を膨らませた。アロンドは嬉しそうに笑っていた。


 アロンドがうっとりと天井を見上げた。


「ふふふ。僕、王子でよかったなぁ」


「どうしてですの?」


 にっこりと笑ってエトリアを見つめる。


「僕の王子って身分があれば、エトリアがすぐに新しい婚約をしても醜聞にならないでしょう。皆が『友好のための政略結婚だ』って思ってくれるからね。

エトリアって王家の醜聞とかきっと気にするじゃん」


「あ……。そうかもしれませんわね……」


 エトリアが暗い顔をした。


「だからぁ。僕が王子だから醜聞にはならないんだってばっ! ねっ!

本当に真面目で責任感がありすぎだよぉ」


「それって……」

「褒めてますっ!」


 エトリアに被せるようにアロンドが言うとエトリアは幸せそうな笑顔を見せた。


「ああ! エトリアっ! 好きだ!」


「んっ! もう!」


 エトリアは再び頬を膨らませて視線を逸したが、アロンドはエトリアの頬がピンクに染まっていることを見逃さなかった。


 そうこうしているうちにメイドが戻ってきて甘い雰囲気は取り敢えず消してお茶を飲み始めた。


「あっ! そういえばっ! わたくし、避妊薬のお話は聞いていなかったわ」


 エトリアは思い出した内容に怒りを表しアロンドを睨んだ。アロンドはそっとソーサーをテーブルに戻した。

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